NEDO Web Magazine

新エネルギー

離島用風力発電システム等技術開発

離島用風車から大型ダウンウィンド風車へ

富士重工業株式会社

取材:September 〜 November 2010

INTRODUCTION 概要


定格出力40kw→2000kw(2MW)

扇風機は電気エネルギーを使って羽根を回し、風を起こしていますが、ちょうどその反対のことを行っているのが風力発電です。風力エネルギーを使って羽根を回し、電気を起こしています。その電力源となる風車は、一見、どれも同じに見えます。しかし、組み立て方法や形状には技術的な工夫のしどころがあります。富士重工業は、15年ほど前から風力発電システム開発に着手、NEDOプロジェクトで取り組んだ「離島用風車」の研究開発で技術を蓄積し、現在では、世界の風力発電機メーカーのなかでもユニークな風を後ろから受けて発電する「ダウンウィンド方式」大型風力発電機を製造・販売しています。ダウンウィンド方式は、山岳地域や今後の展開が期待されている浮体式洋上風力発電にも有望な方式といわれています。

BIGINNING 開発への道


風力は再生可能エネルギーの主力の一つ

世界の風力発電総設備容量は、2009年には158,505MW(GWEC調べ)。これは太陽光発電の20,625MW(IEA-PVPS 参加国の合計)と比べてはるかに大きな再生可能エネルギー源となっています。前年よりも31.8%増え、毎年、前年比で2〜3割の伸び率を示しています。

日本では一定方向に風が吹く場所が少ないなどのため、風力発電に適した地域が限られるといわれています。しかし、「島国」という日本の地理的条件に適した風車の開発から、次世代の風力発電を担うような技術成果も生まれています。

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世界全体の風力発電導入量(累計)の推移

ヘリコプターから離島用風車の開発へ

富士重工業は、1996年頃から社内の若手技術者の自主的活動を契機として、風車の研究を始めました。大きさは異なりますが、風の受け方を設計する空力設計、強度などを高めるための複合材の使用、羽根や発電機を使う仕組みなどの点で、富士重工業が手掛けてきたヘリコプターの開発技術と重なる点も多くあったからです。

その後、1999年、NEDOはナショナルプロジェクト「離島用風力発電システム等技術開発」を開始することになりました。富士重工業は本プロジェクトに参加し、100kWの風車を開発しました。今ではこれらの研究成果を活かし、2MW(2000kW)の大型風車の製造・販売を手がけるまでになりました。

「離島用風力発電」とは、日本に特徴的な小島などへの設置に適した風車による発電のことです。このNEDOプロジェクトでは、離島用風力発電の開発における様々な課題に取り組みました。

離島など、本土の電力系統と繋がっていない地域では、ディーゼル発電などによって電力を賄っているため、化石燃料に依存した高コストな電力となっています。NEDOではこれらの地域への風力発電の導入を想定し、それまで(1990〜1998年度)実施していた「大型風力発電システムの開発(青森県竜飛崎)」及び「集合型風力発電システムの制御技術の開発(沖縄県宮古島)」の成果を元に、「離島用風力発電システム等技術開発」プロジェクトを1999年から開始したものでした。

まず、離島に従来からあるディーゼル発電と風力発電のハイブリッド化です。それまで宮古島で実施していた「集合型風力発電システムの制御技術の開発」の成果である、電力品質を確保しつつ系統への風力発電の導入比率を向上させる技術をさらに発展させ、併入比率が従来最大20%程度だったところを、種々の技術を用いて最大40%以上まで可能なことを実験で確かめました。

つぎに、台風でも風車が壊れないための耐風性能の強化にも取り組みました。日本の離島に特有な台風の襲来を考え、通常では秒速70mの風に耐える設計のところを、秒速80mの風に耐えられるように設計し、確かめました。

また、大きな部品の輸送や設置が難しい離島の条件に合わせて、ハブ・主軸・発電機などを取り外せる設計にしました。その結果、10tトラックや16tクレーンといった一般的な運搬・組立て手段でも、風車を運搬、設置できるよう簡便な建設工法を開発しました。

さらに、発電コストを1kW時20円以下にする低コスト化などが目指され、4年間で実現しました。プロジェクトで開発された100kW風車は2002年、沖縄県の伊是名島に納入されました。

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40kW風車(左)と100kW風車(右)

風を前から受けるか、後ろから受けるか

NEDOプロジェクトの成果などにより、富士重工業の風車は40kW、100kW、そして、現在の2MWのものへと進化していきました。さらに、進化の過程では、重要な変化がありました。

現在の風車では、ロータ(回転翼)がタワー(支柱)やナセル(発電機を載せた箱状の部分)の風上側にある「アップウィンド式」が世界の主流です。

富士重工業も、当初はアップウィンド方式の風車を開発してきましたが、加えて「ダウンウィンド方式」風車の開発にも取り組みました。ダウンウィンド方式とは、ロータがタワーやナセルより後ろにあり、風を受けるタイプの風車です。

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ダウンウィンド方式とアップウィンド方式のロータ位置の違い

ユニークなダウンウィンド方式の風車開発に挑む

日本に多い複雑地形のサイトでは、発電に有効な風速の高い風の多くは吹上風です。富士重工業はここに着目し、ダウンウィンド方式によって発電量を増やす独自の風車開発を計画。沖縄県伊是名島の2機の100kW風車のうち、自治体の許可を得て1機をダウンウィンド方式に変更し、研究開発を続けました。

富士重工業エコテクノロジーカンパニー風力発電プロジェクトのプロジェクトマネージャーの加藤裕司さんは、「コンピュータ上のシミュレーションだけでなく、実証試験を重ねることで、最善となるロータ角度などを研究しました」と話します。

暴風への対応としては、「フリーヨー」という方式を採用しました。暴風時に停電が起きると、ナセルの向きの制御(ヨー制御)ができず、風車が倒れてしまうおそれがあります。富士重工業が開発した風車では、停電時、ナセルが風を自動的に受け流せる方向に向く、フリーヨー方式にすることで、暴風での倒壊を防ぎました。

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風車後の風の流れのシミュレーション

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フリーヨー概念図

日本の風土を見据えた風車

また、ロータ、ブレード(羽根)、ハブ、タワーなどから成り立つ風車を、日本の風土で使うことを考えて、各部分に技術的な工夫を施しました。

耐雷性の強化もその一つです。冬の日本海地方では強力な雷が落ちることもあります。そこで、ブレードの先端面にアルミニウム性の耐雷レセプタを、また、タワーの中間にもレセプタを付けるなどして、IEC(国際電気標準会議)の基準を超える耐雷強度を持たせました。

また、離島用風車での設計ノウハウを引き継ぎつつ、「分割ナセル」の設計にも力を入れました。ナセル全体をナセルベース部、ハブ部、ドライブトレイン部に分割することができます。分割化により主要構成品の吊り上げ重量が40t以下(一般的には60t)となり、輸送、建設が容易になりました。

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富士重工業宇都宮工場で組み立て中のナセル。左側にハブが付く。頭上遙かでは小さく見えるナセルも地上で見るとバスほどの大きさ。分割、運搬ができることは日本の国土事情に合っている

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ナセルの分割模式図。発電機を乗せたベース部、増速機を組み込んだ動力伝達部、ブレードが取り付けられるハブ

BREAKTHROUGH プロジェクトの突破口


「20倍への飛躍」に工夫と独自性

富士重工業では、離島用100kW風車から、一気に20倍の定格出力となる2MWの風車を開発しました。技術開発の世界には、技術論の原則として「大型化するときのステップアップは4倍程度に」とよくいわれます。しかし、2000年代中頃、すでに2MW級が世界の風車の主流となってきていて、後発メーカーとして市場に追いつくためにも、短期間で一気に大型風車を実用化する必要がありました。

ロータの直径だけみても、40kW級が15m、100kW級が22mであるのに対して、2MW級は80mまで大きくなります。その大きさは大型旅客機の主翼幅以上です。開発に許される期間は、2003年から2005年までの3年間。加藤さんは、「当時のプロジェクトリーダーだった永尾徹部長の指示は明確でした。ダウンウィンドと分割翼以外の新たな自社開発をしないこと、在来技術の応用・適用をすること。この取捨選択が結果的に良かったのだと思います」と振り返ります。加藤さんたちは、すでに市場に2MW風車用パーツが流通していることから、パーツ単位の新規開発を避け、できる限り既存パーツを活用して独自の風車を開発することとしました。

一方、他社との違いを鮮明にするためには開発力を注ぎました。そのもっともわかりやすい違いが、NEDOプロジェクトから研究を積み上げてきたダウンウィンド方式風車の復権だったのです。こうした「選択と集中」により、富士重工業では、独自方式でしかも大型の風車開発に短時間で成功するとともに、製造コスト削減も可能にすることができました。

効率よく風をエネルギーに変えるブレード角度

富士重工業のダウンウィンド方式風車のロータの特長は、垂直のタワーに対して13°の角度が付いている点です。ロータの回転軸の角度を8°、さらにブレードの付根の部分の角度を5°付けて、ロータの"うつむき加減"を大きくしたのです。

13°の角度を付けた理由には、まず、タワーとブレードをなるべく遠ざけ、接触を避けるねらいがあります。また、ロータがうつむき加減になった結果、斜面をのぼってくる下からの吹上風を正面で受けとめることができ、適地ではアップウィンド型より発電量を増やすことができます。吹上風は、日本に多い複雑地形のサイトではよく起きる風です。

13°の角度は、ダウンウィンド方式の大きな課題だった「タワーシャドウ効果」克服にもつながります。従来のダウンウィンド方式では、タワー周辺の風の流れが複雑になった領域をブレードが通過するため、ブレードに大きな荷重変動が起きました。ロータに角度が付いたため、ブレードをタワーシャドウ効果が起きる領域から遠ざけて回すことができたのです。

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吹上風に対しての、富士重工業のダウンウィンド方式(左)とアップウィンド方式による発電効率の比較概念図

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複雑な地形での吹上風に対する、ダウンウィンド方式とアップウィンド方式の風の流れの違いを表したシミュレーション

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ハブ内のブレード取り付け部。横方向にブレード、下方向に主軸が取り付けられる。ブレードの取り付けに角度が付いていることが分かる

FOR THE FUTURE 開発のいま、そして未来


ナショナルプロジェクトで生まれた新たな連携

「NEDOプロジェクトを通して積み上げた技術がすでにあり、開発期間は最短に、開発費は最小に、そして、技術信頼性は最大にという取捨選択ができたことが、ダウンウィンド方式で2MWの風車開発に短期間で成功した理由だと思います」と加藤さんは語ります。

加藤さんによると、NEDOプロジェクトでは他に思わぬ成果もあったといいます。その一つが、再委託先だった日立製作所との協力関係の構築と維持です。プロジェクトでは日立製作所(1999年度は日立エンジニアリング)が、発電機などの重要な装置の開発を担いました。

プロジェクト終了後も、富士重工業と日立製作所は2MWの風車の製造で連携を続け、2010年7月に「ウィンド・パワー・かみす風力発電所」に提供した大型風力発電システムを本格稼働させるなどしています。

「オフショア」の担い手への挑戦

「SUBARU」風車は、2000年の40kW風車販売以来、40kWや100kW風車は累計21機を出荷しています(2010年10月現在)。これらは離島のみならず山間地や大型ショッピングセンターなどへの出荷もされています。海外ではミャンマーにも1機納入されました。また、2005年の2MW風車発売以降は2MW風車が24機出荷され、さらに2011年までに34機が出荷予定となるなど、近年の地球温暖化問題への意識の高まりもあり、大型風車への需要が急速に高まっています(同)。

ダウンウィンド方式の風車には、次世代の風力発電の大きな担い手となる期待があります。そのキーワードは、「洋上(オフショア)風力発電」とさらなる「風車の大型化(長翼化)」です。

洋上風力発電とは、海の上で風車を回して電力を得る発電方法のこと。景観問題を回避し、風力の豊富な安定供給源とされ、欧州では実用化が進んでいます。

洋上風力発電の方式として将来有望視されているものが、風車を"浮き"の上に建たせる「浮体式」です。この場合、ロータがあらかじめ下向きのダウンウィンド方式のほうが、風を受けたとき風に正体するため効率良く発電ができます。浮体式の風車にはダウンウィンド方式が向いていると期待がもたれています。

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(左)浮体式洋上風車でのダウンウィンド方式の優位性(右)ブレード拡張におけるダウンウィンド方式の優位性

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茨城県神栖市の岸壁から50m離れた洋上に設置された富士重工業の2MW風車。ダウンウィンド方式なので海から吹く風で回っている

風車の大型化でも、ダウンウィンド方式に有利な点があります。アップウィンド方式では大きなブレードがしなってタワーに当たってしまうおそれがあり、風車が大型化するに従ってブレードを高剛性のものにしていく必要があります。一方、ダウンウィンド方式ではブレードの後ろには何もないため、大型化しても低剛性でよく、軽量化できるため設計のしやすさがあります。

風力発電プロジェクトゼネラルマネージャーの松村秀敏さんは、「国内電力会社の厳しい品質基準をクリアすることが実績になる。ウィンドファームにも使っていただき、よいものだと実感していただくことを目指します」と話します。(2010年9月〜11月取材)

開発者の横顔


“地図に載る仕事”に携われる嬉しさ

加藤さんは、大学生時代は地熱発電の水蒸気を感知する音波センサー技術の研究をしていました。1985年に富士重工業の航空宇宙事業部に入社すると、救難捜索機のレーダー開発などを手掛けてきました。

風力発電の開発に携わるようになったのは2000年から。レーダーの開発から風車の開発へ、仕事内容は大きく変わりましたが、仕事の醍醐味を見出しています。

「風車は地図記号にもなっています。"地図になる仕事"をしていることに、この仕事の嬉しさを感じます。住民のみなさんにとっては、街のランドマークにもなるわけですから、これからもかっこいい風車をつくりつづけていきたいです」

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富士重工業株式会社
加藤さん

なるほど基礎知識


風力発電の最大発電効率-ベッツの法則-

自然界のエネルギーを人が利用するエネルギーにすべて変換することができれば、変換効率は100%となり理想的です。しかし、いくら技術を高めても、エネルギー変換効率にはエネルギーの種類によってそれぞれ限界があります。

風の運動エネルギーの変換効率については「ベッツの法則」というものがあり、「いくら効率よく変換しても、これ以上は変換しない」という限界があるのです。

もし風車が、吹いてくる風を100%受け止めて電気エネルギーに変換できれば、変換効率は100%になります。しかし、風の運動エネルギーを100%電気エネルギーに変換してしまうと、風車が風をすべて受け止めてしまうことになります。これでは風が流れないため、風車は回らなくなります。

ドイツの物理学者アルバート・ベッツ(1885~1968)は、風の運動エネルギーを電気エネルギーに最も効率よく変換するための条件を考えました。その条件とは、風車のうしろの風速が3分の1に低下するときであり、その最大効率は「27分の16」、つまり約59.3%となります。

実際の風力発電では、風のエネルギーを電気エネルギーに変換するまでにエネルギー損失があるため、風力エネルギーから電気エネルギーへの変換効率は40〜50%ほどになっています。

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