ジャパンマテックスのガスケット製品。「クリアマテックス8121ND」

シート状になったガスケットの原材料

CAD(Computer Aided Design)を使って最も無駄なくカットできる
配置を計算して画面に表示。外国で革製品の加工に使われている、
空気でカッティングを行う装置を転用

工場内のラボで行われている製品の加圧試験

耐熱性能向上への挑戦
250℃→650℃

工場や発電所に引かれている配管には、つなぎ目があります。つなぎ目から内部の気体や液体を漏洩させないため、ガスケットというシール材が使われています。長年、非金属ガスケットには、アスベスト(石綿)材が使われてきました。しかし、深刻な健康被害があることから、アスベストの製造・使用はヨーロッパを中心に全廃への道を進んできました。日本でも法令によって全面禁止となっています。(ただ、一部のガスケットなどについては代替製品がないため、例外的に製造・使用の禁止が猶予されています。)アスベストから非アスベストへ。アスベストに代わるガスケットの材料として注目を集めているのが、「膨張黒鉛と粘土」を組み合わせるなどの工夫を凝らした、耐熱性にも優れた新しいガスケット・シール材です。

耐熱300℃以上、非アスベストガスケットの開発を

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ガスケット。気体や液体の漏洩防止には欠かせない

20世紀後半まで、建築材料や工業材料としてアスベストが広く使われてきました。その他にも、工場や発電所の配管接続部分に使われる「ガスケット」にもアスベストが多用されてきました。管のつなぎ目にシール材として挟むことで、流体の漏れを防ぎます。同様にバルブやポンプなどの可動部のシール材である「パッキン」にもアスベストが使われてきました。

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粉末の膨張黒鉛と、シート状になったガスケットの原材料

しかし、建物の解体時、工場・発電所の定期補修に伴うガスケットの交換時などに飛散したアスベストを人が吸入すると、後年、肺がんの一種である悪性中皮腫になることもあるなど健康被害をもたらす物質でもあり、2000年代に入って、日本を含め世界各国でアスベストの製造・使用禁止に向けた取り組みが本格化しました。

そこで、ガスケットやパッキンに対して、アスベストの代替材として「膨張黒鉛」という物質に期待が高まりました。黒鉛は、炭素原子の結晶が層状に重なってできていますが、鉛筆の芯のようにすぐに層が剥がれる特性があります。

ところが、黒鉛の層と層の間に別の物質を挿入して急熱させると、膨張して層と層の間を押し広げることができます。こうして"膨張"した黒鉛が、膨張黒鉛です。黒鉛に比べて、各層は剥がれにくくなります。

しかし、アスベストの有用性をカバーする代替材となるには、大きな課題もあります。配管を走る流体が300℃以上になると、膨張黒鉛の脆さのため、ガスケット部分から気体が漏れてしまうことがあります。この問題が未解決のため、現状日本の法令では、ガスケットやパッキンの一部についてはアスベスト全面禁止の適用除外対象として、当分の間禁止が猶予されています。

なるほど基礎知識

"諸刃の剣"だったアスベスト

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図A ガスケットとパッキン(NEDO成果報告書より)

アスベスト(石綿)は、天然に存在する繊維状のケイ酸塩鉱物です。マグネシウムを主成分とする蛇紋石系と、鉄、マグネシウム、アルミニウムなどからなる角閃石系に類別されます。アスベストは、綿のように柔らかかつ強靭で、保温性や耐火性もあるため、学校の防音・断熱材や建築物の鋼材の耐火被覆材などに使われてきました。また、管の気密性を保つため、ガスケットやパッキンなどの材料にも使われてきました。

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図B アスベストによる健康被害(NEDOパンフレットより)

しかし、繊維が極めて細いため、アスベスト製品の製造現場や、壁面などに吹き付けたアスベストの除去やアスベスト製ガスケット交換の現場で、アスベストが飛散して人が吸入してしまうおそれがあります。肺に吸入されて30年から40年後、がんの一種である悪性中皮腫などが発症する可能性が高くなるとされています。

2002年6月に厚生労働大臣がアスベスト使用の全面禁止の方針を表明、2004年10月には労働安全衛生法施行令の改正で、製品の1%の重さを超えるアスベストが含まれた建材・摩擦材・接着剤の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止となりました。

2005年には民間企業の工業施設周辺に住む市民に被害が及んだことが社会問題となり、2006年9月、労働安全衛生法の改正で、製品の重さの0.1%を超えてアスベストを含んでいるすべての物の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止となりました。しかし、ガスケットの一部などはアスベスト代替が技術的に困難なため、当面の間、全面禁止の適用除外となっています。

アスベストは、健康に深刻な被害を及ぼすおそれがある反面、性能の高さから社会で幅広く使われてきました。今後、代替材の性能向上により、製品交換時に代替材に代わっていくことでしょう。

脆さを克服しうる"粘土"と出会う

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ジャパンマテックスのガスケット製品。
「クリアマテックス8121ND」(左)、
「クリアロック8851ND」(右)

そのような中、300℃以上の流体に対しても漏洩を極力おこさない、アスベスト代替材によるガスケットの開発が緊急の課題となりました。NEDOでは、ガスケットを含むアスベスト対策のために急きょ関係者と調整して予算を確保し、2006年度に「緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発」プロジェクトを実施。この公募に手を挙げた一社が、膨張黒鉛を用いた工業製品を製造してきたジャパンマテックスです。同社にとっても、高温に対応する膨張黒鉛ガスケットの開発は大きな課題で、膨張黒鉛に何か別の材料を加えることで、脆さを克服したいと考えていました。

同社代表取締役の塚本勝朗さんは、NEDOの公募が始まる以前の2004年8月、産業技術総合研究所(産総研)東北センターがガスバリヤ性の高い耐熱粘土膜「クレースト®」を開発したことを聞きつけました。この粘土膜は、微細な層状ケイ酸塩によるもので、ケイ素と酸素の4面体シートとアルミニウム、鉄、マグネシウムなどからなる8面体シートが重ね合わさった構造をしています。

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2010年度発売予定の新製品

このクレーストを膨張黒鉛に組み合わせれば脆さを克服できるのではないかと直感した塚本さんは、発表の内容を新聞で知ると、面識も無いながらすぐに電話を入れ、関西の本社から仙台の産総研東北センターに直行。同センター研究員に熱意を伝え続け、膨張黒鉛とクレーストを複合化させる取り組みが始まりました。塚本さんは、「互いに製品化という目的があり、快く受け入れていただきました。そんな中、NEDOの公募のことを聞きました」と話します。

NEDOの「緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発」の公募に、産総研などとともに応募、採択され、2006年4月から1年間の委託研究が始まりました。こうして2007年に製品化されたのが、膨張黒鉛ガスケット「クリアマテックス8121ND/8131ND」です。その後、同社は2008年に第2世代の「クリアロック8851ND」も製造・販売開始。2008年からはNEDOの「イノベーション推進事業」にも採択されて更に改良製品の開発を行い、2010年度には第3世代の高温用ガスケットを上市する予定です。

最高650℃に耐え、交換時の固着も解消

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クリアマテックスの加工段階。
左端が膨張黒鉛シート、次がクレーストをコーティングしたもの。
表面処理のシートを貼り、この後顧客の注文に合わせて裁断する

ジャパンマテックスが産総研との共同開発で実現したガスケットは、膨張黒鉛ガスケットの表面にクレーストを粘土膜としてコーティング形成したものです。

技術的特長としてまず挙げられるのは、高温に耐えられる点。既存の非アスベストガスケットでは300℃が耐熱の上限でしたが、これを大きく上回る最高650℃の耐熱性を備えています(酸化雰囲気ガスで長期使用の場合は420℃が使用限界)。

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焼き付き試験の結果(NEDO報告書より)

また、従来の非アスベストガスケットでは、管の接続部分にガスケットの材料がくっついてしまい(焼き付き)、ガスケット交換時に、やすりがけなど、焼き付きの除去作業に多大な労力が必要でした。しかし、今回開発した膨張黒鉛ガスケットでは、コーティングされた粘土膜が焼き付きを防いでいます。同社常務取締役の中村雄三さんは、「工場や空調設備などを抱える企業にとってガスケットの交換は大変な作業となります。各種製品を1年以上使用しての検証実験では、クリアマテックスはきれいに剥離することができました」と話します。

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クリアマテックスを使用した、
非アスベストの各種ガスケット、パッキン製品

また、クリアロックには、"締め切り感"を加えています。現場の作業者が管のつなぎ目にガスケットを挿入してからボルトとレンチを使って締める際、締め切るとカチッとロックしたような手応えを感じられます。これにより、締めが弱いなどの人為的原因による漏洩を防ぐことができます。

break through

一度の発見と繰り返しの実験で性能向上

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図1 粘土と黒鉛の複合体の理論構造

「緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発」プロジェクトは2006年度のみ、つまり期限が1年間と決められていました。製品化の実現に対して不安がありながらも、最初の半年で膨張黒鉛と粘度の定着を解決し、3か月で実証、残りの3か月で製品のブラッシュアップという計画を立てました。この短い期間の中で、ジャパンマテックスと産総研が共同して、まず粘土の耐水性を高めることに取り組みました。クレーストに含まれるナトリウムイオンの存在が、粘土が溶けやすくなる要因です。そこで、このナトリウムイオンをリチウムイオンに代えることで粘土の耐水性を向上させました。

さらに大きな技術的課題がありました。「膨張黒鉛にクレーストをいかに定着させるか」です。様々な方法で試作品を作っても、手に取ると材料がボロボロと剥がれていきます。二つの材料を定着させるため、"つなぎ役"となる材料が必要だったのです。

プロジェクト開始から半年が経つころ、最適の材料を見つける機会が訪れました。中村さんはこう話します。「2006年10月、NEDOから環境セミナーの案内をもらって参加しました。講演していた研究者の方が、石油で作るプラスチックに代わる材料として、セルロース繊維の魅力を紹介しておられました。セルロース繊維は天然にも多く存在し、錠剤カプセルなどにも使われています。講演を聴いて、『定着材として試してみよう』と思ったのです」

膨張黒鉛と粘土はともに層状結晶体ですが、セルロースの基本構造は異なり層状構造ではありません。しかし、「平面的には、"亀の甲"のかたちをしていて似ています」(中村さん)。期待を寄せて、エチルセルロースという繊維を使って、膨張黒鉛にクレーストをコーティングさせると、「膜も硬いし、いいな」と実感。"つなぎ役"の材料が決まりました。塚本さんは、「問題点が頭の中につねにあったからこそ、講演の話からアイデアを得られたのではないでしょうか」と、中村さんの材料との出会いについて話します。

ただし、製品を構成する材料は出揃っても、組み合わせによって耐熱性、耐水性、定着性などは大きく変化します。量産化や大型化に対する最適解も探さなければなりません。中村さんは「どれだけ、実験量を多く行って、問題の部分を絞り込んでいけるかが、課題をクリアする鍵になります。開発に携わる社員は、朝7時に出社して夜遅くまで実験を繰り返す日々で、寝ても起きても常に新たな課題点に苦悩する日々が続きました」と振り返ります。

産総研との連携も、より緊密になっていきました。開発品に対する品質の評価、製品表面から粉が剥がれる「粉落ち」などが起きていないかを確認するための表面や断面の分析、さらには計算機シミュレーションなどの点で連携を取りあい、研究開発を加速させました。

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表面に粘土を接着させるためスクリーン印刷の機器を利用(左)、
その後数分間の焼き付けを行う(右)

また、本プロジェクトでは実証試験を行うため、丸善石油化学とも共同開発を行いました。丸善石油化学のプラントで耐久試験や寿命試験などを行った結果、弾性の不足による取扱の難しさやひび割れといった問題も起きたものの、改良と試験を繰り返すうちに性能データは徐々に向上していきました。

2年はかかると思われていた製品のサンプル出荷が1年でできたのは、自社で貯えていた界面活性剤の技術を一から試して最適の状態を見つけるなど、地道な努力の積み重ねもありました。また、現在は、四角形の板の状態の膨張黒鉛に粘土膜を定着させるために、スクリーン印刷の技術を応用した装置を導入しています。裏面、表面に粘土をコーティングさせ、熱せられた炉に入れて定着させます。

新工場で量産、大口径ガスケットも

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CAD(Computer Aided Design)を使って最も無駄なくカットできる配置を計算して画面に表示。外国で革製品の加工に使われている、空気でカッティングを行う装置を転用

2006年度のNEDOプロジェクトが終了した2007年に、ジャパンマテックスは新工場を建設しました。プロジェクトで開発したクレーストを使用した膨張黒鉛ガスケットを量産するための工場です。

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大口径ガスケットと、そのつなぎ目

ガスケットの基本形は円形です。一辺最大3メートルの四角形の板の上に、切りとる円形を組み合わせて、面積の無駄を細小にする機能をもつカット装置もイタリアから導入しています。この装置により、図面があれば1日でカットできます。

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関西国際空港対岸のりんくうタウン内に新設された工場

大規模な発電所などの配管には、直径3メートル以上の大口径ガスケットが必要になります。これを作る場合は、ガスケットを弧状にカットした上で、それぞれをつなぎ合わせて大口径にする製法が使われています。 大口径ガスケットは、これまで加工や締め付けなどの段階で材料が"たわむ"という問題をはらんでいました。ジャパンマテックスは、前処理として界面活性剤を使うなど、表面を平滑にするノウハウをもっていたため、その技術を活用しました。その結果、世界的に見ても屈指の高品質大口径ガスケットをつくることに成功しています。

オンリーワンの製品を作っていきたい

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表1 クリアマテックスの取扱性の比較

クリアマテックスの上市以来、電力、石油、製鉄、製紙などの各企業に非アスベストガスケットを試してもらうよう働きかけてきました。アスベスト材を使ったガスケットは、徐々に非アスベストガスケットに交換されてきています。とはいえ、アスベストを使用したシート材の残存量は、化学工業だけでも247万5千カ所、石油産業では132万7千カ所、日本全国では1千4百万カ所にものぼると言われています。ユーザーにとって、非アスベストガスケットを使った経験はまだ少なく、海外製品も含め何を新たに使えばよいか模索している状況にあります。

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工場内のラボで行われている製品の加圧試験

営業を統括する専務取締役の塚本浩晃さんは、「『NEDOプロジェクトで作ったものです』とお声がけをすると、耳を傾けていただけるお客さまも多くいらっしゃいます。最初は低い温度の配管から始め、徐々に高温の環境で試していただき、使われた感想をいただき、技術面のさらなる向上に向けてフィードバックしています」と話します。

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2010年9月に東京で行われた
「イノベーション・ジャパン2010」で
次世代製品について説明する塚本代表取締役

2010年10月現在、2007年に発売されたクリアマテックスと、2008年に発売されたクリアロックの出荷枚数は合計2万6千枚ほど。今後は、アスベスト材を用いたガスケットと同等以上のシール性を維持する第三世代の上市により、ガスケットのアスベスト材から非アスベスト材への移行は加速していくことでしょう。

また、国内外で広く使われる製品がNEDOのプロジェクトから生まれたことは、今後の日本のものづくりにとっても大きなプラス材料になりそうです。

代表取締役の塚本勝朗さんは、「自社の技術だけでも、産総研の技術だけでもこのガスケットは実現しなかった。NEDOの担当者に親身にアドバイスや応援をいただいたこその製品です。力添えがあったことを肝に銘じて、これからもオンリーワンの製品を作っていきたいです」と話します。(2010年10月取材)

開発者の横顔

「安全で取り扱いやすい
ガスケットの普及に向けて」

ジャパンマテックス株式会社

コラム

「一つの材料を極める」

塚本さん

塚本勝朗さんは、かつて造船企業で船舶の技術者として働いていました。船にあるタービンやボイラーには、数多くのガスケットが使われており、「扱いに苦労した経験があるのです」。その後、別の企業へと移ると膨張黒鉛と出会い、この物質に興味をもつようになりました。そして、膨張黒鉛を材料にした部品などの製造を手掛ける企業を起こしました。「炭素という材料は、原子力発電、液晶基板、太陽利用機器、航空機など、世の中になくてはならないものです。金属中にどのくらいの量の炭素を含めるかで、硬さも変わってきます。膨張黒鉛という一つの材料を極める展開をしています」

「執念でここまで来られた」

中村さん

中村さんは、ゴム系のメーカーの研究開発者としての道を歩んできました。塚本さんとは取引上の関係で面識がありました。引退して、岡山の故郷に帰る途中、ジャパンマテックスに挨拶に行くと、塚本さんから「NEDOプロジェクトに参画しようとしている。うちに来ないか」と引き止められて、入社することになりました。「有機化学を扱ってきたことが、今回の開発でもプラスになりました。何よりも、NEDOからの叱咤激励と社長の執念で、ここまで来ることができたと思っています」

アンケート

「NEDO実用化ドキュメント
-ジャパンマテックス株式会社」

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