東京都下水道局清瀬水再生センターに設置された
下水汚泥ガス化発電システム

下水汚泥

左から、下水汚泥、ガスを取り出す乾燥汚泥、
ガスを取り出して燃焼した焼却灰

下水汚泥ガス化発電システムの全景

温室効果ガス87%削減!

増え続ける都市ごみや下水汚泥などの廃棄物処理は、都市共通の課題になっています。その解決手段の一つとして、都市ごみに関しては、焼却とその熱エネルギー利用を同時に行う処理施設の利用が進んでいます(参考)。 しかし、下水汚泥の場合は、焼却されるだけで、エネルギーとしての利用はほとんど行われてきませんでした。一方、下水汚泥の焼却時には、二酸化炭素(CO2)や、その310倍も温室効果のある一酸化二窒素(N2O)が排出されてきました。そこで、メタウォーター株式会社では、NEDOの支援を得て、処理施設からの温室効果ガス削減と下水汚泥のエネルギー利用が可能な「下水汚泥ガス化発電システム」を2007年に開発し、設備導入を行った、東京都下水道局の「清瀬水再生センター」で効果を上げ始めています。

「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発」

このプロジェクトが
はじまったのは?

プロジェクトの開始当時(2003年)、わが国の温室効果ガス排出量は京都議定書基準年(1990)に比べ8.3%増加、国際公約達成のために温室効果ガス削減に国の総力を挙げて取り組むことが不可欠でした。そうした取り組みの一つとして、大気中のCO2を増加させないバイオマスエネルギーに注目し、木質系バイオマス(間伐材や端材など)、畜産系バイオマス(糞尿など)とともに、下水処理により発生する汚泥の効率的なエネルギー利用を目指してプロジェクトが開始されました。

プロジェクトのねらいは?

わが国の廃棄物系バイオマス資源(農林水産系・廃棄物)は、原油換算で約3,280 万kl と推定されますが、エネルギー資源として利用されているものはごくわずかです。そこで、バイオマスを直接燃焼する従来の方法から、ガス化、あるいは液化して利用する方法に転換することで、エネルギー効率向上や利便性を高め、バイオマスエネルギーの利用拡大を図ることがプロジェクトのねらいでした。CO2削減のほか、廃棄物処理問題の解決も期待できます。

NEDOの役割は?

バイオマス資源は、その発生地域が分散していること、形状・性状が多種多様にわたっていて利用しにくいこと、また、資源をエネルギーに転換するためには、ガス化、液化など、利便性や変換効率を高めるための技術開発などが必要となります。そうした点が壁となって、これまで実用・普及に至らなかった経緯があります。NEDOでは、研究開発期間や研究開発投資のリスクを軽減するため、様々なバイオマス資源のエネルギー転換技術について、その研究開発を支援してきました。下水汚泥ガス化発電システムでは、2010年に実用化設備が運用を開始、温室効果ガス削減に効果を上げ始めています。

エネルギー源として注目集めるバイオマス

バイオマスからつくったエネルギーは、地球温暖化を抑制し、資源を有効活用することから、その利用に期待が高まっています。

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表1 下水汚泥とごみの性状の比較を現したもの

バイオマスとは、植物など再生可能な生物資源のことで、代表的なものは稲わらや残材、家畜の糞、生ごみなどで、下水汚泥もその中に含まれます。多くのバイオマスは、収集・運搬に手間と費用がかかるため、未利用のまま廃棄されているのが現状です。

しかし、下水汚泥は処理場に集積されているので、収集・運搬システムを新設する必要がなく、他のバイオマスに比べて利用しやすい資源とも言えます。水分を大量に含んでいる点では利用のしにくさがありますが、乾燥すれば、都市ごみ同等の熱エネルギーとして利用できます。(表1参照)

日本で排出される産業廃棄物(年間約4億t)の2割弱(約7,500万t)が下水汚泥によるものと言われています。下水汚泥は都市生活上、必ず発生するもので、東京など人口が集中する大都市圏では日毎に発生量が増え、その処理に悩まされています。しかし、見方を変えれば、安定供給が可能とも言え、バイオマス分野の有望なエネルギー源として注目されています。

下水汚泥の有効活用をめざす

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下水汚泥

下水汚泥はその約8割が有機物で、残り2割が無機物です。無機物は、セメント原料やレンガなどに再利用されてきましたが、有機物はわずかに肥料などに使用されるのみで、そのほとんどが焼却や埋め立て処分され、これまでエネルギー利用はほとんど行われてきませんでした。

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東京都下水道局清瀬水再生センターに設置された
下水汚泥ガス化発電システム

ところが最近になって、汚泥焼却時に放出される温室効果ガスが問題になり、地球温暖化防止の観点からも汚泥のエネルギー利用(燃料化)に関心が高まっていきました。

下水汚泥のエネルギー利用には、発酵させてメタンガスを発生させる方法と、加熱して炭化させて燃料にする方法などがあります。

メタウォーターでは、脱水汚泥中の可燃性分をガスとして回収・発電する「下水汚泥ガス化発電システム」を選択しました。この方法であれば、ガス化により、効率よく汚泥を燃料化することが期待できるばかりでなく、温室効果ガスの削減効果も大きいと考えたからです。

なるほど基礎知識

有機物を蒸し焼きにするガス化反応

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図 割り箸でのガス発生実験

有機物が完全に燃焼すると、二酸化炭素が発生しますが、ガス化反応では、有機物の不完全燃焼を起こさせ、一酸化炭素、水素、メタンなどの燃料ガスを発生させます。この現象を「熱分解」といいます。

ガス化反応は、小学校の理科の実験で行うような、試験管内で割り箸を加熱したときの反応で説明することができます。

試験管に入れた割り箸を加熱して、蒸し焼きにすると、試験管中に炭が残ると同時に、気体や褐色の液体が発生します。下水汚泥ガス化技術においては、試験管がガス化炉で、割り箸が汚泥に当たります。発生した気体が燃料ガスとなります。

有機物を蒸し焼きにすれば、ガスを発生させることができますが、そのときに炭化水素やタールなどの不純物も発生します。不純物は熱分解した直後は気体ですが冷えると液体になります。割り箸の実験では、加熱後試験管に溜まった褐色の液体が不純物です。

液体のままではガスとして燃料に使えないため、酸素や空気を加え、分解生成物を燃焼させて、不純物を低分子の燃料ガスに変えます。この工程を「改質」と呼びます。

有機物をガス化するには、「熱分解」と「ガス改質」の二つの工程が必要です。

下水汚泥ガス化発電システム
開発プロジェクトへ向けて

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左から、下水汚泥、ガスを取り出す乾燥汚泥、
ガスを取り出して燃焼した焼却灰

メタウォーターの前身である日本ガイシ株式会社では、今回のプロジェクト以前に、都市ごみのガス化を目的としたNEDO「廃棄物高効率ガス変換技術開発プロジェクト」に参加し、ガス化の研究を行っていました。そのプロジェクトで得た知見を基に、同社が長年培ってきた汚泥処理に関する、乾燥、焼却技術を組み合わせることで、下水汚泥のガス化も可能と考えたことが、開発プロジェクトを開始するきっかけでした。

しかし、「廃棄物ガス化の研究はしていましたが、社内にガス化の実績が全くなかったため、開発開始の社内合意をすぐには得ることはできませんでした」と、メタウォーター株式会社R&Dセンター低炭素技術開発部長の柳瀬哲也さんは当時を振り返ります。

例えば、下水汚泥ガス化発電システム開発には、実証研究に使う下水汚泥を大量に集める必要があります。その収集自体は難しいことではありませんが、開発に失敗すれば汚泥の処理費はもちろん、汚泥の提供に協力してくれた得意先でもある自治体関係者に迷惑がかかってしまいます。その他にも、国内に汚泥ガス化の知見が少なく、技術情報をどう集めたらよいのか、新規開発のリスクをどう少なくするのかといった課題も多く、研究開発を立ち上げることは難しいのではという意見が社内の大半だったと、柳瀬部長は語ります。

そうしたなか、メタウォーター(当時・日本ガイシ株式会社)では2003年度に、財団法人エネルギー総合工学研究所、三菱重工業株式会社とともに、東京都下水道局、東京都下水道サービス株式会社、北海道大学の協力のもと、NEDO「下水汚泥の高効率ガス変換発電システムの開発」プロジェクトへ参加することになりました。

下水汚泥を800℃で蒸し焼きして、ガスをとりだす

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図1 下水汚泥のガス化発電技術概略図

下水汚泥ガス化発電システムは、「脱水汚泥乾燥」「ガス化」「改質」「ガス精製」「発電」および「熱回収」の工程からなります(図1参照)。

まず、下水処理場に集まった汚泥を乾燥させます。乾燥させた汚泥はガス化炉に送られ、酸素の少ない状態で800℃の高温におくことで蒸し焼きにし、熱分解ガスを取り出します。

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図 下水汚泥のガス化発電システムフロー

続いて、改質炉で熱分解ガスに酸素と水蒸気を加えて燃焼させ、水素や一酸化炭素を主成分とする有用なガス(改質ガス)に変換します。(なるほど基礎知識参照)

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廃熱を利用した汚泥乾燥機(左)と、ガスエンジン(右)

その後、精製設備でガス中の有害物質など不純物を取り除きます。設備には、ガスエンジンが搭載されていて、汚泥由来のガスでエンジンを動かして、発電します。一方、熱回収炉では熱分解ガスを燃焼したときの廃熱を回収し、汚泥の乾燥などに再利用します。

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表2 従来の下水汚泥処理技術との比較

従来の下水汚泥処理施設では、脱水汚泥をそのまま焼却して量を減らすことが行われ、廃熱から蒸気を回収し、発電を行うのは一部の大規模施設のみでした。

今回の処理システムでは、ガス化による燃焼・発電効率アップに加え、回収した廃熱による乾燥などを取り入れることで、温室効果ガスの削減を図ることが目標でしたが、実証実験の結果、汚泥処理につきものだった一酸化二窒素(N2O)の排出削減にも大きな効果があることがわかってきました。

break through

下水汚泥ガス化発電システムにおける温室効果ガスの大幅な削減は、ガス化改質技術や実際の下水処理場での実証試験により実現しました。

一酸化二窒素(N2O)を生成しないガス化改質技術

従来の下水汚泥処理方法では、酸素を十分に送って、汚泥を完全に燃やして灰にしていました。しかし完全燃焼の度合いを高めるほど、二酸化炭素が発生するため、ガス化炉では、酸素を少なくして汚泥を部分燃焼させることで、炭素や水素を不完全に反応させて一酸化炭素や水素にしました。

いかに不完全に汚泥を反応させるかが、燃料価値の高いガスを得るための条件となります。メタウォーターでは、これまでの下水汚泥の燃焼処理技術のノウハウをもとに、ガス化の温度や滞留時間などをシミュレーションなども行いながら検証しました。しかし、いざ実証試験を始めてみると、汚泥が炉につまったり、乾いて固まったりと多くのトラブルがありました。

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図2 ガス化改質技術のフロー

様々な試行錯誤の結果、燃料価値の高いガスを生成するために、(1)ガス化炉で、800℃での部分燃焼により乾燥汚泥を熱分解ガス化し、(2)高温サイクロンで、熱分解ガス中の灰分を回収。(3)改質炉で、酸素と水蒸気を用いて1000℃で改質することで熱分解ガス中の炭化水素とタール分をH2、CO、CH4等の燃料ガスに低分子化するという、工程に至ることができました(図2)。

実証試験の結果、実際にできたガスを分析してみると、部分燃焼するように酸素分を少なくしたため、窒素分が酸素と反応せず、一酸化二窒素が生成されないといった、システムの意外な相乗効果が明らかになりました。開発プロジェクトでは、二酸化炭素の排出削減を重視していましたが、予想しなかった大きなメリットが、実証試験の結果、明らかとなったのです。

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ガス化炉(左)、改質炉(右)

下水汚泥は、生物のタンパク質由来の窒素分を多く含むため、汚泥処理するとその窒素分が、二酸化炭素の310倍もの温室効果がある、一酸化二窒素(N2O)となって発生することが、これまで下水汚泥処理では大きな問題となっていました。

ところが、このシステムでは一酸化二窒素をほとんど生成しないことが、実証試験で検証できたことが、実用化に向けた転機になるとともに、大きな弾みとなりました。

5tから100tへのスケールアップ

実証試験は、東京都下水道局砂町水再生センターで行われました。NEDOプロジェクト開始とともに実証プラント建設を始め、研究室でのテーブル試験をしながら実証試験準備を進める忙しい日々が続きました。しかし、「実用化がうまくいったのは、実証試験による成果が大きい」と開発者たちは声を揃えます。

実証試験では、開発したシステムの性能や安定性に関するデータ収集と同時に、実用化に向けてどんな課題があるのか、徹底的に検証しました。例えば、下水汚泥の熱量は季節や天候に大きく左右されます。台風がくれば汚泥に雨水や土砂が混じり、熱量が下がるので炉の運転を変えなければなりません。

「砂町の実証試験設備の処理スケールは1日5t。それでも炉の条件を整えるには丸二日以上かかり、一旦試験を始めると1週間以上のデータ収集が必要であった。」とプラント技術部グループ担当課長の遠藤正人さんは振り返ります。そうした実証試験を繰り返し、汚泥の変動に応じた設備の運転方法やガスの性状を安定に保つための最適な条件を一つずつ検証し、実用化に向けたノウハウを生み出していきました。

テーブル試験から実証試験、実際のプラント建設までを一貫して担当した遠藤さんは、「清瀬水再生センターでの処理量は1日100t。これだけのスケールアップでも設備がスムーズに稼働しているのは、考えられる限りの条件で実証試験を繰り返したから」と語ります。

運用開始1年で期待される効果

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脱水汚泥をガス化炉に送り込む供給管

東京都下水道局清瀬水再生センターに2010年7月から導入された下水汚泥ガス化発電システムは、現在、計画通り1日当たり100tの下水汚泥が処理されています。汚泥の乾燥燃料はほとんど不要となり、施設全体の電力使用量も減り、そしてなにより一酸化二窒素の大幅排出削減により、従来技術に対する年間の温室効果ガス削減量は二酸化炭素換算で12,500t、87%の削減効果があります。

この下水汚泥を原料としたガス化施設の事業化は全国で初めてのもので、新しい技術として注目され、多くの自治体関係者が見学に訪れます。東京都下水道局清瀬水再生センター長の原田一紀さんは、「東京都の行政機関が排出する温室効果ガスの42%が下水処理施設によるものです。その削減のために、今回の最新技術導入に踏み切りました。運用開始から1年経ち、目標とした性能も発揮されつつあり、全国の処理施設の先例になればと考えています」と語ります。

普及促進に向けて改良を続ける

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下水汚泥ガス化発電システムの全景

柳瀬部長は開発の経緯を振り返り、「『ガス化はメリットも多いがリスクも多い』と、社内が二の足を踏む中、開発に踏み切ることができたのは、NEDOプロジェクトに参加できたから。そして実用化までこぎ着けたのは、NEDOの継続的な支援で実証試験を続けられたから」と話します。また、遠藤さんは、「プロジェクトの技術評価委員会で学術分野の専門家から、アドバイスを受けたのも実用化へのスピードアップに役立ちました」と言います。

1号機の運用開始を経て、メタウォーターでは、性能の評価を行うとともに、2号機や3号機を目指して技術改良を進めています。プラントの設計、運営に関わるプラント技術グループ主任の小関泰志さんは、「手間のかからない工程を導入するなど、設備を運転する人が維持管理しやすく改良していくことでコスト削減や普及促進を図っていきます」と今後の目標について話します。

下水汚泥ガス化発電システムが日本中に普及すれば、年々増加する汚泥処理の問題が解決するばかりでなく、日本の温室効果ガスを大幅に削減できるでしょう。循環型社会の構築に下水汚泥ガス化発電システムが大きく貢献することが期待されます。(2011年10月取材)

開発者の横顔

「ガス化システムに挑んで」

メタウォーター株式会社/東京都下水道局

コラム

思った通りに反応するのが楽しい

柳瀬さん

入社以来、焼却や熱操作の開発をしていたR&Dセンター低炭素技術開発部長の柳瀬哲也さんが、汚泥のガス化技術に出会ったのは15年ほど前のこと。上司に「勉強してみたら」と薦められたのがきっかけでした。先進例のあったドイツからガス化技術を導入したものの、汚泥の種類も反応の条件も日本と違い、日本に合うように技術の改良を積み重ねてきました。「今までに無い全く新しい技術を立ち上げるには、どんなものでも5~10年以上の月日がかかります。それでも、プロセス開発が面白いのは、自分が考えた通りの反応が起こることを確認できること。そんなときは開発者冥利に尽きます」

開発から運営まで、ガス化一筋

遠藤さん

プラント技術部グループ担当課長の遠藤正人さんも柳瀬さんとともにガス化技術の開発を行ってきました。ボート部出身の遠藤さんは体力もあり、徹夜の実験も厭わなかったと言います。研究開発の進捗に伴い遠藤さんも開発から技術担当へ、そしてガス化炉が稼働すると運営担当へと社内を異動した汚泥ガス化一筋。「ガス化に関するさまざまな業務を担当することで、開発だけではわからなかったことが見えてきました。技術者にとって、基礎研究から実機まで一貫して担当できる機会は少なく、貴重な経験を積むことができました」

トラブル解決もおまかせ

小関さん

都市ゴミのメタン発酵技術の開発を行っていたプラント技術部グループ主任の小関泰志さんは、そのプロジェクト終了と同時に名古屋から東京へ転勤、今回のガス化システムの開発プロジェクトに加わりました。清瀬水再生センターの設備は通常の汚泥処理設備の3倍の機器数があり、予想外のトラブルもあったと言います。「設備設計をして、思った通りにシステムが動くのも楽しいですが、思った通りに動かなかったものを動かすのもまた楽しいことです」。設備運営にも携わる現在、「運転員との会話で新しいアイデアが生まれることも」と話します。

  • バイオマスエネルギー高効率転換技術開発
アンケート

「NEDO実用化ドキュメント
-メタウォーター株式会社/東京都下水道局」

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