同一の光学特性を持つ光学フィルムを直交して重ね合わせると
複屈折効果を打ち消し合って着色が消える。この原理を利用して
液晶ディスプレイでは色調やコントラストを保っている

光学フィルムの原料となるCOP樹脂のペレット

富山県氷見市にある日本ゼオンの光学フィルム製造子会社オプテスの
工場にある溶融押出成形機

出、延伸、貼り合わせの工程を終えて完成した光学フィルム

液晶テレビの高視野角、高コントラスト化、
偏光板製造プロセスのロールツーロール化実現
高性能偏光板コスト→1/2

ブラウン管方式に代わり、いまやテレビやパソコンモニターの主流となった液晶方式のディスプレイ。薄型で明るく消費電力も少ないなどの特色がありますが、普及当初は正面以外から見ると、色調が変わってしまったり、コントラストが低下したりして、映像が見えにくくなってしまう現象がよく起きました。これは画面を斜め方向から見ると、バックライトから出た光に光学的ずれ(位相差)が生じることが原因です。また屋外で使用するモバイル用途では、外光の反射光の影響で画面が見えにくくなる現象があります。液晶画面用光学フィルムは、画面から透過する光や画面に反射する外光を調節するなどして、液晶画面を見えやすくします。日本ゼオン株式会社では経済産業省とNEDOの支援を得て、世界初の生産技術(逐次二軸延伸技術)により、高コントラスト、高視野角を実現できると共に、偏光板とのロールツーロール化を実現できる視野角改善フィルムを開発しました。また携帯電話等のモバイル用途に対しても、世界初の斜め延伸技術を開発し、外光反射を抑制すると共に、偏光板とのロールツーロール化の実現で部材削減を可能とし、薄く低コストの偏光板を可能としました。この斜め延伸技術は、モバイルだけでなく3Dテレビにも採用されている他、今後有機ELテレビの反射防止にも幅広く採用されていくと予測されます。逐次二軸延伸によるテレビ用視野角拡大フィルムは、セルロース系とシクロオレフィン系がありますが、シクロオレフィン系ではシェアは100%、また斜め延伸フィルムはモバイル用に70%の高い世界シェアを得ています。

「液晶TVの高性能化技術の開発」

このプロジェクトが
はじまったのは?

液晶テレビやプラズマテレビなど薄型の映像ディスプレイ装置が普及拡大をはじめた2002年当時、スピーディーな新規市場の創出と構造改革促進のため、経済産業省では大型のイノベーション促進プロジェクトを計画、実行しました。薄型映像ディスプレイ装置の低消費電力化や低価格化を図るプロジェクト(「低消費電力次世代ディスプレイ装置製造技術共同研究施設整備」)も、その一つでした。同プロジェクトでは、官民総力を挙げての研究開発が実施され、その後の薄型テレビ(ディスプレイ装置)普及拡大を後押しすることになりしました。NEDOでも、同様の目的から、産学連携型産業技術実用化開発費「液晶TVの高性能化技術の開発」を実施して、薄型テレビの研究開発を支援しました。

プロジェクトのねらいは?

「低消費電力次世代ディスプレイ装置製造技術共同研究施設整備」では、当時、5〜60万円の売価だったハイビジョン対応30インチ型薄型テレビを、売価20万円以下で製造できる設備を実現することを目標としていました。その目標の下、最終製品を製造する家電メーカーから、半導体製造装置などを供給する生産設備メーカー、また、日本ゼオンのような部材提供メーカー、そして、工場を建築する建設企業まで、関連24社が連合して開発企業(株式会社フューチャービジョン)を設立して、新技術の研究開発に挑みました。日本ゼオンでは、輝度向上フィルムの生産コストを1/5にすることを目標にプロジェクトに参加しました。

NEDOの役割は?

プロジェクト当時、薄型映像ディスプレイ装置の開発競争はすでに民間でも激しくなっており、韓国や中国など新興国の急激な追い上げも始まっていました。薄型映像ディスプレイ装置は、わが国でも競争力の強い分野でしたが、より一層の市場拡大、新産業創出が必要と考えられました。NEDOでは、経済産業省とともに、わが国の総力を結集するプロジェクトとして、民間企業だけでは実施困難な高い技術的目標を掲げ、液晶テレビの高性能化を支援し、国際競争力向上を目指しました。光学フィルムの分野では、他国の追随を許さない生産技術と製品(日本ゼオンの斜め延伸フィルム)を生み出すことに成功しました。

液晶画面の見やすさを助ける光学フィルム

液晶ディスプレイは、液晶を封入した液晶パネルと、その背後にある白色光を出すバックライトからなっています。バックライトの光が液晶パネルを通過すると映像が表示され、液晶パネルの前面にある赤・青・緑のカラーフィルターを通過すると色が表現されます。

なるほど基礎知識

電圧で並び方が変わる液晶分子。
液晶テレビの仕組み

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図a VAモードの液晶の向きを示した模式図。
VAモードは基板に対して液晶分子が垂直に配向しており、それらが水平に倒れると直線偏光の光が通過する

「液晶」とは、固体と液体の中間の状態の物質をいいます。液体でありながら、固体(結晶)のように規則正しく分子が並んでいて、結晶の光学的性質と液体の流動性どちらも持っています。その液晶を2枚のガラス板で挟んだものが液晶パネルです。

ガラス板の間のわずか5μmほどの隙間に液晶分子は閉じ込められています。液晶分子は、棒状で規則正しく並んでいますが、電圧がかかるとその電圧に応じて並び方が変わります。液晶分子の並び方を変えるとバックライトからの光を通過させたり、遮断させたりできるので、その組み合わせによって文字や映像を表示します(図a)。

液晶テレビ(ディスプレイ装置)では、液晶分子の向きによってSTNモード、IPSモード、VAモードなどの表示方式があります。32インチ以上の大型テレビは、VAモードやIPSモードが使われています。

2枚の偏光板で光を操る

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図B 燃料電池の種類と作動温度

太陽の光や電球の光などは、様々な方向に振動する光が含まれています。そうした光を結晶などに通過させると、振動方向が一定の方向に偏った光になることがあります。このような現象を偏光といいます。

特定の振動方向の光しか通さない板を偏光板といい、偏光板を2枚重ねて自然光をみると、偏光板の向きによって光の明るさを調節できます。それは、1枚目の偏光板を通過した光は特定の振動をもつため、2枚目の偏光板の向きにより、通過できるときと通過できないときがあるからです(図b)。

液晶を、偏光方向を垂直にした2枚の偏光板で挟むと、電圧をかけないときは光が通しますが、電圧をかけると液晶分子が垂直方向にならび光はもう一方の偏光板で遮断されます。

電圧の強さを変えることで光の量も調節できます。このように液晶パネルでは偏光板を光シャッターにして明暗を表現しています。また、液晶パネルを保護するガラス板に周囲の光が反射する現象も、偏光板を使えば弱めることができます。

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同一の光学特性を持つ光学フィルムを直交して重ね合わせると複屈折効果を打ち消し合って着色が消える。この原理を利用して液晶ディスプレイでは色調やコントラストを保っている

しかし、液晶画面を斜め方向から見ると、明るさが著しく減少したり、色調が変化したりすることで見えにくくなる現象が起きます。液晶テレビで、画像が正常に見える角度を「視野角」といい、視野角が小さい液晶ディスプレイほど斜め方向から画面が見えにくくなります。また、モバイル等は屋外で使用する場合が多くあり、その場合外光反射の影響で画面が見にくくなります。

液晶テレビではバックライトからの光が液晶分子の層を通り抜けるときに、液晶分子の複屈折による位相差発現により光の偏光状態が変化します。多くは楕円偏光の状態をとります。

このような偏光状態の変化により、斜め方向から液晶画面を見ると色合いやコントラストが変わってしまい、表示画像が見えにくくなります。そこで液晶テレビでは画面表示に必要な液晶パネルやカラーフィルターなどに加え、さらに光学フィルムを何枚も重ねて光の偏光状態を調節しています。

光学フィルムを使うことにより、画面の色調やコントラストを正面だけでなく斜め方向でも正常に保つことが可能となります。

合成樹脂の特性を活かし、
光学フィルムの開発に着手

光学フィルムは、合成樹脂を薄く引き延ばしたものです。うまく圧力や温度を制御しながら分子の並べ方を変えることで、複屈折を発現させます。これにより偏光制御が可能となります。

そのために、通常は加熱しながら一定方向に引っ張る「延伸」というプロセスを行いますが、光学フィルムの場合には、汎用のフィルムと異なり、画面の色ムラに影響を及ぼす厚みの精度も高く求められています。現在では、その精度は±1.0%以下にまでなっています。

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光学フィルムの原料となるCOP樹脂のペレット

合成ゴムや合成樹脂原料を製造してきた日本ゼオンでは、2001年に原料づくりだけでなく、高付加価値製品への業務拡大を目指し、光学フィルム市場への参入を決定しました。同社の主力製品であるCOP(シクロオレフィンポリマー、商品名:ゼオノア)が、非晶質(透明性等)、炭化水素(低吸湿性)、脂環構造(耐熱性)といった特徴で光学材料に向くとの考えでした。

それまで日本ゼオンには、光学フィルム製造経験は無かったものの、翌2002年には独自の成形技術で、COP樹脂から光学フィルムを低コストで製造することに成功しました。さらに、経済産業省やNEDOの支援の下、延伸技術の高度化に挑み、大型画面の液晶テレビ用途向けに広い視野角や高コントラストを実現する高機能光学フィルム(商品名:ゼオノアフィルム)を開発し、大きなシェアを獲得しています。

無理と思われていた製造方法で、
光学フィルムの低価格化を実現

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図1 溶液キャスト法(左)と溶融押出法(右)の製造工程比較

日本ゼオンが光学フィルムの製造開発に着手した当時、光学フィルムの成形法は主に「溶液キャスト法」と呼ばれる方法で製造されていました。溶融キャスト法は、原料の樹脂ペレットを有機溶媒で溶かし、溶液を平らなベルト上に流し、フィルムに成型し乾燥する方法です。この方法は高品質の製品を製造することができましたが、大量の溶媒と原料を攪拌調合する工程が必要なこと、溶媒を乾燥によって除去し、大気中に揮発した溶媒回収のために大型の設備と多くのエネルギーが必要で生産性が低いことなどから、高コストのプロセスでした。

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富山県氷見市にある日本ゼオンの
光学フィルム製造子会社オプテスの工場にある溶融押出成形機

そこで新規参入を目指す日本ゼオンでは、工程がよりシンプルで溶剤やそれに伴う乾燥工程が必要ない「溶融押出法」による光学フィルム製造を目指して、研究開発を始めました。溶融押出法は、溶かした樹脂を装置から押し出してロールに接触するだけで、フィルムを形成できる方法です。単純な製造方法のため、生産効率が高く、コストも低く抑えられます(図1)。しかし、フィルムの厚み制御が難しいことと、表面にダイライン等のキズがついたりすることで、高精度を要求する光学フィルム製造には適さないプロセスと考えられていました。

ところが、日本ゼオンでは、装置の改善や温度条件などの検討を積み重ね、研究開発からわずか9ヶ月で世界初の溶融押出法による光学フィルム製造に成功。2002年10月には販売も開始しました。

「逐次2軸延伸法」により、
高機能光学フィルムの工程簡略化にも成功

こうして光学フィルムの製造が始まり、溶融押出による低価格化で、日本ゼオンではシェアを一気に伸ばしました。一方、液晶テレビの大画面化も進み、より高機能で低コストの光学フィルムが求められるようにもなりました。

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図2 光学フィルムの縦横逐次2軸延伸製造技術。
順次、縦と横に伸ばしながら延伸する。
厚みや分子の並びのムラをなくすことが課題だった

大画面液晶テレビの主流であるVAモード方式液晶の場合、視野角を拡大するには、その光学特性から2軸性の光学フィルムが必要でした。当時は一軸延伸フィルムを貼り合わせて、2軸性のフィルムを製造する方法が一般的でした。

しかし、それでは製造効率が悪いだけでなく、軸がずれてコントラストが低下する問題がありました。そこで日本ゼオンでは、溶融押出に続いて、縦・横両方向に延伸する「逐次2軸延伸法」にも挑戦することにしました。

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図3 ロールツーロールによる貼り合わせ。
巻き取った状態の三つのフィルムを貼り合わせ、そのまま巻き取る

「逐次2軸延伸法」とは、合成樹脂をまず縦方向に引っ張り、次に横方向に引っ張って2軸の光学フィルムを一度に製造するというものです(図2)。しかし、当時は、縦か横に延伸する1軸延伸法が主流で、逐次2軸延伸法は、まだ誰も実現したことがない技術でした。

日本ゼオンの光学フィルム開発のリーダーで、同社取締役常務執行役員の荒川公平さんは、「フィルムに厚みムラができると、それが色ムラとなって画面に影響します。そのため大型画面には、均質な厚みの極めて精度の高い光学フィルムが要求されます」と話します。

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押出、延伸、貼り合わせの工程を終えて完成した光学フィルム

日本ゼオンでは、材料の調整から延伸の詳細な条件までを徹底的に検証し、フィルム厚の均一化に成功。幅1,330mmのフィルムで、厚みの誤差がわずか±0.5%程度の2軸フィルムを開発し、2004年10月に販売を開始しました。この光学フィルムを使うと、斜めから画面を見ても画像の劣化がなく、液晶テレビの視野角を大きく広げることに貢献しました。

また、この逐次二軸延伸による光学フィルムは、偏光板と同じ広幅(当時は1,330mm)を実現したために、偏光板と直接ロールツーロールでの貼合することが可能となり、プロセスの簡略化だけでなく、偏光板に使われる保護膜や中間資材も不要となる等低コスト化に大きく貢献しました。また、バッチ貼りプロセスが無くなることで製品の品質の安定性も上がりました。(図3)。

break through

モバイルの超薄型要求と反射防止目指して
斜め延伸法に

逐次2軸延伸法の成功で、日本ゼオンの延伸技術は世界最先端のレベルまで進歩しました。しかし、モバイル用途で使用される光学フィルムは、分子の配列方向と偏光板の透過軸方向が有る角度で交差するケースが多く、ロールツーロールが不可能でバッチ貼りを余儀なくされていました。

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図4:斜め延伸位相差フィルムは、分子の並ぶ向きがフィルムの長手方向、または幅方向と異なり、斜め方向になる

斜め延伸は、フィルムの長手方向とは別の方向に分子を配列することを可能としたため、偏光板の透過軸と光学フィルムの分子の配列方向が交差するモードでもロールツーロールが可能となりました。それによりすべての液晶モードでのロールツーロール化が可能となり、部材削減、プロセス削減、超薄型を可能としました。さらに斜め延伸フィルムは、3Dテレビには別の機能でも利用されるようになっています。この斜め延伸技術は2005年4月から開発に取り組み、2007年に完成しました。(図4)。

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図5 従来は、フィルムを斜めの方向に切りぬいて貼り合わせていた

光学フィルムは、透明の樹脂フィルムを延伸して所定の方向に分子を配向させて製造します。従来の縦延伸や横延伸では、分子の配向する方向がフィルムの流れる方向か、フィルムの幅の方向にしかなりません。そのため、斜め方向の偏光板機能が必要な場合は、所定の角度になるように光学フィルムを打ち抜いて貼り合わせていました(図5)。

この方法では、手間がかかる上に、打ち残した部分が無駄になってしまいます。フィルムの利用効率も悪く、コスト高にもつながります。それならば、最初から所定の角度になるよう、斜めにフィルムを延伸すれば、工数も減り、フィルムも無駄にならないと、日本ゼオンでは考えました。しかし、これまでの溶融押出や逐次2軸延伸法同様、誰も成功していない技術でした。

開発の手始めに延伸過程のコンピュータシミュレーションを実施してみたところ、「斜め延伸はできない」という結果が出ました。というのは縦延伸ならフィルムの幅方向に生じる応力は左右対称になります。しかし、斜め延伸を行うと、幅方向に生じる応力に差が出てしまうことが避けられないからでした。

ただし、原料の樹脂の粘弾性は正確にシミュレーションで表現することは不可能で、物性を仮定として入れたシミュレーション結果は絶対ではないことも分かっていました。そこで延伸機の改造に着手し、斜め延伸の可能性を模索した結果、可能性を感じる手ごたえを得ることができました。そこで、すぐに需要の高い45度が出来る装置設計に取りかかりました。

斜め延伸技術開発がスタートしましたが最初の大きな課題にぶつかりました。フィルムにかかる応力はシミュレーション通り、幅方向で一定ではなくなるため、フィルム幅方向で厚みが不均一になりました。単にフィルム厚を均一にすることだけが目的であればいくつか方法はありますが、厚みと光学特性を両立することは、シミュレーション上も実験上も不可能との結論に至りました。

「しかし、技術とは奥深いもので、一見矛盾することを矛盾で無くすることが技術の真骨頂です。例えば水と油を混ぜようとしてもそれだけではすぐに分離します。これは原理的にそうなるのですが、水と油に乳化剤を加えることで混ざるようになります。つまり最初の前提である、水と油だけという条件を変えて可能にしたわけです。この斜め延伸技術はフィルム延伸の常識的な前提を見直すことで可能となったのです。この技術は基本的にはNEDOプロジェクトの中でノウハウとして構築したものです」と荒川常務は話します。

デジタルサイネージや3Dテレビなどに有効な
斜め延伸光学フィルム

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オプテス氷見工場の全景(左)、
COPを製造ラインに供給するタンク(右)

こうして斜め延伸法が確立。2007年3月には、世界初の斜め延伸光学フィルムが販売されました。斜め延伸光学フィルムは、モバイル用途で反射防止と液晶の光学補償を兼ねた光学フィルムとして圧倒的なシェアを獲得することとなりました。このフィルムの反射防止機能は、デジタルサイネージ(電子看板)などへの応用も期待されています。

また、現在の3Dテレビでは、専用メガネで正面から、画面と水平に見据えないと立体効果が現れにくい場合がありますが、斜め延伸光学フィルムを使うと、頭を傾けても、寝転んでも、鮮明で立体効果のある画像を楽しむことができます。

日本ゼオンではそうした3Dテレビでの利用拡大も視野に入れ、2011年10月に斜め延伸専用の製造ラインを新規に追加、本格的な量産体制へと進んでいます。

NEDO支援の試験設備があったからこそ
踏み出せた世界初の斜め延伸

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出荷用に梱包された光学フィルムのロール

日本ゼオンが、溶融押出による光学フィルムの実用に成功した同年、経済産業省では、東北大学大見忠弘教授らの発案で、薄型ディスプレイ関連企業24社を集めた「低消費電力次世代ディスプレイ製造技術共同研究施設整備プロジェクト」を立ち上げました。

同プロジェクトの目標は、当時、30インチで50~60万円していた液晶テレビ(ディスプレイ装置)を、日本独自の技術で高機能、低価格化(20万円以下)することでした。日本ゼオンでは、輝度向上フィルムの開発を提案、担当しました。プロジェクトの途上、NEDOの産学連携型産業技術実用化開発費「液晶TVの高性能化技術の開発」の助成を受け、逐次2軸延伸の試験設備を設置しました。斜め延伸は、その試験設備を利用して開発されました。

荒川常務は、「斜め延伸光学フィルムの開発に踏み切ることができたのは、この設備があったからこそ。これがなければ、前人未踏の斜め延伸技術には着手できなかったでしょう」と語ります。

技術の開発の連続だった10年

液晶テレビは日を追うごとに大型化し、3D化など機能も向上しています。それに伴い、光学フィルムに求められる条件も日々変わって行きます。光学フィルムメーカーは、その一歩先を見据えて、休む暇もなく開発を進めなければなりません。

荒川常務は、「この10年間は新技術開発の連続。画面が30インチ、40インチと大型化していくときが一番大変でした。画面が大きく明るくなると、今まで見えなかったムラが見えてくるのです。開発メンバー全員で課題を考え、困難を乗り越えることができました」と語ります。

フィルム事業における課題解決と事業化の成功について、荒川常務は、「御用聞きで獲得したニーズでは無く、原理面から市場が受け入れると確信できる製品コンセプトを提案することが重要で、製品コンセプトに研究員が魅力を感じることで、困難に挫けず開発意欲は維持されます。また、今後は液晶や有機ELだけでなく、フィルムのハンドリング技術を活用できる様々な応用分野に技術を展開していくつもりです」と成功の秘訣と抱負を語ります。(2011年12月取材)

開発者の横顔

「誰もできなかったことに
挑むことこそが成功の秘訣」

日本ゼオン株式会社

コラム

荒川さん

荒川公平さんは、特殊ポンプや医療機器を製造するメーカーで1983年に気相流動法によるカーボンナノチューブを開発した後、1988年から写真フィルムメーカーで、液晶ディスプレイ用光学フィルムの研究開発に従事し、WVフィルムというTN液晶モードのデファクトスタンダードとなる視野角拡大フィルムの製品を開発しました。2002年、日本ゼオンへ光学製品研究所長として転職。光学フィルム製造経験の無かった同社で、製品開発の中心的役割を果たし、従来にない製造技術や製品を実用化してきました。そんな荒川さんの研究開発におけるモットーは、「誰もできないことをやる」というものです。「私は、業界の常識や学会の論文を、そのまま信じることはしません。新しい発見はいつも、常識を覆すことから始まると思っているからです。斜め延伸も、業界ではできると信じた人がいなかったため、本気でチャレンジする会社が無かっただけと思います。私にとって斜め延伸はできると確信して始めたわけではなく、できない理由を見いだせなかったことが始めるきっかけでした。誰かの二番煎じでは、結局、価格競争に巻き込まれてビジネスとしての成功も難しくなります。誰もができないと考えたことに挑むことこそが、成功への近道、秘訣だと思っています」

  • 低消費電力次世代ディスプレイ装置製造技術共同研究施設整備(経済産業省事業 2001年度補正予算)
  • 産学連携型産業技術実用化開発費「液晶TVの高性能化技術の開発」(2002年度)
アンケート

「NEDO実用化ドキュメント
-日本ゼオン株式会社」

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