旭硝子千葉工場内に設置された
月島環境エンジニアリング製の「フロン類破壊装置」

ハステロイ(ネットの内側)で覆われた燃焼炉

旭硝子千葉工場内に設置された「フロン類破壊装置」。
右側の塔が燃焼部分で、左側の塔が吸収・洗浄塔

燃焼炉上部のバーナー部分

温室効果ガスHFC-23破壊量の31.2%に寄与

有害な紫外線を吸収してくれるオゾン層。そこに“穴”を開ける原因がエアコンや冷凍・冷蔵庫の冷媒に使われてきた「フロン類」(フルオロカーボン類)の放出と判明し、代替フロンが開発されました。しかし今、代替フロンやその副生成物質に関しても、温室効果が高いことがわかり、問題となっています。なかでもHFC-22の副生成物であるHFC-23は温室効果が高く、その破壊と安全な処理が緊急の課題です。NEDOでは、「京都議定書目標達成計画」に対応してフロン類削減のために様々な技術開発支援をしていますが、その一環としてHFC-23の破壊技術の研究開発についてもプロジェクトを実施しました。月島環境エンジニアリング株式会社が実施したプロジェクトでは、熱と冷水の力により、壊れにくいHFC-23を確実に破壊する装置の開発に成功、現在国内外約30カ所で使用され、温室効果ガス排出削減に大きく役立っています。本プロジェクトに関連してCDM事業で2012年2月までに破壊されたHFC-23は全世界で82百万t-CO2あり、そのうち月島環境エンジニアリングの装置による破壊量は26百万t-CO2で、HFC-23の破壊におけるCDM寄与率は31.2%を占めています。

「HFC-23破壊技術の開発」

このプロジェクトが
はじまったのは?

特定フロンガス等はオゾン層を破壊するため、モントリオール議定書によって種別ごとに取扱が決められています。HCFC-22 は、フッ素系合成樹脂の原料としてモントリオール議定書で生産・使用が認められていますが、製造時に地球温暖化効果の大きいHFC-23が2~3%程度、副生成物と生成されてしまいます。その低減には化学的に限界がある一方、HFC-23 は地球温暖化係数が11,700と大きく、気候変動枠組み条約における排出削減対象物質として、削減が必須とされています。本プロジェクトは、このHFC-23 を、高温下で安全に破壊処理し、地球温暖化効果ガス削減に寄与するために開始されました。

プロジェクトのねらいは?

本プロジェクトでは、HFC-23を高温下で連続的に安定して破壊するためのプロセス、生成するフッ化水素を安全に取り扱うためのフローを確立することが、検討されました。また、破壊処理コスト低減のため、補助燃料としてフッ素含有廃液を同時に処理できるプロセス、生成するフッ化水素をフッ化カルシウムとして回収して再利用が可能なプロセスなどについても検討されました。こうした検討を経て、実際に破壊処理試験設備を設計・製作・設置し、HFC-23 の破壊処理試験を行い、設備の運転に必要な条件を確立し、破壊処理システムの有効性を実証することが、本プロジェクトの研究開発目標でした。

NEDOの役割は?

フロン類の排出削減については他の分野のNEDOプロジェクトと比較しても、大きな成果を出しており、NEDOではさらなる排出削減に取り組んでいます。実際、本プロジェクトにおいても、代替フロン等3ガスの「京都議定書目標達成計画」の目標値(-1.6%)達成に対して大きく貢献しています。本プロジェクトに関連して2007年に破壊されたHFC-23は577tで、CO2換算では690万tになり、全温室効果ガスの削減量の0.5%にもなります。また、同年の代替フロン等3ガスの削減量は2,750t-CO2で、本プロジェクトによる削減量はその31.2%を占めています。現在では、CFC、HCFC、HFC、PFC、SF6などのあらゆるフッ素系ガスや廃液の分解も可能となっています。 また、NEDOプロジェクトにおいて川上・川下メーカー同士の連携を通じてより研究開発のシナジー効果が発揮できたと言えます。

代替フロン類生産の副生成物
HFC-23の強力な温室効果

1987年に、特定フロン等のオゾン層破壊物質の生産や使用を規制する「モントリオール議定書」が採択されました。その後、特定フロン等の生産・使用の規制が強化されていき、1995年末には、特定フロン等を完全に生産できないことになりました。

フロンを一切使わないCO2冷媒の使用も試みられてきましたが、当時は技術的な課題を解決するのが難しく、近年になってようやく少しずつ実用化され始めました。

(参考:CO2冷媒を採用した、冷凍ショーケース用ノンフロン冷凍機システム)

そこで、特定フロン等の代わりに冷媒などに使える物質として「代替フロン」が生産・使用されるようになりました。代表的なものが、HCFC-22(クロロジフルオロメタン)です。従来のフロンに比べてオゾン層を破壊せず、冷媒特性も優れているため、エアコンや冷凍・冷蔵装置の冷媒に広く使われてきました。

しかし、HCFC-22の生産には、副生成物として「HFC-23」(トリフルオロメタン)が必ず発生し、それが新たな問題となりました。HFC-23は、地球温暖化につながる温室効果が極めて高い物質(二酸化炭素の11,700倍)だったからです。

地球温暖化防止への問題意識の高まりを背景に、HFC-23を大気に放出せず、適切に破壊することが社会に求められていました。2007年に改正された「フロン回収・破壊法」でも、HCFCやHFCなどを放出することへの禁止や、業務用機器を廃棄するときにこれらの物質を回収・破壊することが義務付けられるようになりました。

なるほど基礎知識

地球温暖化係数11,700。破壊されにくいHFC-23

「HFC-23」は「トリフルオロメタン」ともいわれ、「CHF3」という化学式で表される物質です。代替フロンとして、HCFC-22(化学式はCHClF2)をつくるとき、化学反応が行き過ぎることにより、2%ほどの割合でHFC-23が副生成物として発生してしまうのです。

HFC-23は、沸点が-82.0℃と低いため、一部の用途として冷凍装置や冷熱発電装置の冷媒として使われてきましたが、それ以外はほぼ用途がなく、以前はそのまま大気に放出してしまうことがほとんどでした。

HFC-23は、オゾン層を破壊する原因物質には当たりません。しかし、温室効果は極めて高く、二酸化炭素を1とした場合の温室効果(地球温暖化係数)は11,700倍。これは、わずかな量が大気に放出されただけでも地球温暖化につながりうることを示しています。

また、安定性が極めて高いという点もHFC-23の特徴です。逆に考えれば、少し手を加えただけでは、物質がばらばらに破壊されないことを意味します。そのため、いかに安全にHFC-23を破壊するかが大きな課題になったのです。

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旭硝子千葉工場内に設置された
月島環境エンジニアリング製の「フロン類破壊装置」

フロン類破壊装置で
HFC-23を99.99%以上破壊

温室効果が高いとされ、しかも破壊されにくいHFC-23をどのように回収・破壊するか。この課題に、代替フロンを製造してきたメーカーなどが取り組んできました。NEDOでは、1998年から2001年にかけて「HFC-23破壊技術の開発」プロジェクトを実施し、こうした研究開発を支援してきました。

月島環境エンジアリングでは、代替フロンガスメーカーの旭硝子株式会社、ダイキン工業株式会社と共に破壊装置の開発に参加し、同社が長年にわたり培ってきた「燃やして物質を処理する」技術を活用して実証装置を開発、HFC-23を99.99%以上破壊することができる技術を確立しました。

この破壊装置は、先進国が途上国に、温室効果ガス削減につながる技術を提供することで、自国の排出量の削減分に当てることのできるCDM(クリーン開発メカニズム)制度の対象にもなり、これまでCDMとして認められた世界全体のHFC-23の破壊量のうち実に31.2%が、この破壊装置によるものとなっています。

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図1 フロン類破壊装置の処理フロー概略図

1,300℃の燃焼でHFC-23を破壊

月島環境エンジニアリング製の「フロン類破壊装置」は、極めて安定的な物質であるHFC-23を安全に破壊することができます。その仕組みは、「高温でHFC-23を燃焼させて完全に破壊、さらに水中で急速に冷やす」といったものです(図1)。

まず、燃焼炉上部からガス状態のHFC-23を、側面からは燃焼を促す補助燃料や空気などを入れます。そして、筒内で空気を旋回させながら燃焼を起こす「ボルテックスバーナー」によりHFC-23を高温で燃焼させます(図2)。

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図2 ボルテックスバーナーの構造図(左)とその特色(右)

空気を旋回させることで、一般的な長炎バーナーと違い、短い距離で高温に達することができるようになります。ボルテックスバーナーの燃焼温度は1,600℃以上。燃焼炉の容積の広い部分も1,200~1,300℃の高い温度が保たれています。

この燃焼処理により、フロン類の塩素分は塩化水素(HCl)に、フッ素分はフッ化水素(HF)になります。つまり全てのフロン類は破壊されたことになります。

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図3 冷却缶での液中燃焼法。
一気に急冷することでダイオキシン類の再合成もない

液中燃焼法で一気に冷却

燃焼炉の下に待ち受けているのは冷却缶です。1,200~1,300℃以上の高温を通り抜けた燃焼ガスは、冷却缶の水の中に一気に噴出され、90℃以下に冷やされます。これにより、塩化水素およびフッ化水素の各気体が水に吸収され、塩酸とフッ化水素酸の混ざった液体になります。これで、フロン類を完全に分解できたことになります。このように、水などの液体の中を通過させて燃焼物を処理する方法は「液中燃焼法」と呼ばれています。

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冷却缶の覗き窓に見える気泡(左)、
燃焼炉の下部にある冷却缶(右)

月島環境エンジニアリング執行役員の清水典貞さんは、「冷却缶の覗き窓から、1~2mmの大きさの気泡を見ることができます。気体と液体を接触させ、気液の接触面を増やすことによって、高温ガスを効率よく冷却すると同時にフッ化水素等を効率よく水に吸収させるのです」と液中燃焼法のポイントを説明します。

アルカリ性物質で中和処理

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吸収塔(左)、その内部には複雑な形状をした月島環境エンジニアリング独自の充填物が使用されている(右)

その先、冷却缶から出た燃焼ガスは吸収塔へと向かい、ここでも塩化水素とフッ化水素は水に吸収されて再び冷却缶に戻されます。吸収塔を通過した燃焼ガスは、その先の洗浄塔でアルカリ液により中和処理され、大気に放出されます(図1)。

一方、冷却缶で液中燃焼法により生じた塩酸とフッ化水素酸の混ざった酸は、別の経路を進みます。多くの場合、ここにアルカリ性物質である消石灰(水酸化カルシウム)を加え、フッ化水素酸は中和されて、フッ化カルシウムという物質になります。これで、酸性だった物質は中和されると同時にフッ素イオンは固定されます(図1)。

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表1 月島環境エンジニアリングのフロン類破壊装置と他の破壊方法の比較

フロン類破壊装置を使うことで、HFC-23を99.99%以上破壊することが可能となります。液中燃焼法は、もともと月島環境エンジニアリングが1960年代中頃から培ってきた塩酸(HCl)回収技術で使われてきたものをHFC-23の破壊へ応用したものです。

清水さんは、「フロン類の破壊装置にはプラズマや触媒を使う方法など様々ありますが、当社の装置は、油が混入したフロン類でも、ガス体になっていても、液体になっていても、いわゆる雑多なフロン類でも処理が可能です。事前に物質を選定しておく手間をかけずに破壊できることが最大の特長です」と話します。

break through

フッ化水素による想定外の腐食

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ハステロイ(ネットの内側)で覆われた燃焼炉

上部のバーナーで燃焼させ、下部の冷却缶で冷やすという方法は、塩酸回収技術で長らく使われてきました。つまり、フロン類の破壊技術に応用するためのノウハウの蓄積が、月島環境エンジニアリングにはあったわけです。しかし、フロン類を破壊するには特有の問題も発生しました。その主なものは腐食でした。「燃焼炉外壁材側のカーボンスチール製が短時間で腐食していき、これは想定外でした」(清水さん)

フロン類を高温で燃焼すると、フッ化水素(HF)が発生します。フッ化水素は、低温になると水溶液として凝縮して液体のフッ化水素酸になり鉄を溶かします。一方で高温になると鉄を酸化させます。

清水さんは、「とくに高温腐食に対しては経験がありませんでした」と振り返ります。そこで、月島環境エンジニアリングでは、フロン類破壊装置のユーザーとの意見交換を重ねるなどして、金属板に新素材を使う検討を進めました。そして到達した解決策が、「ハステロイ」を使うというものです。

ハステロイは、米国企業が開発した金属で、ステンレスの原料になるニッケルを基本にして、そこに、硬い金属で知られるモリブデンや、錆びに強いことで知られるクロムといった金属を加えた合金です。

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腐食前の燃焼炉内のレンガ(左)と
フッ化水素による腐食が進んだレンガ(右)

炉内や冷却缶の腐食も対処

装置の腐食はこれだけに止まりませんでした。燃焼炉の内側に積まれた耐火レンガや目地にも腐食が起きたのです。「レンガの腐食はフッ化水素の濃度にもよりますが、レンガ選定には苦労がありました。現在も、様々な耐火物の試用を重ねているところです」(清水さん)

また、液中燃焼を行なう冷却缶の腐食は、フロン類を処理する用途として使われる前から課題でした。腐食を抑えるためゴムライニングをしていますが、やはり腐食は起きます。そこで、対処法として冷却缶内の液温を、冷却する方式が採用されました。

ここでも、フロン類から生じるフッ化水素酸がもたらす特有の問題が発生しました。「フッ化水素酸は、蒸気として腐食を抑えるための樹脂を透過しやすいのです。そこで、塩酸処理装置とは違い、フロン類破壊装置ではフッ化水素酸に対して耐食性のある樹脂が使われています」と清水さんは説明します。

こうした工夫は、ユーザーとのコミュニケーションを密にしてからこそ生まれた結果で、現場の声を聞いての不断の改良が、処理装置の耐食力を向上させていくことになりました。

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旭硝子千葉工場内に設置された「フロン類破壊装置」。右側の塔が燃焼部分で、左側の塔が吸収・洗浄塔

地球環境にグローバルに貢献

HFC-23の処理技術は、1998年から2001年にかけて行われたNEDOプロジェクト「HFC-23破壊技術の開発」によって確固たるものになりました。プロジェクトはフロン類破壊装置のユーザーにあたる、旭硝子とダイキンにより進められました。

それぞれの工場で実証試験が行われ、99.99%以上の破壊処理が可能であること、炉内温度1,200℃、空気比1.20の運転でHFC-23が十分破壊が可能であること、運転温度が低いため補助燃料を大幅に削減できることなどが証明されました。

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燃焼炉上部のバーナー部分

月島環境エンジニアリングは、独自技術の「ボルテックスバーナー」や導入経験の豊富な「液中燃焼方式」などにより、HFC-23破壊装置をつくり上げ、プロジェクトに大いに貢献しました。プロジェクト終了後も、旭硝子/ダイキンとのコミュニケーションを続け、そこから得た専門的知識をフロン類破壊装置の改善に役立てています。「両社は世界的大企業で、協力関係を続けることにより、自社のフロン類破壊装置の知名度も上がりました」(清水さん)。

現在、フロン類破壊装置は国内から海外へと貢献の場を広げています。クリーン開発メカニズム(CDM)の対象として、フロン類破壊装置の受注が中国や韓国をはじめ、海外でも多くなってきています。また、HFC-23と同様、温室効果の高い六フッ化硫黄(SF6)の処理でも、このフロン類破壊装置が使われており、フロン類と温室効果ガスの両方の処理回収に役立てられています。(2012年2~3月取材)

開発者の横顔

「燃焼こそもっとも効果的な無害化技術」

月島エンジニアリング株式会社 執行役員 清水さん

コラム

「燃焼こそもっとも効果的な無害化技術」

清水さん

ボルテックスバーナーと液中燃焼冷却缶を組み合わせたフロン破壊装置を日本で手掛けているのは月島環境エンジニアリングのみ。清水さんは、「1,200~1,300℃の燃焼ガスを、一気に90℃以下まで下げる技術は当社独自のノウハウ。他社には真似できない技術です」と胸を張ります。破壊しにくい厄介な物質を、燃焼により破壊することについて、清水さんはこう話します。「最近は、ものを燃やすと環境によからぬ物質が出てくるというイメージが強くなっているようです。しかし、破壊したい物質を完全に破壊するには燃焼が、実は効率的で安全性も高いのです。有害物質の無害化に燃焼技術が、今後、さらに寄与することができればと思っています」

  • 地球温暖化防止関連技術開発「HFC-23破壊技術の開発」(1998~2001年度)
アンケート

「NEDO実用化ドキュメント
-月島環境エンジニアリング株式会社」

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