健康・安心社会を実現 課題解決型福祉用具実用化開発支援事業、イノベーション推進事業/課題解決型実用化開発助成事業(福祉用具)

農作業や介護労働の疲労を軽減する
スマートスーツを開発

株式会社スマートサポート/北海道大学

取材:January, February 2016

プロジェクトの突破口

シミュレーションに従ってつくった
試作品は100着以上

図4 多くの試作品を製作し、実証実験を行った

図5 北海道大学の学生で、効果検証実験を行った(提供:田中孝之准教授)

図6 検証実験を行った人間型ロボット「HRP-4C」(提供:田中孝之准教授)

 しかし、製造過程に入っても、さまざまな課題が浮かび上がりました。

 「最適なゴムの張り方がわかったとしても、コンピューターがゴムの縫製のしかたまで教えてくれるわけではありません。例えば、ゴムの張力を得るには両端を固定しなければなりませんが、どこでとめるのが最適かを知るためには、実際に試作品をつくって、試行錯誤を繰り返さなくてはなりませんでした」と田中准教授は振り返ります。

 中腰姿勢時の背筋の動きをサポートするには、背中に沿うようにゴムを配置します。その場合、腰にベルトでとめるのがいいのか、太ももにベルトを巻いて固定するのがいいのか……。試作品で確かめていくしかありませんでした〈図4〉。

 なかでも肝心のゴムは、コンピューターが示した張力に合ったものでなければならないため、既存の製品をそのまま流用するというわけにはいきません。適切な張力であるのはもちろんのこと、人間が身に付ける以上、通気性も必要です。こうした要望にこたえる弾性素材は見つからなかったので、新たに素材をつくり出すという課題も加わりました。

 しかし、幸いにもシミュレーションどおりの張力を保ちつつ、通気性も兼ね備えた弾性素材を製作可能なメーカーと出会うことができました。

 こうしてつくった試作品は100着以上。田中准教授の研究室の学生に着用してもらい、筋肉の活動量から補助効果を検証していきました〈図5〉。しかし、人間の被験者では体格や筋肉量の違いから個体差が大きく、なかなか正確なデータを得ることができません。そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所が開発した人間型ロボット(ヒューマノイドロボット)・HRP-4C「未夢」を利用した検証実験が行われました〈図6〉。

 このロボットは身長158cm、人間の女性を模して開発されているので、人間用につくった試作品をそのまま試すことができます。しかも、均一な動作が可能で、モーターに加わるトルク(負荷)から試作品の補助効果を確かめることができるのです。

軽労化が理解されず
「楽にならない」との評価も

図7 完成したスマートスーツ

 スマートスーツの原形ができあがったことで、鈴木さんは農場や介護施設で使ってもらう実証試験を開始しました。2011年からはNEDOの「イノベーション推進事業」に採択されることも決まり、「着用者の感性反応を考慮した介護作業軽労化スーツの実用化開発」が始動しました。北海道内の農家や、札幌市内の介護施設でスマートスーツを使ってもらい、その使用感を調査するのです。

 人間とロボットを対象にした検証実験を十分に行っていたので、鈴木さんらには「個人差はあるにしても中腰姿勢での労働の疲労は軽減できるはず」との思いがありました。しかし、利用者からは予想外の反応が戻ってきたのです。

 「重労働をサポートしてくれる補助装具というと、外部動力による増力化で重いものも楽々持ち上げられるようになるというイメージが強かったのでしょう。スマートスーツを使っても『楽にならないじゃないか』という声が数多く寄せられたのです。スマートスーツを開発するにあたり、私たちが打ち出した“軽労化”のコンセプトを紹介しきれていないと痛感しました」と鈴木さんは説明します(「なるほど基礎知識」参照)。

図8 軽労化の位置づけ
軽労化とは、人が行う作業で疲労を軽減するアシストを行うこと

 軽労化コンセプトの普及には、2007年6月に設立した「軽労化研究会」(設立当初の名称は「スマートスーツ研究会」)を通じ、早くから取り組んできました。しかし調査の結果を受けて、設立当初以上に情報発信をして、スマートスーツによって得られる軽労化の周知を図るようにしました。

 2012年には、NEDOの「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」に採択されました。3度目の支援です。これを受けて実施された「介護労働負担と疲労を軽減する『軽労化スーツ』の実用化開発」では、特別養護老人ホームの協力のもと、介護職員30人を対象に4週間(装具使用期間は2週間)にわたる実証試験を行いました。

図9 ビジュアル・アナログ・スケール

 ここでは、数値化のむずかしい事象を評価する場合に用いられる「ビジュアル・アナログ・スケール」と呼ばれる評価法を用いました。これは、100mmのスケールの両端の一方を「まったく疲れを感じない最良の状態」、もう一方を「疲れ切った最悪の状態」として、現在の状態で感じる位置に線を引いてもらって評価してもらうという方法です。その結果、労働による疲労感が平均16%減少したとの結果が得られました。

 田中准教授は、この調査結果についてこう説明します。
「疲労の程度を定量的に評価することは簡単なことではありません。ビジュアル・アナログ・スケールで評価しているとはいえ、計測して明確に数字で示せるわけではありませんから。したがって、平均16%の疲労の軽減という数字には大きな意味はなく、統計的に有意に疲労を軽減できたという結果にこそ、意味があると考えています」

 この実証試験では、過剰に補助することによる体力低下のリスクも考慮して、毎日、介護労働後に背筋力、立ち幅跳び、閉眼片足立ちなどの測定も行い、身体能力が低下しないことも確かめられました。

 さらなる普及に向け、国際福祉機器展などに出展し、スマートスーツを紹介してもいます。実際、北海道に拠点を置くベンチャー企業が、首都圏で開催される展示会に単独でブースを確保して出展するのは、コスト的に決して簡単なことではありません。しかし、NEDOが広いブースを確保して各企業に参加を促しており、その一角に展示することが可能です。展示と同時に軽労化のコンセプトを訴求することもでき、無理なくスマートスーツを広く周知することができているといいます。

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