健康・安心社会を実現 課題解決型福祉用具実用化開発支援事業、イノベーション推進事業/課題解決型実用化開発助成事業(福祉用具)

農作業や介護労働の疲労を軽減する
スマートスーツを開発

株式会社スマートサポート/北海道大学

取材:January, February 2016

開発のいま、そして未来

利用者の希望にこたえて
改良を重ねる

 実証試験の結果からスマートスーツの性能に自信をもった鈴木さんらは、2013年に実用化に踏み切りますが、販売後の追跡調査も続けています。

図10 介護現場でも中腰姿勢は多い。白衣の下にスマートスーツを着用

図11 ユーザーの声を反映した足掛けタイプのスマートスーツ

 株式会社スマートサポート取締役の江森浩司さんは、2014年から軽労化研究会に参加し、「軽労化工房 東京」を拠点に活動しています。農家や介護施設、工場などを巡ってスマートスーツを紹介するとともに、各地で軽労化のコンセプトを紹介する講演を行って普及に努めているのです。江森さんは利用者を訪問しては使用感をヒアリングし、その調査結果から独自にスマートスーツに改良を加えているといいます。

 「介護施設や農場に出向いてスマートスーツを紹介し、利用者から寄せられた要望を反映してスーツを改良しています。弾性素材は太ももで面ファスナーを使って固定していますが、歩くときに邪魔になるという指摘を受けました。その声を生かして、太ももで固定せず、スポーツウェアによく用いられる『足掛け』を採用したスーツをつくってみました」と江森さん。

図12 センサー内蔵ウェアのしくみ
背面のセンサー群により、腰椎形状の推定が可能に(提供:田中孝之准教授)

 こうした江森さんの販売活動と並行して、田中准教授は装着者の動きを計測する加速度計や曲げセンサーを組み込んだ、センサー内蔵ウェアを開発しました。これにより腰への負荷が計測でき、腰痛のリスクを見積もることができます。農業や福祉だけでなく、腰痛に悩む社員がいる職場は多いはずです。そこで、センサー内蔵ウェアを用いて腰痛のリスク評価を行えば、労働環境の改善の糸口を提示してくれます。さらには、スマートスーツの需要を顕在化させるきっかけにもなることが考えられます。

 農業の現場で、小さなイノベーションの種を見逃さなかった鈴木さんは、今後の展望について、こう語ります。
「試験販売で使用実態を調査してみると、試験販売前に予想していたよりも幅広い業種で利用されていることが明らかになりました。農業を主体に一次産業の利用は20%程度、また介護での利用は10%程度にとどまっています。そのかわりに工場での利用は60%に上りました。このほか、少数ながら流通分野でも活用されており、当初の想定よりも多様な業態で補助装具が求められていることがわかりました。
 今後、軽労化の需要を喚起することができれば、さらにスマートスーツの普及を後押しすることになると確信しています」

スマートスーツ
ユーザーの声

スイカ農家 柿原隆宏さん

図13 鈴木さん(左)と富良野でスイカを栽培する柿原さん(右)

 富良野は道内2番目の規模を誇るスイカの産地で、「北の峯スイカ」のブランドで知られています。富良野で農家を営む柿原隆宏さんは、4haの農地でスイカを栽培しています。

 4haもの広大な農地でスイカを栽培することは決して楽なことではありません。

 例えば、均一に色づかせるために、1玉7~8kgのスイカを中腰姿勢で動かして回ります。しかも、出荷は1ケースに2玉入れて、年間1万5000ケースを手作業で行っているのです。そのため、周囲のスイカ農家は皆、腰痛に悩まされているといいます。

 「スイカ農家のあいだには、腰痛は当たり前という考え方もあります。しかし、腰の痛みで動けなくなれば農家経営は立ち行かなくなります。腰痛だけが原因というわけではないでしょうが、最盛時には20戸あった私と同じ地区のスイカ農家は、7戸にまで減ってしまいました。これは全国的な傾向で、特に大玉のスイカを栽培する農家は減っているようです」

図14 スマートスーツを着用してスイカの収穫作業をする柿原さん(提供:スマートサポート)

 柿原さんは体のケアに人一倍気を配り、体力の維持で腰痛にならないようにしていますが、それでも限界があるといいます。

 「今後、筋力が落ちたら腰を痛めるかもしれません。そんな不安を抱えているとき、鈴木社長の“軽労化”の考え方を知り、スマートスーツを利用しはじめました」

 実際使用しはじめてみると、中腰姿勢を補助する効果が確かにあると認められました。しかし同時に、夏の炎天下では汗を吸うことによる着心地の悪さが感じられました。柿原さんは、農業に従事する前、全国展開するスポーツ小売店チェーンに勤めていた経験から、発汗性能の高い素材を利用することを提案しました。利用者の立場で、スマートスーツの開発を後押ししたのです。

特別養護老人ホーム 吹上苑

図15 吹上苑のみなさん
上左)吹上苑施設長の関口敬子さん
上右)統括リーダーの小林悦子さん
下)スマートスーツを着用した、左から看護師の星初枝さん、ケアワーカーの高橋寛明さん、ケアワーカーの斎藤恵美さん

 入居者のお年寄りを移乗する機会が多く、介護現場の職員は慢性的な腰痛に悩まされています。体調不良で休む職員もいて、人員確保に苦慮することさえありました。

 少しでも職員の肉体的な負担を軽減するため、福祉機器の導入は積極的に行ったと吹上苑施設長の関口敬子さんは語ります。
「まず移乗用のリフトを導入しました。これで入居者をベッドから車いすに移すのに職員が抱え上げる必要がなくなり、腰痛を理由に休む職員はほとんどいなくなったのです。福祉機器の効果を実感しました」

 しかし、介護現場での腰痛の原因は、移乗だけではありません。中腰姿勢での介護業務はたくさんあり、そこをカバーしてくれる福祉機器があれば……、と考えていたところ、スマートスーツを紹介されたのです。

 スマートスーツを実際に使ってみた感想をケアワーカーの斎藤恵美さんが語ってくれました。
「最初は、使ってみても『すごく楽になった』とは感じられませんでした。それが数日利用したあとに装着しないで仕事をしてみたところ、とても疲れてしまったことに気付きました。スマートスーツを装着することで、疲労を大幅に軽減してくれていたのです」

 また、看護師の星初枝さんはこう評価してくれました。
「肩こりがひどいので、ゴムの力が肩に加わるとつらく感じられることはありました。しかし、寝たきりの入居者の処置をするとき、スーツを着ていると楽に感じます」

 統括リーダーの小林悦子さんは、こう話します。
「スマートスーツを着ると背筋が伸びるので、両肩が楽になりました」

 ケアワーカーの高橋寛明さんからは、提案がありました。
「中腰姿勢を補助してくれるのはありがたいですね。太もものベルトが、歩くときに邪魔になるので、改善してもらえるとうれしいです」

 おおむね好意的な評価が得られているようですが、「太もものベルトで歩きにくい」などの改善点も指摘されており、今後の改良に生かされる予定です。

開発者の横顔

「しかたがない」を解消させるスーツを目指す

株式会社スマートサポート 代表取締役
鈴木善人さん

 日本では自治体や農協の営農指導員が農業支援を担っている一方、海外では専門知識を有する農業コンサルタントが活躍しています。これに注目した株式会社スマートサポート代表取締役の鈴木善人さんは、14年前に起業、北海道内の農家を巡っては農家経営の問題をたずねていました。
 「スマートスーツを開発するきっかけになった浦臼町のメロン農家の腰痛の悩みも、以前なら『しかたがない』で済まされていたかもしれません。しかし、『しかたがない』で済ますことなく、イノベーションの種ととらえました。田中先生の研究開発の困難を経て、さらにNEDOの支援を得ることができたため、スマートスーツの実用化にまでたどり着くことができたと感じています」

駆動装置をはずす決断が転機となった

北海道大学大学院情報科学研究科
システム情報科学専攻 准教授
田中孝之さん

 以前、利用者の動きを感知して120㎏の重量をスムーズに持ち上げるパワードスーツを開発したものの、実用化はされませんでした。スーツ自体が200kgもあるうえ、装着するのに時間がかかり、決して利用しやすいものではなかったことがその理由です。
 「その後、実用化できる補助装具とはどんなものかを考えていたところに、鈴木さんからスマートスーツの開発をもちかけられました。スマートスーツを実用化するうえで、大きな懸念材料になっていたモーターを取りはずす決断ができたのも、パワードスーツの研究を経て、実用化できる補助装具とはなにかを考えぬいたからこそだと思います」

スマートスーツは世の中に役立つと確信

株式会社スマートサポート 取締役/
軽労化工房 東京 代表
江森浩司さん

 以前から、服飾関連の会社を経営していた江森浩司さん。なにか世の中のためになる仕事をしてみたいと考えていました。現在は株式会社スマートサポートの取締役、軽労化工房 東京の代表も務めます。縫製などの服飾に関する知識は、スマートスーツの改良にも役立っています。
 「人づてにスマートスーツの話を聞き、営業を買って出ました。以前、介護の手伝いをする機会があり、介護の仕事のたいへんさを知ったのがそのきっかけです。スマートスーツに大きな可能性を感じ、いまは全国各地を飛び回り、軽労化の考え方を訴求しつつ、普及に取り組んでいます」

なるほど基礎知識

軽労化とは

 介護労働や農作業の身体的な負担を軽減するために、近年、さまざまな筋力補助装具の開発が進められています。その開発の方向性は、2つに大別できます。

 1つは「アクティブ型筋力補助装具」です。これはモーターなどの動力源を搭載して、装着者の動きをアシストする補助装具です。一方、モーターなどの外部動力をもたず、ゴムなどの弾性素材の張力を利用して、装着者の体に加わる負担を分散させることで、負荷を軽減する筋力補助装具を「パッシブ型筋力補助装具」と呼びます。

 パッシブ型は、動力源をもたないのでアクティブ型に比べて補助力は弱く、持ち上げられる重量は装着者の筋力に左右されます。しかし、外部動力の安全機構を組み込む必要がないことに加え、安価な材料で製造できるため、より実用化に向いているといえるでしょう。スマートスーツもパッシブ型に分類できます。

 スマートスーツが目指したのは「軽労化」です。軽労化とは、人が行う作業を楽にすることです。

 軽労化のコンセプトは、増力化とは異なります。増力化は、パワードスーツなどのように外部動力を用いて、人の筋力以上の力を出すことを目指します。したがって、流通の荷役、災害復旧、軍事用途といった重作業で大きな威力を発揮するのです。

 ただ増力化するアクティブ型装具は、適切な外部動力やその安全な駆動のために多額の開発費がかかり、また動力・安全機構のために大型化・重量化しやすい、といった傾向があります。つまり、予算が潤沢で一定以上の重量物を対象とする、限られた用途に向くことが多い、ということです。

 そうではない、日常的な軽作業や、農林水産業・介護など無理な姿勢での負荷のかかる作業には、そこまでの増力化が必要ないことが多々あります。よくある作業であるだけ、多額の費用がかけられない場合も多いでしょう。しかし、そうした作業でも、アシストなしでは身体に負担がかかり、そのまま続ければ腰痛などの疾病を引き起こすことさえあります。ここで必要なのは、増力化ではなく、軽労化です。

 アクティブ型に比べ安価に導入でき、装脱着にもそれほど手間がかからず、日々かかる身体の負担や疲労を軽減できる。これが、まさにスマートスーツが実現した、軽労化の考え方です。作業する人を「たすける」「まもる」、身体にもフトコロにもやさしい技術なのです。

 しかも、作業の負荷を無理なく軽減することから、適度なトレーニング効果を得ることもできます。「たすける」「まもる」に加え、「きたえる」効果もある、というわけです。過度のアシストをせず、筋力・体力の衰えを避けることも期待できるのが、軽労化だということができます。

NEDOの役割|この成果を生み出した、NEDOプロジェクトについて

「課題解決型福祉用具実用化開発支援事業」(NEDO内担当部署:イノベーション推進部)

 NEDOは、より社会のニーズに沿った福祉用具の実用化を後押しするため、助成対象を選定する際に、

  1. 研究開発の対象となる福祉機器が、同一の機能、形態の製品が存在しない、新規性、研究開発要素を持っていること、
  2. その事業が、利用者ニーズに適合し、研究開発要素を有する等、助成金交付の目的に適合するものであること、
  3. その実用化開発により、介護支援、自立支援、社会参加支援、身体代替機能の向上など、具体的な効用が期待され、一定の市場規模とユーザーにとっても経済性に優れていること、

を支援の前提として、公正に支援企業を決定しています。また採択された企業に対しては、開発状況の確認を行うとともに、開発品の展示会への出展支援も行うなど、ビジネスマッチングを後押ししながら、市場の声、ユーザーニーズを踏まえた支援を行っています。

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