健康・安心社会を実現 大学発事業創出実用化研究開発事業、イノベーション実用化ベンチャー支援事業

新薬開発に欠かせないスクリーニングを
劇的に効率化する手法を開発

三重大学/橋本電子工業株式会社

取材:January 2016

プロジェクトの突破口

ゼブラフィッシュの研究経験から
橋本電子工業に白羽の矢

 田中教授が思い描くゼブラフィッシュを用いた大規模な創薬スクリーニングを実現するためには、数多くのゼブラフィッシュを観察して、新薬候補の化合物の効果を評価できる研究ツールが必要です。前述のとおり新薬候補の化合物は何万、何十万にのぼるだけに、将来的にはコンピューターで自動化し、フルオートメーションで薬効を評価していくことが望まれます。

 そのための第一ステップとして、同時に多くのゼブラフィッシュを観察できる「ZF(ゼブラフィッシュ)プレート」の開発が進められることになりました。

 実際に開発に取り組んだのは、三重県松阪市に拠点を置く橋本電子工業です。電子機器の開発を手がけてきた企業ですが、1990年代前半から新たな分野への活路を見いだすため、医療やバイオ分野の技術開発にも取り組んできました。

 橋本電子工業がZFプレートの開発に取り組むことになった経緯について、代表取締役社長の橋本正敏さんがこう説明します。
「ZFプレート開発とは別に、2008年にリポソームを全自動で製造する装置を開発しました。リポソームというのは非常に微細な脂質のカプセルで、ここに治療薬などを入れて、標的組織にだけ送り届ける薬物送達システム(DDS=ドラッグ・デリバリー・システム)への活用を目指したのです。その過程で微細粒子を扱う技術を得ることができ、ゼブラフィッシュの卵や稚魚を操作する技術の開発につながりました」

 橋本電子工業の微細粒子取り扱い技術の高さを知った田中教授は、ゼブラフィッシュを創薬スクリーニングに用いるZFプレートの開発に協力してもらうならば、橋本電子工業こそが適任と考えたのです。

「創薬スクリーニングに有望なヒト疾患ゼブラフィッシュが開発できたのですが、ZFプレートの開発に取り組みはじめたころは、まったく注目されませんでした。だからこそ、ゼブラフィッシュを扱う技術の開発で、橋本電子工業に協力をお願いしたのです」と田中教授は語ります。

ゼブラフィッシュを
整列させるために試行錯誤

マイクロプレート

図6 既存のマイクロプレート

 ゼブラフィッシュ創薬の先見性に注目していたNEDOは、ZFプレートの開発を「イノベーション実用化ベンチャー支援事業」として採択、2013年度から「ゼブラフィッシュスクリーニング用プレートシステムの開発」が進められることになりました。研究資金の目途は立ったものの、一度に多くのゼブラフィッシュを観察するプレートを開発することは決して簡単ではありませんでした。

 その難しさについて、ZFプレートの開発に携わった商品設計グループの小幡勝さんがこう語ります。
「研究用に用いられるプレートには一定の規格があります。そのため、ZFプレートの開発でも既存規格にある96穴のプレートを利用して、そこにゼブラフィッシュを入れる容器を組み込むことにしました」

ZFプレート

図7 既存のマイクロプレートを改良したZFプレート

 通常、新薬候補の薬効など生化学的な研究を行う場合、試験したい細胞を入れる穴(ウェル)が開いたマイクロプレートが用いられます。細胞や試薬の量に応じてウェルの大きさが異なるプレートが用意されており、ウェルの数は6、24、96、384……と決まっています。ウェルの中でなにが起こっているのかを観察するためのイメージング装置も、既存のプレートの規格に合わせてつくられているので、規格外のプレートではたとえ実用化できても普及させることは困難です。小幡さんらは既存の96穴のプレートを基材にゼブラフィッシュを飼育できるウェルを組み込むことにしました。

 新薬候補を与えて、その効果を判定するには、96穴に入れたゼブラフィッシュが一律に整列してくれなければなりません。小さな穴とはいえ、体長3mm程度の稚魚なら自由に泳ぎ回ることができます。観察するために麻酔をかけたとしても、ばらばらの方向を向いていては、ウェルごとに異なる化合物を加えたときの効果の違いを、一律の条件で比較することは難しくなります。

 小幡さんがこう続けます。
「ゼブラフィッシュを入れるウェルをすり鉢状にして、下に開けたスリットに誘導することで、整列させようと考えました。容器の下面に溝を切っておいて、そこから麻酔液を抜いて、スリットに誘導させる原理です。しかし実際にやってみると、すり鉢状にしたウェルの形状によって、ゼブラフィッシュが壁面に付着して動かなくなってしまいました」

ZFプレート

図8 従来のプレートとZFプレートを用いた場合の比較
左)従来のプレートでのゼブラフィッシュの様子。右)ZFプレートで整列した様子(提供:橋本電子工業)

 途中で付着してしまっては、スリットにゼブラフィッシュを整列させることはできません。そこで、麻酔液を抜いた後、定量の麻酔液を流し込んでウェルの中に小さな水流をつくり出し、ゼブラフィッシュを壁面からはがして、スリットに誘導することにしました。飼育、麻酔処理、スリットへの整列などを自動化するための装置であるワークステーションも製作しました。

 確実にゼブラフィッシュをスリットに誘導するためには、すり鉢状の角度を変えては試作品をつくり、ゼブラフィッシュがスリットに整列する割合を調べて最適な形状を見いだす必要がありました。

 基材として採用したプレートは、四角く間仕切りされたものでした。四角形のスペースに四角形のウェルを組み込もうとすると、高精度にプラスチックを成型しなければなりません。そこで、四角の中に丸いウェルを組み込むことにしました。これなら4点で接するだけなので、各社製のプレートの成型精度が多少悪くても収まりやすくなります。

ウェル

図9 マイクロプレートに組み込んだウェル
四角形のスペース内に丸形のウェルを組み込んだ
(提供:橋本電子工業)

 当時のことを小幡さんがこう振り返ります。
「最適なウェルの形状を見つけ出すのは試行錯誤の連続でした。決して楽な作業ではありませんでしたが、困難だからこそ、いっそう力が入りました」

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