健康・安心社会を実現 悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器研究開発プロジェクト

痛みをともなわず、高精度に検査が可能な
国内初の乳房専用PET装置を開発

株式会社島津製作所

取材:January 2016

開発のいま、そして未来

製品化を達成、今後は
海外市場も見据えて

 4年間にわたるNEDOプロジェクト。北村さんは振り返ってこう話します。
「製品化を達成できた最大の要因は、NEDOプロジェクトに参加したメンバー全員の総力を結集できたことにあります。これが製品化のためのブレークスルーであったと思っています。確かに、4層DOI検出器は『Elmammo(エルマンモ)』の原点でした。しかし、半導体チップの開発やソフトウェアの開発など、何か1つが欠けていたら完成していなかったでしょう。また、従来の医療機器は、臨床医からの要望に応える形で開発を行いますが、今回は、私たちメーカーから医療現場への提案ということで、当社でもこれまでにない形の医療機器開発ができました。NEDOプロジェクトという公的な研究開発を通して実施できたことで、さまざまな立場の方たちから信頼を得ることができ、医工連携の臨床研究を進められたと思います」

 田中さんもこう語ります。
「“技術ありき”で開発が立ち上がったこともあり、本当に社会のニーズに適したものをつくることができるのか、当初は正直、心配しながら見ていたところもありました。普段、メーカーは研究開発の過程で患者の方と直接接触する機会はありませんが、今回はワコール社のモニターの方々をはじめ、京都大学医学部附属病院の被検者の方々など、多くの女性の声に直接触れることができ、これが製品化をするうえで非常に大きな後押しとなりました」

 水田さんもこう加えます。
「画像のチューニングには苦労しましたが、臨床医の先生方の評価をいただきながら改良を重ねていくことができたのは大変ありがたいことでした。この恵まれた研究開発環境は、NEDOプロジェクトだからこそだと強く感じました」

図8 女性に配慮した清潔感あふれる検査空間のイメージ(提供:島津製作所)

図9 「Elmammo(エルマンモ)」とともに
右から北村さん、田中さん、水田さん

 「Elmammo(エルマンモ)」の販売が開始されてから約1年半となる2016年。これまで難しかった初期段階の乳がんの検出率の向上に大きな期待が寄せられています。

 「新規開発の技術が数多く搭載されており、高額で、まだまだ広く普及するまでには至っていないのが残念なところです。そのため、今後は普及に向けてさらなる開発に着手していく計画です」と田中さん。

 さらに今後、島津製作所では、国内だけでなく海外に向けても市場を開拓していく計画です。年々増加の一途をたどっている乳がんの早期発見・早期治療に対して、国内外を問わず貢献していこうというわけです。

 最後に北村さんは、決意を新たにこう語ってくれました。
「NEDOプロジェクトを通して、多くの若い優秀な研究者が成長してくれました。このことも島津製作所にとって大きな財産となりました。これからも、次世代を担う若手研究者を育成しながら、新たな医用機器の開発にチャレンジしていきたいと思っています」

開発者の横顔

原点となった「4層DOI検出器」の生みの親

株式会社島津製作所
基盤技術研究所
放射線デバイスユニット主幹研究員
北村圭司さん

 1994年からPET装置の研究開発に携わってきた北村さん。 「Elmammo(エルマンモ)」開発の出発点となった「4層DOI検出器」の生みの親の一人です。
 「秋田県の脳血管研究センターに、PET研究で著名な施設があり、私たちは長年にわたり、その施設で共同研究を行ってきました。そこでは、施設の研究者からの要望に応える形で、PET装置の研究開発を行っていました。一方、乳房専用PET装置は、我々から『このような装置を開発したい』と提案して開発がスタートした初めての装置でした。そのため、ずいぶんと勝手が異なりましたが、無事実用化にこぎつけてほっとしています。今後も被検者の方々に喜ばれる医用機器を開発して、人々の健康に貢献していきたいと思っています」

回路設計などハードウェアを担当

株式会社島津製作所
医用機器事業部技術部
MEシステムユニットPET・CTグループグループ長
田中和巳さん

 「Elmammo(エルマンモ)」の開発では、検出器の回路設計などハードウェアを担当した技術者の田中さん。入社以来、PET装置の開発に携わってきたベテランです。
 「NEDOプロジェクト開始当初は、北村が所属する基盤技術研究所が中心となって進めており、我々医用機器事業部は、どちらかというと研究のサポートといった立場でした。最初は、本当にこれが製品化までこぎつけることができるのだろうか、と多少心配しながら手伝いをしていました。しかし、高解像度なPET画像が撮れて、京大附属病院の臨床医の先生方がにわかに強い関心を示し始めた頃から潮目が変わってきたと感じました。今後も、より多くの方々に喜ばれるPET装置の開発に従事していきたいと思っています」

ソフトウェア開発に従事、画像の高速処理を可能に

株式会社島津製作所
医用機器事業部技術部
MEシステムユニットPET・CTグループ主任
水田哲郎さん

 ソフトウェア開発を担当した水田さん。製品化に向けた動きが加速するなか、PET画像のチューニングに加え、臨床現場でより使いやすくシンプルなユーザーインターフェースをもつ医用機器の実現を目指し、制御用ソフトウェアの開発なども担当しました。
 「今回、一番苦労したのはデータ処理の高速化でした。片側5分間、両側で10分間の検査時間内にデータ処理が完了しなければ、それがボトルネックになって検査時間が長くなってしまいます。ここまで高い解像度の画像処理を担当するのは初めてのことで苦労しましたが、その分、貴重な経験となりました。臨床医の先生方に高解像度の画像をお見せして、喜んでいただけたときは本当にうれしかったです」

なるほど基礎知識

PET装置

 近年、がんや生活習慣病の早期発見に役立つ検査装置として期待が寄せられているのがPET装置です。

 PETとはポジトロン・エミッション・トモグラフィ(Positron Emission Tomography)の頭文字を取ったもので、日本語では、陽電子放出断層撮影といいます。ポジトロン(陽電子)を放出する薬剤を体内に投与し、その薬剤が身体のさまざまな部位に集まる様子を、身体の外からPET装置で撮像するというものです。

 がん細胞は、増殖する際に正常な細胞よりも多くのブドウ糖を必要とします。そのため、ブドウ糖に類似した放射線を出す特殊な薬剤を体内に投与すると、がん病巣に集積します。その集積度の違いを画像化することで、小さながん細胞も発見することができるのです 。したがって、CTやMRIが病巣の“形態情報”を表すのに対し、PETは“機能情報”を表すことができるというのが特徴です。

 薬剤から放出されるポジトロンは電子とすぐに衝突して消滅し、正反対の方向に2本のガンマ線を放出します。ガンマ線は、PET装置の検出器の中にあるシンチレーターと呼ばれる透明な結晶に入り、発光物質に衝突して微弱な光を発します。その光を高感度な受光素子で捉え、光電子増倍管を使って約100万倍の電気信号に増幅します。その信号をコンピューターで処理して画像化するというしくみです。

 全身用PET装置の場合、全身の撮影ができるので、予想外の病巣を見つけたり、がんの転移を発見したりするのにも役立ちます。細胞の薬剤の取り込み具合から、化学療法や放射線治療が有効かどうかを判断することができるので、医師にとっては治療方針が立てやすくなるという利点もあります。

NEDOの役割|この成果を生み出した、NEDOプロジェクトについて

「悪性腫瘍等治療支援分子イメージング機器研究開発プロジェクト」(NEDO内担当部署:バイオテクノロジー・医療技術部)

 NEDOは本プロジェクトで、産学連携の橋渡し役となり医薬工連携を推進することで、医療の面と産業の面から、悪性腫瘍等を高精度に早期診断できる分子イメージング技術の発展を推進しました。

 具体的には、京都大学医学部附属病院内に「分子イメージング集中研究センター」を設置。研究推進企画会議を定期的に開催して総合的な進捗管理を行うなど、本プロジェクトの共同研究プラットフォームである京都大学とプロジェクト参画企業との情報共有を図り、プロジェクトリーダーを支援する体制を構築しました。

 これにより、臨床ニーズに即した機器開発と適切な評価と臨床研究(臨床データ)による機器の改良改善、機器に対応した分子プローブの開発・評価を推進しました。また、2008年度に中間評価を実施し、評価結果を踏まえて研究開発課題や最終目標を見直し、分子イメージング用分子プローブ製剤技術に追加予算を配賦して開発を加速させるなど、情勢変化に対応したマネジメントにより、プロジェクトを遂行しました。

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