独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構

日本発の技術で糖鎖解析の世界スタンダードを目指す
株式会社GPバイオサイエンス

生命現象に深く関与する糖鎖。
複雑な構造を解析する強力なツールが誕生しました。

生命現象を解き明かす鍵、「糖鎖」

2003年、生命の設計図ともいえるヒトゲノムが解読されました。しかし、ゲノム情報は4つの塩基で表された文字列にすぎません。

生命現象を解き明かすには、この文字列から、どんなタンパク質がつくられ、どのように機能するのか、詳しく調べる必要があります。そんなポストゲノム研究が盛んな中、タンパク質の働きに深く関与する「糖鎖」が、核酸、タンパク質に次ぐ、第3の生命鎖として注目をあつめています。

糖鎖は細胞膜に埋まったタンパク質や脂質に結合し、細胞表面を被っています。「細胞の顔」とも呼ばれ、体内の情報伝達を調整しながら、増殖や分化といった細胞活動に影響を与えています。ガンをはじめとする多くの疾患や、免疫機構、ウイルス感染に、深く関与しているので、生体の状態を知る重要な指標になると期待されています。

例えば、ガン細胞では通常の細胞とは異なる特殊な糖鎖が現れることがあります。このように、疾患による糖鎖の変化を発見できれば、これを目印(バイオマーカー)として、病巣の早期発見や適切な診断に利用することができます。

また、糖鎖によって薬の作用メカニズムを制御し、薬効を高めることはもちろん、糖鎖をターゲットにして新薬の開発をすることもできるでしょう。

図:細胞を覆う糖鎖と様々な機能

糖鎖の特徴を抽出する糖鎖プロファイリング

糖鎖には医療を向上する様々な応用が期待されます。これを実現するためには、糖鎖構造を解析し、生命現象との対応を明らかにしていかなくてはいけません。しかし、糖鎖は、核酸やタンパク質に比べ、格段に複雑な構造をもちます。

糖鎖は、グルコースやガラクトースといった単糖類が鎖のようにつながった物質です。直鎖構造ではなく枝分かれをした樹状構造で、組み合わせのバリエーションも豊富なため、潜在的な多様性があります。糖鎖の構造解析には、質量分析装置や液体クロマトグラフィーを用いますが、このように多様性に富む構造を決定するのは至難の業です。時間がかかる上、分析に用いる検体量も必要になります。

そこで、糖鎖構造を完全に解析するのではなく、部分的な特徴、即ち生物学的に意味のある特徴的なエピトープ構造を抽出する、糖鎖プロファイリングという手法が検討されています。その中でも、レクチンを利用した斬新なアイディアを提唱しているのが、産業技術総合研究所糖鎖医工学研究センターの平林淳副センター長のチームです。

レクチンは糖鎖に親和性をもつタンパク質の総称で、ヒトからウイルスまで生物界に広く分布しています。平林副センター長らは、レクチンの種類によって、糖鎖に結合する箇所の構造の特徴(分岐度や結合様式、末端修飾の有無)が異なることに注目しました。糖鎖に結合するレクチンの種類から、糖鎖にどのような構造の特徴があるのか識別できると考えたのです。即ち、目的によっては、糖鎖構造をディジタル的に完全に同定する必要などなく、レクチンが捕まえている情報をうまく使えれば、それで十分だと割り切った訳です。

平林副センター長らは、まず100種類以上のレクチンと糖鎖の間の親和性について調べました。その中から45種類のレクチンを厳選し、スポット状に並べて固定したレクチンアレイを開発しました。生体内の糖鎖はタンパク質や脂質に結合し、糖タンパク質や糖脂質として存在しています。

そこで糖タンパク質に蛍光標識を施し、レクチンアレイと相互作用させれば、糖鎖が結合しているレクチンのスポットだけが発光します。このレクチンアレイの蛍光画像から、どのスポットが、どのくらい発光しているのか解析すれば、糖タンパク質に含まれる糖鎖の構造の特徴と、その特徴をもつ度合いが、識別できるはずです。

しかし、レクチンアレイの蛍光画像を取得するには難しい問題がありました。当時使われていた装置では、試料(アレイ)を洗い流す工程が必要でした。しかし、レクチンと糖鎖の結合力はとても弱く、洗浄すると糖タンパク質が剥がれてしまいます。これでは、正確な結果が得られません。

図:レクチンアレイで糖鎖の構造を識別できる仕組み