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平成20年11月11日
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
九州大学先導物質化学研究所

刺激を与えると反応する高分子新素材および
それらをナノレベルで複合化する技術の開発
【産技助成Vol.63】

熱や光を外部刺激とするラジカル的機構(注1)による結合組み換え反応により
構造変化を自由に制御できる高分子の合成技術を開発
ポリエステルとポリウレタン等、異種高分子の複合により
多様な性質を有する高分子開発が可能に
図1:ラジカル反応性高分子のナノ複合化の概念図および試作品
図1:ラジカル反応性高分子のナノ複合化の概念図および試作品

【新規発表事項】
  独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、九州大学先導物質化学研究所の准教授、大塚英幸氏は、刺激を与えると反応する高分子新素材およびそれらをナノレベルで複合化する技術の開発をしました。
  本技術では、熱(注2)や光(注3)を外部刺激として、均一水溶液中で、ラジカル反応プロセスで解離(分解)と結合を繰り返す短い分子骨格(例:アルコキシアミン)をポリエステルやポリウレタンのような高分子主鎖中に導入し、外部刺激をきっかけとして高分子主鎖が組み換え反応を起こすことにより、希望する構造に自在に制御可能な「ラジカル反応性高分子」(注4)を開発しました。
  更にこの結合組み換え反応を利用し、異種高分子のナノレベルでの複合化も実現しました。
(注1) ラジカル的機構とは共有結合が均一開裂する際に発生する不対電子を持つ分子種に基づく反応機構のこと。
(注2) 必要な熱としては、例えば100℃で6時間以内等で可能である。
(注3) 例えば、反応温度30℃以下で30 分程度の紫外線照射で可能である。
(注4)

主鎖または側鎖にラジカル的機構で反応する官能基を含む、化学反応性に富んだ高分子。


  1. 研究成果概要
      一般に高分子は共有結合という強固な結合により構成されているため、いったん構造が規定されてしまうと、特殊な条件を除いては分子構造を変化させることは困難です。しかし、通常の条件では安定でも、外部刺激によって反応が活性化するラジカル反応性の共有結合を予め高分子主鎖に導入しておけば、構造変化を自在に制御できる高分子を構築することが可能になります。本研究では、外部刺激によりラジカル反応機構で主鎖の組み換え反応を起こすことができる「ラジカル反応性高分子」の開発を実施し、結果として、外部刺激に熱を用いる熱駆動型と、光を用いる光駆動型の2つのラジカル反応性高分子の開発に成功しました。エステル結合、ウレタン結合は酸塩基に対しては不安定ですが、ラジカル反応に対しては安定であり、ダイナミックな結合組み換えが可能です。
      また本プロジェクトで開発した熱駆動型および光駆動型ラジカル反応性高分子は、市販のモノマー(ポリマーの基質。単量体)から容易かつ大量に合成することが可能です。また、分子設計を変えることで、多様な性質を有する高分子を開発できるという特徴を有しています。
      ラジカル反応性高分子のナノレベルでの高分子複合化については、熱駆動型では反応温度100℃で6時間以内、光駆動型については反応温度30℃以下で30 分以内に複合化反応が完結することを明らかにしました。また、熱駆動型ラジカル反応性高分子の複合化反応を用いてポリウレタンとポリエステルを合成したフィルムを調製。ポリウレタンとポリエステルは無色透明なフィルムとして得られますが、従来、両者を混合しただけのブレンドフィルムでは相分離とよばれる現象のために透過率が著しく落ちてしまいました。一方で本技術によりナノ複合化したフィルムは、それぞれ単独のフィルムに対し、透過率95%以上を維持していることがわかりました。

  2. 競合技術への強み
      従来の技術では、硬化、レジスト(選択的保護)、接着などに用いられている反応性高分子の多くが、ラジカル重合に代表される連鎖重合法(反応点が重合体の末端に存在する重合法)により主鎖を構築し、高分子側鎖がイオン的に反応するというプロセスをとっています。しかしながら、酸や塩基(注5)などで駆動される反応は、反応性高分子に導入できる官能基の種類と使用条件に制約を与え、近年、多様化する材料ニーズへの対応が難しくなっていました。
      本研究では、主鎖を重縮合・重付加といった逐次重合法(注6)により構築し、重合反応後、ラジカル的に反応が進行する「ラジカル反応性高分子」の開発を行いました。本技術により、従来型反応性高分子では不可能な主鎖の組み換え反応によって、異種高分子のナノレベルでの複合化を実現しました。これにより多様な材料ニーズに応えることができます。
  3.   主鎖(鎖状化合物の幹になる鎖) 官能基(化学的な性質を化合物に与える原子群) コスト
    従来の反応性高分子
    [市販品]
    ×
    変化しない

    導入できる官能基の種類に制限がある

    高分子の種類により価格率は異なる
    本研究で開発した反応性高分子
    [研究試作品]

    外部刺激により大きく変化する

    多くの種類の官能基を導入できる

    従来技術よりは高い
    表1.反応性高分子に関する従来技術(市販品)と本研究技術(試作品)との比較

  4. 今後の展望
      これらの反応性高分子の代表的な産業用途としては、接着、レジスト、架橋反応(ポリマー同士を連結し、物理的、化学的性質を変化させる反応)による硬化などがあげられますが、熱・光などの外部刺激を用いてラジカル反応により局所的あるいは精密に制御することができる可能性があり、産業への大きな波及効果が期待されます。
      さらに多くのイオン的な反応は水中では進行しませんが、今回開発したラジカル反応性高分子の基本となるラジカル反応は、水の中でも進行するという特徴を持っています。近年、環境低負荷を意識して有機溶媒中(例:トルエンやアニソール)ではなく水中で進行する反応系が望まれていますが、本システムはその一つの候補であると位置づけられます。水環境も含めて、反応の使用範囲を飛躍的に拡大することができると期待しています。
      現在は入手のしやすさを基準に材料を選定していますので、今後の課題としては、さまざまな材料を使用することによって、反応速度や安定性を高めていきたいと思います。

  5. 問い合わせ先
    (1) 技術内容について
    <代表研究者名・所属機関・部署名・役職名>
    大塚 英幸(九州大学先導物質化学研究所 准教授)
    TEL:092-802-2515      FAX:092-802-2518
    E-mail:E-mail
    研究室HP: 高原研究室
       
    (2) 制度内容について
    NEDO技術開発機構 研究開発推進部 若手研究グラントグループ
    高崎 幸一、松崎 肇、千田 和也
    TEL:044-520-5174 FAX:044-520-5178
    個別事業HP:産業技術研究助成事業(若手研究グラント)

  6. 参考
    成果プレスダイジェスト:九州大学准教授 大塚 英幸氏PDF:218KB】