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Press Release

世界初の「量子論に基づくトライボケミカル反応シミュレーション手法」の開発に成功【産技助成Vol.73】

2008年11月21日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東北大学大学院工学研究科

従来、摩擦・摩耗・潤滑というトライボロジー分野で活用されてきた
流体力学および連続体力学では全く解明不可能な「摩擦と流体と化学反応」が
複雑に絡み合ったトライボケミカル反応ダイナミクス(注1)の解明を世界で初めて実現した
図1.Zn-DTP潤滑被膜による摩耗粉の溶解反応ダイナミクス
今回開発したシミュレータを活用して、摩耗防止剤Zn-DTPからの摩擦下での潤滑被膜の生成反応ダイナミクスと生成した潤滑被膜による摩擦下での摩耗粉の溶解反応ダイナミクスを世界で初めて解明した。

図1. Zn-DTP潤滑被膜による摩耗粉の溶解反応ダイナミクス
今回開発したシミュレータを活用して、摩耗防止剤Zn-DTPからの摩擦下での潤滑被膜の生成反応ダイナミクスと生成した潤滑被膜による摩擦下での摩耗粉の溶解反応ダイナミクスを世界で初めて解明した。

【新規発表事項】
  独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東北大学大学院工学研究科の教授、久保百司氏は、世界初の「量子論に基づくトライボケミカル反応シミュレーション手法」の開発に成功しました。
  本手法は、従来、摩擦・摩耗・潤滑というトライボロジー分野で活用されてきた流体力学および連続体力学では全く解明不可能な「摩擦と流体と化学反応」が複雑に絡み合ったトライボケミカル反応ダイナミクス(注1)の解明を世界で初めて実現したものです。
  これまでは、自動車業界ではエンジンオイル用添加剤に含まれる硫黄分とリン分が排出ガス浄化用触媒を劣化させるとして問題となっていましたが、本シミュレータを用いると量子論に基づく無硫黄・無リン添加剤の理論設計が実現可能です。
  また、環境・省エネルギー対策に対する強い要請から摩擦・摩耗・潤滑に対する社会的要求が厳しさを増しているのに対して、この要請に答える、理論に基づく迅速かつ高度な材料設計を可能とする世界初めてのシミュレーション技術です。

(注1) 従来のトライボロジーに関する理論的研究では、マクロスケールの機械工学的アプローチが用いられてきたため、「摩擦下 での化学反応ダイナミクス」が解明できなかった。この「摩擦下での化学反応ダイナミクス」をトライボケミカル反応ダイナミクスと言う。

  1. 研究成果概要
      研究代表者が開発済みのSCF-Tight-Binding量子分子動力学法と非平衡古典分子動力学法を融合することで、化学反応を含むトライボロジー現象を解明可能なトライボケミカル反応シミュレータの開発に成功しました。さらに、この開発シミュレータを活用し、摩耗防止剤Zn-DTPとフリクション低減剤Mo-DTCからの摩擦下での潤滑被膜の生成反応ダイナミクスの解明に成功しました。また、Zn-DTP潤滑被膜の耐摩耗作用の本質である摩擦下での摩耗粉の溶解反応ダイナミクスも解明しました。これらの計算成果と実験研究との共同により、Zn-DTP添加剤からリン分の減量を実現する方法として、リン酸亜鉛とホウ酸カルシウムの混合潤滑被膜が有効であることを明らかにしました。また、鉄基板ではなく酸化鉄基板を用いることにより、無硫黄添加剤が有効に機能することを新たに提言しました。このように、本開発シミュレータが無硫黄・無リン添加剤の理論設計に非常に有用な方法論であることが示されました。
     
  2. 競合技術への強み 
      摩擦ダイナミクス
    シミュレーション
    化学反応ダイナミクス
    シミュレーション
    摩擦下での化学反応ダイナミクス
    (エンジンオイル用添加剤の設計)
    流体力学・連続体力学
    シミュレーション

    (これまで広く活用されてきた)
    ×
    (原理的に不可能)
    ×
    (原理的に不可能)
    第一原理分子動力学法
    (計算時間がかかるため前例が無い)

    (高精度計算が可能)

    (計算時間がかかるため 前例が無い)
    本研究で開発した
    シミュレーション手法

    (短時間で計算可能)

    (短時間で計算可能)

    (短時間で計算可能)
    表1.シミュレータに関する従来技術と本技術の比較
  3. 今後の展望
      本研究で対象とした自動車エンジンオイル用添加剤の設計のみならず、ハードディスク、宇宙機器、半導体等における「摩擦と流体と化学反応」が複雑に絡み合ったトライボケミカル反応ダイナミクスの解明と、より多様な分野での材料設計・プロセス設計に幅広く展開していきます。 本研究の成果により化学系の准教授から機械系の教授に転身・昇任したことから、トライボロジーに限らず、様々な機械工学分野に化学を導入し、メカノケミカル、ケモメカニカルという新規融合分野の開拓を量子論に基づき精力的に展開していきます。
     
  4. 問い合わせ先
    (1) 技術内容について
    <代表研究者名・所属機関・部署名・役職名>
    久保 百司
    (東北大学大学院工学研究科附属エネルギー安全科学国際研究センター 教授)
    TEL:022-795-6930 FAX:022-795-6931
    E-mail:E-mail
    研究室HP: 東北大学大学院工学研究科 附属エネルギー安全科学国際研究センター
       
    (2) 制度内容について
    NEDO技術開発機構 研究開発推進部 若手研究グラントグループ
    坂橋 信俊、松崎 肇、千田 和也
    TEL:044-520-5174 FAX:044-520-5178
    個別事業HP:産業技術研究助成事業(若手研究グラント)
  5. 参考
    成果プレスダイジェスト:東北大学教授 久保 百司氏【PDF:308KB】