本文へジャンプ

Press Release

耳のわずかな軟骨からのインプラント型再生軟骨の開発に成功

-世界初の臨床研究がスタート-
2011年9月9日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 村田 成二

 NEDOは、三次元複合臓器構造体研究開発の成果として、患者さんの耳からわずかな軟骨を取って、鼻の形の軟骨を再生させる技術(インプラント型再生軟骨)を開発、再生軟骨を口唇口蓋裂の患者さんの鼻に用いる世界初の臨床研究が東京大学でスタートしました。
 これまで、顔面の軟骨の変形や欠損を治療するためには、身体の他の部位の軟骨や骨を移植する方法は行われてきましたが、鼻の高度な変形を治すような大きな軟骨を採取することはできませんでした。今回開発した技術は耳の目立たない部から採取されるわずかな軟骨を使用して、再生させるものであり、耳の変形、気管の軟骨の欠損、そして将来は関節の軟骨の再建などに応用できるものと期待されます。

  • 図1. インプラント型再生軟骨の製造方法
    図1. インプラント型再生軟骨の製造方法

1.背景

 軟骨は鼻や耳の形を保ったり、関節のなめらかな運動を維持したりするために重要な組織です。しかし、軟骨は、先天性の異常や老化に伴う病気で一旦、欠損や変形ができてしまうと自然には治らず、顔の形が保てない、生活や仕事での動作ができない、などといった日常生活に著しい不自由を生じます。わが国では、口唇口蓋裂の鼻の変形や小耳症、変形性関節症などを合わせると2000万人以上の人が、軟骨の何らかの病気にかかっているといわれています。
 再生医療は、患者さんの身体の細胞や組織の一部を取って試験管の中で培養し、必要な組織や臓器を再生させて治療に使う新しい医療です。自己修復する力に乏しい軟骨に対しては、体外で培養して人工的に軟骨をつくる再生医療の導入が期待されています。現在、液状あるいはゲル状の再生軟骨が使用可能になっていますが、硬さがないため顔面の高度な変形には直接使用できないのが現状です。そのため、鼻や耳の形をした、十分な硬さと弾力性を持つ再生軟骨の開発が待たれていました。このような形や硬さのある再生軟骨は、顔面の軟骨以外に、気管の軟骨や、将来的には患者さんの数が多い関節の軟骨にも応用できる可能性があるため、その実現が待たれています。

2. 今回の成果

 鼻に適した硬さと形をもった再生軟骨を開発しました。具体的な作製方法は、まず、患者さんの耳の裏から少量(5-10 mm)の軟骨を採取して軟骨細胞を取り出します。この軟骨細胞を、患者さんから採血した血液の血球以外の成分を使って培養し、最終的には細胞を数にして約1000倍にまで増やします。その細胞を、アテロコラーゲンハイドロゲル(※1)とポリ乳酸多孔体(※2)によって構成される再生医療用の特殊な素材(足場素材)に投与して再生軟骨を作ります。患者さんの軟骨は耳の裏から少量採取するだけなので、手術の傷は目立たず、耳の変形もほとんど残りません。

  • 図2. インプラント型再生軟骨の使用方法
    図2. インプラント型再生軟骨の使用方法

 この再生軟骨は、注入するのではなく、「手術で埋め込む」ことができるという意味から「インプラント」型再生軟骨と呼んでいます。今回開発したインプラント型再生軟骨の大きさは、長さ約50 mm、幅約6 mm、厚さ約 3 mmです。(図3 インプラント型再生軟骨の概要) 

  • 図3. インプラント型再生軟骨の概要
    図3. インプラント型再生軟骨の概要

 このインプラント型再生軟骨を鼻の高度な変形を患う口唇口蓋裂の患者さんに用いる世界初の臨床研究が東京大学医学部附属病院顎口腔外科・歯科矯正歯科 高戸毅教授、ティッシュ・エンジニアリング部星和人特任准教授(軟骨・骨再生医療寄付講座)らによりスタートしました。口唇口蓋裂は先天性異常の一つであり、生まれつき唇の一部や上あごが裂けている病気です。鼻は顔の中心部に位置するため、鼻の変形の修正は患者さんにとって非常に重要な治療です。今までは、鼻の高度な変形を治せるような大きな軟骨を身体から採取することができませんでした。しかし、この再生軟骨を用いて治療することにより、目立たない部位からわずかな軟骨を採取することにより高度な変形が治せるようになると期待されます。

3. 今後の予定

 現在行っている臨床研究に引き続き、臨床試験(いわゆる治験)を実施して産業化を展開します。また、この技術を応用したNEDOプロジェクト「次世代機能代替技術の研究開発」により、細胞培養期間のさらなる短縮化、培養工程の簡素化を実現する再生デバイスの開発を行っていきます。

4. お問い合わせ先

(本プレスリリースの内容についての問い合わせ先)
 NEDO バイオテクノロジー・医療技術部 担当: 古郷、戸瀬
 TEL 044-520-5231

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
 NEDO 広報室 担当: 田窪、遠藤
 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

【参考:用語解説】

  • 1. アテロコラーゲンハイドロゲル
    アテロコラーゲンはコラーゲンを特殊な酵素で処理して生体内での炎症反応を最小限に抑えた生体材料で、陥凹した組織の補填材として治療に用いられている。そのアテロコラーゲンをゲル状にした素材のこと。
  • 2 ポリ乳酸多孔体
    ポリ乳酸は体内で吸収されるプラスチック。骨折などの治療において骨をつなげるためのスクリューやプレートとして使われる。そのポリ乳酸をスポンジ状の構造にして細胞の足場素材としたもの。