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Press Release

ナノ炭素材料 多層グラフェンで初の商品化

―加速器用ビームセンサー材料としてカネカが販売へ―
2015年7月31日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構
株式会社カネカ

NEDOプロジェクトにおいて、技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)は、組合員である(株)カネカが中心となって、これまで作製が困難だったナノ炭素材料である高品質多層グラフェンの開発に成功し、大型粒子加速器のビーム形状測定センサー材料として実装されることとなりました。

加速器は原子核や素粒子の実験、がん治療に用いられ、ビームをターゲットに照射するため、その位置や強度分布を正確に把握する必要があります。今回開発した多層グラフェンは従来の金属材料に比べ非常に薄く、ビーム損失が小さい、丈夫で耐久性が高い等の特徴があり、強いビーム測定に最適な材料です。

(株)カネカはこの材料を製品化し、今年8月から大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)へ販売を開始します。これは、多層グラフェンの初めての商品化例となります。

  • 図 多層グラフェンの粒子加速器ビームセンサーへの応用イメージ
    多層グラフェンの粒子加速器ビームセンサーへの応用イメージ

1.概要

カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等のナノ炭素材料は、日本が世界をリードしている材料です。軽量、高強度であり、電気や熱の伝導率が高いことから、さまざまな用途への利用が期待されています。NEDOでは「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト(2012~2018年度)」においてナノ炭素材料の産業応用に向けた研究開発を行っています。

本プロジェクトにおいて、技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)は、これまで作製が非常に困難であった厚さ約1μmのナノ炭素材料である高品質多層グラフェン※1の開発に成功しました。

この多層グラフェンはTASCの組合員である株式会社カネカ(本社:大阪市 代表取締役社長:角倉 護)が中心となって開発を進めていましたが、今般、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の検討により、J-PARC※2の大強度陽子加速器のビーム※3形状測定センサー材料として好適であることがわかりました。これは開発された高品質多層グラフェンが〔1〕非常に薄く、ビーム損失が小さい、〔2〕高品質で壊れにくく、加工が可能、〔3〕実験的に十分な検出感度を持つこと、が確認されたためです。

このためカネカでは多層グラフェンを製品化し、本年8月よりKEKへ販売を開始することとなりました。これは多層グラフェンの初めての商品化例であり、KEKでは、本年秋以降にJ-PARCの大強度陽子加速器にて本格的な利用が始まる予定です。

2.今回の成果

【1】高品質な多層グラフェンの開発

最先端の高エネルギー物理学、物質科学、生命科学などの分野で大きな役割を担っている粒子加速器は、素粒子生成実験に使用される大型、高エネルギーのものから、医療用途などの小型のものまで多種多様です。このような粒子加速器において、良質なビームを供給するためには、通過ビームの形状を破壊せずにリアルタイムに観測することが非常に重要です。特に陽子や重イオンを用いる大型粒子加速器におけるビーム形状の測定法は重要な研究課題となっています。ビーム形状を測定するセンサーには以下の3点が求められています。

  1. 通過ビームに悪影響をほとんど及ぼさないこと
  2. 長期連続使用できる耐久性があること
  3. 検出感度が十分であること

グラファイト系の材料は、このような用途に好適であることが知られていましたが、ビームセンサー用には大面積の極めて薄いグラファイト系薄膜が必要であり、従来は作製が非常に困難でした。また、従来品質のグラファイト系材料では、細いリボン状に切断加工する際に破断しやすい等の課題もあり、ほとんどのビームセンサーにはグラファイト系材料ではなく、耐久性に劣る金属材料が使われているのが現状です。

このような背景のもと、NEDOプロジェクトにおいて、TASCは特殊な高分子(芳香族ポリイミド)の薄膜を超高温(約3,000℃)の不活性ガス中で焼成する高分子焼成法の検討を進め、厚さ約2μmと非常に薄い原料芳香族ポリイミド膜の製造技術※4および最適な炭素化、グラファイト化プロセスを確立し、高品質多層グラフェンの開発に成功しました。図1にその製造方法を示します。これにより、上記〔1〕~〔3〕の条件を満足する多層グラフェンを安定的に製造できるようになりました。また、開発された多層グラフェンは図1の高品質多層グラフェンの側面拡大図で示す様に高い配向性を有し、他にも高い電気伝導度(≧24,000S/cm)や熱伝導度(≧1,900W/mK)などの極めて優れた特性を有することも分かりました。

  • 図1.高品質多層グラフェンとその製造方法
    図1.高品質多層グラフェンとその製造方法

【2】多層グラフェンのビームセンサーの作製

粒子加速器のビームセンサー材料は、幅1mm程度の多数の細線リボンが平行に並んだ簾状の形状にレーザー光線で切断加工され、端部を枠に貼り付けられた状態でセンサーとして使用されます。それぞれの多層グラフェンリボンが、受けたビーム強度に応じて放出する2次電子の電荷量を検出します。これにより各リボンの位置におけるビーム強度が測定され、ビーム形状の観察ができます。

今回、KEKにおいてTASCで開発された高品質な多層グラフェンのビーム形状測定センサーとしての可能性を検討し、その結果、KEKにて写真1に示すように、大強度陽子ビーム用で実際に使用するセラミック枠上に、均一な細線幅の平坦な簾状のセンサーを作製することができました。

  • 写真1.直角リボンターゲット(写真提供:KEK)
    写真1.直角リボンターゲット(写真提供:KEK)

3.今後の予定

今回のKEKの検討によって、TASCで開発された多層グラフェンはビームセンサー材料として、実際のビームラインに導入可能となりました。KEKでは本年秋以降にJ-PARCの大強度陽子加速器での本格的な利用を予定しています。

また、カネカは、多層グラフェンを用いたビームセンサーは世界中の加速器への導入が可能であり、医療用途などの小型加速器等へも広く用いられることが期待されることから、ビームセンサー等の用途として、厚さ約1μmの多層グラフェンを商品化し、海外へも展開していきます。

【参考:用語解説】

※1 多層グラフェン
グラフェンはグラファイトを構成する単原子薄膜で、炭素原子が平面上で蜂の巣格子(六角形)状に並んだ構造をもっています。多層グラフェンはこれが積層化したものです。

※2 J-PARC
J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)は、素粒子物理、原子核物理、物質科学、生命科学、原子力など幅広い分野の最先端研究を行うための陽子加速器群と実験施設群の呼称です。世界に開かれた多目的利用施設であるJ-PARCの最大の特徴は、世界最高クラスの陽子(1MW)ビームで生成する中性子、ミュオン、K中間子、ニュートリノなどの多彩な2次粒子ビーム利用にあります。高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究所(原研)【現 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)】が共同で提案し、2008年にJAEA東海の原子力科学研究所内に第一期施設が完成しました。

※3 加速器のビーム
加速器は荷電粒子を加速する装置の総称で、加速された荷電粒子の集まりをビームと言います。原子核/素粒子の実験に用いられる他、がん治療などにも広く応用されています。

※4 原料芳香族ポリイミド膜の製造技術
作製される多層グラフェンの厚さは、原料フィルムの厚さの約1/2になります。従って、厚さ約1μmの多層グラフェン作製には厚さ約2μmの原料高分子フィルムが必要となります。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部 担当:賀川、小森 TEL:044-520-5220

TASC グラフェン事業部 担当:津下 TEL:029-861-2200

(株)カネカ CSR推進部広報室 東京本社 TEL:03-5574-8047
大阪本社 TEL:06-6226-5019

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:髙津佐、坂本、佐藤 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp