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Press Release

省エネで生産性の高い革新的炭素繊維製造プロセスを開発

―製造エネルギーとCO2排出量を半減、生産性を10倍向上―
2016年1月14日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 古川一夫

NEDOは、東京大学、産業技術総合研究所、東レ(株)、帝人(株)、東邦テナックス(株)、三菱レイヨン(株)とともに、従来の製造プロセスに比べて、製造エネルギーとCO2排出量を半減させ、生産性を10倍に向上できる革新的炭素繊維製造プロセスの基盤技術を確立しました。この技術により、低コストで大量に炭素繊維を製造することができます。

今後、この量産プロセスの工業化を目指すとともに、複合材料用繊維として革新的な性能を発現する高性能かつ多機能な炭素繊維の創出を目指します。

  • 図 革新的炭素繊維製造プロセス
    革新的炭素繊維製造プロセス

1.概要

炭素繊維は、熱的・化学的に極めて安定で軽量かつ力学的特性に優れる素材であり、日本のPAN※1系炭素繊維メーカー3社が、世界シェアの約65%を生産しているなど、日本が世界をリードしている素材です。また炭素繊維は、航空機のみならず自動車への適用が期待されるほか、環境・エネルギー分野、土木建築分野等、様々な分野へ適用が拡大しています。今後、炭素繊維の自動車等への本格的導入のためには、炭素繊維の生産性を飛躍的に高め、製造時における消費エネルギーならびに二酸化炭素排出量を大幅に低減する必要があります。

今般、NEDOは、「革新的新構造材料等研究開発」※2において、東京大学などとともに、製造エネルギーと二酸化炭素排出量を半減させ、生産性を10倍に向上できる革新的炭素繊維製造プロセスの基盤技術を確立しました。

本プロジェクトは、東京大学が中心となって、産業技術総合研究所および東レ(株)、帝人(株)、東邦テナックス(株)、三菱レイヨン(株)が参加。現行方式の生産性の足かせとなっている耐炎化※3工程を不要とする新規前駆体化合物※4を開発するとともに、マイクロ波を用いた高効率の炭素化技術、ならびにプラズマを用いた表面処理技術を開発し、低コストで、高性能の炭素繊維を高効率で生産できる省エネ製造プロセスの基盤技術を確立しました。

今後は、この量産プロセスの工業化を目指すとともに、この新しいプロセスから生み出される炭素繊維のポテンシャルを拡大して、複合材料用繊維として革新的な性能を発現する高性能かつ多機能な炭素繊維の創出を目指します。

なお、本成果は、2016年1月27日(水)~29日(金)の間、東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2016 第15回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」のNEDOブースにおいて展示します。

2.今回の成果

今回、炭素繊維用に製造されたアクリル繊維を空気中高温で長時間耐炎化する現在の炭素繊維の製造方法を一新し、省エネルギーで生産性の高く炭素繊維の大量需要に応える革新炭素繊維製造プロセスの基盤技術を確立しました。

本基盤技術で鍵となるのが、【1】~【3】の技術であり、これら技術の集積により、炭素繊維製造プロセスの生産性を10倍に高め、二酸化炭素排出量を半減することが可能になると期待されています。

【1】耐炎化不要の新規前駆体の開発

良好な紡糸性と耐炎性能を兼ね備えた新規前駆体繊維の製造条件を確立し、工業製品に匹敵する優れた性能(引張弾性率240GPa、伸度1.5%)の炭素繊維製造に成功しました。高度な液相反応により生み出された、溶媒可溶な側鎖付きラダー構造を持つ「溶媒可溶性耐炎ポリマー」は、衣料用に広く使われている安価なPANを原料としており、PANに溶解促進剤と酸化剤を添加し、耐炎化反応を液中で行うことで得られます。耐炎性を有しながら、溶媒に溶解することで紡糸が可能であり、しかも市販のPAN系炭素繊維※5に匹敵する優れた機械特性の炭素繊維が得られるところが画期的な世界初の成果と言えます。また太径の炭素繊維の製造に有利な、「溶媒可溶性芳香族ポリマー」も開発しています。このポリマーは、従来のPAN系前駆体繊維に比べて、炭素化収率が高く、単糸直径が太い炭素繊維が容易に製造できるといった特徴があります。従来のような長時間の耐炎化工程を必要としないこれら新規前駆体によって、省エネで生産性の高い革新的製造プロセスが可能になる他、これまでにない新たな機能を持つ炭素繊維の創出が期待されます。

  • 図 溶媒可溶性耐炎ポリマーと市販のPAN系炭素繊維に匹敵する性能をもつ炭素繊維
    溶媒可溶性耐炎ポリマーと市販のPAN系炭素繊維に匹敵する性能をもつ炭素繊維
    (引張弾性率240GPa、伸度1.5%の炭素繊維の製造に成功)

【2】マイクロ波による炭素化技術の開発

大気圧下でのマイクロ波加熱による炭素化で、工業製品とほぼ同等の性能を世界で初めて得ることに成功しました。PAN系耐炎繊維束(12,000~24,000本)を炭素化する時の繊維構造形成の過程を精査し、炭素化過程にある繊維状物質の状態に合った好適なマイクロ波エネルギーの照射方法を検討して、この高度な炭素化技術を確立しました。物質を直接加熱することができるマイクロ波エネルギーを繊維状物質の連続的炭素化に利用することで、炭素化炉を高温に保つ必要がなくなり、炭素化時間も短縮されるため、コンパクトかつエネルギー消費が少ない炭素化プロセスが実現できます。

  • 図 マイクロ波による炭素化基盤技術
    マイクロ波による炭素化基盤技術

【3】プラズマによる表面処理技術の開発

ドライプロセスかつ極短時間で炭素繊維の表面性状の制御が可能なプラズマ表面処理技術の開発に成功しました。これにより、既存の表面処理技術と比べて、プロセスを大幅に簡略化することができ、全工程で約50%のエネルギー削減が可能となります。プラズマ処理による構造変化を追跡し、極短時間の処理でマトリックス樹脂との接着性の向上が可能であることを確認しています。

  • 図 プラズマによる表面処理技術の効果
    プラズマによる表面処理技術の効果

【用語解説】

※1 PAN(ポリアクリロニトリル)
有機高分子の一種で、アクリロニトリルを重合させて得られる。
※2 革新的新構造材料等研究開発
自動車重量の半減を目標に、素材開発、接合技術開発を総合的に開発する未来開拓プロジェクト。
※3 耐炎化
PAN繊維が炭素化時に溶融しないように200-350℃の空気中で数時間加熱する処理のこと。
※4 前駆体化合物
化学反応の生成物の反応前の物、今回の場合は炭素繊維の原料となる化合物を指す。
※5 PAN系炭素繊維
共重合PANを使用している。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部 担当:今西、寺田 TEL:044-520-5220

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:髙津佐、坂本、佐藤 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp