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Press Release

ヤヌスキューブの簡便合成と構造決定に成功

―2030年に出荷額1兆円規模への拡大を目指す―
2016年5月27日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 古川一夫

NEDOプロジェクトにおいて、産業技術総合研究所と群馬大学は、高機能シリコーン・ケイ素材料の原料として有用で特異な構造を有する「ヤヌスキューブ」の簡便な合成法を開発し、その結晶構造の解析に成功しました。

NEDOは、この事業の推進により今後2030年までにエコタイヤなどへの応用など有機ケイ素部材の日本の出荷額を1兆円規模に拡大させるとともに、日本の産業競争力の強化に寄与することを目指します。

この成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ ケミー)International Edition」英語版に2016年5月27日(日本時間)にオンライン公開されました。

  • 図1 ヤヌスキューブ結晶構造図
    図1 ヤヌスキューブ結晶構造図

1.概要

有機ケイ素部材は、電子材料分野や塗料分野など、幅広い産業で使用されており、その世界市場は2010年で推定約1兆円、年率6%程度の成長が見込まれています。しかし、現在の製造プロセスには、多大なエネルギー消費を伴う主原料のSiO2(砂の主成分)を金属ケイ素※1に変換する工程が含まれており、有機ケイ素部材が高価である要因の一つになっています。また、製造プロセスで使用する高価な白金触媒に替わる新規触媒の開発や、有機ケイ素部材のさらなる高機能化など、安定的に高機能な有機ケイ素部材を安価に提供するための革新的な製造プロセスの確立が求められています。

このような背景のもと、NEDOのプロジェクトで国立研究開発法人産業技術総合研究所と国立大学法人群馬大学は、かご型構造を持つ有機ケイ素化合物にそれぞれ異なった4つの置換基※2を配置した「ヤヌスキューブ」※3と呼ばれる物質の簡便な合成法を開発し、その結晶構造の解析に成功しました。この化合物は特異な構造を有するだけではなく、高機能シリコーン・ケイ素材料※4の原料としても有用であり、今後、エコタイヤなどへの応用が期待されます。

NEDOは、本事業の推進により2030年には有機ケイ素部材の日本の出荷額を1兆円規模に拡大させるとともに、日本の産業競争力の強化に寄与することを目指します。

なお、今回の成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ ケミー)International Edition※5」英語版に2016年5月27日(日本時間)にオンライン公開され、同誌の中表紙のカバーピクチャーとして掲載されました。

ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」英語版は、以下から確認できます。

2.今回の成果

今回開発したヤヌスキューブの合成法は従来の方法に比べ簡便であり、さらに多彩な置換基を自由に導入することが可能になります。

図2 新規合成のポイント

図2 新規合成のポイント

成功ポイントはフッ素を含むケイ素化合物を合成することで、新しいカップリング反応を達成できたことにあります。図2に示すようにヤヌスキューブを二つに割ったような原料(ハーフキューブ)は、いずれの化合物も市販原料から1段階または3段階で合成でき、困難な分離も必要とせず簡便に得ることができます。とくに、ケイ素-フッ素を有する化合物(フルオロシロキサンと総称される)は、国立大学法人群馬大学大学院理工学府 海野 雅史 教授の研究グループにより新規に合成されたもので、これを用いることで、純粋なヤヌスキューブを初めて得ることができました。このように、新規なケイ素-フッ素化合物を合成し、それを用いて、これまでに例のないカップリング反応を試みたことにより、初めて簡便なヤヌスキューブの合成が可能となりました。

3.今後の予定

今回開発したヤヌスキューブは、有機-無機ハイブリッド材料※6をはじめとするさまざまな高機能材料の原料として期待できます。ヤヌスキューブの置換基として硫黄を含む化合物を導入すれば、分子レベルでシリカ※7と同等の効果が期待できるナノ粒子を分散することが可能です。例えば、シリカ、ゴム、および混合や接着を目的としたシランカップリング剤※8を配合し、これらの混合物として水酸基(-OH)※9を導入すれば、シリカ、アルミナ※10、チタニア※11などの金属酸化物や金属と直接反応させることができ、これまでのシランカップリング剤に代えて、接着性と耐熱性を一度に導入することも可能になります。

【用語解説】

※1 金属ケイ素
暗灰色をした金属の一種。元素記号はSi。酸素とケイ素が結合した二酸化ケイ素(SiO2)のかたちで地殻中に大量に存在する。有機ケイ素化合物や半導体基板のシリコンウエハーの原料にもなる。
※2 置換基
有機化合物の水素原子を他の原子または原子団により置き換えた誘導体において、水素と置き換わった原子または原子団をさす一般的な呼称。
※3 ヤヌスキューブ
ケイ素と酸素からなる立方体(キューブ)骨格に、その対面に4つずつの異なる置換基を有する化合物。2つの顔を持つ ローマ神話の神ヤヌスに因んで、米国ミシガン大学のR.Laine教授によって命名された。
※4 高機能シリコーン・ケイ素材料
耐熱性、耐酸化性、耐薬品性、絶縁性、離型性、ガス透過性などのシリコーン材料の持つ特性を、新しい官能基やポリ マー構造の導入により、さらに機能を高めた材料。
※5 Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ ケミー)International Edition
ドイツ化学会誌。Nature Chemistryやアメリカ化学会誌などと共に化学分野における最高峰の学術雑誌の一つ。
※6 有機-無機ハイブリッド材料
有機材料の特性(柔軟性、耐衝撃性、軽量性、加工性など)と無機材料の特性(耐久性、耐熱性など)を合わせ持つ材料。
※7 シリカ
二酸化ケイ素の通称。石英、クリストバライトなどの結晶性シリカとシリカゲル、ケイソウ土などの非晶質シリカに大別される。いずれもSiO4の四面体が酸素原子を共有して三次元的に連なった構造を有する。シリカゲルは化学的・物理的安定性に優れ、表面積などの細孔特性を広範囲に制御できることから、乾燥剤、吸着剤、触媒担体、医薬品・食品添加など幅広い用途に使用されている。
※8 シランカップリング剤
有機材料と無機材料を結合させるケイ素化合物のこと。
※9 水酸基(-OH)
-OHで表わされる官能基で、ヒドロキシル基とも称される。水、アルコールやフェノールにも含まれる。
※10 アルミナ
有機成分と無機成分を分子レベル~ナノレベルで組み合わせて得られる。アルミナ酸化アルミニウムのこと。組成式は Al2O3
※11 チタニア
酸化チタンのこと。組成式はTiO2

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 環境部 担当:佐藤 TEL:044-520-5252 E-mail:satohhdh@nedo.go.jp

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、佐藤、髙津佐、藤本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp