本文へジャンプ

Press Release

原子レベルでの蓄電池内部の挙動解析に成功

―中性子線を用い非破壊かつリアルタイム観測により実現―
2016年7月1日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 古川 一夫

NEDOの革新型蓄電池プロジェクト(RISING)において、東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構、京都大学の研究グループは、中性子線を用いて蓄電池内部の挙動を非破壊かつリアルタイムに観測し、自動解析するシステムを開発、充放電時に起こる蓄電池内部の挙動を原子レベルで解析することに成功しました。このシステムを活用して蓄電池の耐久性や安全性に関する詳細な情報が容易に得られるようになるため、蓄電池の開発に向けたさらなる高性能化への展開が期待されます。

この研究成果は、6月30日(現地時間)発行の英国科学誌「サイエンティフィックリポーツ(Scientific Reports)」に掲載されました。

1.概要

電気自動車等の本格的な普及には、性能、耐久性および信頼性の飛躍的な向上ならびにコストの大幅低減という蓄電池に対する多様な要求を満たす革新的なブレークスルーが待望されており、そのためには、サイエンスに立ち戻った研究開発が必要です。

そこでNEDOは、電池の基礎的な反応メカニズムを解明することによって、既存の蓄電池のさらなる耐久性・安全性等の向上、ならびにガソリン車並みの走行性能を有する本格的電気自動車用の蓄電池(革新型蓄電池)の実現に向けた基礎技術の確立を目的に2009年度から7年計画で「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING)」※1に取り組んできました。

その結果、東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構、京都大学の研究グループは、リチウムイオン等の軽元素の観察を得意とする中性子線を用いて、実動作環境下(オペランド測定)※2における電池内部の挙動を非破壊かつリアルタイムに観測し、そのデータを自動解析するシステムを開発しました。また、開発した解析システムを活用し、実用電池の内部で生じる不均一かつ非平衡状態で進行する材料の複雑な構造変化を原子レベルで解析することに成功しました。

実際の充放電時にリアルタイムで蓄電池の内部の材料の構造変化を観測することで、充放電サイクルに伴う劣化挙動、長期保存時の経時変化、高温や低温での使用時の劣化挙動など、耐久性や安全性に関する詳細な情報を容易に得ることが可能になり、リチウムイオン電池のみならず、現在、開発が進んでいる全固体電池※3など次世代の蓄電池の反応挙動を解明することも可能であり、これら電池のさらなる高性能化に貢献することが期待されます。

この研究成果は、6月30日(現地時間)発行の英国科学誌「サイエンティフィックリポーツ(Scientific Reports)」に掲載されました。

2.今回の成果

【1】電池特性を左右するイオンの動き等を非破壊でリアルタイムに観察可能なシステムを開発

本研究グループは、大強度陽子加速器施設J-PARC※4において、リチウムや水素といった電子数の少ない軽元素も敏感に検知できる透過性の高い中性子線を用いて、充放電過程における電池内部の電気化学反応およびその反応に対応した電極材料の構造変化を観測する新たなシステム特殊環境中性子回折計(SPICA:BL09)※5(図1a)を開発しました。このシステムは電池特性を決める鍵となるリチウムイオン等の軽元素の挙動を非破壊かつ実作動条件下で定性・定量的に観測できることが特徴です。

【2】充放電時に不均一かつ非平衡に進行する電池反応を世界で初めて観察

実作動条件下における電池内部の反応を観察するために、実用電池の中でも一般的な18650型円筒リチウムイオン電池※6を用いて、0.05から2Cレート※7で充放電を行いながら中性子回折測定を行い、正極・負極の構造がどのように変化するかをリアルタイムに観測しました(図1)。

その結果、負極では不均一な電池反応が進行し、高レートでは反応に寄与しない相が発生すること(図3)、充電と放電で反応機構が違うこと(図4)が明らかになるとともに、正極では放電時に使用される組成領域が高レートでは変化すること等が分かりました。このように、充放電時に不均一かつ非平衡に進行する電池反応を世界で初めて観察することが可能になりました。

【用語解説】

※1 革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISINGプロジェクト)
京都大学及び産業技術総合研究所関西センターを拠点として、13大学・4研究機関・13企業がオールジャパン体制で集結し、現状比5倍のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指して、2009年度から7年計画で実施したNEDOの共同研究事業。
RISINGとは、Research and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteriesの略。
※2 オペランド測定
オペランド測定は、in situ測定のより限定された条件に用いられる。ex situとin situは、対義語として用いられる。
ex situ測定は、測定のために、系を解体(分解)する等の加工された試料を測定することに対して、in situ測定は、系を保った非破壊のまま、そのままの状態もしくは、その場で測定することを指す。一方、オペランド測定は、非破壊かつ特に「その系の動作環境下で」現象を測定することを指す。
※3 全固体電池
電池の構成部材である正極、電解質、負極を全てセラミックなどの固体で構成した電池。電解質を一般的な有機電解液から固体電解質に置き換えることで、さらなる安全性等の向上が期待されている。
※4 大強度陽子加速器施設J-PARC
高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が共同で茨城県東海村に建設し運用している大強度陽子加速器施設と利用施設群の総称。加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用が行われている。
※5 特殊環境中性子回折計(SPICA:BL09)
高エネルギー加速器研究機構は、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(用語解説※1)の一環で、オペランド測定(用語解説※2)を主目的とした中性子回析計「特殊環境中性子回折計(SPICA:BL09)」を設計・開発し、大強度陽子加速器施設J-PARC(用語解説※4)に設置した。回折計として高分解能と大強度の相反する性能を共存させるために、SPICAを構成する光学デバイス、機器等をすべて専用に設計し、高精度の粉末構造解析を行えるシステムとして完成させた。さらにオペランド測定のための専用の試料周辺環境と時分割測定のためのデータ集積システム等を備えた電池研究に特化した仕様とした結果、SPICAは、世界唯一の蓄電池専用中性子ビームラインとして、蓄電池反応を原子レベルでリアルタイムに計測する研究に活用されてきた。
※6 18650型円筒リチウムイオン電池
リチウムイオン電池の規格の一つ。直径18mm、長さ65.0mmの外形を有した円筒型の電池で、正負極およびセパレータを捲回して円柱状に成形し、円筒型の外装ボディに挿入されたもの。
※7 Cレート
Cレートとは、所定の公称容量の電池を定電流放電して1時間で満放電することのできる電流値を示す。同じ公称容量の電池では、Cレートが大きくなると電流値は大きくなり、短時間で放電させることに対応する。一方Cレートが小さくなると電流値も小さくなり、長時間で放電させることに対応する。

  • 図1 中性子回折計(BL09:特殊環境中性子回折計、SPICA)

図1 今回開発した実用蓄電池オペランド測定用中性子回折計(BL09:特殊環境中性子回折計、SPICA)の外観図(a)および、実験の概要図(b)。オペランド測定は、非破壊のまま18650型円筒リチウムイオン電池(c)を装置の中心に設置し、電池に電気を流し充放電反応を進行させたまま、パルス中性子を照射し電池反応をリアルタイムに観測する。中性子は金属に覆われた蓄電池内部まで透過し、蓄電池反応に対応した電極の構造に対応して散乱(回折)され、検出器に到達する。検出器に到達した中性子の時刻と角度をデータ処理すると、観測結果として回折図形が得られる。この回折図形には、18650型円筒電池の拡大図(d)に示すように、正極、負極、集電体、電池のケースを含む回折線と呼ばれる固有の回折ピークが得られる。これらを結晶構造変化として、原子の配列と濃度を解析することでリアルタイムな電池反応に伴うリチウムイオンを含むイオン(原子)の配列とその濃度を解析できる。

  • 図2 リートベルト法による構造解析結果

図2 リアルタイム観測により得られた充放電中の電極材料のリートベルト法により構造解析した結果例。リートベルト解析は、含まれる結晶相の原子配列を解析する分析手法で、最小二乗法により結晶構造を精密化する。正負極材料、集電体、電池の外ケースの結晶構造を基に、リートベルト解析を行い、それぞれの材料の原子配列とその濃度を精密化した。観測値と計算値の差(観測値—計算値)が小さく、それらがよく一致しており、得られた構造情報が正確なものであるといえる。

  • 図3 放電レートの違いによるグラファイト負極の相変化

図3 放電時の電極材料の相変化。0.05(A)、0.1(B)、0.5(C)、1(D)、2(E)Cレートによる放電時のカーボン負極の00/反射の変化を示している。それぞれの図中に放電に伴う電圧変化も示している。グラファイト負極は、構造中のリチウムイオンの分布の違いで、ステージ構造と呼ばれる異なる面間隔の回折線を示す。0.1C以上の放電レートでは、放電中反応に寄与しないと考えられるStage3Lの回折ピークが常に存在し、不均一な電池反応が進行することを示している。
2Cレート(E)で放電した場合、Stage4L相がStage3Lに徐々に変化し、放電後に電池内部で緩和反応が進行する様子を観測した。高い電流が電極合材中で不均一なリチウムイオンの分布を生成すると考えられる。

  • 図4 充放電時におけるグラファイト負極の相変化

図4 放電時と充電時で異なる反応機構を示すグラファイト負極。0.05Cレートの充電(A,C)と放電(B,D)によるグラファイト負極の00/反射の変化を充電(放電)時間に対して示している。充電放電ともに、Stage2からStage3の相変化が存在するが、放電時にだけStage2後半にStage2L相を経由してStage3へ相変化が観測された。このように充電と放電にお いてグラファイト負極で反応機構が異なることを明らかにした。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO スマートコミュニティ部 担当:川本、安井 TEL:044-520-5264

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、佐藤、髙津佐、藤本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp