本文へジャンプ

Press Release

植物や微生物から工業材料を生産するバイオ技術開発に着手

―国産ゲノム編集技術などを駆使し、“スマートセルインダストリー”の実現へ―
2016年7月1日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 古川 一夫

NEDOは、海外技術に依存しない国産のゲノム編集技術や最新のIT/AI技術を駆使し、植物や微生物から試薬、香料、化粧品、プラスチック等の工業材料を生産する革新的バイオテクノロジーの開発に着手します。

本プロジェクトでは、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を最大限に引き出した“スマートセル”を作り出し、従来合成法では生産が難しい有用物質の創製、生産プロセスの低コスト化や省エネ化を実現します。5年間86億円、産学連携全40機関によるオールジャパン体制で、スマートセルによる次世代産業“スマートセルインダストリー”の構築を目指します。

1.概要

バイオテクノロジーは経済活動の様々な分野で利用されており、医療分野だけではなく、試薬、香料、化粧品、プラスチック等の工業製品の原材料生産など工業利用の拡大が見込まれます。OECDはバイオテクノロジーを用いた経済活動 “Bioeconomy”が2030年には200兆円規模に成長すると予測※1しています。

このプロジェクトでは、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を最大限に引き出した“スマートセル”を作り出し、従来合成法では生産が難しい有用物質の創製、生産プロセスの低コスト化や省エネ化を実現します。

まず、NEDOは植物を対象として、CRISPR/Cas9※2等の既存の海外技術に依存しない国産ゲノム編集技術※3や、物質生成を決定する遺伝子や栽培・生育環境の制御技術を開発します。従来、望ましい農作物を作り出すために、人類は長い年月をかけて品種改良技術や栽培技術を発達させてきました。今回開発する技術は、植物に遺伝子レベルでアプローチすることで、短期間かつ高精度で望ましい植物を作り出すための基盤技術です。また、植物に比べて遺伝子解明が進む微生物については、近年進展著しいIT/AI技術を駆使した情報解析システムを確立し、先進的な育種技術の確立を進めます。

NEDOは、国産のゲノム編集技術を開発する国立大学法人九州大学を中心とした研究チームから実用化を進める民間企業まで含め、全12テーマ、40機関を採択し、5年間86億円、オールジャパン体制でスマートセルによる次世代産業“スマートセルインダストリー”※4の実現を目指します。

  • 図1.スマートセル構築による高機能品生産技術開発
    図1.スマートセル構築による高機能品生産技術開発

2.事業の内容

【1】事業名

植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発

【2】事業総額

86億円(予定)

【3】期間

2016年度~2020年度

【4】開発内容

<研究開発項目〔1〕 植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発(委託事業)>

植物は、100万種類もの多様な化合物(代謝物)を自らの体内で生成すると言われています。本プロジェクトでは、植物中の特定物質の生産性向上を実現するための基盤技術を開発します。

九州大学中村准教授を中心とした9機関からなる研究チームでは、国産ゲノム編集技術“PPRタンパク質”※5の編集効率向上や遺伝子挿入技術の開発、葉緑体やミトコンドリアの編集技術等の開発、核酸化学的手法※6等を用いた全く新規のゲノム編集ツールの開発を行います。

徳島大学間世田准教授を中心とした研究チームでは、感染症原因菌における抗生物質耐性能の獲得機構を応用した独自のゲノム編集技術の効率向上、植物への適用検証に取り組みます。

また、産業技術総合研究所を中心とした6機関からなる研究チームでは、遺伝子のメチル化・脱メチル化※7を自在に制御するエピゲノム※8編集技術の開発や、栽培環境や薬剤添加による代謝系への影響解析を通じて植物ものづくりの普及に貢献します。

NEDOは、これらの技術開発を一体的に推進するとともに、海外の知財動向も踏まえた技術戦略を立案し、海外技術に依存しない国産のゲノム編集関連技術等のプラットフォームの形成を目指します。

  • 図2.PPRタンパク質の概要
    図2.PPRタンパク質の概要

<研究開発項目〔2〕 植物による高機能品生産技術開発(助成事業)>

研究開発項目〔1〕の成果を活用しながら、特定物質をターゲットに設定した上で、生産性向上に寄与する遺伝子の特定と改変、環境条件の最適化を行い、植物による高機能品生産の実用化技術を開発します。

今回、NEDOは、5テーマ7企業を助成先として選定しました。株式会社竹中工務店、キリン株式会社、神戸天然物化学株式会社は骨粗しょう症などの症状改善成分として注目されている活性型ビタミンD3の生産を、ホクサン株式会社は防除が困難なジャガイモの害虫ジャガイモシストセンチュウ対策に有効と考えられるふ化促進物質の生産を、実用植物の代謝機能改変により実現を狙います。NEDOは、これらの開発を支援し、植物によるものづくりの可能性を世界に示していきます。

<研究開発項目〔3〕 高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発(委託事業)>

近年、次世代シーケンサー※9の開発によって、ムーアの法則※10をはるかに上回るスピードでゲノム解析のコストが下がったことで、生物情報が急速に蓄積されています。本プロジェクトでは近年進展著しいIT/AI技術を駆使し、微生物を対象とした多様な生物情報から、物質生産機能を最大限に引き出した細胞“スマートセル”を高速に設計可能とする新規の情報解析システムを開発します。

国立大学法人神戸大学と国立研究開発法人産業技術総合研究所を拠点とした全19機関による研究チームは、参画する企業や大学が有する微生物から網羅的かつ体系的に取得したDNA、mRNA※11、タンパク質、代謝物等のデータをビッグデータ化し、機械学習等の計算科学手法を用いて、遺伝子発現※12の制御ネットワークモデルや代謝経路※13の最適化モデルを開発します。これら情報解析技術と長鎖DNA合成技術※14、計測・評価技術を統合し、世界的に競争力のある微生物育種技術の確立を目指します。

【5】委託・助成予定先

<研究開発項目〔1〕 植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発(委託事業)>

  • 国立大学法人九州大学、エディットフォース株式会社、国立大学法人東京医科歯科大学、国立大学法人神戸大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人広島大学、国立研究開発法人理化学研究所、国立大学法人東京大学、知的財産戦略ネットワーク株式会社(ゲノム編集)
  • 国立大学法人徳島大学、国立大学法人筑波大学(ゲノム編集)
  • 国立大学法人徳島大学、国立研究開発法人理化学研究所、学校法人明治大学(ゲノム編集)
  • 公益財団法人かずさDNA研究所(代謝系遺伝子発現制御)
  • 国立大学法人京都大学(代謝系遺伝子発現制御)
  • 国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人北海道大学、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学、国立大学法人横浜国立大学、国立大学法人千葉大学、公益財団法人北海道科学技術総合振興センター(代謝系遺伝子発現制御、栽培環境制御)

<研究開発項目〔2〕 植物による高機能品生産技術開発(助成事業)>

  • 株式会社竹中工務店、キリン株式会社、神戸天然物化学株式会社
  • 味の素株式会社
  • ホクサン株式会社
  • 北海道三井化学株式会社
  • 株式会社アミノアップ化学

<研究開発項目〔3〕 高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発(委託事業)>

  • 国立大学法人神戸大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、旭化成ファーマ株式会社、味の素株式会社、江崎グリコ株式会社、神戸天然物化学株式会社、JSR株式会社、株式会社島津製作所、長瀬産業株式会社、日本テクノサービス株式会社、不二製油グループ本社株式会社、プレシジョン・システム・サイエンス株式会社、三菱化学株式会社、公益財団法人地球環境産業技術研究機構、国立研究開発法人理化学研究所、石川県公立大学法人石川県立大学、国立大学法人東北大学、国立大学法人長岡技術科学大学、学校法人新潟科学技術学園新潟薬科大学

【用語解説】

※1 OECDの予測
※2 CRISPR/Cas9
2013年に米研究者らによって発表されたゲノム編集技術の一つ。標的とする塩基配列に相補的な配列を含むガイドRNA鎖とDNA切断酵素Cas9タンパク質により、ゲノム上の任意の配列を切断する。なお、ゲノムとは遺伝情報の全体(すべての遺伝子と非遺伝領域を合わせた情報)を指す。
※3 ゲノム編集
ゲノム配列の任意の領域を切断、置換、挿入できる新しい遺伝子改変技術のこと。任意の領域のみを編集可能なため、従来の遺伝子組換え技術に比して効率や確実性が圧倒的に高い。
※4 スマートセルインダストリー
高度に機能がデザインされ、機能の発現が制御された生物細胞「スマートセル」による物質生産産業のこと。
※5 PPRタンパク質
35アミノ酸の繰り返し配列(pentatricopeptide repeat:PPR)が10~20個連続して構成されたもの。九州大学中村准教授らは、PPRの特定位置の3アミノ酸が、特定のDNA及びRNAを認識することを解明した。
※6 核酸化学的手法
核酸を扱う化学的手法のこと。本プロジェクトでは、新規のゲノム編集技術を開発するために、核酸塩基をもつアミノ酸の合成や2本鎖DNAの認識・解離能を有する人工核酸の設計等を狙う。
※7 遺伝子のメチル化・脱メチル化
DNAにメチル基が付加又は脱離する化学反応のこと。メチル化により遺伝子発現が抑制されることが知られている。
※8 エピゲノム
ゲノムの塩基配列に変化を起こすことなく、DNAへの化学修飾(メチル化)等によって規定される遺伝情報のこと。
※9 次世代シーケンサー
DNAの塩基配列を決定する装置のこと。サンガー法を用いた第1世代シーケンサーと対比して用いられる用語であり、光検出により、数千万から数億のDNA断片を並列的に処理することで、飛躍的な解析スピードの向上、低コスト化を実現した。
※10 ムーアの法則
CPUの性能(集積回路に搭載されるトランジスタ数)が18ヶ月で2倍に増え、コストも同様に低減するトレンドのことで、今日では工業製品の性能予測の指標として広く用いられている。2001年時に100億円程度掛かっていたヒトゲノムの解析コストは、現在10万円まで低下し、ムーアの法則をはるかに上回るスピードで技術革新が進んでいる。
※11 mRNA
メッセンジャーRNAの略。DNAから転写され、タンパク質に翻訳される塩基配列情報と構造をもったRNAのこと。
※12 遺伝子発現
DNAの情報がmRNAに転写され、mRNAの情報を翻訳してタンパク質を合成する過程のこと。
※13 代謝経路
酵素を触媒として細胞内で起きる連鎖的な化学反応の流れのこと。
※14 長鎖DNA合成技術
10kb(キロベース)超の長鎖DNAを化学的に合成する技術のこと。本プロジェクトでは、36kbの長鎖DNAを10日間で合成する技術を開発する。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:後藤、河辺、大竹、梅田 TEL:044-520-5220

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:藤本、髙津佐、坂本、佐藤 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp