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Press Release

世界初、大気圧下での電極触媒の挙動観測方法を開発

―触媒の反応や劣化メカニズムの解明により燃料電池の高機能化に貢献―
2017年6月28日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 古川 一夫

NEDO事業において、大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所は、硬X線による大気圧下での光電子分光測定方法の開発に、世界で初めて成功しました。

今回開発した測定方法を活用することで、燃料電池性能を大きく左右する電極触媒について、実際に電池が作動する大気圧下での挙動観測が可能となります。今後、電極触媒の反応や劣化メカニズムの高精度な観測がなされ、その知見を触媒開発にフィードバックすることで、燃料電池の高機能化を大きく推進し、燃料電池自動車(FCV)の本格普及に向けた課題解決や家庭用燃料電池(エネファーム)のさらなる導入拡大に貢献していきます。

  • 光電子分光測定用装置の写真
    図 開発した光電子分光測定用装置

1.概要

燃料電池自動車(FCV)は、究極のエコカーとして今後本格的な普及が期待されている一方で、使用される固体高分子形燃料電池(PEFC)の低コスト化、車種の拡大に向けた燃料電池の高機能化(高出力化・高耐久化)といった技術課題が存在します。NEDOは、2025年以降の本格普及期に求められるFCV用燃料電池の要求値(コスト:スタック※1製造原価 1,000円/kW以下、スタック出力密度:4kW/L以上、耐久性:50,000時間以上、等)を設定し、これらの達成に資する燃料電池の高度な解析・評価技術や、新しい材料設計指針の創出を目的としたプロジェクト※2を2015年度より実施しています。FCV用燃料電池の技術課題を解決していくことは、家庭用燃料電池(エネファーム)等の低コスト化・高機能化の実現にも繋がると期待できます。

このたび、本プロジェクトで、大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所の研究グループ※3は、燃料電池の高機能化に貢献する強力な解析ツールとなる、硬X線※4による大気圧下での光電子分光測定※5に世界で初めて成功※6しました。

光電子分光測定は、さまざまな物質を原子レベルで分析可能であり、燃料電池開発では電極触媒の研究に広く用いられています。しかし、測定試料の周囲を、大気圧より大幅に低い圧力(真空状態)に保つ必要があるため、実動作環境では電極触媒の周囲に存在する燃料ガスと水を共存させた状態での観測を行うことができませんでした。

今回開発した測定方法を活用することで、燃料電池性能を大きく左右する電極触媒について、実際に電池が作動する大気圧下での挙動観測が可能となります。今後、電極触媒の反応や劣化メカニズムの高精度な観測を行い、その知見を触媒開発にフィードバックすることで、燃料電池の高出力化・高耐久化を推進し、FCVの本格普及に向けた課題解決や家庭用燃料電池(エネファーム)のさらなる導入拡大に貢献していきます。

2.今回の成果

光電子分光測定は、試料から放出される電子のエネルギーを測定することで、試料の状態を観測する手法です。今回、研究グループは、大気圧下での測定を実現するために、放出される電子の運動エネルギーを高めること等により、大気圧下でも電子のエネルギーを測定可能とする技術開発に成功しました。本技術を、大型放射光施設SPring-8※7の「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」(BL36XU)に設置された光電子分光測定装置に適用し、測定検証試料である金薄膜※8を対象として、大気圧下での光電子分光測定を行うことができました。

【用語解説】

※1 スタック
燃料電池の最小単位をセルといい、1枚のセルでは出力が限られるため、必要な出力が得られる数を重ねて一つのパッケージにしたものをスタックという。
※2 プロジェクト
固体高分子形燃料電池利用高度化技術開発事業/普及拡大化基盤技術開発(2015年度から2017年度)
※3 研究グループ
本研究は大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所の高木康多助教、横山利彦教授のグループ、国立大学法人電気通信大学燃料電池イノベーション研究センターの岩澤康裕教授のグループ、国立大学法人名古屋大学物質科学国際研究センターの唯美津木教授、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の宇留賀朋哉主席研究員により行われた。
※4 硬X線
波長が1ピコメートル(ナノメートルの1/1000)から10ナノメートル程度範囲の電磁波のことをX線と呼び、その中でも波長が長い方のものを軟X線、波長が短いものを硬X線と呼ぶ。電磁波は波長が短いものほどエネルギーが高くなる。
※5 光電子分光測定
対象の物質に電磁波をあて、光電効果により放出される「光電子」と呼ばれる電子のエネルギーを測定することにより、その物質の状態を観測する手法。
※6 世界で初めて成功
大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所調べ。
※7 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す理化学研究所の施設。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性の高い強力な電磁波のこと。
※8 測定検証試料である金薄膜
今回、測定方法を確立するために、光電子分光スペクトルが既知の金薄膜を試料として用いた。今後、実使用環境に合わせて測定条件を調整し、白金等の燃料電池の電極触媒について、測定を進めていく。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 新エネルギー部 担当:大島 TEL:044-520-5261

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:藤本、坂本、髙津佐 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp