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Press Release

世界最高性能の半導体光変調器を開発

―従来比で光損失を10分の1に低減、変換効率5倍を達成―
2017年7月25日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
国立大学法人東京大学
技術研究組合光電子融合基盤技術研究所

NEDOプロジェクトにおいて、東京大学は、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)との共同研究により、従来と比較して光の損失を10分の1に低減し、5倍の効率で電気信号を光信号に変換できる世界最高性能の半導体光変調器の開発に成功しました。この光変調器は、膨大な情報を高速で通信するデータセンターやIoT、人工知能といった分野で重要なシリコン光集積回路の大幅な省電力化と小型化に貢献できます。

本成果は、2017年7月24日(英国時間)、英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン版に公開されました。

  • 光変調器のチップのイメージ図と顕微鏡写真
    図1 光変調器のチップのイメージ図(左)と顕微鏡写真(右)

1.概要

データセンターやIoT、人工知能の分野において、膨大な情報を高速かつ低エネルギーで通信するためのシリコン光集積回路※1の重要性が増していますが、電気信号を光信号に変換する効率が悪く、光損失も大きいことが課題となっていました。このような背景のもと、NEDOプロジェクトの「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」において、国立大学法人東京大学は、技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)との共同研究で、この課題を解決する新たな光変調器※2の開発を進めてきました。

今般、本プロジェクトにおいて、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の竹中充准教授らは、従来のシリコン光変調器と比較して、光の損失を10分の1に低減し、5倍の効率で電気信号を光信号に変換できる世界最高性能の半導体光変調器の開発に成功しました。

この新規光変調器を応用することで、シリコン光集積回路の大幅な省電力化と小型化が可能となり、データセンター等の高性能化・省電力化が期待できます。

本成果は、世界的に権威のある英国科学雑誌「Nature Photonics」の2017年7月24日(英国時間)オンライン版に公開されました。

2.今回の成果

シリコン光導波路※3上に、光学特性に優れた化合物半導体の一種であるインジウムガリウムヒ素リン(InGaAsP)を貼り合わせることで、インジウムガリウムヒ素リン中の電子により誘起される屈折率変化のみを用いた光変調動作を世界で初めて実証しました(図1)。インジウムガリウムヒ素リン中での電子誘起屈折率変化はシリコンと比べて10倍以上大きいことは知られていましたが、正孔の光吸収による損失が非常に大きく、従来の技術では電子の効果のみを引き出すことが極めて困難であり、光変調には適していませんでした。今回、アルミナ(Al2O3)を介して、インジウムガリウムヒ素リンをシリコン上に貼り合わせた構造を実現したことにより、電子の効果のみを用いて光変調することが可能になりました。

実証に成功した素子の光位相※4変調部は、二酸化ケイ素上にシリコン層が形成されたSOI(Silicon on Insulator)基板※5上に作製されたシリコン光導波路上にゲート絶縁膜となるアルミナを介して薄膜インジウムガリウムヒ素リンが貼り合わされた構造となっており(図2)、光位相変調部に電気信号を入力することで光の位相が変調され、光変調信号が出力されます。

図3の光位相変調部の断面構造図に示すように、凸状に加工されたシリコンと化合物半導体層は近赤外光を閉じ込められる光導波路として機能します。シリコン層と化合物半導体層の間にゲート電圧を印加すると、化合物半導体とアルミナの界面に電子が蓄積され界面近傍の屈折率が減少します。これにより入力された光の位相が変調され、電気信号を光信号に変換することができます。

  • 光変調器の光位相変調部の素子構造図
    図2 光変調器の光位相変調部の素子構造図
  • 光位相変調部の断面構造図と導波路に閉じ込められた光の電界分布
    図3 光位相変調部の断面構造図および導波路に閉じ込められた光の電界分布

結果として、従来のシリコン光変調器に比べ、光損失を10分の1に抑制しつつ変調効率を5倍に高めることに成功しました。また、多値変調による100ギガビット/秒の高速変調においても良好な光信号が得られることを明らかにしました。

今回の成果は、高効率かつ低損失の光変調に新たな手段を与えるものであり、光変調器を利用したデータセンターの高性能化・省電力化のみならず、次世代光ネットワークで必須となる光スイッチや自動運転車で必要となるレーザースキャナなど幅広い応用が期待されます。

3.発表雑誌

  • 雑誌名:英国科学雑誌「Nature Photonics」(オンライン版:7月24日)
  • 論文タイトル:Efficient low-loss InGaAsP/Si hybrid MOS optical modulator
  • 著者:Jae-Hoon Han, Frederic Boeuf, Junichi Fujikata, Shigeki Takahashi, Shinichi Takagi, and Mitsuru Takenaka
  • DOI番号:10.1038/nphoton.2017.122

【用語解説】

※1 光集積回路
半導体レーザー、光導波路、光スイッチ、光変調器、光検出器などの各種の光機能素子を一つの基板上に集積化し、信号の増幅、発振、変調、復調など幅広い機能を光信号の形で処理しようとする超小型光回路。
※2 光変調器
入力された電気信号を光の信号に載せ換える素子。電気信号によって光が感じる屈折率を変化させることで、デジタル電気信号をデジタル光信号に変換する。
※3 光導波路
光を導くためのガイド。光にとっての配線に相当するもの。光が屈折率の高い部分に集まる性質を利用して、屈折率の高い部分を配線上に加工したもの。半導体や誘電体を使って作製することができる。
※4 光位相
光の波が一周期内のどのタイミングにいるかを示す量。
※5 SOI(Silicon on Insulator)基板
上部シリコン層とシリコン基板との間に絶縁膜となる二酸化ケイ素が挿入された特殊なシリコン基板。シリコン基板と電気的に絶縁されることから、高速かつ低消費電力な大規模集積回路向けに使用されている。また上部シリコン層に強く光を閉じ込めることが可能であり、シリコンフォトニクス(シリコン基板上に発光素子、受光素子、光変調器などの光デバイスを集積する技術)用途で用いられている。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO IoT推進部 担当:梅田、大橋、中山、岩本 TEL:044-520-5211­

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:髙津佐、坂本、藤本 TEL:044-520-5151­ E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp