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熱流センサーを用いた相変化中の物質の熱流出入量の計測技術を開発
―低温物流における配送品の品質向上への貢献に期待―

2019年1月29日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
国立研究開発法人産業技術総合研究所
未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合

NEDO、産業技術総合研究所、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)は、フレキシブルな熱流センサーを袋状に成型し、対象の物質を包むことで、相変化中で温度が一定な物質の熱の流出入量を定量的に計測する技術を開発しました。また、本技術を活用し、保冷剤の保冷能力の残量を算出し外部端末に表示するシステムを開発しました。

これにより今後、保冷剤の融解の事前予測や熱流入履歴の取得などが可能となり、低温物流や氷枕、高温作業用衣服の冷却などの保冷剤の用途に関して、保冷能力が無くなる前に交換できるようになるなど、利便性の向上が期待できます。

保冷剤の保冷能力の残量をリアルタイム計測している様子
図1 保冷剤の保冷能力の残量をリアルタイム計測している様子

1.概要

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、身の回りに存在する未利用熱の有効活用を促進するため「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」プロジェクト※1を実施しており、軽量で折り曲げ可能(フレキシブル)な熱電変換素子※2の高性能化に関する研究開発を推進しています。

氷の融解などの相変化においては、物質は潜熱※3に相当する熱量を外部と授受し、相変化が終了するまでの間、物質の温度は一定に保たれます。通常、熱関連の計測は温度の測定を通じて行われますが、相変化中の物質は温度が一定のため物質の温度を直接計測しても物質への熱の流出入量は求められません。一方で、保冷剤などの相変化を利用して物体の温度を保つ用途においては、その利便性向上のため、相変化中の物質への熱の流出入量を定量的に把握することが求められます。

こうした背景から、今回、NEDO、国立研究開発法人産業技術総合研究所、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)は、フレキシブルな熱電変換素子を袋状に成型し、対象の物質を包むことで、相変化中で温度が一定な物質の熱の流出入量を定量的に計測する技術を開発しました(図1)。また、本技術を活用し、保冷剤の保冷能力の残量を算出し外部端末に表示するシステムを開発しました(図1)。保冷剤の融解の事前予測や熱流入履歴の取得などが可能となり、今後、低温物流や氷枕、高温作業用衣類の冷却などの保冷剤の用途に関して、保冷能力が無くなる前に交換できるようになるなど、利便性の向上が期待できます。また、保冷剤以外にも蓄熱材、潜熱式湯たんぽなどの潜熱を利用する製品にも、同様に使用することが可能です。

今後は、製品化に向けた課題の抽出と計測感度の向上に関する検討を行います。また、保冷剤以外の相変化を利用する材料への本技術の適用可能性についても検討を行います。

なお、本研究成果は、2019年1月30日から2月1日まで、東京ビッグサイト(東京国際展示場)で開催される「ENEX 2019」および「JFlex 2019」で展示します。

  • 袋状熱流センサーによる熱流計測の概念図
    図2 袋状熱流センサーによる熱流計測の概念図

2.今回の成果

(1)フレキシブル熱流センサーの開発

フレキシブルな熱流センサー※4で保冷剤の表面を覆うことで、熱は熱流センサーを通過して保冷剤に流入するようになります(図2)。従って、熱流センサーの出力を計測することで保冷剤への熱流入量を直接計測できるようになります。

保冷剤全体を熱流センサーで包むためには、大面積でフレキシブルな熱流センサーが必要です。今回、フレキシブルなフィルム基板を用いるとともに、大面積な材料パターンを容易に作製できる印刷法※5を用いることで、大面積でフレキシブルな熱流センサーを作製しました。一般に、発電用に用いる熱電変換素子は、大きな電力を発生させる必要があるため、ミリメートルオーダーの厚さの熱電変換材料が必要となりますが、印刷法ではそのような厚い材料を作製するのは困難です。

そこで、本研究では、薄い熱電変換材料でも動作できる素子構造を有する熱流センサーを作製しました(図3)。この素子の場合、熱の通過によりフィルム基板の表面と裏面の間に温度差が発生します。熱電変換材料がスルーホール※6を通じて基板の表面と裏面の間でつながっているため、フィルム基板の表裏間に生じた温度差は熱電変換材料内にも生じます。熱電変換材料は材料内に生じた温度差に比例した電圧を発生する機能を有しています。発生電圧から逆算することで素子を通過する熱量を計測できます。この構造の場合、熱電変換材料層が薄い場合でも材料内に温度差が発生するため、材料に厚みを持たせる必要がなく、印刷法を用いて素子作製が可能となります。

印刷法で作製できる熱電変換材料として、今回はカーボンナノチューブ‐高分子複合材料を用いました。図3の構造の熱流センサーを印刷法で作製するためには、スルーホール部を通過できる程度の適度な流動性を有し、高い電圧発生能力を有する熱電変換インクの開発が不可欠となります。本研究では、バインダーポリマー種、固形分濃度、およびインク溶液の混合手法を最適化することで、そのような熱電変換インクを開発しました。これにより、印刷法を用いて大面積なフレキシブル熱流センサーを作製することに成功しました。

  • 作製したフレキシブル熱流センサー
    図3 作製したフレキシブル熱流センサー

(2)保冷剤の保冷能力の残量を外部端末に表示するシステムを開発

袋状に成形した熱流センサーで保冷剤(氷)を包み、保冷箱内に設置し、流入熱量の測定を行いました(図4(a))。保冷剤温度は約180分まで約0℃を保持し、その後上昇しました(図4(b))。これは、氷が180分程度で完全に水に相変化したことを示します。箱内の温度は保冷剤が融解した後に大きく上昇しました。保冷材への流入熱流量は保冷剤の融解後に急激に減少しています。これは、保冷剤の融解後、保冷剤温度が箱内温度に近づき、保冷剤に流入する熱流量が減少したためと考えられます。このように、開発したフレキシブル熱流センサーを用いて、保冷剤への熱流入量の計測に成功しました。

さらに今回は、市販の無線送信機能を有した電圧計を熱流センサーに接続し、受信した電圧信号を元に外部端末上に保冷剤の保冷能力の残量、および保冷能力が作用する残り時間をリアルタイムに表示させることに成功しました(図1)。

  • (a)保冷剤を袋状熱流センサーで包み、保冷箱内に設置した状態の写真(b)保冷剤への流入熱流量(左縦軸)、保冷剤の温度(右縦軸)、保冷箱内の温度(右縦軸)の推移
    図4 (a)保冷剤を袋状熱流センサーで包み、保冷箱内に設置した状態の写真
    (b)保冷剤への流入熱流量(左縦軸)、保冷剤の温度(右縦軸)、保冷箱内の温度(右縦軸)の推移

【注釈】

※1 「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」プロジェクト
プロジェクトリーダー 小原春彦氏(産業技術総合研究所 企画本部 副本部長)の下、未利用熱エネルギーに関する革新的な活用技術の研究開発を行う。事業期間は2013年度から2022年度(うち2013~2014年度は経済産業省にて実施)。
※2 熱電変換素子
熱を電力にエネルギー変換する素子。素子を通過する熱流量に比例して電圧を発生する。従って、熱流センサーとしても用いることができる。
※3 潜熱
物質が相変化する際に必要となる熱エネルギー。例えば氷が融解し水になる際には、1kg当たり約335kJの熱エネルギーが必要となる。
※4 熱流センサー
単位時間当たりに流出入した熱量を計測するセンサー。
※5 印刷法
材料を混合させた溶液を塗布し、乾燥させることによって、材料のパターン形成を行う手法(例えばインクジェット印刷)。高温や真空を必要としないため、安価なプロセスとされている。
※6 スルーホール
基板に貫通穴を作製し、この穴を通じて基板上下間で電気的な接触を持たせることができる。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 省エネルギー部 担当:近藤 TEL:044-520-5281

産業技術総合研究所 フレキシブルエレクトロニクス研究センター 担当:末森

TEL:029-861-4407 E-mail:kouji-suemori@aist.go.jp

未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合 担当:宇都、箕浦 TEL:03-3592-1284

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:佐藤、坂本、藤本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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