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連載シリーズインタビューFocus NEDO43号より

相樂希美写真

近年、水に関して、世界各国で様々なニーズが高まり、拡大が見込まれている水ビジネス市場。卓越した要素技術を持つ日本にとって、この分野での国際競争力をつけ、市場に進出、拡大していくことは、重要な課題である。この課題に NEDOがどう取り組んでいるか。その意義、成果と今後の方向性について、 NEDO環境部長に聞く。


(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)環境部長 相樂 希美

相樂 希美(さがらのぞみ)プロフィール●1989年東京大学大学院工学系研究科を修了後、通商産業省へ入省。1996年プリンストン大学ウッドローウィルソン校修了(M.P.A./行政学修士)。2009年経済産業省貿易経済協力局貿易管理部安全保障貿易管理課安全保障情報調査室長、2011年7月より現職。

世界トップクラスの要素技術を背景に優位性のあるビジネス展開を推進する

―水関連事業について、 NEDOはどのような取り組みをしているのでしょうか。

相樂 人口増加や都市化・工業化の進展に伴い、世界の水需要は著しく増加しています(図1)。こうした状況を受け、2007年時点で約 36兆円だった水ビジネス市場は、2025年には約87兆円にまで拡大することが見込まれており、世界では、いわゆる水メジャーと言われる水関連企業に加え、新規企業の参入など、国際競争は激しさを増しています。こうした中、政府の「新成長戦略」においても、インフラ分野の海外展開を後押ししているように、日本企業がいかに水ビジネスに参入していくかが重要な課題です。

 日本企業は現在、水処理に必要な膜技術等の要素技術は世界トップクラスの高い技術力を有しており、素材・部材供給には強みがあります。しかし、管理・運営は、これまで自治体が事業を担ってきたこともあり、この部分のノウハウの蓄積が民間企業には乏しく、その結果、世界の様々なニーズに対応したシステムとしての受注が少ないというのが実情です。

 そこで、NEDOでは、日本企業が強みを持つ要素技術のさらなる強化に加え、水資源管理・運営技術の強化、国内外での普及支援の推進を目的として、平成21年度から「省水型・環境調和型水循環プロジェクト」に取り組んでいます。

日本の優位な技術が求められる「成長ゾーン」を事業のターゲットに

―プロジェクトの事業戦略を教えてください。

相樂 「省水型・環境調和型水循環プロジェクト」の基本戦略は、素材・部材供給から運営・管理技術までの事業全体を統括する「プライム・コントラクター」として、日本企業の海外市場への早期参入支援と国際競争力強化を図るというものです。

 水関連事業は、伝統的な上下水分野を「ボリュームゾーン」と位置づけると、再生利用や海水淡水化など近年市場化されてきた分野を「成長ゾーン」と位置づけることができます(図 2)。

 NEDOは、この「成長ゾーン」をプロジェクトのターゲットとし、日本ならではの技術を核としたビジネス展開を目指しています。つまり、他国がすぐにまねできるような技術では、どうしてもコスト競争で負けてしまいます。そこで、日本独自の高度な水処理技術を開発することで、大幅な省エネルギー効果やコストダウンを実現し、さらには環境負荷へも配慮した、国際競争力を持ったビジネス展開を目指し、プロジェクトを推進しています。

図1、2、3

―プロジェクトでは、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。

相樂 要素技術については、膜技術をはじめとする水処理技術をさらに高度化し、これらの技術を活用した、省エネルギー・低環境負荷の水循環システムの開発を目指しています。

 例えば、水処理のろ過工程に欠かせない膜ですが、有機無機ハイブリッド膜という新素材の開発により、従来の膜のレベルを大きく上回る分離膜性能を持つ耐塩素性の膜形成に成功しました。また、2010年8月からは、下水や産業排水を高度処理する場合に用いられる膜分離活性汚泥法(MBR:Membrane Bio-Reactor)技術を用いるパイロット試験装置を運用し、処理エネルギーの削減や目詰まりしにくい低ファウリング膜の技術開発を進めています。そのほかにも、めっき廃液からニッケルを高回収する新抽出装置の開発や、アナモックス菌という新機能微生物を低水温化で培養し、活用した新しい窒素除去システムを開発しています。

 次に、水資源管理・運営技術については、国内では、福岡県北九州市に海淡・下水再利用統合システム「ウォータープラザ北九州」を、山口県周南市に下水・工場排水再利用統合システム「ウォータープラザ周南」を開設し、それぞれの自治体と相互協力の体制を確立し、官民一体となって、トータルライフサイクルコストの低減、長期的な省エネルギー効果の確認などを課題として実証研究に取り組んでいます。

 海外では、アラブ首長国連邦において、ラスアルハイマ首長国政府機関と連携して、点在する水需要地域に小規模の水処理システムプラントを建設し、2010年5月に運転開始、良好な処理運転を継続しつつ、その事業性を評価しているところです。このほか、サウジアラビアでは膜技術を用いた工業用水再利用化設備の新規導入を、オーストラリアでは大規模ダムで集水しきれないような雨水などの水資源を有効活用する水資源供給システムを導入するなど、様々な実証研究を実施し、実績を重ねています。これらの国々は、今後の水ビジネスにおいて、高い市場成長率が見込まれる地域であり、NEDOは重点的に取り組んでいます(図3)。

 水処理は、国や地域によって処理対象となる水質等が異なるため、どの地域にどんなニーズがあるかを知ることがまず必要です。そのためにNEDOは要素技術開発と実証研究のどちらにおいても、多様な条件に対応できるよう十分な事前調査を実施し、プロジェクトごとに違う様々な課題を設定しています。

ニーズに応えた課題解決で国際競争力を強化

―NEDOの取り組みにはどのような意義があるのでしょうか。

相樂 一般に水関連事業は、事業期間が長期であること、飲み水や産業排水の処理など水問題に関する課題が多岐にわたること、特に海外では為替の問題等のリスクが少なくないことから、民間企業だけで海外へ進出するには障壁が高いといえます。

 また、海外へ進出する場合、相手国の中央政府や関連機関との関係を構築し、水に関する法制度等を確認した上で、両国の費用負担や公租公課等を取り決める、といった国レベルでの交渉が必要になってきます。こうしたことからも、政府機関であるNEDOが事業を支援するということに大きな意義があると考えています。

 一方、水関連事業は、ただ個別の要素技術を輸出すればよいというものではなく、相手国の課題を解決すると同時に、ビジネスに結びつけていかなければなりません。そのためにも、ニーズを的確に把握した上で、きめ細かな対応ができるよう、様々な技術を最適に組み合わせ、パッケージ化してインフラ・システムを輸出することが必要です。それには、全体をどのようにマネジメントするかが極めて重要となります。この点からも、高度なマネジメント力を持っているNEDOが関与する意義は大きいと考えます。

 今後も、日本企業がいち早く世界市場へ進出できるようNEDOは支援しつづけてまいります。


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定期広報誌「Focus NEDO」第43号より