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SPECIAL TALK

技術革新でがんは治る病気になった

――最初に、現在に至るまでのがん対策の中で画期的な出来事だったと思われることで、特に技術開発に関係して印象に残っていることがあればお話しください。

垣添 私はがんの臨床を40年、それと並行して基礎研究にも15年ほど携わってきました。また私自身も大腸がんと腎臓がんの経験者であり、妻もがんで亡くしました。がんの経験者であり遺族でもある。また国立がんセンターの名誉総長や日本対がん協会の会長を務め、がん行政にも20年近くかかわってきました。その意味で、あらゆる立場からがんに深くかかわってきたと言っていいと思います。私の専門である泌尿器がんの分野で言えば、抗がん剤シスプラチン※1の登場によって、非常に進行した、多発性の転移を伴うような精巣腫瘍、睾丸腫瘍が治るようになったことは強力なインパクトがありました。それから、CTやMRIが導入されたことががんの診断を精緻なものにしました。臨床の現場で超音波が聴診器のように使われるようになったことで、早期発見が可能になり、治療の選択肢が広がったことは強く印象に残っています。これによって、手術療法、放射線治療のいずれも早期発見によって患者さんの負担が小さく処置できるようになったことは非常に大きな進歩だったと思います。

佐久間 私は医療工学の専門家として、医療画像の情報を用いて手術・治療手段を何らかの形で誘導するという技術に関する研究をしています。外科手術だけでなく放射線治療のIMRT(強度変調放射線治療)なども含め、ここ14~15年で、画像を使ったナビゲーションの技術は非常に進歩してきていると思います。その背景には、コンピューターの進化によって、従来は難しかった大規模な三次元計算が高速にできるようになったことがあります。現在、臨床で使われているダ・ヴィンチ※2という外科手術システムがありますが、それに限らず、あのような精密な機器で、小さな機械で、かつまた身体の中で動くといったような機械の技術などはかなり進んだのではないかと思っています。吻合(ふんごう)※3する機械や電気メスなど、従来からある基本的な技術をコンピューターでコントロールできる小型・多機能なものができてきました。これらは現在の臨床現場でお役に立っているのではないかと思います。

加藤 私は産婦人科の臨床および臨床研究でがんに長くかかわってきました。産婦人科の中で一つ例外的に治り始めた絨毛がんについて、その原因を突き止め、他のがんに応用できないかということが研究動機だったのですが、絨毛がんが治るようになった理由は二つあります。一つは絨毛がんを診断し、病状を追跡する方法――具体的に言うとHCGというホルモン、一種の腫瘍マーカー※4で妊娠の診断に使うタンパクなのですが、これが発達して非常に良い診断法ができたこと。もう一つは、何度でも使えて、かつ副作用がコントロールできるメソトレキセートという治療薬の開発によって治療成績が飛躍的に向上したこと。この二つの要因によって、日本では現在、ほとんど絨毛がんでの死亡はなくなりました。この絨毛がんでの経験から、がんを治すためには正確で簡単な診断法と何度でも使えて侵襲が少なく、かつリーズナブルな価格の治療方法、この二つのコンビネーションが開発できれば、他のがんも治せる可能性があるのではないかということで、現在NEDOで「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」のプロジェクトリーダーを務めています。


※1【シスプラチン】1965年に、アメリカのローゼンバーグ博士によって、細菌の増殖を抑える抗菌薬として利用できることが発見され、その後、抗腫瘍効果が確認されてがん治療に用いられるようになった。肺がんや食道がん、頭頸部がん、睾丸腫瘍など、様々な種類のがんに対してその効果が確認されており、現在抗がん剤として最も広く使われている薬剤の一つ。

※2【ダ・ヴィンチ】da Vi nci(ダ・ヴィンチ)は、米国のインテュイティヴ・サージカル社が開発したマスタースレイブ型内視鏡下手術用の医療用ロボット。術者は内視鏡により得られた三次元の立体画像を見ながら、ロボットアームを遠隔操作して手術を行う。内視鏡下手術なので患者の体への負担が小さい上、機能温存の向上や合併症リスクの大幅な回避など、様々なメリットがある。

※3【吻合】外科手術における手技の一つで、血管と血管、神経と神経などをつなぎ合わせること。筒状の臓器(血管、神経、腸など)の端と端を重ねて折り込み、密着させて生体分解性リングなどで固定接着させる。

※4【腫瘍マーカー(がんマーカー)】がんの発生や進行と共に増加する、そのがんに特有な生体因子のこと。主に血液中に遊離してくるタンパク質や酵素などがあり、がんの動態を把握する上で有効な情報となる。


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定期広報誌「Focus NEDO」第46号より