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SPECIAL TALK

「がん超早期診断・治療」の可能性とハードル

――NEDOは、2010年度から「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発」プロジェクトに取り組んでいます。がんの早期診断・治療技術の開発が人々にもたらすもの、そして技術開発のプロセスにおける問題点や課題についてご意見をお聞かせください。

垣添 欧米の優れた医薬品や医療機器の開発については、臨床と工学系あるいは医薬系の、いろいろな研究者と企業の共同研究が数多くなされ、その情報が学会などで自由に流れてきて、日本にいてもこれは良さそうだ、使いたいと思うわけです。日本の場合、医薬品や医療機器の発売後に何らかのトラブルが発生すると企業倫理的に批判を受けます。そのことが開発にブレーキをかけているという側面があると思います。日本の優れた技術を最大限に活かすためには、医薬品メーカーや医療機器メーカーが思い切って一歩を踏み出せるような制度的土壌をつくることも大切だと思います。

加藤 紘氏

加藤 外国のものは非常に練られていて上手にできています。だから医療サイドとしては良いものを使いたいというのが本音で、それに負けないようなものを、欧米の感覚とは違う日本人の医療として欲しいものを、技術はあるはずなので、いかに早く日本の中で作れるかということかもしれませんね。
佐久間 非常に高い外科医の技術を活かし、そこにうまく適用できるような技術や機器は、多分日本独自のものが出てくると思いますが、そのためには医と工が常にディスカッションしていないといけない。もう一つは、ディスカッションだけではなくある程度の段階まで動くものを作って、それを現場で評価してもらうということをしないといけないですね。
加藤 賛成です。安全性などの事前チェックは勿論大切ですが、良い技術が開発されれば積極的に現場で使ってみて、その結果をフィードバックしながら更に実情に合った、あるいは日本人の身体に合ったものにブラッシュアップしていく。このような柔軟な対応があれば、開発側としても有り難いです。いずれにせよ診断も治療も世界的に大きく変化している訳で、それをリードし、かつ日本人に合った技術を開発するためにも、医療現場と開発現場が一体となった協働体制が必要だと思います。
垣添 現在、がんは早期発見できれば簡単に治せる疾患です。もちろん進行がん、再発がんになってしまったら、これは本当に難しい疾患と言わざるを得ません。世界的にも治癒率は50~60%というところですね。しかし初期のがんであれば、場合によっては入院もしないで治せる時代なのです。仮に手術や放射線治療が必要な場合でも、患者さんへの負担はごく小さい。事実、日本が中心となって開発した重粒子線治療※5などは、肺がんに関して言うと「1回の照射で治せないか」という研究が進んでいます。日本では今後、高齢のがん患者はますます増えていきますから、そういう人たちにとっては、非常に画期的な手法になる可能性がありますので、私は大いに注目しています。
加藤 なぜ早期発見できないと治らないのかというと、がんは別名・悪性新生物と呼びますが、感染症のウイルスなどと同様に全く違う種類の細胞が現れたわけで、発見が遅れると耐性のがんが出てきたり、広がり方の性質も異なってくると手に負えなくなるわけです。だから早期に発見して、早期に治療することが大切なのですね。
垣添 形態診断で言うと、いろいろな機械で1㎝くらいでも見つけられるようになってきたのですが、例えば5㎜で見つかったとしてもそれが本当に早期のがんなのか区別がつかないという新しい問題が出てきます。したがって、1㎝以下で見つける努力はするとしても、他の分子マーカーとかいろいろなものを併用しないとがんと診断できないので、そうした新しい技術の開発が同時に必要だと思います。膵臓がんなど一部のがんを除けばだいたい2㎝以下、特に1㎝以下の段階で見つかったらまず治せます。
加藤 今の1㎝ということに関しては、がんの性質や悪性度などをもう一つの診断基準にして、治療方法を併せて考えるというところまで持っていかないといけないと思います。分子マーカーなどに期待しているところはそこです。

佐久間 一郎氏

佐久間 技術的な進歩によって、仮に1㎝未満でがんと疑われる部位が発見できたとして、それを予防的に処置してよいかどうかは判断の分かれるところですよね。例えば、非常に侵襲度が小さい方法で深部のがんをピンポイントで治療できる、あるいは放射線治療で健常部位に対する被曝が非常に小さいという技術が開発された場合、確定診断がなくても予防的に処置するという考え方はあるのでしょうか。
加藤 それは危険だと思いますね。肝臓がんで典型的に言われているんですが、微妙な大きさの肝硬変でがんかもしれない状態のものを叩くと、その部位は治るけれども、隣接する部位に悪影響を及ぼすことがあるそうです。1㎝で発見すれば完全に治るのであれば、先走ったことはやらないでちょっと様子を見たらどうですかということになるのではないでしょうか。
垣添 そういう状況であれば、まず患者さんに丁寧に説明をする必要がありますね。「こういう治療法がある。あなたの場合、がんかどうかはわからないけれども、負担が少ないからやってみますか」と説明した上で患者さんに決断してもらうということでしょうね。
佐久間 やはり医療上の有効性や診断の有効性をどう評価するかというところでの共通の議論をしなければならないのですね。エンジニアリングとして精度が高く高感度にわかるということと実際の診断との関係をしっかりと押さえてから世に出すということか、( 開発品を)使ってみながら診断の能力とを並行して確認しながらやっていくのか、そのあたりが分かれ道なんでしょうか。


――「侵襲度がないならとりあえず医療機器(検査機器)として認可し、世に出した後でさらに精度を上げていきましょう」という考え方は乱暴でしょうか。

垣添忠生氏

垣添 医療機器の許認可という観点から見ると私はもっと緩めてもよいのではないかと考えています。機器の安全性をどんなに突き詰めていっても依然としてブラックボックスは残ります。また、医療機器を現場で扱うのは医師、看護師、技師などのスタッフです。どんなに安全性の高い機器であっても使い方を誤れば事故につながります。それであれば、ある程度まできちんと安全性が確認された時点で認可してもよいのではないかと思います。医薬品と同様に厳しい安全性を求められているから、企業が新しい技術開発に尻込みするという状況が続いているのだと思います。
加藤 私も基本的には垣添先生のご意見に賛成です。ただし、その後のフォローも大切ですね。医療費の枠の中で使うということであれば、ある程度の制限をかけた中で使用しないと、一部の健康食品のようにムードだけで流れてしまい、弊害が出たときにチェックできないということにもなりかねません。認可するときには感度の高いものを見つける。ただし使ってみて効果がないものは「必要がない」と判定してくれることが大切です。
佐久間 医薬品と異なる医療機器の特殊性は、まさにその点にあると思います。医療機器の場合は「機器+使う人」で初めて機能が発揮されるんですね。その意味では、使い方を限定した形で認可し、現場で評価しながら精度を高めていくという考え方が必要なのでしょうね。

※5【重粒子線治療】重粒子線(炭素イオン線)を用いた放射線がん治療装置のこと。従来からのX線、ガンマ線などに比べ、体の表面では放射線量が弱く、がん病巣において放射線量がピークになる特性を有しているため、がん病巣にのみ充分なダメージを与えながら、正常細胞へのダメージは最小限に抑えることが可能とされる。


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定期広報誌「Focus NEDO」第46号より