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SPECIAL TALK

患者の負担軽減につながる技術開発を

――今後の研究開発の方向性について、皆さんのお考えをお聞かせください。

佐久間 がんマーカー※4などが詳細に解明されてくると、例えば医薬品で「あるタイプのがん患者には効くけれども、それ以外の患者には効かない」ということが出てくると思います。その結果、極めて少数の患者にのみ有効な薬が登場する可能性は高い。安全性も担保して、かつ迅速にやるにはどういうデータの取り方をしてどうやったらいいのかが大きな課題になります。数が限られたものを今までのように非常に大きな治験数を求めたら、これはもう時間がかかる。
垣添 言われたように患者数の限られたがんに対しては、これまでのやり方は通用しないでしょうね。
佐久間 そういうことを想定して科学的にきちんと説明できるか、今後の審査をどの方向に持っていくかというのは一つ大きな課題です。
加藤 そうした状況に応えられるような診断治療のキーワードとしては個別化があげられると思います。患者の個別化だけでなくがん細胞の個別化ですね。1人の患者の中でもがん細胞の部位や性質によって薬が効く細胞と効かない細胞がある。その個別化までできるような診断法と、その診断に応じてセットした治療法が必要になってきます。現在は診断のクライテリア※6が、がん細胞のサイズや広がり具合ですが、それとは別にがんの性質に着目した新たなクライテリアが必要になってきます。願わくば使う側や許認可を与える側も、そうした新しいクライテリアが出たときには、「それは未だ認めていない」などとは言わず、おおらかに対応していただきたいですね。
垣添 免疫療法を例にとれば、従来の抗がん剤治療のクライテリアでは評価しきれないような新しい問題が出てきています。そのためアメリカでは、FDA(アメリカ食品医薬品局)が免疫療法のための判定基準をいち早く作成し、研究者はそれにしたがって研究を進めるような体制になっています。日本でも新たな状況に対してPMDAなどがプロトコルを提案する必要があると思います。
佐久間 PMDAでも、そういう問題意識の下で議論や情報交換ができる場をつくろうということで、いま急速に改革を進めているところです。


――私たちNEDOの仕事は、バイオロジーの情報を統合し、評価し、開発する機器の性能にフィードバックすることだと考えています。最後に、今後のNEDOの活動に対して、ご意見・ご注文があればお聞かせください。

垣添 WHOの2005年の統計では、日本も含めた先進諸国において、がんで死亡する人に占める80歳以上の人の割合は30%ぐらいです。ところが2050年の予測では他の国が30~40%なのに対して、日本だけが50%を超えるのです。日本ではがんで死亡する高齢者の数がものすごいスピードで増えていきます。そうなると、早期診断手法、治療、緩和ケアなどの技術を開発する際にも、患者さんの負担がごく小さいものでなくてはなりません。医療機器の開発によってこうした状況にどう対処するかという視点が、今後非常に重要になってくると思います。NEDOにはその点で期待しています。

左から佐久間氏、垣添氏、加藤氏

佐久間 そうですね。過去にNEDOが開発してきた技術の中には「当時はうまく実用化につながらなかったけれども、コンセプトは非常にいい」というものがいくつもあるのだろうと思います。その後、コンピューターの進化によって内視鏡技術やセンシング技術などはレベルアップしていますから。現在の技術環境の中で当時のコンセプトをもう一度見直してみると、使える技術あるのではないかと思います。
加藤 今日の座談会では、主に積極的な診断・治療について話をしてきましたが、患者さんにとっては「がんは一生の問題」ですので、治療後のフォローや障害が残ったときのリハビリテーション、疼痛緩和までを視野に入れた研究開発が課題だと思います。積極的治療に関しては、やはり正確で侵襲が少なく、安いコストで繰り返して診断や治療ができることが大切ですから、そのためのデバイスの開発、診断法の開発を積極的に行っていきます。こうした技術開発によって「がんは治る病気だ」という意識が広がれば、検診の受診率ももっと上がるでしょう。私たちはそのために努力をしなければなりませんね。

※4【腫瘍マーカー(がんマーカー)】がんの発生や進行と共に増加する、そのがんに特有な生体因子のこと。主に血液中に遊離してくるタンパク質や酵素などがあり、がんの動態を把握する上で有効な情報となる。

※6【クライテリア】criteria=診断基準。評価基準。


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定期広報誌「Focus NEDO」第46号より