STEP3 重点的に解決すべき不便さ・不安の検討
調査内容
調査の目的
- STEP2の検証結果および小売・製造企業へのヒアリング調査をもとに、「日常生活に不便さを感じる高齢者」の重点的に解決すべき不便さ・不安を検討し、事業者が商品企画をおこなう際に参考となる情報を整理する。
- 「日常生活に不便さを感じる高齢者」向けの商品開発のポイントを取りまとめ、事業者が商品開発をおこなう際の留意事項を提示する。
調査の方法
- 文献調査
-
小売事業者・関連する製造事業者へのヒアリング調査
主なヒアリング先
・スポーツ用品メーカー
・ハウスメーカー
・ヒアリングエイド製品メーカー
・衛生用品メーカー
・通信販売事業者
・福祉用具卸事業者
・デザインの専門家 - 検討委員会の実施
調査・検討結果
- 1.第3回検討委員会(2016年7月14日実施)・第4回検討委員会(2016年8月24日実施)の検討結果(概要)
- 2.重点的に解決すべき不便さ・不安
- 3.開発の方向性
- 4.「日常生活に不便さを感じる高齢者」向けの商品開発時のポイント
1.第3回検討委員会(2016年7月14日実施)・第4回検討委員会(2016年8月24日実施)の検討結果(概要)
調査結果をもとに「日常生活に不便さを感じる高齢者」の重点的に解決すべき不便さ・不安を2回の委員会で検討
- 重点的に解決すべき不便さ・不安を8テーマ抽出し、運動機能の問題、コミュニケーションの問題およびその他に分類して整理
- それぞれのテーマの開発の方向性(不便さ・不安を感じるシーンや、それを取り除きたいと考える本人のモチベーションなどの背景を含む)について検討
- また、「日常生活に不便さを感じる高齢者」のライフスタイルや心理状況を踏まえた上で、商品開発のポイントについて議論
2.重点的に解決すべき不便さ・不安
不便さ・不安 | 不便さ・不安を解決したいと思う背景(本人のニーズ) | |
---|---|---|
運動機能の問題 | ||
①歩行スピード・距離の低下 | つまずくことなく、自分自身の足で自由に歩きたい | →開発の方向性 |
②運動継続の難しさ | 適度な運動と栄養管理により、健康を維持したい | →開発の方向性 |
③階段の踏み外しの不安 | 自宅内・屋外を安全に移動し、安心して暮らしたい | →開発の方向性 |
④調理全般の不便さ | 調理の際の事故予防・疲労軽減により、手作りの料理を楽しみ続けたい | →開発の方向性 |
コミュニケーションの問題 | ||
⑤コミュニケーション不足 | 会話の機会を増やして、うつや認知症を予防したい | →開発の方向性 |
⑥耳の聴こえづらさ | スムーズな会話を実現し、社会や家庭での役割を十分に担い続けたい | →開発の方向性 |
⑦うっかり忘れの不安 | 約束や服薬を忘れないようにして、幅広い活動を続けたい | →開発の方向性 |
コミュニケーションの問題 | ||
⑧軽失禁の不安 | 軽失禁の不安や不快感を軽減することで、安心して外出したい | →開発の方向性 |
3.開発の方向性
【運動機能の問題】
①歩行スピード・距離の低下
~躓くことなく、自分自身の足で自由に歩きたいニーズ~
- 加齢にともない足腰の筋力が弱まると、それまでと同様に長時間出かけたり、また毎日出かけたりということが困難になりがちである。その結果、行動範囲が狭まると、さらに足腰の筋力は落ち、段差での躓き易さにつながる。
- 対象者は、趣味の活動や家族や友人等との交流関係をこれまでと同じように続けたい気持ちが強い傾向にあるが、それに身体機能が追い付かない部分もあり、そのギャップに不便さやストレスを感じる傾向にある。特に、孫との交流の時間を大切にしたい人は多く、それをサポートする製品へのニーズは高い。
これまでと同じように、自分の足で自由に安心して歩くモチベーション
本当はしたいこと | 足腰の弱りにより不便さや不安を感じること |
---|---|
長時間の歩行すること (ウォーキングイベントや旅行への参加)
|
・無理をすると数日足腰が痛くなり、歩けなくなってしまう ・その結果、毎日予定を入れられない |
孫と出かけること | ・1日中歩くことができないので、一緒にでかけられない |
行きなれた場所での買物 |
・坂道の上である場合、足腰が痛くなる ・帰りに荷物が増えるので自動車で買物にいくが、運転技術が低下しているので事故の不安を感じる |
革靴やヒール靴を履く |
・足腰の痛みにつながるので履けない。 ・無理して履くと、ショッピングカートにもたれ掛かるなど、危険な動作につながる |
・さらに足腰が弱り、歩行スピードが落ち、歩行可能な距離も短くなってしまう
・自宅内のちょっとした段差でもつまずき易くなってしまう
②運動継続の難しさ
~適度な運動と食事により、健康を維持したいニーズ~
- 運動の継続の難しさの背景には、対象者の年代では運動効果の分かりづらいことに加え、食事の偏りや水分補給が十分でない等の生活習慣によるものが見られる。
- 運動を継続している人は、運動をしないことで将来的にどうなるかを見据えており、また、元気でいることを同年代の家族や知人と比べることを楽しみにしているなど何らかの動機を持っている。よって、これらの動機が叶うような商品へのニーズは高いと考えられる。
・親の介護の経験から自由に歩けないことの不便さを痛感して、日々の運動を心がける
・軽失禁対策にプールでのウォーキングがいいなどを聞いて取り組んでみると効果があり、
それが持続のポイントとなっている
・骨折等の怪我をきっかけに、これ以上悪くならないようにリハビリを続ける
・同年代の家族や友人等に比べて元気でいられることが励みになって続ける
・ハイキング等のイベントの予定があれば、運動を継続する動機となる
・若いころと比べて、運動の効果が分かりにくいため、モチベーションの維持が難しい
・歩数計等の計測機器は、計測した結果を比べてコミュニケーションを取る相手がいない場合は、
一人で続けるのが難しい
・加齢による身体機能の低下を本人が受け入れてしまうと、運動をすることのモチベーション自体が
なくなってしまう
・食事や水分補給が十分でない場合は、運動をすること自体が難しくなってしまう
③階段の踏み外しの不安
~自宅内・屋外を安全に移動し、安心して暮らしたいニーズ~
- 階段の踏み外しの不安は、日常の安全性を担保する上で重要な課題であるが、住宅を購入する年代ではあまり重視されていない。しかし、加齢に伴い階段の昇り降りに不安を感じるようになると、洗濯物を2階まで運べないので物干しができないなど、家庭における家事の役割が限定的になりがちである。
- また、公共交通機関においても、階段の昇り降りの不安があり、対象者の活動範囲を狭める要因にもなっている。
- 既存の階段の踏み外し対策商品のもつ補完機能も限定的であることから、構造物全体の作り方を含めたソリューションを提案できれば、新たな分野開拓につながる可能性がある。
・これまでと同じように家事をおこない、家庭内での役割を果たしたい
・夜中にトイレに行く時など、階段を踏み外しを不安に感じる
・公共交通機関のエスカレーターは昇りのみで下りがないことがあり、階段を下りる際に危険を感じる
構造物全体の作り方を含めたソリューションが望まれる
④調理全般の不便さ
~調理の際の事故予防・疲労軽減により、手作りの料理を楽しみ続けたいニーズ~
- 対象者の調理の際の不便さを解消するアプローチとして、「調理中の姿勢や移動を補助するもの」と「調理そのものを補助するもの」の2つがある。
- 加齢に伴い足腰の痛みが増えることで、様々な活動へのモチベーションは低下することが明らかになっている。日常の中の大きなウェイトを占める調理の際の足腰の痛みも顕在化しており、姿勢や移動を補助するものへのニーズは高い。一方で、「調理そのものを補助するもの」については、対象者の料理を安全に楽しみたいというモチベーションをサポートするような商品作りが望まれる。
【コミュニケーションの問題】
⑤コミュニケーション不足
~会話の機会を増やして、うつや認知症を予防したいニーズ~
- 「日常生活に不便さを感じる高齢者」におけるコミュニケーションの問題は、単純に「会話が少ないこと」ではない。対象者に同居家族がいる場合は、家族との関係性やその日の気分などが、コミュニケーションの多寡を左右する。一方、単独世帯の場合は、「外出して人と接する機会」が少なくなると、コミュニケーション不足になりがちである。それに加えて、耳の聴こえづらさ等多角的な要因が加わることになる。よって、単純なコミュニケーションロボットや人形を「日常生活に不便さを感じる高齢者」に利用してもらうという方向性は考えづらく、スマートフォンの活用等も含めて広い視野でソリューションを検討することが望ましい。
- ロボットは環境を変える1つの要素であって、「あくまでもツールである」という認識が重要である。一方で、ロボットには様々な機能を搭載することができるため、その可能性にも期待したい。
・同居家族がいる場合:家族との関係性の問題が主
・同居家族がいない場合:外出する機会の少なさの問題が主
・そこに愛情関係があることを感じられるようなもの
・相手の表情や服装などから相手の状況を探り、言葉を選んで関係性を構築できるようなもの
・ロボットのように、何かに人口知能を搭載して「会話する」ものはソリューションになりにくく、
スマートフォンの活用等も含めて広い視野でソリューションを検討することが望ましい
⑥耳の聴こえづらさ
~スムーズな会話を実現し、社会や家庭での役割を十分に担い続けたいニーズ~
- 耳の聴こえづらさにより、社会での役割が限定されたり、家族とのコミュニケーションに支障がでたりなど、本人にとって深刻な問題が発生する。また、聴こえと認知機能低下の関係性も示されており、「高齢者の聴こえづらさの解決」は重要な課題である。
- しかし、既存の補聴器やヒアリングエイド製品以外に、そのものだけで聴こえづらさを解決する製品開発の可能性は限定的である。福祉用具以外のメーカーが、既にある商品に対して「耳が聴こえづらい方に配慮した機能」を施した製品を作るところに開発のヒントがある。
・特に家庭において、何度も聞き返すと喧嘩の原因になってしまうため、会話が減る
・会議の場で発言が聴こえないので、仕事に支障が出る
・聴こえづらいことから相手に伝わらない、または聴こえづらいことが相手に伝わることをストレスに感じる
既にある商品に聴こえづらさをサポートするような機能を付加
⑦うっかり忘れの不安
~約束や服薬を忘れないようにして、幅広い活動を続けたいニーズ~
- うっかり忘れてしまうことへの不安は、「日常生活に不便さを感じる高齢者」において日常生活でよくある事象である。一方で、それに不便さを感じる深刻さは見られず、服薬管理のように、忘れた際に深刻な問題がおこることへソリューションが偏りがちである。
- 将来的には、「日常生活に不便さを感じる高齢者」のスマートフォンユーザーも拡大するものと見られるため、アプリにプラスアルファの機能が見出せれば、新たなソリューションの提供につながるものと予測される。
- なお、服薬管理については、最新の製品も出始めているので、それらの動きを見ながら、新しいソリューション提供の可能性を模索する必要がある。
スマートフォン等の機器との連携などで、新たなソリューションの可能性も
【その他】
⑧軽失禁の不安
~軽失禁の不安や不快感を軽減することで、安心して外出したいニーズ~
- 「日常生活に不便さを感じる高齢者」を含めて40歳以降の広い層で軽失禁への不安は大きく、市場の裾野は広く、潜在需要は大きい。一方で、対策をしていることを他人に知られたくない、あるいは自分自身も認めたくないといった抵抗感も根強く、そのギャップにニーズがあると考えられる。
- なお、尿もれ専用品(使い捨てのパット)は店頭販売が主だが、小売店の取扱いは大手メーカー品に絞られるため、中小企業の参入余地は低い。ただし、持ち歩きの際に使う周辺品などであれば、参入の可能性が期待できる。
- 現状の失禁パンツは、その機能性やデザイン性、持ち運び性などから需要は低く、従来品とは違ったアプローチが求められる。
・40歳を過ぎると尿漏れは多くの人に見られる不安であり、「日常生活に不便さを感じる高齢者」にも
該当する人が多い
・一方で、失禁対策をしていることを他人に知られたくないという抵抗感は大きく、十分な対策ができて
いる人の方が少ない
「日常生活に不便さを感じる高齢者」は、軽失禁の不安はあるものの、対策を取ることへの抵抗感は大きく、そのギャップを埋めるソリューションが求められている
※なお、尿漏れ専用品(使い捨てのパット)市場は中小事業者の参入余地は小さい
4.「日常生活に不便さを感じる高齢者」向けの商品開発時のポイント
「日常生活に不便さを感じる高齢者」向けに商品開発をおこなう際は、加齢に伴う心身機能の衰えのみならず、そのライフスタイルや心理状態に着目することが重要である。
「日常生活に不便さを感じる高齢者」向けの商品開発時のポイント(全体像)
①商品コンセプト
加齢に伴いできにくくなってしまったが「本人が本当はしたいこと」の実現をサポートする
- 本人の購買動機は、本当はしたいけどできなくて諦めてしまっていることが、商品を使うことで出来るようになるということである。
- 家族は、親の行動に対する深刻な不安がある。身体機能の低下を本人が認識していない場合、これまでと同様に活動することで事故や怪我につながるので、家族は心配に感じる。一方で、身体機能の低下を本人が認識し、活動の範囲を大きく狭めてしまった場合、子供はさらなる身体機能の低下を懸念する。これらは、子供にとって大きな悩みであり、それを解決できるような商品にはニーズが高いと考えられる。
- 対象者は、比較的時間に余裕があることも多く、便利になることへのニーズよりも、したいことが出来るようになることへのニーズの方が大きい。
億劫さや不安を感じる要因を取り除くことで外出や運動の機会を増やし、健康維持につなげる
- その商品を使うことで外出や、人に会う機会が広がるようなものは、心身の機能低下を防止することができる。
- 購入した商品が、人に見せたくなるような外観であれば、コミュニケーションが広がる上に、商品の良さを口コミで広げることも可能となる。
- 何回も失敗してしまうこと、家族などから何回も同じことを注意されることが、閉じこもりの要因になってしまう。
- 失敗を防ぐことが出来るような商品は、また失敗してしまう不安を取り除くことが可能であり、生活意欲の向上につながる。
②商品設計の着眼点
福祉用具の持つ補完機能と一般商品の持つ便利さの両面からのアプローチ
- ユニバーサルデザインのようなアプローチで商品を開発した方が対象者は受けいれやすいが、身体機能の補完という意味では限界があり、福祉用具の持つ身体機能の補完機能を持たせることも重要である。
- 対象者は自身の心身の衰えを認めたくない気概があるからこそ元気でいられるという側面もある。補完機能が前面に出るのではなく、一般向け製品を発展させる形で、若い人もその便利さを感じるような「使いたい」商品づくりが理想である。
- 商品を使用することで、「生活の不便さや不安が軽減した」という効果が分かりやすいものは、使用しつづける動機にもなる。
生活連続性を維持できる操作性とデザイン性の両立により使用時に充足感を与える
- 商品を購入した時に他人に見せたくなるようなデザイン、文字の形や大きさや操作感も含め使いやすいようなデザイン、昔から見慣れたレトロなデザイン、商品によっては斬新なデザインも購入の動機になる。
- 男性であればスポーティな外観、女性であれば明るい色使いなど、利用者の好みにも着目したい。
- 全く新しい方法を取り入れなければ使えないようなものは、購入のハードルが高い。短期的にはスマートフォンの操作が必要な製品は購入のハードルが高いが、長期的には低くなることが想定される。
- 対象者の身の回りの問題を発見し、問題を解決する商品の案を練り、その商品を使った人の気持ちも考慮する。商品を使うことで、社会や家庭における役割を担い続けることができれば、利用者は商品をつかう度に充足感が得られる。
③開発段階から出口戦略を見据えたアプローチ
加齢にともなう機能低下を十分に補完する効果を体験できるような場の創出
- 対象者が実際に利用した時に便利さを感じるか、充足感を得られるような商品になってるかを確認しながら、商品設計やデザインを検討することが重要である。使う人の性格や性別、年代によって価値観は異なるため、いくつかのバリエーションを持たせるのも一つの方法である。
- 商品を体験する場があり、かつその利用者の口コミが広がる場があれば(趣味の会等)、商品の良さは広まりやすい。
- 対象者は、長年、様々なものを購入してきた世代である。これまでに、購入したものの使い勝手が悪く捨ててしまったなどの経験も多く、商品を見る目は厳しい。
- 一方で、実際に使ってみて、その便利さを体験することができれば、価格に相応しい価値があれば購入する傾向も見られる。
子供や孫も便利さを感じることができて本人も納得して購入・使用できる価値と価格
- 子供が実際に使っていて便利という場合、高齢者の購入の動機になるケースもある。
- しかし、子供から一方的に「安全のため」などとプレゼントされたものに対しては抵抗感が強く、贈答品であっても、利用者が「使うことで充足感を得られる」ということを中心に開発を進めることが望ましい。
- 「日常生活に不便さを感じる高齢者」は年金以外の収入がないケースも多い。また、日本人に特有の傾向として、子供や孫のためにはお金を使っても、自分の使うものは安く済ませたいと考えがちである。
- 可能な限り既存の技術を活用して、ローコストで開発することも普及の鍵となる。