ロボット・福祉機器

環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/ロボット分野の国際研究開発・実証事業

ロボットベンチャーの創造性がグローバルな国際実証により実用化

株式会社テムザック、株式会社NTTドコモ、九州大学

取材: November 2018

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ロボット・福祉機器

環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/ロボット分野の国際研究開発・実証事業

ロボットベンチャーの創造性が
グローバルな国際実証により実用化

株式会社テムザック、株式会社NTTドコモ、九州大学

取材: November 2018

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福祉国家・デンマークでの実証実験で
スマートモビリティによる新たな生活支援技術が誕生

医療や福祉分野の生活支援関連産業では、日本企業が強みを持つロボット技術の活用が求められています。多様なロボット技術を開発する株式会社テムザックは、高齢者および身体に障害を有する方々が、ベッドからスムーズに「移乗(乗り移り)」ができ、さらに社会活動に必要不可欠な移動能力を補助する次世代型スマートモビリティ「RODEM(ロデム)」を開発しました。「RODEM(ロデム)」の開発においてテムザックは、NEDOプロジェクト「環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/ロボット分野の国際研究開発・実証事業/デンマークにおける生活支援ロボットを活用した介護サービス提供に係る国際研究開発及び実証事業」に参画し、日本同様に高齢化が進行するデンマークで、研究開発と実証実験を行いました。このプロジェクトで得られた技術的課題やマーケティングの基盤情報を活用し、テムザックは「RODEM(ロデム)」の製品化を実現しました。NEDOプロジェクトで提供されたグローバルな実証環境が、スマートモビリティのイノベーションを実現したのです。


「奇妙な椅子」から始まった、「後ろから乗り」という発明

2009年の初め、テムザック代表取締役CEOの髙本陽一さんと、九州大学病院リハビリテーション部の高杉紳一郎准教授(開発当時)の前に、一つの試作機が完成しました。名前はもちろんなく、そこにロボット技術は一切使われていません。それはとても奇妙な椅子でした。

見た目は普通のオフィスチェアーなのですが、座面があるべき場所には自転車のサドルが取り付けられ、おまけに自転車のハンドルのようなものが背面のクッションの裏側に取り付けられていました(写真1)。

「たまたまお笑い番組をテレビで見ていた時に“あっ”と、思い付いたんですよ。その時は背もたれを逆にして、お腹の側にくるようにして腰掛け、寄りかかるようにして見ていました。あっ、この座り方がひょっとして、移乗にもってこいなんじゃないかって思ったんです」(髙本さん)

これが「RODEM(ロデム)」における画期的なアイデアとなる「後ろから乗り」が生まれた瞬間でした。

従来の車椅子や電動車椅子は「前から乗り」が一般的です。例えばベッドからの移乗を考えてみたとき、ユーザーはまずベッドに腰掛けて車椅子と対面し、次に腰を浮かし、半回転して座面に尻を落とすようにして乗り込むことになります。

写真1 ロデムの最初の「試作機」

図1 ベッドから車椅子への乗り移りは、介護者と要介護者に大きな負担となる

一方で「RODEM(ロデム)」が採用している「後ろから乗り」では、ベッドに腰掛けたユーザーは自身の前面を本体後面に向け、高さが調整できるロデムの座面に身体を前にスライド移動させるだけで乗り込むことができます。髙本さんがこの乗り方を考えたきっかけは、介護現場における深刻な「ベッドから車椅子への乗り移り」問題に頭を悩ませていた高杉さんから「ロボット技術でなんとかできないか?」と相談を受けたからでした。

「介護現場では、介護者が要介護者を抱きかかえることで車椅子への移乗を補助する『抱きかかえ移乗介護(図1)』は重労働であり、筋肉痛や腰痛を起こし、介護離職の原因にもなっていました。少ないスタッフが大勢の要介護者に対応しなければならない現実もあり、ある調査では、介護現場の労災は6〜7割が腰痛なんです」(高杉さん)

さらに車椅子への前から乗りには、腰を浮かして回転移乗する際に転倒事故が多発するというリスクもあります。髙本さんが考案した後ろから乗りでは、回転移乗のリスクをなくし自立を助け、介護者を移乗介護の際の肉体的負担から解放することも可能です。

「結果的に『RODEM(ロデム)』は、この後ろから乗りのアイデアによって生まれたものです。現在は、共同研究を行っている株式会社NTTドコモの通信技術によってクラウドでコントロールし、社会実装することまで模索しています。でも、始まりは『奇妙な椅子』だったんです」(髙本さん)

発明家の数奇な運命

テムザックの前身は、食品加工工場のラインを主に製造する会社でした。その会社が1993年に新社屋を造った際、髙本さんは運命的な経験することになります。奇しくも最初のロボットを造ってしまうのです。

それは会社の本社社屋の床面に貼られた磁気テープに沿って動く、無人搬送台車をベースとしたロボットで、来客対応という当時は非常に実験的なタスクをこなすものでした。玄関の自動ドアに反応して動作し、来訪者に挨拶をし、さらに必要に応じて社屋の応接室まで案内したのです。

「このロボットは製造ラインメーカーとしての技術をアピールするための宣伝目的で、言ってみれば遊びで造ったものでした。しかし、このロボットが想像以上の人気者になってしまったんです。近所の幼稚園、ローカル放送、最後は当時の福岡県知事までが来社されましたね。県知事は僕に『ロボット専門会社にしないか?』とおっしゃいましたが、当時はそんなことできるわけがないと思いました」(髙本さん)

しかしその後、髙本さんは1998年にはPHSの電波で遠隔動作するロボットを時代に先駆けて開発し、2000年にはついに、ロボットを主たる事業とする現在のテムザックを起業することになります。

そして、2004年にテムザックにとって初めてのNEDOプロジェクトがスタートします。「次世代ロボット実用化プロジェクト」で遠隔監視・操縦システムを備えた屋外対応警備ロボット「ムジロー」を開発。炎検出能力や不審物の回収能力などを有するムジローは、2005年の「愛・地球博」会場において185日間の実証運用が行われました。

ロデム、デンマークへ

「奇妙な椅子」の着想からおよそ半年後の2009年8月、それはコンセプトモデルへと進化し、早稲田大学で記者発表会が行われました。
発表された「ユニバーサルビークル ロデム」は、大きな2つの前輪と、小さな2つの後輪による前輪駆動のモビリティでした。手元にあるジョイスティックで前後左右へ自由な移動を行うことができ、上下可動式の座面はよりスムーズな移乗を実現しました(写真2)。

その後も、ロデムはテムザックの傑出した開発力によって進化し、メディアにも取り上げられ、注目を集めていきました。それによって、この時期、テムザックはさまざまな出会いを実現します。特筆すべきは福祉先進国として知られるデンマークとの接点でした。

先の記者発表の現場にはデンマーク大使館の職員が出席していました。以前からテムザックの技術に着目していた彼らはコンセプトモデルに関心を示し「デンマークも高齢化で大きな問題を抱え、高齢者の自立と介護の負担を減らすことができる技術への支援プロジェクトがあるので参加しては」という提案をテムザックへ持ち掛けたのです。

写真2 コンセプトモデル「ユニバーサルビークル ロデム」

この提案に呼応し、翌2010年2月、髙本さんと高杉さんらはデンマークを訪問しました。いろいろな自治体と協議し、「デンマークには人に役に立つものを積極活用する文化がある」ことが分かり、ロボット導入に一番積極的な協力を申し出てくれたファーボ・ミッドフュン市と共同開発について同年4月に同意します。

技術面でも良い出会いがもたらされました。当時、技術的な課題はネットワーク機能の実装でした。ロデムに通信機能を搭載すること、例えばGPSを用いた位置認識機能を実装することができれば、ユーザーにとって有益な見守り機能になる共に、将来的な自動運転システムを見越した開発も可能になります。

通信機能の共同開発先となったのは、過去にも通信によるロボット遠隔操作で協働したNTTドコモでした。同社の第一法人営業部第五担当(モバイルデザイン推進)担当課長の瀬戸口純一さんは、当時を次のように振り返ります。

「2012年下期当時は、携帯電話の新規販売台数は頭打ちになることが見えている状態でした。そこで次に『モノに通信機能を付ける』ということ、今で言う、いわゆるIoT(インターネット・オブ・シングス)に新たな市場を求めることを社内で模索していました。それを実現するものとして注目していた分野の一つがロボットだったことから、テムザックとのコラボレーションは積極的に進めていくことにしました」(瀬戸口さん)

かくして両社は共同研究体制を構築し、両社の協業により、デンマークでの実証実験に用いられる、通信機能を搭載したロデムの進化系「NRR(New Robot RODEM)」の開発につながりました(写真3)。

しかし、こうした数々の進展の中で、ロデムは数多くの課題にも直面していきました。最も大きな課題は実証実験ができる協力先の確保でした。 ロデムを実際の病院や介護施設へ導入するためには、実証実験に基づく安全性や優位性の定性的・定量的評価が必要不可欠です。髙本さんらは実証実験の受け入れ先をまずは国内で探し始めましたが、実験的で未来志向のロデムを、高い安全性を優先しなければならない病院や介護の現場に入れることの前には、高い壁が立ちはだかっていました。

写真3 デンマークに渡ったNRR(New Robot RODEM)の同型機

「通信機能の開発にNTTドコモとコラボレーションできることが決まっていたので、『これはかなり良い製品になる』という手応えを感じていました。しかしその反面、国内で実証実験先を見つけることができなかったのは歯がゆい思いでした。デンマークと築いた関係性から、海外での実証実験も検討していましたが、その費用を考えると、とても当社単独では実現不可能です。その時に後押しをしてくれたのがNEDOでした」(髙本さん)

ムジローの開発の中で生まれたNEDOとの関係は、ロデムに引き継がれたのです。かくして2013年、NTTドコモとの共同実施でロデムの開発事業はNEDO「環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト」に採択されます。その翌年の2014年、NEDOが契約主体となりコペンハーゲン市とファーボ・ミッドフュン市と実証実験の基本協定書(MOU)を締結。デンマークの2つの市へ、ロデム実証機10台を持ち込み、実証実験を開始することになります。この実証プロジェクトは相手が外国であるため、NEDOの契約によって信頼性を担保しながら進めることができました。


ロデムを進化させ続けた、エンジニアリングの底力

実証実験を含む、ロデムの新たな展開を支え、困難に直面した際に突破口を生み出してきたのは、テムザックが持つエンジニアリングの力でした。

デンマークはまさに、ロデムの実証実験にとって理想的な国家でした。まず、当時の日本ではハードルの高かった高齢者ユーザーによる実証実験が可能であること。そして高齢化が進むデンマークにおいては、介護労働負担の軽減が国家的なミッションに位置付けられており、自治体が非常に協力的であったことです。

さらにデンマークでの実証成果は、今後のロデム開発における投資回収の面でも非常に有利に働きます。「世界一の福祉先進国で採用された」という実績は、日本を含む世界市場で高く評価されることが期待できるからです。

これらの長所に加え、NTTドコモの通信技術によって実現したロデムユーザーのための「遠隔見守り機能」は、広範囲に分散して住まう高齢者の情報を適切に得たいという、デンマークの地方自治体のニーズにも合致していました。

いい事づくしに思えたデンマークの実証試験ですが、新たな壁が立ちはだかります。EU(欧州連合)における販売に必要とされる基準に製品が適合していることを示す規格「CEマーキング」(「なるほど基礎知識」参照)を取得しなければ実証実験はできないというのです。

ロデムのエンジニアリングを担当し、現在、台湾のテムザック現地法人を指揮する川久保勇次さんは、当時をこう振り返ります。

「電動車椅子のCEマーキングというのは存在するのですが、ロデムは電動車椅子とは異なる部分があるため、そうした部分の解釈をどのようにするかを台湾の試験機関と確認しながら改良を重ねていきました。最も苦戦したのは耐久性の向上でした。そもそもCEマーキングは、5年から10年使用する商品に対して与えられる規格なので、備えるべき耐久性も相応のレベルが求められます。しかし当時のロデムは、試験機程度の耐久性しか備えていなかったために、大幅な改良が必要でした。耐久試験には2週間程度かかるものもあるため、故障したらまた修理して2週間やり直し、ということを繰り返しました」(川久保さん)

NTTドコモのマネジメントにも助けられながらCEマーキングによる宣言を行い実証が可能となったのは、実証試験の開始予定日の直前でした(写真4)。

ロデムは、迅速な対応が求められる納期や、矛盾に満ちた開発課題を、忍耐と巧みな技術力で切り抜け、進歩を続けてきました。

写真4 CEマーキングに関する宣言書

その一例として、デンマークでの実証実験のために製作されたロデムは、座面が上昇するスピードが遅かったのです。しかし改良するにしても、一般的な技術では、スピードを速くすれば持ち上げられる重量が減る宿命にあります。

「いわゆる『悪魔の証明』に悩みながら、いろんな手を尽くして考えた結果、現在の量産型のロデムで使っている、座面の昇降に使うシリンダーを2個搭載してスピードと重量を両立させる方法が生まれたんです。『できない証明』を考えることの難しさは、できる方法を探るのと同じなんです。であれば後者にエネルギーを使おう。テムザックはそんな会社なんです」(川久保さん)

デンマークの介護が目指すのは「自立」

2014年11月から始まったデンマークでの実証実験は、現地の介護施設やリハビリテーションセンターにロデムを導入することで行われました。実際のユーザーに介護現場で使用してもらい、その介護負担や費用の軽減効果、高齢者の自立効果および尊厳の維持、安全・安心の向上効果を実証し、商用モデルの完成度を向上することが狙いです。

「デンマークの国民性には驚かされることばかりでした。中でも、高齢者向けの介護施設などにいる人々が『自分たちに役立つものであれば積極的に試してみよう』と次々に協力してくれて、私たちにデータを提供してくれたのが印象的でした」
テムザック事業戦略本部副本部長の松尾潤二さんはデンマークでの実証実験の様子についてそのように振り返ります。

髙本さんらは、デンマークでの介護に対する考え方が日本とは根本的に異なっていることも発見していきました。最も大きな違いは、「要介護者の自立を促す」という点です。

「介護が必要な一人暮らしのおばあさんのところへ、市役所の介護者と一緒に行く機会がありました。家に到着するとその介護者は『立ちましょう』と言って、おばあさんをベッドから立たせ、さらに『冷蔵庫を開けましょう』『パンを焼いて、バターを塗って食べましょう』と次々に指示をするのです。さすがに『やりすぎなんじゃ…』と声をかけると、その介護者は『このおばあさんは自立し始めています。ほんの1カ月前までは立つことすらできなかったんですから』と言うのです。デンマークでは、要介護者に『なんでもしてあげる』介護はしません。自分で動くように仕向け、自立させます。介護そのものを減らしていく工夫であり、実践なんだと思いました」(髙本さん)

また、実証実験では産学連携体制が構築され、日本からは九州大学病院の高杉さん、南デンマーク大学のパオロ・カセロッティ准教授が実証支援アドバイスを行いました。

「カセロッティ先生は介護現場への新技術の導入の手法を研究されていました。先生からは『ロデムはどんな要介護者であれば乗せることができるか』を統計的に調べることに尽力いただきましたし、そのための試験方法も考案してくださいました。実際に実証先でその試験を実施していただき、適切な実証候補も挙げていただきました。実証実験が進むたび、デンマークでは非常に協力的な体制が構築されていることを再確認しました」(川久保さん)

ロデムは現在、安全に利用されるために、「上肢に十分な力がある」「体幹バランスが安定している」「ジョイスティックを使える認知能力がある」という3つの条件を満たすユーザーの利用を推奨していますが、これらの条件は実証実験で明らかになりました。

こうして約4カ月におよぶ実証実験は順調に進み、無事に終了しました。

「日本の介護の考え方も、現在以上に要介護者の人数が増えると、デンマークのような考え方に変わっていくと思います。ロデムを使えば自宅から社会の中までをシームレスに移動できる。これによって、要介護者の『自宅の中での自立』から『社会の中での自立』までをサポートしていきたいと思っています」(髙本さん)

ロデム、社会へ

2017年11月、ロデムは8年間の開発期間を経て製品化され、販売受付を開始しました。次世代スマートモビリティ「 RODEM(ロデム)」です。

実証実験の知見を生かし、安全性と実用性にさらなる改良が加えられました。本体側面に取り付けられた手すりによってベッドや椅子からより移乗しやすく、前輪は前後左右へ回転可能なオムニホイールを採用して旋回はよりコンパクトに、移動はさらにスムーズになりました。より進化した通信技術によって、スマートフォンによる遠隔操作も可能となり、モビリティとロボット両方の機能を持ち合わせます。

写真5 量産モデルの「RODEM(ロデム)」

そして何よりも、座面が上昇して高くなるため、歩行者と目線を合わせることができます。これにより、ユーザーはより会話がしやすくなります。何気ないことのように思えますが、低い座面の標準的車椅子のユーザーにとって、いつも目線が合わない位置から会話をされることは、どこか見下されている印象を抱かせ、精神的な負担になるのです。デンマークでの実証実験でも実証項目として掲げられていた、ユーザーの「自立効果および尊厳の維持」をロデムは実現しているのです。

ロデムは今、社会へと実装され始めています。 2018年8月には滋賀県の草津総合病院へ、量産モデル第1号を納入しました。同病院では、座ることはできても歩くことができない人の、「自由に動きたい」というニーズに応えることが導入の目的です。

写真6 ロデム(左)と車椅子(右)におけるユーザーの目線の高さの違いは明らか

写真7(左) 大きさは全幅、全長ともに、車椅子とほとんど変わらない
写真8(中) ロデムの後面。座面が上下に電動でスライドする
写真9(右) 前輪にはオムニホイールを採用。その場での旋回が可能

写真10 ロデム開発の試作機が一堂に。「奇妙な椅子(右から2台目)」から量産モデル(一番左)まで


未来のモビリティ社会を創造する

髙本さんはロデムによって未来の社会を創り出す展望を抱きます。現在は自動運転機能の実装も視野に入れ、ロデムを新しい「シティモビリティ」にしていく構想を描いています。

「ロデムが自動運転によるシティサイクルのようなモビリティインフラとして普及すると、社会は大きく変わっていくと思います。例えばクラウドの情報を管理することで『この街のどこにロデムが足りないか』を簡単に把握できます。AIを用いて最適化し、自動運転で配車を行うこともできるでしょう。そうして街全体の移動をより便利にします。おまけにロデムはエコで省エネです。これが実現すれば街の構造が変わるかもしれません。自動車中心の街から脱却し、歩行者、そして環境と調和するロデムが中心となる街を造っていくことは、私たちの大きな夢ですね」(髙本さん)

現在、行政府もこうした規格のないものの整備に力を入れており、経済産業省の「新市場創造型標準化制度」によるロデムを想定した新しいJIS規格「馬乗り型電動車椅子(仮称)」の規格化検討が進んでいます。この規格化に向けては、NEDOプロジェクトで設置された、つくば市にある「生活支援ロボット安全検証センター」での実験データが活用されています。

また、海外での販売を視野に入れ、テムザックは台湾に加え、イギリスにも現地法人を設立。量産モデルでのCEマーキング適合を進めています。

「ロデムの開発は、社会に役立つものを創りたいというところから始まりました。今後は技術をより改良して、例えば上半身に力がなくても乗り移れる、操作も目的地を指示するだけで行ける自動走行が模索されるべきです。私たちにはまだまだロボット屋としてやれることはいっぱいあります。楽しみですね」(松尾さん)

奇妙な椅子の試作機からスタートしたロデムは今、テムザックの創造性と開発力、さらにそれを支えたパートナーによって本当に街を変え、社会を変えようとしています。

開発者の横顔

発明家としての人生の中で出会ったロボット開発

髙本さんはテムザックの製品におけるコンセプトを考える、いわば「発明家」です。しかし髙本さんは、大学は工学部の卒業ではありません。

「僕はもともと、ロボットや介護には全く関心がなかったんですよ。学生時代、法学部に在籍する傍ら、考古学への強い関心から大学の教授と共に各地に発掘に出かけるほどでした。しかし、紆余曲折があり、実家の事業を継ぐことになるわけです。そしてなぜか今はロボット製造会社の社長をしている」

テムザックを起業するきっかけとなったPHSを用いた遠隔操作ロボットは、髙本さんの奥さんからの要望から生まれたものでした。「故郷の群馬県のお母さんが倒れてしまって…あなた、何とかして」

「ならば遠隔で義母を見守るロボットを造ろうと。1998年当時、ちょうど出始めていたPHSのデジタル通信を使えば『遠隔操作のデータも飛ばせるんじゃないか?』と思い造ったところ話題になり、この改良型が大学の工学系の研究室や企業に買われたことが起業のきっかけになりました。人生は分からないものです」

株式会社テムザック
代表取締役 CEO
髙本 陽一 さん

NEDOプロジェクトだから実現できた“国対国”のコラボレーション

松尾さんはNEDOプロジェクトにおけるデンマークとのプロジェクト体制構築など、テムザックの窓口を担当しています。前職は広告代理店の海外法人勤務。そこで培われた英語力とマーケティングの知識を活用し、テムザックの海外展開も進めています。

「私がテムザックの社員として現職に就いたのは、NEDOプロジェクトがきっかけでした。デンマーク側と実証実験の枠組を締結する交渉を進めていくにあたり、NEDOのありがたさを感じていきました。相手は国家ですから、私たちのようなベンチャー企業が直接の窓口になるのは難しいんです。国家の機関であるNEDOの支援の下、信頼性を担保しながら進めていけたことが、一連のプロジェクトの成功につながったのだと思います」

デンマークにも赴き、実証実験に参加。日本とデンマークの介護の違いなどを目の当たりにしてきたことが、仕事のさまざまな側面で役に立っていると言います。

「もちろん実証実験における費用を支援いただけたのも大変ありがたかったのですが、長期にわたるプロジェクトを安定して進められたのはNEDOのおかげだと思っています」

株式会社テムザック
事業戦略本部 副本部長
松尾 潤二 さん

難題へのチャレンジが最大のやりがい

川久保さんは工学部の博士課程を卒業し、テムザックへは営業として入社しました。テムザックの開発スピードは非常に速いため、手が足りないときに手伝いをしていたら、いつの間にか技術者になっていたそうです。

ロデムの開発は常に「矛盾との戦い」だったと川久保さんは語ります。

「例えばロデムを製品化する場合、製品化に求められるさまざまな要求がお互いに矛盾する状況に出くわしました。『今のままだと足元が狭いから、もう少し広くしてくれ』と言われたりします。しかしロデムの幅は70cmと仕様が決まっているので、もう広げることができません。この矛盾を乗り越えるために、例えば素材や構造を大幅に見直すアプローチをとる必要がある。骨の折れる戦いですよ」

ロデムはさまざまな困難をエンジニアリング力で克服し、進歩してきました。その背後には川久保さんの苦悩と、諦めずに立ち向かい続ける不屈の精神があるのです。

「本当に大変な仕事ですが、やりがいもあります。それは難題にチャレンジできることです。『チャレンジしてる』と思える瞬間、そして『チャレンジしてることがうまくいっている』瞬間、私はこの仕事の楽しさを全身で感じています」

株式会社テムザック
海外事業部 テムザックフォルモサ(台湾現地法人)社長
川久保 勇次 さん

今後はよりユニバーサルなモビリティへと進化させたい

NEDOプロジェクトにおいて、瀬戸口さん率いるNTTドコモの開発チームは、ロデムへの通信機能搭載の他に「座面の高さを利用者に応じて変える」、「緊急事態を通知する」といった介護施設向けのロデム用アプリケーションを開発しました。今後これらの機能が介護施設で実際に使われていくことはとても楽しみだと言います。
そうした用途に加え、NTTドコモは、新しい「シティモビリティ」としてロデムを活用していくことに強い期待を抱いていると言います。

2018年7月、京都の観光名所として知られる嵐山で、テムザックとNTTドコモは京阪バス株式会社と共に、一般観光客を対象としたロデムの屋外走行の実証実験を行いました。
このロデムには、AR(拡張現実)などを活用した観光スポット推薦・経路案内や、多言語翻訳などが可能なタブレット端末が搭載されています。これにより、観光に訪れた人々がロデムに乗りながら快適に旅を楽しむことができます。

「NTTドコモでは、自転車によるライドシェアやカーシェアの事業も推進しています。ロデムのようなモビリティでも新しいライドシェア体験を提供できないかと思って始めたのがこの実証実験でした。ロデムは直感的に操作できますから、例えば海外からの旅行者の方でも簡単に乗りこなすことができます。タブレット端末の多言語翻訳機能を使えばコミュニケーションもスムーズになりますし、経路案内と併せて使うことでロデムが道先案内人になってくれます。多くのユーザーから好評を得ることができました」

ロデムは介護が必要な方に向けて設計されているため、乗り手を選ばず、ユニバーサルなモビリティになれるポテンシャルを持っているのです。

「現在、実証実験が進められている観光用途に加え、今後もさまざまなシーンでの活用を提案していけるようなアイデアを一緒に創り出していきます」

株式会社NTTドコモ
第一法人営業部 第五担当(モバイルデザイン推進)
担当課長
瀬戸口 純一 さん

ロデムには体と心を元気にする力がある

現在、佐賀整肢学園に勤める医師である高杉さんは、医療や介護の現場での移乗や移動に関する課題を髙本さんへ訴え、ロデム開発のきっかけを生み出しました。また現在はロデムのJIS規格化に関する支援を行っています。

「ロデムは身体機能をアシストする点と心にスイッチを入れる点の両方から社会に貢献できると実感しています。多忙な医療・介護現場で使われる機器は、『簡単・便利でかっこいい』が重要なんです。ロデムはそれを満たす機器だと思います」

高杉さんはロデムに初めて乗った若い女性患者さんとの対話が今も心に深く刻まれていると言います。

「普段は電動車椅子に乗っているその方に使っていただいた感想を聞いて興味深かったのは『なんだか恥ずかしい』と話していたことです。なぜかと尋ねると、彼女は視点が高くなったことに戸惑いながら、『これまでの人生で、自分と同じ目線の高さで異性と並んで歩いたことがない』と答えました。彼女はずっと人に上から見下ろされ、介助され、身長1メートルの世界で生きてきたのです。彼女がロデムに乗って『遠くのものが見える』ことと、『自由に移動できる』ことを喜んでいる様子を見たときは、視線が高く、健常者と同等であるということが、いかに人間をアクティブにするのかを感じた瞬間でした」

高杉さんは、障害や病気がある方々の尊厳が損なわれることのない介護を目指して、今日も佐賀整肢学園に通います。

「佐賀整肢学園には、介護・介助が必要なたくさんの子どもたちがいます。今後はロデムの子ども用なども模索していければ嬉しいですね」

社会福祉法人 佐賀整肢学園
こども発達医療センター 副院長
九州大学 客員教授
医師
高杉 紳一郎 さん

なるほど基礎知識

CEマーキングとは?

パソコンやスマートフォンなど、身近な家電の裏面にある表示欄を見てみると、ものによっては「CE」と書かれたロゴを見つけることができます。このロゴは「CEマーク」と言い、このマークを付けることを「CEマーキング」と言います。EU(欧州連合)において販売される製品に付けられ、福祉機器も含め、その製品がEUの要求する基準を満たしていることを示すマークであり規格です。CEマークが付けられた製品は、EU内のさまざまな国における販売および流通をする保証を持つものとされます。

要求される基準の多くを占めるのは、製品の安全性に関する事項です。また最近では、製品が環境性能基準を満たしていることを、CEマーキングで宣言することも求められています。環境性能基準は「RoHS(有害物質使用制限)指令」と「エコデザイン指令」によって定められているものです。

CEマーキングにおける適合性評価を行うのは、該当する製品の製造業者または輸入者、第三者認証機関です。適合性が認められれば製品、包装、添付文書にCEマークを表示することができます。

CEマーキングは海外製品に多く見られる

NEDOの役割

「環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/ロボット分野の国際研究開発・実証事業」
(2013~2014年度)

(NEDO内担当部署:ロボット・AI部)

世界の先進国は、これまで経験したことのない高齢社会を迎えており、新興国においても、急速な高齢化や生活水準の向上に伴う健康志向の高まりが見込まれています。また、世界各地で発生する各種災害への対応体制の構築も求められています。こうした背景をもとに、本事業では海外の介護、医療、生産、災害等、その他現場のニーズを反映し、世界の課題解決と我が国の産業競争力を目的とし、我が国企業が強みを有するロボット技術を核としたロボットシステムの研究開発・実証を行いました。
NEDOは、本事業の実施に当たり、それまでに蓄積したロボット技術及び環境・医療分野の技術開発動向の知見やマネジメントの経験・ノウハウを活かし、プロジェクトの運営管理に反映させました。
その結果、日本同様に高齢化が進行するデンマークでの実証環境を提供することによって、次世代型スマートモビリティ「RODEM(ロデム)」の早期製品化につながりました。

関連プロジェクト


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