バイオ・医療

イノベーション推進事業

生涯にわたりアクティブに暮らす「生活の質」向上に貢献

帝人ナカシマメディカル株式会社、京都大学

取材: October 2018

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イノベーション推進事業

生涯にわたりアクティブに暮らす「生活の質」向上に貢献

帝人ナカシマメディカル株式会社、京都大学

取材: October 2018

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高齢化に伴い増え続ける人工関節置換術

ケガ、病気や加齢で傷んだ関節を人工関節に置き換える手術(人工関節置換術)は、近年一般的な治療法となっています。急激なスピードで高齢化が進む日本では、人工関節置換術の症例数はさらに増えることが予想され、よりアクティブに老後を過ごせる健康寿命の延長にもつながると期待されています。こうした中、帝人ナカシマメディカル株式会社(当時:ナカシマメディカル株式会社)は、NEDOプロジェクトのイノベーション推進事業「人工股関節の耐用年数向上の為の生体適合性摺動部材の開発」(2011〜2012年度)で、従来製品よりも大幅に耐用年数を延ばすことに挑戦した、人工股関節の摺動(しゅうどう)部材「BLEND-E®XL」の開発に取り組み、2013年に製品化に成功し発売を開始しました。また、2015年に帝人株式会社と資本提携し、事業のグローバル化のために、タイをはじめとするアジア各国での人工関節の普及に取り組んでいます。


プロペラの加工技術を基に人工関節の開発に乗り出す

帝人ナカシマメディカルは、船舶のプロペラ(スクリュー)の製造会社として世界トップシェアを誇るナカシマプロペラが母体の企業です。当時のナカシマプロペラがメディカル事業へと踏み出したのは、1984年に同社を訪れたある一人の医師の言葉がきっかけでした。

その医師は、同社の作業員が工場でプロペラを鏡面のようにピカピカに磨きあげているのを見て、「これだけの曲面加工技術があるならば、人工関節が作れるのではないか」とアドバイスしたのです。

当時、ナカシマプロペラの役員で、現在の帝人ナカシマメディカル代表取締役会長の中島義雄さんは、こう振り返ります。
「造船業界は景気の波を大きく受けたことや、中国、韓国などの企業が成長を続けたこともあり、ちょうど何か新しい分野の事業を探していた時でした。ナカシマプロペラにとって医療は全くの異分野でしたが、そのお医者さんの言葉から自社の技術が生かせることを知り、人工関節の開発に挑戦することを決めたのです」(中島さん)

その頃、臨床で使われる人工関節の大半は海外製品が占めていました。それらは欧米人の体型や骨格に合わせて作られていたため、日本人に適合した人工関節を開発できれば、大きな需要を掘り起こせると予想できました。また当時の同社では、軽くて腐食しにくいチタン合金の加工技術を持っていましたが、プロペラに使用するにはあまりに高価だったことから、その使い道を探っていました。さらに、人工関節がチタン合金の用途として、まさにピッタリだったことも決断を後押ししました。

写真1 帝人ナカシマメディカルの社屋前にあるナカシマプロペラ社製の船舶用プロペラ

1995年11月、同社にとって転機となったのが、「人工関節の機能高度化研究会」を発足させたことです。この研究会は、同社の呼びかけの下に大学の医学・工学系学部、公的な技術研究機関、関連企業のメンバーが集まり、人工関節の技術に関してオープンに議論するという場でした。「医工連携」「産学官連携」がまだ珍しい時期だっただけに、この研究会は人工関節に取り組む関係者たちにとって、貴重な学びの場となりました。

「人工関節の開発には、摩擦や摩耗、樹脂や金属などに関する工学的な知識が必須となりますが、それまで医学部と工学部の教授が、互いの持つ知見を教え合う場はほとんどありませんでした。それだけに、研究会は双方の先生に歓迎されました」と中島さんは言います。研究会は現在も継続し、2018年9月までに119回開催され、延べ4,000人の研究者や事業者が参加しています。

ビタミンE配合の樹脂で人工関節の耐用年数を大幅に延長

研究会に当初から参加していたのが、京都大学大学院医療工学分野教授の富田直秀さんでした。研究会開始当初、医療現場で使われていた人工関節は性能が未熟で、関節面を滑らかに動かす役割の摺動部材に使われる「超高分子量ポリエチレン(UHMWPE:Ultra High Molecular Weight Poly-Ethylene)」が、手術後人体内の環境に15〜20年程度の長期間さらされると酸化し劣化してしまうことで摩耗が進み、関節の機能を果たさなくなってしまうことが大きな問題となっていました。

人工関節の手術を受ける患者は65歳以上の高齢者の人がほとんどですが、平均寿命が延びた結果、15〜20年ほどしか耐用年数のない人工関節に置換した場合、70〜80代になってから抜去や再置換術を受けなければならず、それが患者にとって大きな負担となっていました。実際に、臨床現場で高齢の患者から取り出した人工関節を分析すると、野ざらしにされたポリバケツがパリパリにもろくなるように、摺動部材がボロボロになっているケースが多数で見られました(写真2)。

写真2 従来の人工関節の摺動部材(左:膝用、右:股用)の酸化劣化現象(写真提供:京都大学 富田直秀教授)

そこで富田教授は、外部のポリエチレンメーカーの製品開発担当者の協力を得て、酸化劣化を防ぐために、UHMWPEに抗酸化剤を添加する研究に取り組みました。いくつか抗酸化剤の候補があった中で、最終的に最も優れた性能を発揮したことから採用されたのが、「ビタミンE」でした。

「ビタミンEをあらかじめ原料のUHMWPE粉末に混練し、金型を用いて成型することで、従来の人工関節に使われていた樹脂よりも、耐酸化劣化と耐摩耗の特性に優れた樹脂が作れることが分かりました。ビタミンEは自然界に最も多く存在する抗酸化剤の一つで、医薬品や化粧品、サプリメントへの使用実績も多く、安全性・安心性が確立していることも、採用の決め手となりました」(富田教授)

富田教授はこの研究成果を、上述の研究会で発表し、ナカシマプロペラのメディカル事業部と共に製品開発を進めていきます。関節シミュレーターを用いた疲労摩耗試験でも、ビタミンEを添加したUHMWPEは、従来品と比べ約3分の2に摩耗量が抑制されることが分かりました。さらに、材料組織を電子顕微鏡で観察すると、成型前のビタミンE混合によって、従来品で見られたポリエチレン材料組織の微少なクラックの発生が抑制できることも明らかになりました。

ナカシマプロペラは、富田教授と開発を進めると共に、2008年にメディカル事業部を「ナカシマメディカル株式会社」として分社化し、さらに医療分野への本格的な参入を進めていきました。そして2010年、同社は世界で初めてビタミンE入り超高分子量ポリエチレン「BLEND-E®(写真3左)」を用いた人工膝関節用摺動部材の開発に成功し、発売を開始します。同製品は内外の医療関係者から注目を集め、多くのメディアにも取り上げられ、2018年9月現在までに17,000例以上もの手術に適用されています。

写真3 ビタミンE配合の膝関節用摺動部材「BLEND-E®」(左)とビタミンE未配合(右)のサンプル。ビタミンEを配合すると黄味がかった色になる


クロスリンク処理で耐摩耗性・耐用年数を大幅に向上

肘関節、膝関節の後で、ナカシマメディカルが取り組んだのが、「人工股関節(図1)」の開発でした。患者のニーズが高く、市場規模も大きい股関節の製品を開発することは、必然の流れでした。

しかし、人工股関節の開発には、それまでにない困難がありました。股関節は、膝関節に比べて関節部分にかかる圧力は低いのですが、関節面が多方向に動くため、人工関節に置き換えた場合、樹脂と金属との接触面が広くなります。可動範囲が大きくなることから、人工膝関節に使用するポリエチレン樹脂よりも、耐摩耗性(摩擦に耐える硬さ)が必要となり、膝関節用の「BLEND-E®」がそのままでは使用できなかったのです。

そこで、人工股関節の製品を開発するために必要な測定・検査機器や、設備の導入を目指して、ナカシマメディカルではNEDOの「イノベーション推進事業」に申請し、2011年に採択されました。

図1 人工股関節の構造図(資料提供:帝人ナカシマメディカル)

その申請を担当し、以後、人工股関節の研究開発の中心となった帝人ナカシマメディカル関節・外傷マーケティング課長(当時 研究部 主任研究員)の植月啓太さんが当時を振り返ります。
「入社してすぐは、膝関節の薬事申請と品質保証を担当していました。股関節の研究開発が始まってからは担当者として、製品化のために必要な各種のデータをそろえていきました」(植月さん)

植月さんらは「BLEND-E®」を股関節に適用するために、樹脂の加工技術である「クロスリンク処理」を改良方法として採用しました。

クロスリンク処理とは、ポリエチレン樹脂にガンマ線や電子線を照射することで、樹脂に含まれる炭素原子と水素原子の結合を切断し、炭素原子同士を結合(クロスリンク:架橋)させることで強度を増大させる技術です(「なるほど基礎知識」参照)。

一方、クロスリンク処理した樹脂には、そのままでは人工関節に使えない問題がありました。クロスリンク後の樹脂には、炭素が、水素と切断された「フリーラジカル」と呼ばれる状態で存在します。全ての炭素同士が結合しクロスリンクすれば問題ありませんが、結合せずに残存したフリーラジカルな炭素が酸素と結合してしまった場合、ポリエチレンの酸化を促し、耐摩耗性を著しく低減させてしまうのです。この残存したフリーラジカルな炭素を除去するために各メーカーは、ポリエチレンを加熱処理して融解・再結晶化させたり、ガンマ線を複数回照射後に加熱処理するなどの工夫を行っています。

「しかし、『BLEND-E®』をクロスリンク処理するにあたって、ビタミンEを混合した樹脂に電子線を当てた場合、どのような影響があるかはまったく分かりませんでした。ビタミンEに電子線を照射することで、抗酸化作用が失われたり、うまく架橋できなくなるなどの懸念がありました」(植月さん)

本来、ビタミンEが持っている抗酸化作用は、クロスリンク処理による架橋を阻害する方向に働きます。そのため通常よりも多くの電子線照射が必要となりますが、植月さんは富田教授と共に、どうすればビタミンEの抗酸化作用を残したまま、フリーラジカルな炭素を低減させることができるか、『BLEND-E®』のクロスリンク処理の最適条件を探すための実験を繰り返しました。

「薬事の承認審査に必要な基本特性(架橋度・抗酸化能・耐摩耗性など)を解明するために新たな装置を購入し、綿密に計測・分析することが必要となりましたが、NEDOの支援により実現できました。実験の結果、ビタミンEにはフリーラジカルな炭素を除去する効果があることが分かると共に、真空下でクロスリンク処理を行うことで、強度増強の効率が上がることも解明しました」と植月さんは語ります。

こうした粘り強い研究により、2013年、ナカシマメディカルでは人工股関節用摺動部材の新製品「BLEND-E®XL」の開発に成功し、発売を開始しました(写真4)。

さらに近年の研究では、ビタミンEを配合したポリエチレン樹脂では、「骨溶解」と呼ばれる現象に伴う人工関節の緩みのリスクを低減させることも分かってきています。

従来の人工関節は、長期間使用する間に繰り返される摩擦によって、非常に微細な摩耗粉が発生します。人工関節と骨の界面に散らばったその摩耗粉は、人体にとって「異物」と認識され、免疫細胞に貪食されますが、その過程で炎症性物質が産生されます。その物質が引き起こす炎症作用によって、人工関節と接する骨の界面部分が溶けて隙間ができ、関節が緩んでしまうのです。

写真4 人工股関節の構成部材。中央の白い半球体が摺動部材の「BLEND-E®XL」。超高分子量ポリエチレン(左奥の白い粉)とビタミンE(右奥の茶色い液体)を混練・成型して作られる。手前はチタン合金製の大腿骨ステム(左)と寛骨臼コンポーネント・カップ(右)

「我々の実験では、摩耗粉を含んだ培地の中で免疫細胞を培養したところ、ビタミンEを含んだ樹脂の摩耗粉は、含まない樹脂よりも著しく炎症性物質の産生量が少ないことが判明しました。つまり、ビタミンEを含むUHMWPEは、摩耗しにくい上、摩耗粉の生体反応性も低いため、骨溶解を起こす可能性が小さいと考えられるのです」(富田教授)

これらの工夫により、同社の開発した人工股関節は、従来の製品よりも大幅に耐久性能を向上させ、再置換術の必要性を低減することが可能となりました。 「実際に臨床で使われた人工関節の本当の耐久性を、厳密に明らかにするには、30〜40年程度の期間が必要となりますが、現在までに、『BLEND-E®XL』を臨床応用した手術は、4,800例以上(2018年9月現在)あり、『BLEND-E®』も含めて深刻な問題が報告されたことは一例もありません」(植月さん)

写真5 股関節の動きを再現する専用のシミュレーターで、500万歩分の歩行でも摩耗がほとんどないことを検証した

写真6 樹脂成形品を熱処理する機械。摺動部材の成形では「直接圧縮成形」と呼ばれる手法により、1工程で完成品に近い形状を成形する。操作盤と成形部(左)、成形部の拡大(右)


帝人との提携でメディカル市場への営業力を強化

2015年、ナカシマメディカルは高機能繊維を活用した医療品の事業でグローバルにビジネスを展開する帝人株式会社と、資本比率50:50で資本提携を行い「帝人ナカシマメディカル株式会社」へと生まれ変わりました。

当時、ナカシマメディカルの代表取締役社長だった中島さんは、この提携の狙いについて「ナカシマメディカルの人工関節における金属加工技術・樹脂技術と、帝人の化学素材技術およびメディカル市場に対する営業力を融合させることで、大きな相乗効果があると考えました」と語ります。

中島さんは、「NEDOの支援によって、資金面だけでなく、NEDO主催のセミナーへの参加の誘いを受け、そこにパネリストとして当社の社員が登壇することによって思いがけない人的交流が生まれるなど、さまざまな良い影響があった」と振り返ります。

「NEDOプロジェクトに参画したことによって、需要の大きな人工股関節の開発に成功し、帝人との提携が実現したことは、当社の事業がさらに飛躍する転機となりました。」(中島さん)

写真7 帝人ナカシマメディカルの本社社屋

アジア人の骨格や生活文化に合わせた人工関節で欧米企業に挑む

2014~2017年度に、新たにNEDOプロジェクト「先進的医療機器システムの国際研究開発及び実証/人工関節・手術支援システム構築に係わる研究開発・実証」に参画し、アジア各国ごとにカスタマイズした人工関節の普及を目指し始めています。

「これまでのところ日本における人工関節は、欧米製の製品が市場の8割を占めています。しかし欧米人の骨格とアジア人の骨格は異なりますし、正座や床に座る文化がある国では、求められる関節の可動範囲も欧米とは違ってきます。そのため、アジア圏を中心にグローバルに製品を展開する第一歩として、日本人と体格が似たタイの人々に向けた市場の開拓を始めたところです」(中島さん)

開発のキーマンである富田教授は、近い将来に社会が必要とする人工関節について、次のように述べます。
「これまでの人工関節は、あくまで『違和感を持たずに動かせること』を目的として設計されてきました。そのため術後は、走ったり飛んだりといった、激しい運動をなるべく避けるようにするのが普通でした。しかし人工関節置換術を受けた患者さんも『仕事や趣味などをこれまでと同じように、イキイキと元気に毎日の生活を送りたい』と考えるようになるでしょう。そのためには人工関節もさらなる機能向上が求められるようになるはずです」(富田教授)

NEDOプロジェクトの中心となった植月さんは、さらなる研究テーマとして「パーソナライズした人工関節の開発」を挙げます。
「現在、当社が扱う人工関節の製品は、数十種類のサイズを取りそろえていますが、さらなるカスタマイズを個別にできればと考えています。一人ひとり微妙に異なる体型や生活のニーズに合わせ、例えば『ずっとゴルフを楽しみたい人のための人工関節』『趣味で毎日ジョギングする人のための人工関節』などを開発できれば、多くの人に喜ばれると共に、他社製品との差別化も図れるだろうと考えています」(植月さん)

帝人ナカシマメディカルはさらなる医療分野の業容拡大に向けて、2018年1月には、医療機器の専門商社であるセンチュリーメディカル株式会社の脊椎領域の整形外科事業を買収しました。これにより関節に加えて、背骨・脊椎を人工部材に置換する領域に踏み出そうとしています。

帝人ナカシマメディカルが、医療分野へと歩み出してから30年以上を経て、現在ではグループ全体の売り上げの1割を占めるまでになり、人工関節分野では国内企業2位に位置するまで成長を遂げました。世界全体で見れば、まだまだ欧米メーカー製の市場占有率が高い状況ですが、これから日本の後を追って高齢化が進んでいくことが確実視されるアジア各国で、同社製品が臨床現場に普及していくことが大いに期待されます。

開発者の横顔

「諦めない」精神が新事業を成功に導いた

中島さんは、約30年前に担当役員としてまったくの異分野であった人工関節の事業の立ち上げを担い、分社化してからは経営者として会社を引っ張ってきました。

「新しい事業を始めるときは、途中で投げ出さないことが大切です。世の中にとって必要なことだと確信するならば、諦めずに取り組み続けるうちに突破口が見つかります。また、周囲の人を巻き込み知見を集めれば、解決できることもあります。当社における人工関節の開発も、そのチャレンジの繰り返しでした。NEDOの支援を得たことは当社のような中小企業にとって、信用面で非常に大きな意味があったと思います。海外の第一線の研究者と共同研究を行えたのも、帝人との資本提携が決まったのも、国のプロジェクトを担っているという信頼がプラスに働いたことは間違いありません」

帝人ナカシマメディカル株式会社
代表取締役会長
中島義雄さん

研究のベースは「医療技術で人を助けたい」という思い

植月さんは大学時代から「将来は人を助ける医療に関連する仕事に就きたい」と考え、チタン合金を人工骨や人工関節に生かす研究に取り組んできました。ナカシマプロペラ(当時)に就職後、現在は人工関節事業の研究を牽引し、新たな製品開発に意欲を燃やします。

「私がこの会社を就職先に選んだのは、船舶用プロペラで世界シェア1位の会社なのに、それに安住せず、新しい分野に果敢に打って出るチャレンジ精神に惹かれたからでした。大学時代の研究は金属が対象だったので、高分子材料の樹脂に関しては入社した後に、富田先生をはじめとする研究者の方々の指導を仰いで、一から勉強しました。NEDOプロジェクトに申請した股関節の開発は、先輩方による肘・膝関節の長年にわたる研究データの積み重ねがあったおかげで、当初から研究課題を明確化することができ、短期間で市場投入できたと感じています」

帝人ナカシマメディカル株式会社
マーケティング部 関節・外傷マーケティング課 課長
植月啓太さん

関係者の熱意が多くの研究者を巻き込んでいった

材料工学の修士課程修了後に、医学部に進んだ富田教授。1994年に所属していた京都大学生体医療工学センターで、当時のセンター長から「世の中の役に立つ研究をしてください」と言われたことをきっかけに、本格的な医療技術開発の道に進みました。

「ナカシマメディカルが主催した『人工関節の機能高度化研究会』は、発足当初は『素人の集まり』でした。しかしそこに参加する人々の熱い思いが、画期的な製品の開発成功につながったと感じています。研究会発足当時のナカシマメディカルの担当者は、闘病中の奥様を看病しながら『まずは、いいものを作りましょう』と呼びかけ、その熱意がさまざまな研究者を動かしました。本開発はNEDOの支援を得て大きく飛躍しましたが、今後も『産学官連携』を継続し、さらに多くの患者さんを救う人工関節開発につなげてほしいと願っています」

京都大学大学院 工学研究科
機械理工学専攻 医療工学分野 教授
富田直秀さん

なるほど基礎知識

クロスリンク処理

クロスリンク処理とは、「架橋処理」とも呼ばれる樹脂の強化技術で、1957年に特許が取得されて以来、電線ケーブルや熱収縮フィルム、発泡プラスチック、ラジアルタイヤなどの工業製品に幅広く使われています。

人工関節分野では、従来のポリエチレンの材料にガンマ線もしくは電子線を照射して、炭素・水素の結合を切断し、炭素同士を網目構造にクロスリンク(架橋)させることで、摩耗に強い分子の3次元構造を作り強度を高めます。日本では2000年3月に認証され、さまざまな医療機器メーカーがクロスリンク処理した人工関節を製品化しています。

クロスリンク処理した樹脂を人体に適用する場合の問題は、ガンマ線や電子線を照射した後の樹脂に「フリーラジカル」と呼ばれる、化学的に不安定で他の分子と反応しやすい分子が残存してしまうことです。

人工関節樹脂の場合、フリーラジカルとなった炭素が酸素と結び付いてしまうと、樹脂の酸化を促進し耐用年数を逆に大幅に縮めてしまいます。そのためフリーラジカルな炭素を樹脂から除去するために、各メーカーでは150℃以上に樹脂を熱して「再溶融(リメルティング)」や、110〜130℃付近の融点以下の温度で「焼きなまし(アニーリング)」を行うなどの処理をしています。

図2 クロスリンク処理により炭素原子同士をクロスリンク(架橋)して耐摩耗性を向上させる

帝人ナカシマメディカルの開発した人工関節は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)に抗酸化剤としてビタミンEを混練していますが、ビタミンEはその抗酸化能によりクロスリンク処理を阻害する方向に働くことから、通常よりも多い電子線を放射する必要性がありました。

帝人ナカシマメディカルではガンマ線や電子線の照射条件やその後の熱処理条件を工夫することで、ビタミンEの抗酸化能力を残したまま、UHMWPEのクロスリンク処理に成功し、従来製品よりも大幅に耐用年数を延ばした人工関節の開発に結び付けました。

NEDOの役割

「イノベーション推進事業」
(2007~2013年度)

(NEDO内担当部署:イノベーション推進部)

本事業では、大学・研究機関や研究開発型ベンチャー(設立10年以内)が保有する優れた技術シーズの研究開発を促進し、新たなイノベーションを推進することで、日本社会の課題解決と雇用の創出を目指しました。
事業期間中には、研究開発支援だけではなく、技術の優位性を広く理解してもらうと共に、企業名、商品名の認知を広めるために、展示会への出展や講演のセッティングなどの支援も積極的に行いました。
その結果、帝人ナカシマメディカル株式会社は、元々保有していたプロペラ製造技術と京都大学の知見を融合して、人工股関節の開発を成功させました。また、その技術が帝人株式会社の目に留まり、資本提携を行っています。

関連プロジェクト


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