NEDO40年史 イノベーションで未来をつくる
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40th10 NEDO 40年史 石塚 NEDOは設立以来40年間、日本のイノベーション・アクセラレーターとして活動してきた自負を持っていますが、日本企業はこのところ「技術に勝ってビジネスに負ける」という状況にあるともいわれます。オープンイノベーションの観点では、人材や資金のないスタートアップの育成も重要だと思いますが、経営資源を持つ大企業からイノベーションを連続的に生み出すには、何が必要とお考えでしょうか。吉野氏 一概に日本のイノベーション創出力が落ちているとは、私は思っていないんですね。スマートフォンやパソコンなどの産業構造を見ると、素材や部品を開発・供給する川上、製品を組み立てて販売する川中、ソフトウエアやプラットフォームなどの新ビジネスを創り出す川下の中で、日本企業は確かに川中では厳しい状況ですが、川上では依然圧倒的な強さを持っています。考えるべきは、ここ10年ほどで勃興し高い付加価値を持つようになった川下分野で、日本企業がいかにイノベーションを興すかではないでしょうか。石塚 それはスタートアップ企業も巻き込んで、ということですね。吉野氏 米国では川下分野で成功を収めているのは主に西海岸のスタートアップですので、日本でもいかに同様の環境を作るかでしょう。そのため必要なのは、大学などの「知恵袋」、エンジェル投資家などの「資金提供者」、未来を語り合う「場」、ビジョンを絵や映像にする「見える化」、規制にとらわれない「地域性」の5つだと思います。石塚 一方で日本が強いといわれる川上産業でも猛追を受けています。これまで日本のメーカーが先頭を切って出ていった技術分野が、ビジネスだけでなくイノベーションでも負けるという状況も出てくる中、川上、吉野 彰氏 (YOSHINO Akira)1970年京都大学工学部石油化学科卒業。1972年同大学大学院工学研究科石油化学専攻修士課程修了、旭化成株式会社入社。2001年同社電池材料事業開発室室長、吉野研究室室長、顧問などを経て、2017年より名誉フェロー。2010年技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター(LIBTEC)理事長に就任。2019年リチウムイオン電池の開発によりノーベル化学賞を受賞。NEDOが実施する「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)/SOLiD-EV」などのプロジェクトを主導。新ビジネス創出に向け環境作りを巻頭インタビュー ◉ イノベーションへの提言 ①吉野 彰 氏 旭化成株式会社 名誉フェローLIBTEC 理事長石塚 博昭 NEDO 理事長[ ノーベル化学賞受賞 ]

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