NEDO40年史 イノベーションで未来をつくる
31/288

Chapter 1  Part 1  エネルギー・環境・産業技術の40年と未来へ向けてれた「統合イノベーション戦略推進会議」が2019年6月に発表した「バイオ戦略 2019」や、2020年1月に決定した「革新的環境イノベーション戦略」において、日本企業によるバイオエコノミー実現への戦略を描いてきました。 こうした中、NEDOは「持続可能な社会の実現に向けた技術開発総合指針2020」においてバイオエコノミーを柱の一つに掲げ、取り組みを加速していきます。これに先立ち、2015年に医療技術関係の基礎研究から実用化までを一貫して扱う国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が設立され、NEDOの医療系バイオテクノロジー関連プロジェクトはAMEDに移管されたことで、NEDOは工業分野でのバイオテクノロジー開発を軸に、成長産業創出への期待を担うこととなりました。 バイオテクノロジーの中でも、ものづくりに寄与する分野は、化石資源の供給リスクを克服し、かつCO2削減などにより持続可能な低炭素社会を実現するために重要であると、世界でもますます技術開発が活発化しています。また、2012年に登場した米国のゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」を巡る特許紛争などを受け、海外技術に依存しない国産のゲノム編集技術といった独自のバイオテクノロジーの開発が不可欠になっていきました。 そうした国際動向を踏まえ、NEDOが2016年にスタートしたのが「スマートセルプロジェクト」です。スマートセルとは、生物細胞が持つ物質生産能力をバイオテクノロジーとITやAIを活用した情報解析などのデジタル技術によって高度にデザインし、最適な形で制御して最大限に引き出した細胞のことです。細胞を1つの物質生産工場のように機能させます。 スマートセルによって高機能品を生産すれば、工業(ものづくり)、エネルギー、農林水産業、医薬などの各分野で生物資源とその機能の高度利用が可能になります。特に、石油などに依存している工業分野では、生産プロセスへのスマートセル活用によりサステイナブルなものづくりが可能となるため、これまでバイオテクノロジーに縁がなかった分野でも活用が期待されています。NEDOは、バイオテクノロジーとデジタル技術を融合することで、これまでのバイオテクノロジーの枠を一歩飛び出した新しい技スマートセルの実現に向け、環境制御技術適用栽培を進める北海道科学技術総合振興センター・グリーンケミカル研究所(GCC)の人工環境型植物工場術領域を開拓し、より多くの産業における持続可能な社会の実現を後押ししています。日本の強みを加速する 社会実装を 近年、海洋プラスチック問題などが世界でも度々ニュースとなり、社会の関心を集めています。こうした対応を日本が率先していくために、NEDOも2020年度から「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業」に取り組んでいます。加えて、2020年度から「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」を実施し、スマートセルの量産環境を整え、企業に試作などの検討が可能となるプロジェクトを開始しました。 運輸の分野では、国際民間航空機関(ICAO)をはじめとする航空業界からのCO2排出量削減技術の要望に対して、2017年度に微細藻類などのバイオマスを利用した「バイオジェット燃料生産技術開発事業」を開始し、バイオジェット燃料の安価かつ安定的製造を実現する技術開発に取り組んでいます。 元々日本は発酵技術に強みがあり、微生物などを利用して有用な物質を生み出し、産業的に利用してきた実績を持っています。また、高付加価値の機能性化学品などの素材産業でも世界で優位に立ってきました。NEDOは日本が培ってきた技術をさらに発展させ、新しい領域でも経済活動と持続可能な社会の両立に貢献できるよう、今後も「バイオエコノミー」の実現に向けて取り組んでいきます。 NEDO 40年史 29

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る