レアアースを使わない新構造の50kWハイブリッド自動車用フェライト磁石モータを開発
2010年9月29日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
国立大学法人北海道大学
NEDOは、北海道大学大学院情報科学研究科 小笠原悟司教授、竹本真紹准教授の研究グループとともに、従来のハイブリッド自動車用希土類磁石モータに匹敵する出力を有する、フェライト磁石のみからなる新構造のロータセグメント形アキシャルギャップモータの開発に成功しました。
この技術は、「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発」の一環として開発したもので、資源の偏在などで安定調達が困難となっているレアアースを使わず、安価なフェライト磁石だけで構成されているため、近年激しさを増す次世代自動車開発において、日本の産業競争力を高めることが期待されます。

ただし、レアアースは産出国が限られるために(中国が90%以上)、戦略物資としてその産出量・国際取引量が制限されつつあります。そのため、今後HEVやEVをさらに普及させるためには、安定供給とコストダウンが図れる、レアアースを使用しない安価なフェライト磁石モータ等の利用が望まれています。
しかし、レアアースを使用する希土類磁石と比較して、フェライト磁石は磁力が弱いためにHEVやEV用モータに使用した場合、フェライト磁石が不可逆減磁してしまう、さらには、高出力が得られないという問題がありました。
そこで、NEDOの次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発の一環として、北海道大学大学院情報科学研究科 小笠原悟司教授、竹本真紹准教授の研究グループは、これらの問題を解決できる新構造のロータセグメント形アキシャルギャップモータを提案し、従来のHEV用希土類磁石モータに匹敵する50kWを発生できるフェライト磁石モータの開発に成功しました。
そこで、これらの問題を解決するために、ロータバックヨークを無くし、フェライト磁石と圧粉鉄心を非磁性の支持部材に交互に組み込み、磁石と圧粉鉄心をそれぞれ分割した新構造の「ロータセグメント形アキシャルギャップモータ」を新たに提案しました。この新構造は従来構造に比べて、フェライト磁石に不可逆減磁を発生させる磁束が磁石に流れ込むのを抑制できる、そして、突極比を大きくできるために、リラクタンストルクを有効に発生でき、高出力を実現できるという特長を備えています。そこで、3次元有限要素法によりHEV 用フェライト磁石モータとして適切な構造設計を行い、従来のHEV用希土類磁石モータと同サイズの試作機を設計・製作しました。
今後、さらに試験を継続して行い、試作機の様々な運転条件におけるモータ特性を取得することで、新たに提案するフェライト磁石モータのHEV用モータとしての有効性をさらに検証していく予定です。
なお、この成果は9月30日の「イノベーション・ジャパン2010―大学見本市」で報告する予定です。
NEDO スマートコミュニティ部 小林、後藤
TEL: 044-520-5264
国立大学法人北海道大学大学院 情報科学研究科 准教授 竹本 真紹
TEL&FAX: 011-706-6464 (研究室に不在の場合:総務部広報課 菅原 TEL: 011-706-2610)

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報室 田窪、廣瀬
TEL: 044-520-5151
E-mail: nedo_press@nedo.go.jp
【用語解説】
この技術は、「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発」の一環として開発したもので、資源の偏在などで安定調達が困難となっているレアアースを使わず、安価なフェライト磁石だけで構成されているため、近年激しさを増す次世代自動車開発において、日本の産業競争力を高めることが期待されます。

1.背景
近年の地球環境への関心の高まりから、世界中の自動車メーカーは、二酸化炭素の削減や燃費向上による省エネルギーを目的にハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)の量産化を加速しています。現在のHEVやEVには、高出力を得るため、レアアース(希土類元素)を使用した希土類磁石モータが用いられています。ただし、レアアースは産出国が限られるために(中国が90%以上)、戦略物資としてその産出量・国際取引量が制限されつつあります。そのため、今後HEVやEVをさらに普及させるためには、安定供給とコストダウンが図れる、レアアースを使用しない安価なフェライト磁石モータ等の利用が望まれています。
しかし、レアアースを使用する希土類磁石と比較して、フェライト磁石は磁力が弱いためにHEVやEV用モータに使用した場合、フェライト磁石が不可逆減磁してしまう、さらには、高出力が得られないという問題がありました。
そこで、NEDOの次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発の一環として、北海道大学大学院情報科学研究科 小笠原悟司教授、竹本真紹准教授の研究グループは、これらの問題を解決できる新構造のロータセグメント形アキシャルギャップモータを提案し、従来のHEV用希土類磁石モータに匹敵する50kWを発生できるフェライト磁石モータの開発に成功しました。
2.成果の概要
(1)研究手法
従来構造のアキシャルギャップモータは、磁性体で構成されるロータバックヨーク(ロータディスク)(*1)上に磁石や鉄心を配置する構造が一般的です。そのため、磁石厚を厚くできない、さらにフェライト磁石を使用した場合、磁力が弱いことにより減少するマグネットトルク(*2)を補うために、リラクタンストルク(*3)を有効に発生する必要がありますが、ロータバックヨークの存在により突極比が大きくならず、リラクタンストルクも有効に発生できないという問題がありました。また、磁石厚が厚くなく、突極比が小さいため、フェライト磁石に不可逆減磁を発生させる磁束が流れ込みやすく、容易に不可逆減磁が発生してしまうという問題もありました。そこで、これらの問題を解決するために、ロータバックヨークを無くし、フェライト磁石と圧粉鉄心を非磁性の支持部材に交互に組み込み、磁石と圧粉鉄心をそれぞれ分割した新構造の「ロータセグメント形アキシャルギャップモータ」を新たに提案しました。この新構造は従来構造に比べて、フェライト磁石に不可逆減磁を発生させる磁束が磁石に流れ込むのを抑制できる、そして、突極比を大きくできるために、リラクタンストルクを有効に発生でき、高出力を実現できるという特長を備えています。そこで、3次元有限要素法によりHEV 用フェライト磁石モータとして適切な構造設計を行い、従来のHEV用希土類磁石モータと同サイズの試作機を設計・製作しました。
(2)研究成果
試作したフェライト磁石のみからなる新構造のロータセグメント形アキシャルギャップモータに対して定トルク領域における実負荷試験を実施した結果、従来のHEV用希土類磁石モータと同サイズで同等の51.5 kWという高出力を発生できることを確認しました。今後、さらに試験を継続して行い、試作機の様々な運転条件におけるモータ特性を取得することで、新たに提案するフェライト磁石モータのHEV用モータとしての有効性をさらに検証していく予定です。
(3)今後への期待
レアアースを含む天然資源の極めて少ない日本が、次世代用電気自動車分野において国際競争力を維持していくためには、レアアースに依存しない新規技術を開発・量産化し、安定供給とコストダウンを図っていくことが必要不可欠です。そこで、レアアースを使用しない本成果のフェライト磁石モータについて研究を引き続き継続することで、より一層の高性能化を目指します。(4)技術的詳細
この研究は、NEDOの次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発の一環として、北海道大学の小笠原悟司教授,竹本真紹准教授(大学院情報科学研究科)と、東京工業大学の千葉明教授(大学院理工学研究科),東京理科大学の星伸一准教授(理工学部)らが協力して行なったものです。なお、この成果は9月30日の「イノベーション・ジャパン2010―大学見本市」で報告する予定です。
3.お問い合わせ先
(本プレスリリースの内容についての問い合わせ先)NEDO スマートコミュニティ部 小林、後藤
TEL: 044-520-5264
国立大学法人北海道大学大学院 情報科学研究科 准教授 竹本 真紹
TEL&FAX: 011-706-6464 (研究室に不在の場合:総務部広報課 菅原 TEL: 011-706-2610)

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報室 田窪、廣瀬
TEL: 044-520-5151
E-mail: nedo_press@nedo.go.jp
【用語解説】
- 1 ロータバックヨーク:
ロータディスク。炭素鋼などの磁性体で構成する円盤状の部材。円盤状の部材表面に、磁石や鉄心が配置され、固定子に巻かれた巻線との相互作用によってトルクが発生する。この円盤状部材の中心を垂直方向に貫く形で回転子主軸が固定されており、発生したトルクが回転子主軸に伝達され、モータ外部に接続された負荷を回転させる。 - 2 マグネットトルク:
巻線が作り出す電磁石と磁石の間に作用する吸引と反発の力により生じる回転力 - 3 リラクタンストルク:
巻線が作り出す電磁石が鉄心を吸引する力により生じる回転力