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ケイ素系負極材料で、1,000サイクル以上を達成

―電気自動車の性能、飛躍的に向上へ―
2010年3月25日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
国立大学法人鳥取大学
 NEDOの次世代自動車向け蓄電池開発プロジェクトの一環として鳥取大学の坂口裕樹教授らは、リチウムイオン電池の電極材料として飛躍的な高容量が期待されていたケイ素系負極材料において1000サイクル以上でも既存の炭素材料を大きく超える容量での充放電に成功しました。この成果を活用することによって電気自動車等用リチウムイオン電池性能の飛躍的な向上が期待されます。

1.背景

 現状の電気自動車において特に重要な課題として挙げられているのが航続距離とコストであり、それを解決するキーテクノロジーとして注目されているのがリチウムイオン電池に代表される高性能蓄電池です。
 リチウムイオン電池は原理的には従来の蓄電池と比較して高いエネルギー密度を誇りますが、現行のガソリン車並みに航続距離を伸ばすためには、より多くの電気を貯蔵放出できる新しい電極材料の開発が必要とされています。
 その中で、負極の容量を飛躍的に増大させることへの期待からケイ素に高い関心が寄せられています。ケイ素は4200mAh/gという、実用化されている黒鉛の約10倍もの理論容量を有し,比較的安価で環境や人体への影響を心配する必要もないことから,次世代負極材料の最有力候補と目されます。しかしながら、ケイ素のみからなる電極ではリチウムの吸蔵放出にともなう激しい体積変化により、充放電100サイクルまでに電極崩壊が発生し、その放電容量(Li脱離)が大きく低減してしまうという深刻な問題があり、ケイ素の高容量を活かしつつ優れたサイクル安定性を示す新規負極の開発が求められていました。

2.成果の特徴

(1) 高容量と長サイクル寿命の両立の実現

 この度、鳥取大学 坂口裕樹教授らは無電解析出法(※1)を用いてケイ素粒子をニッケル-リン化合物で被覆することによるコンポジット化と、これを原料としてガスデポジション法(※2)を用いて厚膜電極化したことにより、ケイ素の有する高容量のメリットを活かしつつ、サイクル耐久性を顕著に改善することに成功しました。同教授らはこれまでにも、ニッケルのみを被覆したケイ素粒子からなる厚膜電極において優れた負極性能を報告してきましたが、今回ニッケル-リン化合物を被覆させることにより、従来より被覆層を薄くすることが可能となり、ケイ素の利用率を増大させることができました。
 ケイ素粒子上に析出した被覆膜は、充放電時のケイ素の体積変化にともなう応力を緩和する働きがあると推測されていましたが、機械的特性と電極性能の関連についての定量的な検討はこれまでほとんどありませんでした。今回、坂口教授らは超微小硬度計を用いて厚膜電極の押し込み弾性率を計測し、ニッケルやニッケル-リン化合物を被覆したケイ素を用いた電極は、ケイ素単独の厚膜電極の約8~9倍もの高い弾性率を有しており、ケイ素からの応力の緩和に適した機械的特性を有していることを明らかにしました。

(2)耐久性向上への寄与

 坂口教授らはケイ素微粒子表面を部分的にニッケルとリンとの化合物(Ni3P)で被覆した材料を用いて、1000サイクル以上の充放電を繰り返しても、現在のリチウムイオン電池で実用化されている黒鉛負極の理論容量の約2倍の放電容量(約750mAh/g)を保つことに成功しました。これにより、ケイ素系材料を負極に用いたリチウムイオン電池の実用化にまた一歩近づくことができました。

(3) 低コスト化向上への寄与

 今回、合成に使用したケイ素、ニッケル、リンはいずれも高価な材料ではなく、また、ケイ素粒子上へニッケル-リン化合物を被覆する手法(※1)は一般に用いられる簡便なものであります。さらには、本開発で用いた厚膜化の手法(※2)は電力などのエネルギーを必要としません。したがいまして、坂口教授らの開発した技術は低コストで高性能の負極を製造する可能性を大いに含んでいます。

(4)技術的詳細

 過去に坂口教授らが行ったニッケルを被覆したケイ素からなるGD厚膜電極では、充放電サイクル初回での放電容量が約800mAh/g、1000サイクル後においては約580mAh/gといった現行の黒鉛負極をはるかに上回る性能が示されていました。今回作製したニッケル-リンを用いた電極では、それをさらに超える性能(初回約1590mAh/g、1000サイクル後約750mAh/g)が得られることがわかりました。
 被覆膜の構造解析の結果、Niよりもさらに機械的強度に優れたNi3Pがケイ素粒子上に析出していることが明らかになりました。これらのことから、ニッケルにリンを加えることで少ない被覆量でも高い弾性率を発揮する膜が形成され、ケイ素とリチウムの反応面積を広く確保しつつ体積変化にともなう応力を効果的に緩和できたために、優れた電極性能を発揮したものと考えられます。今後は合成条件を最適化することによりさらなる性能向上が期待されます。
 なお、この成果のさらなる詳細については、6月27日からカナダ・モントリオールで開催されるリチウム電池国際会議IMLB2010において発表される予定です。

3.お問い合わせ先

(本プレスリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 燃料電池・水素技術開発部 宍戸、丸山 TEL 044-520-5264

(プレス発表/取材に関する問い合せ先)
NEDO 広報室 萬木(ゆるぎ)、田窪  TEL 044-520-5151

(参考)用語の解説

  • ※1 無電解析出法:
    無電解めっき法とも呼ばれています。金属塩を含む水溶液中において、外部電源を使用せずに添加した還元剤の酸化反応で生じた電子により、金属イオンを還元させ析出させる手法です。析出した金属自体が還元剤の酸化反応に対して触媒活性な場合には、連続的に金属を析出させることができ、析出する厚さを任意に制御することが可能です。
  • ※2 ガスデポジション法:
    原料粉末とキャリアガスで構成されるエアロゾルを、ノズルから高速で噴出させ基板上に叩きつけることで厚膜を形成させる方法です。スパッタリング法や化学気相蒸着法と比べて、安価で簡便なプロセスであり、製膜速度が大きい、組成変化が起こりにくいという特徴を持っています。坂口教授らは、この方法を用いて作製した厚膜電極において、活物質粒子同士および活物質粒子と集電体基板とを非常に強く密着させることができ集電性が向上するため急速充放電性能に優れていること、また、膜内部に適度な空隙を存在させることができるため膨張-収縮に対する耐久性に秀でていることを明らかにしています。