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Press Release

燃料極反応機構をベースにしたドライ炭化水素を直接燃料とする固体酸化物燃料電池を開発【産技助成Vol.37】

2008年9月24日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東京工業大学炭素循環エネルギー研究センター
水蒸気改質(注1)することなく炭化水素を直接燃料とする長寿命、高効率な燃料電池を開発。
従来電極にプロトン伝導体を微量添加するだけで実現。
炭化水素の熱分解による固体炭素を燃料とする、高効率燃料電池を開発。

【新規発表事項】
  独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、東京工業大学 炭素循環エネルギー研究センターの准教授、伊原学氏は、ドライ炭化水素を直接燃料とする固体酸化物燃料電池を開発しました。
  今、自動車などの動力源として燃料電池が、環境負荷が小さくエネルギー効率が高いため、注目されています。燃料電池を使う電気自動車などは、一次エネルギーのガソリンや天然ガスなどの炭化水素を水蒸気改質して得られる水素を燃料とするものが主流ですが、改質せず、炭化水素を直接燃料とすることは効率でもランニングコストでも有利で装置の小型化も実現できます。しかし、稼働時間の経過とともに燃料極表面に炭素が付着して、次第に効率が低下していくという問題がありました。
  本研究開発ではこれらの問題を解決するとともに、熱分解によって生成する炭素を燃料にする燃料電極(リチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池(注2))を開発し、ダイレクトカーボン型燃料電池の出力密度としては、世界一の高出力(最大出力:0.26W/cm2)を実現しました。また、その低温化にも成功しました。
  ドライ炭化水素を燃料とする燃料電池の開発では、従来電極にプロトン(注3)伝導体をインフィルトレーション法により微量添加することで、炭素の燃料極への析出による電極劣化を抑制し、高出力化が可能な燃料極の開発に成功しました。

図1.ドライ炭化水素を直接燃料とする、固体酸化物燃料電池
図1.ドライ炭化水素を直接燃料とする、固体酸化物燃料電池

(注1) 水蒸気改質:触媒を使って高温(700℃-1100℃)で炭化水素に水蒸気を作用させて、一酸化炭素と水素を発生させる反応。メタンを例にとると、CH4+H2O→CO+3H2となる。
(注2) リチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池:東京工業大学伊原らが開発した独自の燃料電池で、炭化水素の熱分解で生成する固体炭素を燃料として使用する。
(注3) プロトン:水素イオン(H)の陽子のことを指す。プロトン伝導体は、燃料電池が稼働している温度で容易にプロトンを移動させられる物質のこと。本技術ではこのプロトン(H+)により、低燃料利用率時にH2O(水蒸気)を選択的生成させ、反応性生物の水蒸気により改質反応(C+H2O→CO+H2、CH4+H2O→CO+3H2)を促進させることを可能にした。

  1. 研究成果概要
      炭化水素から水蒸気改質によって得られる「水素を燃料とする燃料電池」は、水素が一次エネルギーではなく二次エネルギーにあたるので、エネルギー効率は一次エネルギー基準での効率、つまり二次エネルギー(水素)の製造プロセスでの効率と二次エネルギーの利用プロセスでの効率の掛け算で計算される総合効率が、実際の「水素を燃料とする燃料電池」の効率となります。現状の水素生成プロセスである炭化水素の水蒸気改質は、吸熱反応であるため水素生成プロセスの効率はそれほど高くありません。また、水蒸気改質装置も同時に積み込むことが必要なため、システム全体の重量が大きくなり、単位重量あたりでの出力密度が低くなります。燃料電池自動車では重たくなった分、燃費が落ち、エネルギーの利用効率も低下します。燃料電池を動力源とする自動車などの開発・普及にとって、車体重量の増大は大きな障害になります。
      そこで、一次エネルギーである炭化水素を直接燃料とする燃料電池の開発に挑みました。炭化水素を直接燃料とするため、エネルギー効率は、原理的にはそれ自体の製造にエネルギーを必要とする「水素」を燃料として使う燃料電池よりも向上させることが見込まれます。開発のポイントは、ある一定のアノード電位を維持した場合の三相(電子、酸化物イオン、燃料)界面での酸素被覆率を高くできる電極材料を用いることだと考えました。研究開発の結果、これまでにないドライ炭化水素燃料中で安定性と高出力を可能にする燃料極の開発に成功しました。
      この問題の解決は、Ni/YSZ(ニッケルとイットリアドープジルコニア(YSZ))にSrZr0.95Y0.05O3-α(SZY)、Ni/GDC(ガドリニウムドープドセリア(GDC))にSrCe0.95Yb0.05 O3-α(SCYB)などのプロトン伝導体を電極にインフィルトレーション法によって微量添加することで、燃料極の高活性化と炭素の析出などによる劣化の抑制に寄与することを証明できたことがポイントでした。
      また、析出する固体の炭素を燃料にして何度でも使える新しい電池「リチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池」を開発。ダイレクトカーボン燃料電池の出力密度としては、現在報告されている世界一の高出力を実現しました。この燃料電池は小型化が可能なため、今後、ポータブル電源などとしての利用も考えられます。
     
  2. 競合技術への強み
    1. 炭化水素を直接燃料とする燃料電池自動車は、高圧水素ガスを燃料とする場合よりも燃料効率が高い。
    2. 総合燃料効率は、理想的には既存のガソリン車の14%よりもはるかに高い44%が期待できる。
    3. 高圧水素ガスを燃料とする場合に比べて、車への燃料の搭載が容易である。(高エネルギー密度であるため)
    4. 高圧水素ガスを用いる場合に比べて、燃料スタンドなどのインフラの整備が容易である。

      燃料効率 (%)(注4)
    Well to Tank
    車両効率 (%)(注5)
    Tank to Wheel
    総合効率(%)
    Well to Wheel
    ガソリン車
    (既存技術)
    88 16 14
    ガソリン - ハイブリッド車
    (既存技術)
    88 37 32
    高圧水素燃料 - 燃料電池車
    (既存技術)
    58 50 29
    炭化水素燃料 - 燃料電池車
    (本技術)
    88 50 44
    表1.燃料効率に関する従来技術と本技術との比較表
    (注4)燃料効率:化石燃料を油田から取り出し、車の燃料タンクに入れるまでの効率。
    (注5)車両効率:使用する燃料基準の車の効率。

    燃料 燃料電池の理論効率

    ⊿ G (1200K)

    ⊿ H (1200K)
    燃料利用率 電圧効率 期待される燃料電池の
    総合効率
    H2
    (既存技術)
    0.73 0.85 0.80 0.50
    CH4
    ドライ炭化水素を直接燃料とする燃料電池
    (本研究)
    0.99 0.85 0.80 0.67
    C
    リチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池
    (本研究)
    1.0 1.0 0.80 0.80
    表2.1200Kで動作させた燃料電池の燃料の違いによる効率の違い(各燃料基準)
     
  3. 今後の展望
      ドライメタン燃料における加速劣化試験において、より劣化が少なく、より高出力化が可能な電極の開発を目指し、プロトン伝導体に注目して開発を行っていきます。さらに、固体炭素を直接燃料とする「リチャージャブル・ダイレクトカーボン燃料電池(RDCFC)」の高性能化を目指し、今後も連携先企業、その他の企業と共同で実用化を目指していきます。
     
  4. 問い合わせ先
    (1) 技術内容について
    <代表研究者名・所属機関・部署名・役職名>
    伊原 学(東京工業大学炭素循環エネルギー研究センター 准教授)
    TEL:03-5734-3337    FAX:03-5734-3337
    E-mail:E-mail
    研究室HP:伊原研究室
       
    (2) 制度内容について
    NEDO技術開発機構 研究開発推進部 若手研究グラントグループ
    坂橋 信俊、松崎 肇、千田 和也
    TEL:044-520-5174 FAX:044-520-5178
    個別事業HP:産業技術研究助成事業(若手研究グラント)
  5. 参考
    成果プレスダイジェスト: 東京工業大学准教授 伊原 学氏【PDF:531KB】