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水溶性抗がん剤も搭載可能なドラッグデリバリーシステムを開発

-中空磁性カプセルにより薬剤搭載量5倍以上、抗がん剤投与量を大幅低減へ-
2011年7月26日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東京慈恵会医科大学
 東京慈恵会医科大学の並木 禎尚講師らのグループは、NEDOの産業技術研究助成事業(若手研究グラント)の成果として、異分野技術の融合 (注1) により、これまで磁気的に送達が困難であった水溶性薬剤を中空磁性カプセルに密封することで、水溶性薬剤の送達を磁力で制御できるがん治療用ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発に世界で初めて成功しました。
 開発した中空磁性カプセルは、磁性ナノ粒子を用いる従来技術と比べて5倍以上の薬剤を搭載することが可能で抗がん剤投与量を大幅に削減することが期待されます。
 なお、この成果は、7月26日付の米国の科学誌Accounts of Chemical Research (注2) 電子版に掲載されました。
  • 注1: 研究分担者の技術:中川 勝 氏(東北大学): 中空構造物、北本 仁孝 氏(東京工業大学): 強磁性材料
  • 注2: 国際的にトップクラスの化学分野の学術誌(Impact Factor=21.84) http://pubs.acs.org/journal/achre4
  • 図1. 中空磁性カプセルと従来技術の比較
    図1. 中空磁性カプセルと従来技術の比較
図2. がん細胞・がん病巣への中空磁性カプセルの磁気集積(イメージ図)図2. がん細胞・がん病巣への中空磁性カプセルの磁気集積(イメージ図)

1.背景

 本邦の最大死因である「がん」は年々増加しております。進行がんの治療法として最も普及している抗がん剤は、通常の薬剤とは異なり、治療効果を発揮する薬剤濃度と、中毒症状が発生する薬剤濃度とが近接する特徴を持ちます。そのため、治療効果の向上を目指して抗がん剤の投与量を増やすと、治療の継続を妨げ、時には死を招く、有害な副作用が起こり易い問題があります。
 「がん病巣における薬剤濃度の上昇」、「正常組織での薬剤分布の低減」により、この問題の克服を目指したDDS開発 (※1) (※2) が行われておりますが、数多くのハードルが存在します。

2.研究成果

2.1.今回の成果の特長

 異分野技術である「中空磁性カプセル」 (*3) と「抗がん剤ナノ粒子」 (*4) の融合により、あらゆる種類の抗がん剤を磁力で送達制御できる「抗がん剤搭載磁性カプセル」を開発しました(国際特許出願済)。
  従来の磁性ナノ粒子には、水溶性抗がん剤の「粒子内部への密封」、「薬剤搭載スペースの確保」が非常に難しいといった課題が存在します。
 今回、(1)薬剤が自由に出入りできる網目状の隙間、(2)大量の薬剤搭載スペースをもつ「中空磁性カプセル」を開発することにより、これらの課題の克服を目指しました。内部に水溶性抗がん剤を密封し、磁気誘導したところ、ヒトがん培養細胞株において磁性カプセルを用いない場合と比較して、強力な抗腫瘍効果を発揮しました(抗がん剤単体の100倍以上の効力を発現)。また、薬剤搭載率は、中空スペースを持たない従来型磁性ナノ粒子の5倍以上を達成しました。
  • 図3. 中空磁性カプセルの作製法
    図3. 中空磁性カプセルの作製法
  • 図4. 中空磁性カプセルへの蛍光抗がん剤(ドキソルビシン)の搭載法・磁気吸着の観察
    図4. 中空磁性カプセルへの蛍光抗がん剤(ドキソルビシン)の搭載法・磁気吸着の観察

2.2. 本ドラッグデリバリーシステムのさらなる性能向上

  1. サイズの最適化などを行い、動物モデルでの治療効果の検証を進めてまいります。
  2. 中空磁性カプセルの薬剤搭載率が50%以上であること、磁力による磁性カプセルの標的病巣への誘導効果が期待されることより、将来的には、抗がん剤の投与量を1/10以下に低減できる可能性があります。

3. 今後の展望

 今後、中空磁性カプセルの性能をさらに高めることにより、「からだにやさしく、良く効く」がん治療を目指した究極のDDSの開発に取り組んでいきます。

4.お問い合わせ先

(本プレスリリースの内容についての問い合わせ先)
 東京慈恵会医科大学 臨床医学研究所 並木 禎尚
 TEL: 04-7164-1111(内線6602) E-mail:genetherapy@hotmail.co.jp

(産業技術研究助成事業(若手研究グラント)についての問い合わせ先)
 NEDO 技術開発推進部 担当:田畑、松﨑
 TEL: 044-520-5174

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
 NEDO 広報室 担当:田窪、遠藤
 TEL: 044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

【用語解説】

  • 1: 非磁性ナノ粒子DDS(従来技術)
     がんに栄養・酸素を供給する血管は正常血管と比べて血管壁のつくりが粗く、隙間が大きいため、静脈内注射により血管内に投与した数百nm径程度のナノ粒子はがん組織に漏出します。一方、がん組織では、異物を回収する毛細リンパ管が未発達なため、漏出したナノ粒子は貯留します。従来のDDSはEPR(Enhanced permeability and retention)効果と呼ばれる、このようなナノ粒子のがん組織への集積を利用しています。
     また、がんに結合する抗体を併用した第二世代のDDSをもってしても所期の治療効果は達成されておらず、より標的指向性の高い次世代DDSの開発が望まれています。
  • 2: 磁性ナノ粒子DDS(従来技術)
     抗がん剤を搭載した磁性ナノ粒子を血管内投与するDDSの特長は、磁場により磁性ナノ粒子の標的送達制御が可能であり、その上、EPR効果も利用できることです。そのため、がん細胞を精密に狙って攻撃でき、治療効果の向上、副作用の低減、抗がん剤投与量の削減が期待されます。
     しかしながら、従来の磁性ナノ粒子は、体積の大半を占める磁性微粒子からなる中実構造(中空スペースを持たない)であるため、磁性ナノ粒子の外側に抗がん剤を保持させていました。そのため、ひとつひとつの粒子に搭載できる抗がん剤の量が極端に少なく、多量の磁性ナノ粒子を投与しなければならないといった問題点がありました。
  • 3: 「中空磁性カプセル」構造形成技術(中空カプセル化、隙間構築)
     均一な径をもつシリカナノ粒子を鋳型とし、陰性に荷電しているシリカ表面を、陽性荷電ポリマーで被覆します。ポリマー部で、鉄白金ナノ微粒子を成長させて、鉄白金ナノ微粒子を表面にもつシリカナノ粒子を作製します。続いて、高温・高圧処理(400℃・37MPa)を行うことにより、シリカ表面で成長した鉄白金ナノ微粒子同士が(適度な隙間を開けて)部分的に熱融合を開始します。引き続き、高温・高圧処理を続けることにより、シリカ鋳型粒子が加水分解・除去されるため、鉄白金を素材とする適度な隙間をもつ「中空磁性カプセル」が得られます。
  • 4: 「中空磁性カプセルへの抗がん剤搭載」
     抗がん剤を含む水溶液と中空磁性カプセルを混合し、真空処理することにより、中空カプセル内部の空気を抗がん剤で置換することができます。さらに、カプセル表層を生分解性の脂質膜で被覆、カプセル内部に充填した抗がん剤を密封して、目的の「抗がん剤搭載磁性カプセル」が得られます。