先進型イットリウム系超電導線材の低コスト長尺製造技術を確立
2013年6月19日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
昭和電線ケーブルシステム株式会社
公益財団法人国際超電導産業技術研究センター
この度開発した先進型イットリウム系線材の臨界電流密度は、液体窒素冷却下・3テスラ中で線材単位断面積(1平方センチメートル)あたり20万アンペア。その時の臨界電流値は1cm幅線材で50アンペアを超え、溶液塗布熱分解法*3で作製した長尺線材としては世界最高値を達成しました。

1.概要
NEDOは「イットリウム系超電導電力機器技術開発」(プロジェクトリーダー:塩原融 公益財団法人国際超電導産業技術研究センター理事、超電導工学研究所 所長)において、これまでの技術開発によって得られた世界最先端の超電導技術を活用して、コンパクトで大容量の電力供給が期待できるイットリウム系酸化物超電導線材を用いた超電導電力ケーブル、超電導変圧器等の電力機器開発に取り組んできました。
本事業で、イットリウム系超電導線材の製造方法として低コスト化が期待できる溶液塗布熱分解法により、「ナノ粒子分散型人工ピン」導入技術*2を用いて高い磁場中特性を持つ線材の開発に成功いたしました。
昭和電線ケーブルシステム(株)とISTECは、これまで低コストで高温超電導線材の製造が可能なプロセスである溶液塗布熱分解法を使って性能の向上、長尺化などの開発を共同で行ってきました。この中でISTECが開発した「ナノ粒子分散型人工ピン」導入技術(ナノは10億分の1メートル。髪の毛の約10万分の1の太さ)は、イットリウム系超電導体の中にナノレベルの非超電導物質を分散させて磁場中の特性低下を防ぐ技術です。これは、原料溶液にナノ粒子の元素を溶かしこみ、熱処理中の反応により微細に分散させる技術であり、長尺線材で均一に実現させることは難しいとされてきました。昭和電線ケーブルシステム(株)はこの技術の移管を受け、自社の量産方法である電熱バッチ式一括熱処理プロセスで製造が可能になるように改良を加え、今回の成果を達成しました。
2.今回の成果
溶液塗布熱分解法による高温超電導線材において、世界で初めて長尺線材への人工ピン止め点の導入に成功し、高特性を有するイットリウム系超電導線材の製造に成功したものです。臨界電流密度は液体窒素冷却下・3テスラ中で線材単位断面積(1平方センチメートル)あたり20万アンペアでした。その時の臨界電流値は1cm幅線材で50アンペアを超え、溶液塗布熱分解法で作製した長尺線材としては世界最高値となりました。
ISTEC超電導工学研究所(以下ISTEC-SRL)では、2009年に超電導層の中に直径数十ナノメートルの人工ピン微粒子(BaZrO3 バリウムジルコニウム酸化物:以下BZO)を均一に分散させることで、磁場中の超電導特性を大幅に改善させる方法を見出しております。昭和電線ケーブルシステム(株)はイットリウム系超電導線材を安価で工業化が容易である溶液塗布熱分解法を使い長尺化、量産できる技術を保有しており、2008年には世界トップクラスである500mの線材作製に成功しております。今回、両者の技術を合わせることにより、高性能線材を安価に提供するための製造技術を確立したと言えます。
今回作製に成功した線材の仕様 基板:イオンビームアシスト蒸着法による結晶粒配向酸化物中間層付きハステロイTM基板 超電導層:塗布熱分解法(膜厚2.5マイクロメートル) Y0.77Gd0.23Ba2Cu3O7-y(超電導)+BaZrO3(人工ピン微粒子:磁場中特性向上に有効) 線材長:130m 臨界電流密度*4:20万A/cm2 液体窒素中、3テスラ(溶液塗布熱分解法による超電導線材における世界最高値) 製造方法:電熱バッチ式一括熱処理プロセス*5 |
3.今後の予定
超電導体の臨界電流値*4は、周囲の磁場が強くなると共に減少するという性質があります。この為、線材に強い磁場が印加される環境で使用する応用機器(超電導電力貯蔵システム(SMES)、超電導変圧器、MRI、NMR、リニアモーターカー、核融合炉コイル、産業用モータなど)からは磁場中で高い特性を維持する線材が望まれています。
今回の開発で磁場に強いイットリウム系超電導線材を低コストで製造できるようになったことで、高磁場を扱う超電導機器の軽量化、コンパクト化が可能となり、超電導機器のメリットを引き出すことが可能になります。また、超電導機器は電力損失が小さいことから、低炭素社会の実現に有効な技術として期待されています。
昭和電線ケーブルシステム(株)では、既に「ナノ粒子分散型人工ピン」導入技術を用いないイットリウム系超電導線材を販売しており、今回の先進型イットリウム系線材(nPAD-YBCO)も製造準備が整い次第販売を開始する予定です。また、今後も先進型イットリウム系線材(nPAD-YBCO)の更なる特性向上に向けて、研究を継続していきます。
さらに、昭和電線ケーブルシステム(株)では、新製品として、この線材を使った電流リード*6の開発を進めており、今秋を目標に販売を開始する予定です。昭和電線ケーブルシステム(株)では現在ビスマス系焼結体を使った電流リードを販売しており、これに先進型イットリウム系線材(nPAD-YBCO)を適用することにより、コンパクトで設計自由度が高い製品を実現し、この分野の製品ラインナップを拡充することで、超電導分野での更なる事業拡大を進めて行きます。
お問い合わせ先
(本プレスリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 省エネルギー部 臼井、三津井 TEL:044-520-5281
昭和電線ケーブルシステム 技術開発センター 小泉 TEL:042-773-7163
国際超電導産業技術研究センター 超電導工学研究所 和泉 TEL: 03-3536-5703
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報室 担当:遠藤、木内 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp
【参考:用語解説】
*1 イットリウム系超電導線材:高温超電導体の一種。高温超電導体とは、安価な液体窒素温度(-196℃)以上の温度でも超電導状態となる物質のこと。イットリウム系超電導体は、イットリウム(Y)・バリウム(Ba)・銅(Cu)・酸素(O)から構成される酸化物。尚イットリウム系とはイットリウムを他の希土類元素(例えば、Gd,Sm等)で置換した超電導材料の総称である。
イットリウム系酸化物超電導線材は臨界電流密度が大きく、液体窒素中では電気抵抗ゼロで大電流を流すことができ、磁場中での通電特性も良好であることから、機器の小型化や省エネの観点から実用化が期待されている線材である。また、この線材は従来のビスマス系酸化物超電導線と比較して、被覆材として使われている銀の使用量が極めて少ないことから、特性の高さと共に低コストの酸化物超電導線材として期待されている。
*2 「ナノ粒子分散型人工ピン」導入技術:臨界電流などの超電導特性は、周囲の磁場強度の増加に伴って低下する。これは超電導体の内部に侵入した磁束線が移動することによって生じるものであり、超電導体の中に微細な非超電導相粒子等を分散させることにより、磁束線が非超電導相粒子等に引っ掛って(ピン止めと呼ぶ)磁束線の移動が抑制され、磁場中の特性が向上する。
*3 溶液塗布熱分解法:金属元素をアルコール系溶媒に溶かしこんだ原料溶液を基板上に塗り、これを熱処理することによって結晶化した超電導層を形成する手法。
*4 臨界電流密度/臨界電流値:超電導状態を維持しつつ流し得る最大の電流値を臨界電流値という。(臨界電流以上の電流を流すと超電導状態は壊れ、抵抗が発生する。)臨界電流値は温度、磁場の強さに依存する。これを、単位断面積あたりに流れる電流値として算出したものを臨界電流密度という。
*5 電熱バッチ式一括熱処理プロセス:基板に溶液原料を塗布・焼付けした仮焼膜を大型のドラムに巻き付け、大型の電気炉に入れ、水蒸気を含んだ反応ガスを流しながら一定条件下で熱処理を加える事により結晶化した超電導層を形成する超電導線材作製プロセス。
*6 電流リード:極低温で使う超電導磁石へ電流を流し込むためのリード線。極低温にするための冷媒の消費を減らし、超電導磁石を効率的に動かすために、電流を通すが熱を通しにくい材質が求められる。これまでは酸化物超電導体の焼結体や銀金合金シースビスマス系線材が使われていたが、磁場中での通電特性向上、機械特性の向上などが課題となっていた。