本文へジャンプ

電流を100倍流せる、カーボンナノチューブと銅の複合材料を開発

―デバイスの小型化・高性能化に期待―
2013年7月23日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構

NEDOと技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)、独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)は23日、従来から配線などに用いられている銅の100倍電流を流せる複合材料を開発したと発表した。

この複合材料は単層CNTと銅を用いて開発。銅と同程度の電気伝導度と今までにない電流容量という優れた性質を併せもつ従来にない材料が実現した。

また非常に軽く、高温でも高い電気伝導度を保つため、電子デバイスのさらなる小型化、軽量化、高性能化が期待され、将来電気自動車に用いられるモーターなどを飛躍的に小型化できる可能性もある。

この研究の詳細は、英国の学術誌「Nature Communications」に2013年7月23日(日本時間18時)に掲載された。

なお、本成果はNEDOの「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト」(平成22~26年度)において開発されたものである。

  • (*)カーボンナノチューブは炭素原子のみからなり、直径が0.4~50nm、長さがおよそ1~数10µmの1次元性のナノ材料である。その構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ、複数のものを多層カーボンナノチューブと呼ぶ。
  • 画像1
    CNT 銅複合材料
  • 画像2
    開発した材料と従来の材料の関係

1.背景

近年、電子デバイスの小型化が急速に進み、回路が微細化することで、回路に流れる電流密度(*1)が高くなっている。国際半導体技術ロードマップ(ITRS)によれば、2015年にはデバイス内の電流密度は銅と金の破断限界を超えるといわれている。一方で単層カーボンナノチューブ(単層CNT)(*2)などの炭素系材料は高い電流容量(*3)をもっているが、電気伝導度の点で配線材料としては不十分であり、新たな材料の開発が喫緊の課題であった。

産総研とTASCは、NEDO委託事業「低炭素化社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト(平成22年度~26年度、プロジェクトリーダー 産総研 湯村 守雄)」を推進することで、単層CNTの用途開発を行ってきた。産総研は単層CNTの合成法としてスーパーグロース法(*4)を開発しており、この方法で合成されたCNTは、他の単層CNTに比べて比表面積(*5)が大きいという特徴をもつ。NEDO委託事業では、スーパーグロース法の開発を進めるとともに、この特徴を生かした導電性ゴムなどの複合材料を開発してきた。

2.今回の成果

今回、畠 賢治TASCサブプロジェクトリーダ/産総研ナノチューブ応用研究センター首席研究員、山田 健郎 TASC テーマリーダー/産総研CNT用途開発チーム 研究チーム長、チャンドラモウリ スブラマニアンTASC研究員らによって研究が行われ、高い電流容量をもつ単層CNTと、高い電気伝導度をもち、配線材料として広く利用されている銅を用いて、双方の長所を生かした複合材料の開発を行うことに成功した。

今回の成果を要約すると次の3つになる。

  1. 電気めっきを工夫することで、単層CNTの構造体内部まで銅を充填させ、銅と同程度の電気伝導度をもちながら、今までにない電流容量をもつ材料を開発した。
  2. 温度変化による電気伝導度の低下が小さく、227 ℃での電気伝導度は銅の約2倍になる。
  3. 銅や金より密度が小さいため、デバイスの軽量化が図れる。

(1) 電気めっきを用いた複合材料の作製方法

今回の研究では電気めっき(*6)により単層CNT表面に銅を析出させて、単層CNTと銅の複合材料を作製した。複合化するには、銅をCNT構造体の内部にまで満遍なく形成することが重要である。しかし、CNTは疎水性であり、銅イオンの水溶液だけで電気めっきを行ってもCNT構造体の内部に銅は十分充填されない。また、有機系溶液を用いた電気めっきでも、通常の50~100mA/cm2という大きな電流密度でめっきすると、先にCNT構造体の表面に銅粒子が形成されてしまい、水溶液による電気めっきと同様にCNT構造体の内部には銅を充填できない。今回、銅イオンの有機系溶液と水溶液で、順に電気めっきすることにより複合材料を作製することが可能になった。

スーパーグロース法で作製した単層CNTは基板に対して垂直配向しているため、まず単層CNTを基板に倒伏し、水平配向の板状CNT構造体を作製する。次に、銅イオンの有機系溶液に浸してCNT構造体中に溶液を浸透させ、1~5mA/cm2という低い電流密度でゆっくりと電気めっきし、CNT構造体の内部に成長の核となる銅関連粒子(銅、および酸化銅)を満遍なく形成させる。次に、洗浄した後、水素雰囲気下で加熱することで、酸化銅を水素で還元して、銅関連粒子を銅粒子にする。その後、銅イオンの水溶液中で電気めっきを行い、CNT構造体の内部にまで銅を充填させる。めっきした後は、再度洗浄し、水素雰囲気下で加熱する。このように、CNTと馴染みのよい有機系溶液中でゆっくり電気めっきすることでCNT構造体の内部に銅粒子を形成し、その後、銅と馴染みのよい水溶液で電気めっきすることで、銅とCNTが均一に複合化されたCNT銅複合材料を作製することができる(図1)。

  • 図1
    図1 CNT銅複合材料作成法の模式図

(2) 開発した複合材料の特性

このCNT銅複合材料、および銅、金を用いて同じ形状、大きさの試料を作製し、電流密度が増大した場合の抵抗率の変化を比較した(図2)。銅、金は電流密度10x106A/cm2付近で破断するが、CNT銅複合材料は690x106A/cm2まで破断しなかった。次に、同じ実験を5回繰り返して平均をとることで、CNT銅複合材料の電流容量を600x106A/cm2と見積もった。同様の測定を銅、金で行ったところ、電流容量はそれぞれ6.1x106A/cm2、6.3x106A/cm2であった。この結果から今回開発したCNT銅複合材料は従来の配線材料の100倍の電流容量をもつことがわかった。

  • 図2
    図2 電流密度を変化させた時のCNT銅複合材料、銅、金の電気抵抗変化

配線材料に電流が流れると発熱するため、電気伝導度の温度依存性は材料を実用化する上で重要な特性である。今回開発した材料の電気伝導度は常温では4.7x105S/cmで、銅の5.8x105S/cmにほぼ匹敵する。また、温度を上昇させた場合、本材料の電気伝導度の低下は銅に比べて小さく、80℃で銅の電気伝導度を上回り、227℃では銅の2倍となった(図3)。

  • 図3
    図3 CNT銅複合材料と銅の温度による電気伝導度変化の比較

従来、金属のような自由電子が多く原子間の結合が弱い物質では、電気伝導度が高い反面、電流容量が小さい性質をもつが、炭素系材料のような原子間の結合が強く拡散(*7)が起こりにくい材料では、電流容量が大きい反面、電気伝導度は低いという、相互排他的な関係をもつと考えられていた(図4)。しかし、今回開発したCNT銅複合材料は、銅をCNT構造体の内部に十分充填し、かつ銅粒子界面をCNTで覆うことで、高い電気伝導度を保つことができるとともに、金属の表面や粒子界面で起こりやすい拡散を抑制することができ、大きな電流容量を得るというブレークスルーを達成することができた。

さらに、本複合材料のCNTの割合は体積にして45%であり、密度は5.2g/cm3である。これは銅(8.9g/cm3)、金(19.3g/cm3)に比べて小さく、装置に応用される際の軽量化も期待できる。今回の成果は配線やモーターなどの軽量化、小型化につながり、低炭素社会の実現へ向けた大きな成果と考えられる。

  • 図4
    図4 CNT銅複合材料と従来材料の電気伝導度と電流容量の比較

3.今後の予定

本プロジェクトで開発された革新的なCNT銅複合材料を用いた配線形状部材の開発を進めるとともに、配線接合や線材形状の作製、コイル化などの技術開発を行う。また、それらの量産製造プロセスの開発を行い、この材料の新たな用途開発を進めていく。

さらに、2013年10月31日~11月1日に産総研つくばセンターで行われる産総研オープンラボでの実物展示などを通じて、興味をもった企業と連携することで、実用化を目指していく。

4.お問い合わせ先

(本プレスリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部 担当: 中村 賀川  TEL:044-520-5220
技術研究組合 単層CNT融合新材料研究開発機構 担当: 上野  TEL:029-861-6263
(その他、一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:遠藤、木内  TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

【参考:用語解説】

(*1) 電流密度
配線材料の単位面積あたりに流す電流値。
(*2) 単層カーボンナノチューブ(単層CNT)
カーボンナノチューブは炭素原子のみからなり、直径が0.4~50nm、長さがおよそ1~数10µmの1次元性のナノ材料である。その構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブ、複数のものを多層カーボンナノチューブと呼ぶ。
(*3) 電流容量
電流容量は抵抗率が一定の領域での最大の電流密度で、ある電気回路に流すことができる最大電流を示す。回路の断面積と素材に依存するが、ここでは配線材料の単位面積あたりの最大に流せる電流値(電流密度)として表す。
(*4) スーパーグロース法
単層カーボンナノチューブの合成手法の1つである化学気相成長(CVD)法で、水分を極微量添加することにより、触媒の活性時間および活性度を大幅に改善した方法である。従来の500倍の長さ(10mm)に達する高効率成長、従来の2000倍の高純度(99.98%)な単層カーボンナノチューブを合成することが可能である。
(*5) 比表面積
物質がもつ、単位重量あたりの表面積である。単層CNTは、原子が表面を形成しているので、比表面積は高くなりる。しかしながら、通常の単層CNTでは、合成の際に触媒金属を用いるが、その利用効率が低いため、単層CNTの中に触媒が混在する。その為、通常単層CNTでは、触媒不純物により重さが嵩み、比表面積が大きくなりにくい。
(*6) 電気めっき
銅などの金属イオンを含む溶液中にCNTなどの被膜をしたい物を浸し、溶液中でその物に電気をかけて、その表面に銅などの金属を被覆(析出)させる方法である。
(*7) 拡散
物質中に電流を多く流すのには、それに見合った電場(電圧)を物質に加える必用が有るが、その際に、物質内の原子も電場によって影響を受け、物質内で移動し、物質の形状変化を引き起こす。この原子の物質内での動きを拡散という。