有機薄膜トランジスタを室温印刷で形成
―高温に頼らないプリント技術を確立―
2014年5月8日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
独立行政法人物質・材料研究機構
国立大学法人岡山大学
株式会社コロイダル・インク
この完全室温印刷プロセスは、これまでの印刷プロセスで必要とされてきた100~200℃以上の高温を必要としないため、熱による変化が問題となって展開が出来なかったフレキシブル基板や、生体材料への電子素子の作製が可能となるなど、医療やバイオエレクトロニクスをはじめ、様々な分野における展開が期待されます。
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図1 本研究で作製した室温導電性金属ナノ粒子と、室温印刷による有機トランジスタ
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図2 フレキシブルなプラスチックフィルムに印刷した有機トランジスタ配列
1.背景
インク状にした機能性材料の印刷によって電子素子を作製するプリンテッドエレクトロニクス(※2)は、低コスト・大面積の新しい半導体素子形成技術として近年注目を集めています。さらにプラスチックや紙等のフレキシブルな基板に印刷することができれば、ロールツーロール印刷による大量生産や、様々なアプリケーションへの展開が期待できます。しかし従来のプリンテッドエレクトロニクスは、100~200℃以上の高温プロセスを必要とし、プラスチックや紙等の非耐熱性基板への印刷は不可能とされてきました。
2.今回の成果
研究チームは、室温で塗布乾燥するだけで固体金属と同レベルの導電性を有する金属ナノインク(※3)の開発に成功しました。ナノメートルサイズの金属粒子に芳香族性の分子(※4)を配位させ(図1-a)、インクに分散させることにより、室温導電性が発現しました。これにより非耐熱性基板への電極形成(図1-b)が可能になりました。基板の表面を薄い撥水性ポリマーの膜で覆い、光学的手法で形成した親水性のパターンに金属ナノインクを選択的に塗布して、精密な電極を形成する新しいプロセスを開発しました。この1℃の昇温も必要としないプロセスにより、フレキシブルな基板への精密な電極印刷が可能になりました(図2)。なお、この室温プロセスによる有機薄膜トランジスタが、性能面においても高温プロセスによる従来品を大きく上回ることを確認しました。
3.今後の展開
本研究で開発した室温プリンテッドエレクトロニクス技術により、従来、熱による変形で不可能とされてきたフレキシブル基板への電子素子の印刷が可能になるだけでなく、紙や布等のこれまでプリンテッドエレクトロニクスの対象として考えられなかった材料への印刷が可能になり、さらには生体材料のような環境変化に極めて弱いものの表面にも電子素子を作製することも可能であるため、医療やバイオエレクトロニクス等、様々な分野への応用に繋がるものと期待できます。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO イノベーション推進部 担当:志賀 TEL:044-520-5174
独立行政法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点
担当:三成 剛生 TEL:029-860-4918 E-mail:MINARI.Takeo@nims.go.jp
岡山大学 異分野融合先端研究コア
担当:金原 正幸 TEL:086-251-8709 E-mail:kaneha-m@cc.okayama-u.ac.jp
株式会社コロイダル・インク 担当:金原 正幸 E-mail:kanehara@cink.ip
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、佐藤、遠藤 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp
【参考:用語解説】
※1 有機薄膜トランジスタ
活性層として有機半導体を用いた薄膜トランジスタの一種。
※2 プリンテッドエレクトロニクス
金属や半導体材料をインク化し、印刷技術を用いて電子素子や回路等を形成する新しいエレクトロニクス作製技術。
※3 金属ナノ粒子インク
金属を1-100ナノメートル程度のサイズ粒子にし、配位子によって溶液に分散させたもので、金属インク。
※4 芳香族性の分子
ベンゼン等に代表される環状不飽和有機分子。芳香環上に存在するπ電子の働きによって、導電性を示す材料がある。