副作用を高精度に予測するシステムを開発
-ヒトiPS細胞由来の心筋細胞を使用-
2014年7月2日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
株式会社LSIメディエンス
NEDOのプロジェクト※で(株)LSIメディエンスは、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞を用いた、医薬品による心循環器系の副作用を評価するシステムを開発しました。
医薬品の副作用は、動物由来の細胞や実験動物を用いて評価されていますが、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞を用いることで、従来よりも正確な評価が可能となります。
LSIメディエンスは、本システムを用いた受託試験サービスを2014年7月に開始する予定。不整脈、心不全といった副作用を引き起こすリスクを高精度に予測することで、より安全な新薬の開発に貢献することが期待されます。
- 「ヒト幹細胞産業応用促進基盤技術開発」/「ヒトiPS細胞等幹細胞を用いた創薬スクリーニングシステムの開発」2008年度~2013年度(PL:安田賢二(東京医科歯科大学教授)、実施体制:国立大学法人東京医科歯科大学、学校法人慶応義塾、株式会社LSIメディエンス)。

1. 概要
ヒト細胞を使用した医薬品開発は、動物実験の弱点を克服し創薬の成功率を向上させるとともに、動物実験代替法として3R ※1に貢献することが期待されています。しかし、生命倫理や医学的な観点からヒト細胞の創薬への活用は大きな制約を受けています。これらの課題を解決する技術としてヒトiPS細胞の創薬応用が始まっており、世界中の製薬企業はバイオベンチャー企業から市販されているiPS細胞由来の分化細胞を購入して活発な研究を行っています。ヒトiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM)については、医薬品候補化合物の心臓毒性評価に向けた評価系の構築が進んでいます。
2. 今回の成果
NEDOプロジェクトで開発した簡易測定システムを使用して、iPS-CMの細胞外活動電位(ヒト心電図に似た波形)を経時的に記録し、被験薬の影響を評価するシステムを開発しました。本システムの特長は、スループット向上のため最大8連のセルに培養したiPS-CMを用いて多検体同時測定を可能にしたこと、新たに開発した測定用の恒温CO2インキュベータに測定装置の計測部分を格納し安定的なデータ取得を実現したこと、多点電極上のiPS-CMから同時取得した波形を短時間で解析し不整脈誘発性の評価に重要なパラメータを自動算出するソフトウェアを搭載したことです。更に、iPS-CMの細胞外電位を強制刺激※2下で取得する機能を追加することで、医薬品候補化合物の特性に合った最適な測定が可能になりました。ヒトで致死的不整脈の誘発リスクが医薬品添付文書に記載されている化合物を含めた検討(自律拍動下では31化合物(表1)、及び強制刺激下では11化合物)を行った結果、高い予測率を示したことから、創薬スクリーニングへの有用性が実証されました。

- (注1) 不整脈リスクが医薬品添付文書に記載されている化合物を陽性判定した割合(%)と、それぞれの化合物数を括弧内で示した。
- (注2) 不整脈リスクが医薬品添付文書に記載されていない化合物のうち、各法で催不整脈作用を示唆する知見が得られなかった化合物を陰性とし、陰性化合物の割合(%)と、それぞれの化合物数を括弧内で示した。
- (注3) 今回検討した化合物のうち、添付文書の記載と実験結果が一致した化合物の割合(%)と、それぞれの化合物数を括弧内に記した。
- (注4) hERG試験が低い陽性判定率を示した理由は、hERG試験が対象とするカリウムイオンチャネル(IKr)作用以外の心毒性を有する化合物が多く含まれるため。
3. 今後の予定
医薬品の心臓毒性評価におけるヒトiPS-CMの使用は、近い将来に安全性試験※3のガイドライン※4に採用されることが期待されています。また、多点電極システム※5は心筋細胞以外の細胞にも適用可能ですので、医薬品候補化合物の薬効スクリーニング法として創薬の有力なプラットフォームになることが期待されます。
本成果は、7月3日(木)に第41回日本毒性学会学術年会(神戸)にて発表します。
4. 問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO バイオテクノロジー・医療技術部 担当:知場、福井 TEL:044-520-5230
(株)LSIメディエンス 総務部 総務G 担当:中野 TEL:03-5577-0401
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、佐藤 TEL 044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp
【用語解説】
- ※1 3R:
動物愛護管理法に定められた原則。苦痛の軽減(Refinement)、代替法の活用(Replacement)、使用数の削減(Reduction)。 - ※2 強制刺激:
外からの電気刺激を細胞に与え、細胞の発火・興奮を誘発する方法。心筋細胞においては規律的な拍動などを、神経細胞においては長期増強や長期抑制などの生理現象を体外で再現することができる。 - ※3 安全性試験:
医薬品候補化合物を含めた新規化合物の安全性を評価する試験。評価目的や対象物別に、規制当局によって定められたガイドラインによって様々な試験法がある。 - ※4 ガイドライン:
規制当局により通知される安全性試験を含めた新薬承認審査の基準。 - ※5 多点電極システム:
培養ウェルの底面に電極を配置し、電極周辺に発生している電位を捉えるシステム。主に体外で培養される細胞や組織から発生する電気信号を捉えるために使われる。