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世界最小5mm角の超高速・低消費電力光トランシーバを開発
―世界最高仕様25Gbps/chの伝送速度を実現―

2015年3月23日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
技術研究組合光電子融合基盤技術研究所

NEDOと技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は、シリコンフォトニクス技術を用いた、世界最小5mm角の超小型光トランシーバ(光I/Oコア)を開発、1ギガビット毎秒(Gbps)あたり5mWの消費電力、1チャンネルあたり25Gbpsの伝送速度を実現するとともに、マルチモードファイバを用いて伝送距離300mの高速データ伝送を実証しました。

この技術開発により、消費電力を抑えながら大容量データの高速な送受が可能となり、サーバなどの情報通信機器の小型、低消費電力、高速化とともにデータセンタの省エネ化が期待されます。

世界最小サイズの光トランシーバ(光I/Oコア)の画像
世界最小サイズの光トランシーバ(光I/Oコア)

1.概要

クラウドコンピューティングやビッグデータアナリシスの進展により、データセンタなどにおける情報処理量や通信トラフィックが指数関数的に増大しており、今後も情報量の増大が予測されています。このため、情報通信機器の低消費電力化と高速化を両立できる革新的技術が求められています。

そこで、NEDOは、情報通信機器の省電力化と高速化を目的に、シリコンフォトニクス技術※1を用いた基盤技術を確立することを目指し、「超低消費電力型光エレクトロニクス実装システム技術開発」プロジェクトを推進しています。

電子機器に用いられている電気配線によるデータ伝送では、速度や距離の増加に伴い伝送信号の劣化が大きくなるのに対して、光配線では、伝送信号の劣化が非常に小さく、消費電力の増加は極めて小さいというメリットがあります。光配線技術は、現在用いられているデータセンタ内の筐体間ばかりでなく、ボード間やチップ間配線への適用が期待されていますが、それらに適用するためには、光トランシーバの大幅な小型化・低コスト化と共に、更なる低消費電力化と電気・光信号の接続部の実装し易さが求められています。

このたび、NEDOと技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)は、シリコンフォトニクス技術を用いた超小型光トランシーバ(光I/Oコア※2)を開発しました。この光トランシーバは、世界最小の5mm角で、1Gbpsあたり5mWの消費電力、1チャンネルあたり25Gbpsの伝送速度を実現し、マルチモードファイバ※3を用いて伝送距離300mの高速データ伝送を実証しました。

本技術により、光I/Oコアが持つ光と電気の入出力機構に光配線を繋ぐことで、消費電力を抑えながら大容量データの高速な送受が可能となり、サーバなどの情報通信機器の小型、低消費電力、高速化とともにデータセンタの省エネ化が期待されます。

本研究成果は、3月22日からアメリカ・ロサンゼルスで開催される「OFC 2015(光ファイバ通信国際会議)※4」で、26日(米国西海岸時間)に発表する予定です。また、展示会場ではコーニング社※5が開発した1.3µm用広帯域マルチモードファイバを用いてPETRAブースとコーニングブースを結び、300m伝送の動態展示を行う予定です。

2.今回の成果

[1]世界最小5mm角のSi基板上に1ch当たり25Gbpsの高速送受信機能の光I/Oコアを実現

光I/Oコアには、送信用及び受信用があり、以下に示す構成とすることで、光トランシーバとして必要な機能を5mm角と従来の1/4以下の世界最小の面積で実現しました(図1)。

送信用光I/Oコアは、光源(LD)、CMOSのドライバIC、光を出力する光ピン、及び電気入力のためのTGV(Through Glass Via)付ガラスから構成されています。一方、受信用光I/Oコアは、受光器等を集積したシリコンフォトニクス集積回路基板、電気信号を増幅するCMOSのTIA(Trans Impedance Amp)-IC、光を入力する光ピン、及び電気出力のためのTGV付ガラスから構成されています。送信用光I/Oコアでは、光源(LD)からの出力光が、スポットサイズ変換器を通して光導波路に結合し、光変調器でドライバICからの25Gbpsの電気信号により光信号に変換され、回折格子結合器で光ピンを通して外部に出力されます。受信用光I/Oコアでは、25Gbpsの入力光がゲルマニウム(Ge)面受光器で光信号から電気信号に変換され、TIA-ICで増幅されて、外部に電気信号として出力されます。光信号と電気信号の入出力部は、光ピンとTGVを用いることで同一平面上に実現しました。

[2]1ギガビット(Gbps)あたり5mWの低消費電力を実現

光変調器をCMOSトランジスタと同じMOS構造とすることにより、低容量化、低損失化を図りました。さらに、変調器を複数に分割することで0.9Vでの駆動を可能とし、波形制御等の付加回路を用いずに良好な波形品質を確保する事に成功ました。受信器のTIA-ICも0.9Vで駆動でき、送受信光I/Oコアペアで1Gbps当たり5mWと従来の1/3以下の低消費電力化を実現しました。

[3]1ch当たり速度25Gbpsで300m以上の伝送を実証

1.3µm帯に最適化されたマルチモードファイバを用いて、25Gbpsの高速伝送実験を行い、符号誤り率を測定した結果、300m伝送後も10-12以下の特性を示しました(図2)。これは、屋内のデータ伝送で要求される、実用上十分な光ファイバ長となっています。

[4]装置内の光配線導入や、画像伝送等多くの用途に対応可能な実装容易性を実現

光の入出力部に接着固定される光ファイバは、従来、シングルモードファイバが用いられており、1ミクロン以下の高精度な位置合わせが必要でした。このため、光を使って接続時に光のパワーを観察(光軸調整)しながら、光の入出力部に光ファイバの端面を接着固定する必要があり、生産性向上、低コスト化の課題となっていました。今回開発した光I/Oコアでは、光の入出力部に光のビームサイズを制御可能な光ピンを用いることで、マルチモードファイバあるいは、樹脂系のマルチモード導波路との接合において、10ミクロン程度の位置合わせ許容度を実現しています。これにより、光軸調整を行わないで済み、電気ICなどで一般的に用いられているフリップチップボンディング装置を活用して、光の入出力部に接着固定が可能となり、生産性向上、実装コスト低減に大きく貢献できます。

3.今後の予定

今後、早期に光I/Oコアの実用化を進めていくと同時に、コーニング社と共同で1.3µm帯マルチモードファイバ伝送の検証を進めていく予定です。光I/Oコアは、2015年の末ごろ、サンプル供給を開始する計画です。将来的には、更に高集積化を進め、ボード間やチップ間の光配線への適用を目指していきます。

【用語解説】

※1 シリコンフォトニクス技術
シリコン基板上に光素子を形成する技術。シリコンを用いることにより光回路を小型化でき、大規模集積が可能になる。また、光回路と電子回路を一体形成や製造コストの低減が可能になるなどの特長を持つ。
※2 光I/Oコア
技術研究組合光電子融合基盤技術研究所が命名した、シリコンフォトニクス技術を用いた超小型の光トランシーバチップの名称。
※3 マルチモードファイバ
光ファイバの種類を示す。シングルモードファイバは長距離伝送に優れるが、光が伝搬するコア径が10μmと小さい。一方、マルチモードファイバは、伝送距離が短くなるが、コア径が50μmと大きいため、光ファイバの取り付けが簡便になる特徴を持つ。
※4 OFC2015
OFCは、Optical Fiber Communication Conference and Exposition の略称。IEEE(米国電気電子学会)とOSA(米国光学会)が主催し、毎年米国で3月に開催される光通信に関する世界最大級の国際会議。
※5 コーニング社
アメリカ・ニューヨーク州に本社を置く世界最大級のガラス製品メーカ。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 電子・材料・ナノテクノロジー部 担当:水野、波佐、中村 TEL:044-520-5211

技術研究組合光電子融合基盤技術研究所 TEL:03-5225-2362

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:上坂、佐藤、坂本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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