高性能蓄熱材の低コスト・量産製造技術を確立
―製造コストを削減、未利用熱の有効活用に期待―
2017年3月15日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合
三菱樹脂株式会社
NEDOと未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)の組合員である三菱樹脂(株)は、高性能蓄熱材(製品名:AQSOA®Z02)製造時に発生する未反応原料の回収・再使用技術を開発し、実機に本開発技術を適用することで、AQSOA®Z02の製造コストを削減する量産製造技術を確立しました。
これにより、三菱樹脂(株)は、55~80℃の低温では利用が困難だった市販合成ゼオライトと同等の価格で高性能蓄熱材AQSOA®Z02を提供できるようになり、未利用熱の有効活用へさらなる期待がかかります。

1.概要
現在、運輸・産業・民生の分野において、一次エネルギーの半分以上が利用されずに排熱になっています。このような背景のもと、NEDOは利用されることなく環境中に排出されている膨大な量の未利用熱に着目し、その「削減(Reduce)・回収(Recycle)・利用(Reuse)」を可能とするための要素技術の革新と、システムの確立を目指した「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」※1を2015年度から実施し、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)※2が中心となって開発を進めています。
TherMATの組合員である三菱樹脂株式会社が開発する高性能蓄熱材AQSOA®Z02※3は、市販合成ゼオライト※4では利用が困難な55~80℃程度の低温排熱を用いて、水の吸脱着(蓄熱・放熱)が可能であり、かつ十分な水の吸着量(蓄熱密度)を有する材料です(表1、図2)。この特長を活かし、低温排熱の利用が求められるボイラーの効率向上用途の蓄熱材や吸着式冷凍機向け吸着材として使用されています。しかしながら、AQSOA®Z02の特徴である規則的な三次元構造の制御(図3)には、材料合成時に過剰な原料仕込みが必要であり、高コストとなることが課題でした。
このような背景のもと、本プロジェクトにおいて三菱樹脂(株)は、AQSOA®Z02製造時に発生する未反応原料※5の回収・再使用技術の開発に加え、実機への同開発技術の適用や、生産性向上を狙いとした製造工程のボトルネック解消により、同材料の低コスト化量産製造技術を確立しました。これにより、AQSOA®Z02の製造コストを削減し、市販合成ゼオライトと同等の価格での提供が可能となりました。
三菱樹脂(株)は、2016年3月から当該成果を織り込んだ製造設備でAQSOA®Z02の製造を開始し、実機での安定生産を確認してきました。これを以て2017年3月から当該成果を適用したAQSOA®Z02の販売を開始しました。安価なAQSOA®Z02の提供が可能となることで、今後は産業分野や輸送機器での排熱利用プロセスや空調の高効率化等、未利用熱の有効活用に弾みがつくことが期待されます。
2.今回の成果
【1】未反応原料の回収・再使用技術の確立
通常の合成アルミノシリケート(市販合成ゼオライト)製造では、高収率でゼオライトが得られるため原料ロスは大きくありません。一方、AQSOA®Z02では、規則的な三次元構造制御のために、材料合成時に複数の過剰な原料仕込みが必要であり、高コスト化の要因となっていました。今回取り組んだ未反応原料の回収・再使用での課題は、〔1〕回収・再使用未反応原料各成分の反応活性の確認、〔2〕回収・再使用未反応原料の定量誤差による仕込み誤差の最小化、〔3〕溜まりこみ不純物量制御のための技術構築でした。今回、これらの課題を克服し、三次元構造制御のために過剰に仕込んでいる複数原料の未反応分を、反応後の母液から回収・再使用する技術を確立するとともに、品質および各種スペック項目で高い工程能力※7を維持したコスト削減技術を確立しました。
【2】開発技術を織り込んだ量産製造技術の確立
生産性の向上においては、上記の開発技術を織り込んだ上で、AQSOA®Z02の品質および耐久性を確保しながら、合成を中心とした各工程の最適化を行い、反応器生産性が1.5倍となる効率的な設備構成となる設備増強を実施しました。これにより、高設備稼働率時の製造固定費を削減するAQSOA®Z02の量産製造技術を確立しました。
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図4 AQSOA®Z02製造設備(新潟県上越市)
3.今後の予定
NEDOは、引き続き本プロジェクトの研究開発を推進し、多様な状況で発生している未利用熱の有効活用を可能とする技術を提供してまいります。
三菱樹脂(株)は、今回開発したAQSOA®Z02の蓄熱材用途の普及を進めるとともに、新たな特徴を有する新規蓄熱材料の開発および工業化検討を行い、さらなる未利用熱の有効活用を目指します。
【用語解説】
- ※1 未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発
- プロジェクトリーダー 小原春彦氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所 エネルギー・環境領域 研究戦略部 研究戦略部長)のもと2013年度~2022年度(うち2013~2014年度は経済産業省にて実施)で革新的な技術の研究開発を行う。
- ※2 未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)
- 運輸・産業・民生の分野において一次エネルギーの半分以上が利用されずに排熱になっている課題を解決するために、18企業、1独法、1一般法人が革新的な技術開発等の事業を行う中心的な組織として、平成25年10月17日に設立。
- ※3 AQSOA®Z02
- 三菱樹脂登録商標:CHA型シリコアルミノフォスフェート。
- ※4 市販合成ゼオライト
- 石化触媒用途、自動車触媒用途および石油精製触媒用途等に用いられ、市販されている合成アルミノシリケートおよびシリコアルミノフォスフェート。
- ※5 未反応原料
- シリコアルミノフォスフェート製造時の未反応Si原料、Al原料、P原料およびゼオライトに取り込まれない構造規定材。
- ※6 吸着等温線
- 一定温度のもと、水蒸気分圧と吸着量の関係を示した性能曲線。
- ※7 工程能力
- 製品のスペックに対する製品スペックの製造安定性を示す指標。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 省エネルギー部 担当:永井、星野、楠瀬 TEL:044-520-5281
未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合 担当:赤穗、箕浦 TEL:03-3592-1284
三菱樹脂(株) アルミナ繊維無機製品事業部 AQSOA企画管理G 担当:鈴木 TEL:080-2123-2998
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、髙津佐、藤本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp