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消化管での吸収性に優れた糖鎖オリゴマーを開発、量産へ
―機能性食品や医療用素材などへの応用に期待―

2017年6月15日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
丸共水産株式会社
地方独立行政法人北海道立総合研究機構

NEDO事業において、丸共水産(株)と北海道立総合研究機構は、ヒトの消化管における吸収性を大幅に高めた糖鎖オリゴマー(商標名:ナノ型コンドロイチン)を開発し、マイクロ化学プロセス処理技術を応用した量産技術を確立しました。

本糖鎖は、機能性食品、化粧品材料や医療用素材などで活用が期待されるものであり、今回の成果をもとに、丸共水産(株)は糖鎖オリゴマーの商業生産を開始します。

1.概要

NEDOは、中堅・中小・ベンチャー企業(以下、「中小企業等」という。)および組合等が橋渡し研究機関※1から技術シーズの移転を受けてビジネスにつなげることや、中小企業等および組合等が保有する技術を橋渡し研究機関の能力を活用して迅速かつ着実な実用化を促進することを目的に、橋渡し研究機関と共同研究を行う中小企業等の研究開発を支援する「中堅・中小企業への橋渡し研究開発促進事業」を実施しています。

本事業において、丸共水産株式会社と地方独立行政法人北海道立総合研究機構は、北海道の地域海洋資源(カスべ※2)から抽出したコンドロイチン硫酸※3を用いて、ヒトの消化管における吸収性を大幅に高めた糖鎖オリゴマー※4(商標名:ナノ型コンドロイチン)の開発に成功しました。

主に動物軟骨から得られるコンドロイチン硫酸やヒアルロン酸などの糖鎖は、ウロン酸※5とアミノ糖※6の2糖繰り返し単位が長くつながった構造を持つ直鎖状の多糖類であり、これらはさまざまな生理活性を持つため古くから利用され、近年では医薬品はもとより栄養補助食品としても広く利用されています。しかし、これらはタンパク質分解酵素では分解されず、特殊な酵素を用いなければ分解されないため、ヒトの消化管ではほとんど消化吸収されず、その機能性が十分に発揮されているとはいえない状況でした。そこで、丸共水産(株)と北海道立総合研究機構の研究グループは、このような多糖類をヒトの消化管で吸収できるサイズに低分子化し、吸収性を大幅に高めることによって、少ない量でより優れた効果が得られる糖鎖オリゴマーを開発し、さらにマイクロ化学プロセス処理※7技術を応用し、糖鎖の大量生産技術を確立しました。

これらの成果をもとに、丸共水産(株)は消化管での吸収性に優れた糖鎖オリゴマー(商標名:ナノ型コンドロイチン)の商業生産を開始します。生産された糖鎖は、栄養補助食品や化粧品の材料としての活用が期待されます。また今後、糖鎖オリゴマーの持つ機能性を探求し、新たな機能性食品や医療用素材としての研究開発を行っていく予定です。

  • マイクロ化学プロセス処理装置の写真
    図1 マイクロ化学プロセス処理装置
  • 分離精製装置(膜・クロマトグラフィー)の写真
    図2 分離精製装置(膜・クロマトグラフィー)

2.今回の成果

【1】糖鎖マイクロ化学プロセス処理の工業化に成功し特許を取得

多糖類の分子結合を切断し、糖鎖オリゴマーとするために、北海道立総合研究機構 工業試験場が研究を行っているマイクロ化学プロセス処理技術を応用しました。この特許技術は、特別な化学薬品などを使用せず、適切な反応条件において水だけで多糖類の結合を切断し低分子化することを可能とするものです。このような、糖鎖の連続式大量処理商業プラントの実用化は世界に例を見ないものです。

多糖類のマイクロ化学プロセス処理における低分子化反応イメージ図
2種類のグリコシド結合 ガラクトサミニド結合:GalNAc–GlcA、グルクロニド結合:GlcA-GalNAc
図3 多糖類のマイクロ化学プロセス処理における低分子化反応イメージ

【2】分離精製技術を開発

膜分離※8による不純物の除去精製工程とクロマトグラフィー分離※9による大量精密分画技術も確立し、これらを連続して処理を行うことで、これまで不可能であった糖鎖オリゴマーの大量商業生産技術を開発しました。

【3】糖鎖オリゴマーの構造を解析し有効性を確認

得られた糖鎖オリゴマーの構造解析は、北海道大学大学院先端生命科学研究院プロテオグリカンシグナリング医療応用研究室の菅原一幸教授、山田修平准教授(いずれも当時)によって行われました。さらに、この糖鎖オリゴマーは、マウスを使った自己免疫疾患に対する抗炎症効果およびヒト介入試験によるロコモティブシンドローム※10の改善効果などが認められています。

  • 腸管吸収性を比較したグラフ
    図4 腸管吸収性比較グラフ 
  • 関節炎抑制効果を表したグラフ
    図5 関節炎抑制効果のグラフ
  • 開発した糖鎖オリゴマー製品の写真(商標名:ナノ型コンドロイチン)
    図6 開発した糖鎖オリゴマー製品(商標名:ナノ型コンドロイチン)

【用語解説】

※1 橋渡し研究機関
NEDOが設定した要件を満足した国の研究機関、独立行政法人、公設試験研究機関に該当する公的研究機関および大学。
※2 カスベ
エイの一種、ガンギエイの地方名で、サメと同じ種類であり骨は軟骨でできている軟骨魚類。北海道や東北地方では古くから食されており、韓国や中国でも食習慣がある。軟骨にはコンドロイチン、皮にはコラーゲンを豊富に含む。
※3 コンドロイチン硫酸
グルクロン酸とN-アセチルガラクトサミンが結合した2糖を構成単位として、直鎖状に長くつながった高分子多糖。おおよそ2糖単位にひとつの硫酸基をもち、その結合位置と数によって多数の構造異性体がある。細胞外基質の主要成分であり、生体内に広く存在して様々な機能をもつ必須成分。特に軟骨組織には多量に含まれる。
※4 糖鎖オリゴマー
数個から十数個程度の糖がつながったもの。モノマー(単分子)やポリマー(高分子)に対応する呼称。
※5 ウロン酸
糖の末端にカルボキシ基を持つ誘導体の総称。代表的なものにグルコースの末端ヒドロキシメチル基が酸化されてカルボキシ基となったグルクロン酸がある。
※6 アミノ糖
アミノ基をもつ糖の総称。グルコースにアミノ基が付加したグルコサミン、ガラクトースにアミノ基が付加したガラクトサミン、同じくマンノースに付加したマンノサミンなどがある。
※7 マイクロ化学プロセス処理
微小な空間を用いて、目的とする化学反応を選択的に連続で起こさせる方法。
※8 膜分離
非常に小さく均一な細孔をもつ膜によって分離する技術。膜の片側から圧力をかけることで、細孔を通過するものだけを分離できる。細孔のサイズによって分離する目的物を変えることができる。圧力の代わりに電気的な方法で行う電気透析法も膜分離の一種。
※9 クロマトグラフィー分離
混合物を微小な樹脂球などの層を透過させることで、含まれる成分を分離する技術。
※10 ロコモティブシンドローム
ロコモーション(移動)に難がある場合の、ヒトの病的症状の総称。長寿高齢化に伴って、ひざ、腰、股関節などの軟骨組織の変化によって起きる場合が多い。

3.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO イノベーション推進部 担当:三橋 TEL:044-520-5170
丸共水産(株) 担当:宮本 TEL:0162-23-4050
北海道立総合研究機構 担当:松嶋 TEL:011-747-2997

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:髙津佐、坂本、藤本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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