微生物から工業材料を生産するバイオ技術開発に、4テーマを追加採択
―細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出す―
2017年8月31日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
理事長 古川一夫
NEDOは、植物や微生物の細胞から工業材料を生産する「スマートセルインダストリー」の実現を目指すプロジェクトで、微生物テーマについて、物質生産技術、高速DNA合成・評価技術、非破壊・低侵襲細胞評価技術、AIを用いた知識データベースの4テーマの追加採択を行いました。国際競争が厳しいバイオ分野で速やかに実用化を進めるために、現行のプロジェクトを強化します。
植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出した「スマートセル」を活用することで、持続可能な社会の構築を目指します。
1.概要
バイオテクノロジーは健康・医療分野だけではなく、物質生産などの工業利用の市場が拡大していくことが見込まれ、近年欧米では、バイオテクノロジーを用いた経済活動を“Bioeconomy”と称して政策提言に取り上げられています。本分野の研究開発は欧米が先行しており、日本でも研究開発や社会実装を進めることが急務となっています。
このような背景のもと、NEDOは、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出した「スマートセル」を構築し、化学合成では生産が難しい有用物質の創製、または従来法の生産性を凌駕することを目的に、基盤技術および特定の生産物質における実用化技術の研究開発プロジェクト※を推進しています。
本プロジェクトの微生物テーマでは「Design-Build-Test-Learn」のサイクルを高速で回す研究開発プロセス(図)を進めていて、今回採択する4テーマはそれぞれ「Design-Build-Test-Learn」の各分野を強化するものです。微生物細胞を対象に、物質生産技術(Design)、高速DNA合成・評価技術(Build)、非破壊・低侵襲細胞評価技術(Test)、AIを用いた知識データベース(Learn)の4テーマについて追加採択を行いました。持続可能な社会の構築に資する「スマートセル」によるものづくり「スマートセルインダストリー」の実現を加速させていきます。
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図 本プロジェクトの微生物テーマでの研究開発プロセス「Design-Build-Test-Learn」
2.微生物テーマの新規採択内容について
- 【1】 物質生産技術(Design)
- 微生物の細胞から有用物質を排出させるための、物質生産技術を開発します。既にゲノム解明された多数の生物種のゲノム配列データを参考に、実験的な網羅的探索を行います。
<件名>
排出ボトルネック解消に向けた化合物排出輸送体探索プラットフォームの構築
<期間>
2017年度~2018年度
<委託予定先>
国立大学法人東北大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所
- 【2】 高速DNA合成・評価技術(Build)
- 微生物の細胞から有用物質を合成するためには、適切なDNA配列を構築する必要があります。ゲノム編集技術等を活用して、必要なDNA配列を高速で合成し、結果を評価するための技術を開発します。
<件名>
長鎖DNA、ゲノム合成技術と自動化システムの開発
<期間>
2017年度~2018年度
<委託予定先>
国立大学法人東京大学、Spiber株式会社
- 【3】 非破壊・低侵襲細胞評価技術(Test)
- 微生物の細胞が有用物質を生成したかどうかを、細胞を破壊せずに計測、評価するための技術を開発します。
<件名>
細胞の反射光・自家蛍光を用いたハイスループット評価技術の研究開発
<期間>
2017年度~2018年度
<委託予定先>
国立大学法人筑波大学、株式会社ニコンインステック
- 【4】 AIを用いた知識データベース(Learn)
- 研究開発の期間短縮のために、微生物の細胞に関する特許や論文などの公開データから知識データベースを構築します。また、このデータベース構築を進めるためのAI基盤技術を開発します。これにより、現行プロジェクトで開発している情報解析システムの高度化を図ります。
<件名>
文献情報等の公開データからの知識整理を補完するためのデータ処理・AI基盤技術の研究開発
<期間>
2017年度~2020年度
<委託予定先>
国立大学法人京都大学、国立大学法人九州大学、国立大学法人神戸大学、株式会社日立製作所
【用語解説】
- ※ 研究開発プロジェクト
- 植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発(2016年度~2020年度)
このプロジェクトは植物細胞と微生物細胞に対する研究開発を二本柱として、今回は微生物に関する研究開発テーマ「高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」の追加採択を行いました。
3.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:齋藤(貴)、林、河辺 TEL:044-520-5220
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:藤本、坂本、髙津佐 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp