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人工知能(AI)による触媒反応の収率を予測する技術を開発
―触媒開発期間の短縮化に期待―

2018年1月31日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
理事長 古川一夫

NEDOプロジェクトにおいて、産業技術総合研究所は、有機合成に用いられる触媒反応の収率を人工知能(AI)で予測する技術を開発しました。

開発した技術では、触媒構造の計算機シミュレーションデータと実際に触媒反応によって得られる実験収率を用いて構築したAIによって、触媒反応の収率を簡単に予測できます。この成果は、機能性材料や医薬品などの製造に用いられる触媒の開発期間を大幅に短縮させる触媒の自動発見を目指したAI技術開発の先駆けとなるものです。

なお、本日、日本化学会が発行する学術誌Chemistry Lettersに本研究成果の詳細が掲載されました。また、2月14日から16日まで東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2018」のメインシアターセミナー(2月16日15時~16時45分)で本研究成果を紹介します。

1.概要

近年、製品ライフサイクルの短期化に伴って、半導体封止剤や導電性接着剤などの機能性材料の新しい素材を、従来よりも短期間で効率よく開発・製造することへの要求が高まっています。また、化学品製造プロセスでは、高い生産性や低コスト、省エネルギー、省資源、低環境負荷なども重要な課題となっています。このような製造プロセスに対して最適な触媒を正確に、素早く見つけ出すことが強く望まれています。

新たに触媒を開発するためには、従来の方法では触媒の設計や合成、触媒活性の評価を繰り返し実証する必要があり、触媒開発は、長い開発期間や膨大な研究開発費、多大な労力が必要であるなどの課題があります。NEDOでは、超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(2016~2021年度)において、それらの課題解決のための研究開発を実施しています。

今般、NEDOプロジェクトにおいて、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、前述の課題を解決するために有機合成に用いられる触媒反応の収率※1をAIによって予測する技術を開発しました。この技術では、触媒構造の計算機シミュレーションデータと、その触媒による反応の実験収率※2をもとに構築したAIによって、触媒反応の収率が簡単に予測できます。この成果は今後、機能性材料や医薬品などの製造に用いられる触媒の開発期間を大幅に短縮させる触媒の自動発見を目指したAI技術開発の先駆けとなるものです。

なお、本研究成果の詳細は、本日、公益社団法人日本化学会が発行する学術誌Chemistry Lettersに掲載(DOI:10.1246/cl.171130)されました。また、2月14日から16日まで東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2018※3」のメインシアターセミナー(2月16日15時~16時45分)で本研究成果を紹介します。

2.開発技術の詳細

産総研では、電子材料や樹脂などの原料となるエポキシ化合物について、過酸化水素を使ってオレフィンからハロゲンフリー※4で製造する触媒反応の収率をAIによって予測する技術の開発に取り組みました(図1)。

  • モデルとした反応を表した図1
    図1 モデルとした反応

ハロゲンフリーエポキシ化反応※5において、触媒反応の収率をAIによって予測するために、計算機シミュレーションによって数値化した原子の電荷※6や赤外吸収波数※7など、14種類のホスホン酸分子※8について、30個のパラメーター※9を用意しました。それらとホスホン酸を触媒の1成分とした実際のエポキシ化反応の実験収率を相関づけて機械学習※10させ、AIを構築しました(図2)。今回の開発した予測技術では、予測に大きく寄与するパラメーターを自動的かつ客観的に決定できます。また、パラメーターの予測への寄与の大きさを比較して、触媒活性の鍵となる触媒分子の化学構造や特徴を特定することもできます。

  • 実験データを機械学習させてAIを構築を表した図2
    図2 実験データを機械学習させてAIを構築

構築したAIに、触媒活性を予測したい8種類のホスホン酸分子について、計算機シミュレーションによって数値化したパラメーターを入力すると、予測収率が得られました。

予測に用いたホスホン酸分子を実際に三元系触媒※11の1成分として用いてエポキシ化反応実験を行い、エポキシ化合物の実験収率を評価し、実験収率と予測収率を比較しました(図3)。これは、収率の予測に寄与するパラメーターを自動的・客観的に選別して構築したAIで、収率が予測できることを初めて示した研究成果です。現在のところ、平均平方二乗誤差は26%ですが、今後開発が進むことで精度の向上が期待されます。

  • AIを活用したエポキシ化反応(図1)の収率の予測を表した図3 
    図3 AIを活用したエポキシ化反応(図1)の収率の予測

3.今後の予定

今回開発した技術は、触媒の自動発見を目指したAI技術への先駆けとなるものです。このため、今後、産総研は、本プロジェクトの中で新たに取得できる実験データや新規開発するシミュレータに今回開発した技術を適用して、予測精度の向上や触媒開発期間の短縮を検証します。NEDOは、今回のような事例を積み重ね、計算科学・AIを活用した材料開発の推進により機能性材料の開発期間の短縮化を図り、産業競争力強化を目指します。

【用語解説】

※1 触媒反応の収率
触媒反応において、理論上得ることが可能なその物質の最大量(理論収量)に対する実際に得られた物質の量(収量)の比率のこと。
※2 実験収率
理論上得ることが可能なその物質の最大量(理論収量)に対する実際に得られた物質の量(収量)の比率のこと。
(ここではAIが予測する収率に対応して、実験で得られた収率を意味する。)
※3 nano tech 2018
世界最大のナノテクノロジー総合展。
※4 ハロゲンフリー
ハロゲン(17族元素:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)を含まない、もしくは意図的に使用しないで化合物を製造すること。
※5 エポキシ化反応
炭素の2重結合(C=C)に対して、酸化剤を作用させることで炭素2個と酸素1個からなる三角形型の構造へと変換する酸化反応のこと。
※6 原子の電荷
原子が帯びている電気の量(帯電量)のこと。
※7 赤外吸収波数
赤外線(約4000–400[cm-1:カイザー]の領域)を照射して吸収される光のエネルギー(波数)のこと。
※8 ホスホン酸分子
一般式が[R1]−PO(OH)2([R1];有機基)で表されるリン化合物のこと。
※9 パラメーター
ある現象や構造を表現する重要な特徴量のこと。(学術的には「記述子」と呼ばれる)。
※10 機械学習
コンピューターが入力データと出力データから知識やルールを自動的に発見できるようにする技術のこと。(今回開発した技術では、ホスホン酸分子の計算機シミュレーション結果を入力、エポキシ化反応の実験収率を出力とし、入力と出力の関係を表す関数を自動で作成している。)
※11 三元系触媒
目的物質をより効率良く得るため、3種類の化合物を組み合わせた触媒のこと。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:菅原、岡本、多井 TEL:044-520-5220

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、髙津佐、藤本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp

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