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Press Release

「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」で72時間(3日間)の連続運転に成功

―不規則な電力変動に対して高品質な電力を長時間安定供給―
2018年10月25日
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
国立大学法人東北大学
株式会社前川製作所

NEDO事業において、東北大学と前川製作所は、仙台市茂庭浄水場に構築した電力貯蔵システムと水素貯蔵システムを組み合わせた「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」による実証の結果、大規模自然災害による長期停電を想定した72時間(3日間)の連続運転に成功しました。これにより、太陽光発電出力や負荷消費電力の不規則な変動に対しても、高品質な電力を長時間安定供給できることを実証しました。

電力・水素複合エネルギー貯蔵システムは、化石燃料が不要で、非常時でも高品質な電力を長時間安定して供給することができます。CO2フリーの新たな非常用電源として、浄水場をはじめ、各自治体の大規模自然災害発生時の避難場所などへの導入が期待されます。

1.概要

2011年3月の東北地方太平洋沖地震では、停電が約4日間継続し、宮城県内の石油備蓄基地の被害や物流の遮断により燃料確保が困難となり、仙台市の主要な浄水場では機能維持に大きな労力を費やしました。これらの浄水場では、非常用電源として、主に軽油や灯油を用いた自家発電機を使用していますが、大規模自然災害発生時は、輸送を伴う燃料確保が困難となるため、大容量のエネルギーを確保するには、あらかじめ大容量の燃料タンクに燃料を備蓄しておく必要があります。しかし、非常用電源用の自家発電機は、通常時には使用しないため、タンク内の燃料が経年変化し、非常時の動作不良につながりやすくなります。このため、定期的に燃料を交換する必要がありますが、燃料タンクが大容量になると、燃料入れ替え時期の判断、燃料入れ替えのための燃料消費、燃料の再充填などが課題になります。また、今後の化石燃料の高騰や枯渇、CO2排出量削減を考えると、化石燃料に依存しない大容量非常用電源を早期に確立する必要があります。

一方、非常時だけでなく、通常時でも化石燃料に替えて再生可能エネルギーを有効活用できるようにするには、刻々と変化する発電出力や負荷消費電力を正確に把握・制御する必要があり、これには、即応性、大容量性、耐久性を兼ね備えたエネルギー貯蔵装置が不可欠となります。しかし、これらすべての要求に応えられる単一のエネルギー貯蔵装置は存在しないため、上記すべてを満たすには、複数のエネルギー貯蔵装置を組み合わせる必要があります。

このような背景のもと、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業※1において、国立大学法人東北大学と株式会社前川製作所は、共同実施先である日本ケミコン株式会社、株式会社神鋼環境ソリューション、北芝電機株式会社とともに電力貯蔵システムと水素貯蔵システムを組み合わせて、通常時の再生可能エネルギーの有効利用と非常用電源としての機能を併せ持つ「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」を考案・開発しました。そして、大規模自然災害発生時の長期停電に対する高品質・高安定な電力供給を可能にする大容量非常用電源であることや、非常時や通常時の高精度な変動補償による再生可能エネルギーの活用に有効であることを実証するために、仙台市茂庭浄水場に20kWの実証システムを構築し、2017年8月より大規模自然災害による長期停電を想定した連続運転を実施してきました。

今般、実証の結果、大規模自然災害による長期停電を想定した72時間(3日間)連続運転に成功し、太陽光発電出力や負荷消費電力の不規則な変動に対しても、高品質な電力を長時間安定供給できることを実証しました。

2.今回の成果

【1】研究開発の内容

大規模自然災害による長期停電時でも再生可能エネルギーを有効活用しながら高品質な電力を安定供給できる大容量非常用電源を構築するには、以下の技術課題を解決する必要があります。

  • (1)外部からの燃料調達が不要な大容量のエネルギー貯蔵が可能であること
  • (2)再生可能エネルギー出力や負荷消費電力の不規則な変動を高精度で補償できること
  • (3)(2)の変動補償を行いながらも非常時に必要となる大容量の貯蔵エネルギーを維持できること

そこで、図1のような、電力貯蔵システムと水素貯蔵システムを組み合わせた「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」を考案し、大容量非常用電源を確立するための技術課題を、以下の方法を用いて解決するとともに、その検証を行いました。

  • (a)大容量エネルギー貯蔵にエネルギー密度の高い水素吸蔵合金または液化水素タンクを用いる。
  • (b)太陽光発電出力と負荷消費電力の差分に対して、カルマンフィルター※2のアルゴリズムを適用し、両者の差分の変動を長周期変動分と短周期変動分に分解して、長周期変動分を水素貯蔵システムで、残りの短周期変動分を電力貯蔵装置で補償する。
  • (c)DC BUS※3と水素BUS※4を設け、長周期変動分を補償する水電解装置入力と燃料電池出力につ いては電力制御(アクティブ制御)、短周期変動分を補償する電気二重層キャパシタ※5については電圧制御(パッシブ制御)を行う。
  • (d)電力貯蔵システムと水素貯蔵システムのエネルギー貯蔵量を逐次測定し、常時の変動補償制御と並行して、両エネルギー貯蔵量がそれぞれの目標範囲内に収まるようにエネルギー貯蔵量を制御する。

  • 「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」の基本構成のイメージ図
    図1 「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」の基本構成

なお、従来の非常用自家発電機と「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」の主な違いは、表の通りです。

表 従来技術(非常用自家発電機)と「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」の主な違い
項目 従来技術(非常用自家発電機) 「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」
非常用エネルギーの調達方法 運搬を伴う外部からの燃料
(化石燃料)調達が不可欠
太陽光パネルや電力系統からエネルギーを貯蔵できるため輸送による燃料調達は不要
大容量エネルギーの保管方法 化石燃料を大容量燃料タンクで保管するため、燃料の経年劣化があり、定期的な大容量の燃料入れ替えが必要 液化水素タンクや水素吸蔵合金で水素を保管するため、劣化がなく燃料の入れ替えも不要
非常時の動作安定性 通常時は使用せず、非常時のみの使用となるため動作不良が起こりやすい 通常時も使用でき、通常時と非常時の 運転切り替えも容易であるため動作不良が起こりにくい
非常時の電力品質 大きな負荷消費電力の変動に対しては電圧・周波数が変動 再エネ出力や負荷消費電力の大きな変動に対しても安定供給が可能
太陽光発電の有効活用 非常用電源との連係は困難 非常時では貴重な太陽光発電出力を最大限有効活用できる
非常用電源の運用方法 非常時だけしか使用できないため費用対効果が小さい 非常時だけでなく通常時も再エネを有効活用でき費用対効果が高い

以上を踏まえ、仙台市茂庭浄水場に、図2と図3に示すような既設の20kW太陽光パネルを用いた電力・水素複合エネルギー貯蔵実証システムを構築し、本実証システムの有効性を検証するために、大規模自然災害による長期停電を想定した連続運転を実施しました。

  • 仙台市茂庭浄水場の20kW電力・水素複合エネルギー貯蔵実証システムの構成のイメージ図
    図2 仙台市茂庭浄水場の20kW電力・水素複合エネルギー貯蔵実証システムの構成
  • 仙台市茂庭浄水場の20kW電力・水素複合エネルギー貯蔵実証システムの外観のイメージ図
    図3 仙台市茂庭浄水場の20kW電力・水素複合エネルギー貯蔵実証システムの外観

【2】研究開発成果

2017年8月より、仙台市茂庭浄水場の実証システムを用いた実証試験を開始し、各種機器の最適制御運転およびトータルシステムとしての最適化を実施してきました。そして、今回、実証システムにおいて、大規模自然災害による長期停電を想定した72時間(3日間)連続運転(10月4日~10月6日)に初めて成功しました。具体的には、図4に示すように、逐次変動する太陽光発電出力や負荷消費電力に対して、電気二重層キャパシタ(電力貯蔵装置)と水素貯蔵システムの入出力制御により、効果的で完全な補償が可能であることを確認しました。

  • 実証システムにおける大規模自然災害による長期停電を想定した72時間(3日間)連続運転試験結果のイメージ図
    図4 実証システムにおける大規模自然災害による長期停電を想定した72時間(3日間)連続運転試験結果

その結果、高品質な電力の長時間(72時間)にわたる安定供給を実現しました(図4の直流母線電圧と目標電圧(380V)の差が小さいことが、太陽光発電出力や負荷消費電力の変動補償精度が高いことを表しています)。

以上より、「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」が、化石燃料使用量やCO2排出量の削減に有効な大容量非常用電源としてだけでなく、再生可能エネルギー出力や負荷消費電力の変動を高精度に補償でき、再生可能エネルギーをリアルタイムで活用できる高品質・高安定電源としても有効であると考えられます。

本成果は、「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」が実用化可能な技術レベルにあることを示すもので、今後は、浄水場をはじめ、大規模自然災害発生時の避難所として指定されている学校、下水処理場、病院、ビル(官庁・金融・放送)などへの適用が期待されます。また、本成果により、エネルギー応用に向けた燃料電池や水電解装置、水素吸蔵合金などの開発が一層進むとともに、今後の再生可能エネルギー分野における水素エネルギーの普及、利用促進につながると考えられます。

3.今後の予定

今後本事業では、実証システムの信頼性の向上および早期実用化に向けて、システム試験を継続して行い、関連データの蓄積を進めるとともに、さまざまな天候や運転条件において長時間連続運転を実施する予定です。

【注釈】

※1 NEDOの事業
事業名:水素社会構築技術開発事業/水素エネルギーシステム技術開発/非常用電源機能を有する再生可能エネルギー出力変動補償用電力・水素複合エネルギー貯蔵システムの研究開発
事業期間:2014年度~2019年度
※2 カルマンフィルター
カーナビや気象予測に使用されており、誤差のある測定データを用いて、時間変化する物理量を推定する手法です。
※3 DC BUS
「電力・水素複合エネルギー貯蔵システム」の基幹となる直流の電力線(母線)です。
※4 水素BUS
電気系のDC BUS(直流母線)に対応する水素の基幹フロー配管です。
※5 電気二重層キャパシタ
電気二重層という物理現象を利用した、優れた充放電サイクル特性(寿命)や急速充放電特性を有する蓄電デバイス(コンデンサー)です。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 次世代電池・水素部 担当:大平 TEL:044-520-5261

国立大学法人東北大学 大学院工学研究科 担当:津田 TEL:022-795-5020
E-mail:tsuda@ecei.tohoku.ac.jp

株式会社前川製作所 広報室 E-mail:public@mayekawa.co.jp

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:担当:坂本、髙津佐、藤本 TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp