世界最高の高出力密度を実現した窒化ガリウムトランジスタ(GaN HEMT)を開発
―ポスト5G基地局向け増幅器の小型化・高性能化に貢献―
2023年11月17日
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)
住友電気工業株式会社
NEDOの委託する「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」(以下、本事業)の一環で住友電気工業株式会社(住友電工)は、新規結晶技術を用い従来比で2倍となる高出力密度を実現した窒化ガリウムトランジスタ(GaN HEMT)を開発しました。
開発したGaN HEMTは、新規結晶技術により、窒素(N)極性でGaN結晶の高品質化を実現し、さらにn+ GaNの採用やハフニウム(Hf)系のゲート絶縁膜の形成技術を組み合わせました。この結果、2A/mm超の最大電流と60V超の高耐圧を両立させ、N極性GaN HEMTとして世界最高値である、周波数28GHzでの最大出力密度12.8W/mmを達成しました。
本技術の開発成果は、ポスト5G情報通信システムの中核をなす、基地局向け増幅器へ実装されることで、小型化・高性能化に貢献します。
1.背景
ポスト5Gで必須となる高速・広帯域無線通信網において、通信基地局の中核となる高周波増幅器は、さらなる小型化・高出力化が求められています。4G以降、増幅器には、低消費電力性に優れるGaN HEMT※1の利用が急速に進んでいます。しかし、既存技術では高出力化への限界が近づいており、抜本的な特性改善につながる新技術が期待されています。
このような背景の下、NEDOは、2020年度から本事業※2で高出力増幅器の開発に取り組んでいます。その一環として、住友電工は、新規結晶技術を用いた新しいGaN HEMTの技術開発に取り組んでいます。
2.今回の成果
(1)新規結晶(N極性)を用いたGaN HEMTの開発
従来、GaN HEMTにはGa極性が広く用いられてきました。一方でN極性を用いると、素子設計の自由度が高まり、二次元電子濃度の上昇が容易なため、GaN HEMTのさらなる高周波化・高出力化を実現する技術として注目されています。しかし、N極性のGaN結晶は、ヒロックと呼ばれる結晶欠陥が生じやすいため結晶品質を高めることが難しく、また、N極性のGaN HEMTの実現には高品質なゲート絶縁膜の開発が必要という課題もありました。本事業では、ヒロックのない高品質なN極性結晶を実現するとともに、電子を供給するバリア層などの最適化を進めて250オームパースクエア(Ω/□)と極めて低いシート抵抗を持つ結晶成長を実現しました。また、n+ GaN形成技術※3を開発し、オーミック電極※4の接触抵抗を0.13オームミリメートル(Ω・mm)へと低減させることに成功しました。さらにハフニウム(Hf)系のゲート絶縁膜の高品質化技術と組み合わせ、GaN HEMTの電流値増大による出力密度の飛躍的な向上を実現しました。
(2)新開発GaN HEMTの特性、出力密度
今回開発したN極性GaN HEMTの電流電圧特性は、ミリ波帯向けのデバイスにおいて従来技術であるGa極性を大きく上回る2A/mmを超える最大電流を実現しながら、耐圧も60V以上へ向上させ大電流と高耐圧を両立しました(図2)。また、開発したN極性結晶を用いたGaN HEMTの高周波特性は、測定周波数28GHzにおいて最大出力29.8dBmが得られ、トランジスタのゲート幅で換算すると12.8W/mmの最大出力密度を達成しました(図3)。この出力密度は、従来技術と比較して2倍を超えるとともに、N極性として世界最高値を実現※5しました。
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図2 N極性GaN HEMTの電流電圧特性
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図3 N極性GaN HEMTの高周波特性
3.今後の予定
本技術の開発成果は、ポスト5G情報通信システムの中核をなす基地局向け増幅器への実装で、小型化・高性能化に貢献します。そのため、NEDOと住友電工は実用化のため、新規結晶やゲート絶縁膜の信頼性向上および広帯域増幅器の技術開発を継続事業の中で進めます。
また、NEDOは本技術をはじめ、今後もポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発および製造基盤の強化を目指します。
なお、住友電工は本成果を窒化ガリウムに関する最大の国際学会であるICNS 14※6で報告します。
【注釈】
- ※1 GaN HEMT
- 高周波特性に優れる高電子移動度トランジスタ(High Electron MobilityTransistor)に、次世代の半導体材料として適用範囲が拡大している窒化ガリウム(GaN)を適用し、出力や消費電力などの特性を飛躍的に向上させたデバイスです。
- <ご参考>住友電工グループ未来構築マガジンVol.11 2020「id」
高速大容量通信を担う革命的デバイス~「GaN-HEMT」、開発の軌跡~ - ※2 本事業
- 事業名:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発/新規結晶成長製造技術と、それを用いた高出力GaNデバイスの研究開発
事業期間:2020年度~2023年度
事業概要:ポスト5G情報通信システムの開発(2.5MB) - ※3 n+ GaN形成技術
- GaN HEMTの接触抵抗を低減するためには、二次元電子とオーミック電極とを接合するのではなく、間に低抵抗となる高濃度n型ドープ層を挿入することが効果的です。この高濃度n型ドープGaN(n+ GaN)を形成するための技術です。
- ※4 オーミック電極
- GaN HEMTで電流経路のソース・ドレイン電極を二次元電子と低抵抗で接合させるための電極です。低抵抗化には限界があり、n+ GaN形成技術による低抵抗化のさらなる研究が進んでいます。
- ※5 N極性として世界最高値を実現
- 2023年9月以前に報告されたN極性GaN HEMTの最大出力との比較です。(住友電工調べ)
- ※6 ICNS 14
- 2023年11月12日より福岡県で開催の「14th International Conference on Nitride Semiconductors」
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO IoT推進部 担当:石田、釜澤 TEL:044-520-5211
住友電工 広報部 広報グループ TEL:06-6220-4119(大阪)、03-6406-2701(東京)
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:柿澤、坂本(信)、瀧川、山脇
TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press[*]ml.nedo.go.jp
E-mailは上記アドレスの[*]を@に変えて使用してください。
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