国内初の沖合における洋上風力発電の挑戦―プロジェクト現場レポート―

伊藤主任研究員インタビューバナー

克服すべき3つの課題

銚子沖設置作業写真
海底ケーブル敷設作業(銚子沖)
北九州市沖設置作業写真
洋上風車基礎部分設置作業(北九州市沖)

風力発電は、再生可能エネルギーの中で成熟した技術体系と豊富な実績を持ち、かつ、発電原価が低いという理由から、世界的に導入・普及が進んでいます。

日本でも風力発電の導入は、陸上を中心に2000年代前半から急速に増加しました。 しかし将来、風況や立地制約などの面で風力発電の適地が減少すると予想される中、風力発電の導入拡大を図るためには、 膨大なポテンシャルが期待される洋上風力発電の展開を図る必要があります。

洋上風力発電の課題は、大きく三つあります。

一つはコストです。洋上風車は海上に設置するため、風車や基礎(海中に没している土台の部分)、 海底ケーブルの設置工事など、陸上の約2倍のコストがかかると言われています。 また、運転開始後のO&M(部品交換などの維持管理)についても、陸上風車と異なり、多くの費用を要します。 当然、離岸距離や水深によってもコストは異なり、最近の欧州の洋上ウィンドファームは、陸域から遠く、水深の深い海域に移行しつつあるため、設置コストも上がっています。

二つめは技術です。初期の洋上風車は増速機や発電機の故障が頻発したため、塩害対策や風車の状態を遠隔監視する技術など、 信頼性を向上させるための技術開発が進められています。また、設置場所が浅い海域から深い海域へ移行する場合、 コスト低減のため風車1基当たりの発電量を増やす必要があり、風車の大型化と信頼性の向上が洋上風車の技術開発の大きな課題となっています。

三つめは、社会受容性です。漁業者など海面利用者の理解なくして洋上風力発電は成立しません。そのため、洋上における環境アセスメントが重要になってきます。

こうした課題は、自然環境や社会環境など欧州の洋上風力発電事情と大きく異なる面があるため、 現在実施している実証研究によって、日本に適合した、低コストの洋上風力発電技術を確立する必要があります。

日本の洋上風力発電技術の基盤を築く

実証研究サイト地図
実証研究サイトの詳細はこちら

欧州では洋上風力発電について“Offshore is not offshore”という表現を使うことがあります。 同じ洋上風力発電でも海象条件(水深、離岸距離など)の違いがあることなどから、「一言で洋上風力発電とは言ってもタイプはいろいろ」というわけです。

日本でも、海域によって気象・海象条件が大きく異なるため、実証試験は太平洋側(銚子沖)と日本海側(北九州市沖)の2海域で実施します。

特に、日本では、洋上風況を長期間、高高度で計測した事例はありません。 洋上風況、波浪・潮流などの諸特性の把握は洋上風力発電設備を設計する上で非常に重要です。 そのため、高精度の計測装置による観測を約2年間行います。こうした観測データは今後、洋上風力発電の技術基準を策定する際に貴重なデータになります。

洋上風車の開発では、塩害対策や台風・落雷対策など洋上の厳しい自然環境に適合可能な技術開発課題に取り組む必要があります。 また、洋上風車へのアクセスは、陸上の場合に比べて大きく制限されます。そこで、高い稼動率の維持に必要なメンテナンス性や 運転監視技術の高度化の研究開発を行い、それらの課題を克服すると共にデータを蓄積します。

環境影響評価手法の確立では、海洋生物の定量的な調査・評価が課題となります。採取できない底魚類の調査方法や蝟集(いしゅう)効果などの評価手法を確立します。

日本では、洋上風力発電は動き出したばかりですが、陸上で培われた風力発電の技術や超大型化への取り組みなど 先行する欧州勢に技術的に対抗できる可能性は大いにあると思っています。

現在、開発を進めている7MWクラスの超大型風車は、革新的なドライブトレイン(動力伝達装置)を持ち、 メンテナンス性を改善した世界に類を見ない全く新しい風車です。日本の重工メーカーの豊富なリソースを活かし、 一方で海外の革新的な技術を取り込むことで、先行している海外の風車専業メーカーの水準を超えようとするものです。 このような取り組みは、今後の技術開発の一つの方向性を示すものです。

» プロフィール

伊藤 正治(いとう まさはる) NEDO新エネルギー部自然エネルギーグループ 主任研究員。 2006年4月より新エネルギー技術開発部の風力担当を経て、2009年10月より現職。

(NEDO広報誌「FocusNEDO」第47号より抜粋)

テキストサイズ