Project

使用済みプラスチックの


4つのリサイクル技術を連携し


高度な資源循環システムを確立する。

Project Member

YANAGIDA Yasuhiro

環境部 3Rグループ
2018年入構
理学研究科 地学専攻 博士

学生時代に、火山災害や防災に関する工学分野の学生とのコラボレーション企画を実施。そこで企画の動機設定を担った経験を通して、社会に貢献できる人々の能力を引き出し、モチベーションを創出する立場に興味が湧き、NEDOを志望した。

担当業務

ナショナルプロジェクト、先導研究プログラムなどのマネジメント支援を担当。技術的な進捗や予算執行の進捗の管理、進捗報告会の企画、採択委員会のセッティングなど。

プラスチックごみの
単純焼却・埋立ゼロへ

アジア諸国で廃プラスチックの輸入規制が強化され、G7やG20で海洋プラスチックごみが重要トピックとして取り上げられるなど、廃プラスチックの処理は世界的な課題となっている。

国内では2019年に「プラスチック資源循環戦略」が策定され、2035年までにリユース・リサイクルなどにより、すべての使用済みプラスチックを有効利用することが目標として盛り込まれた。

こうした中、NEDOは2020年度から「革新的プラスチック資源循環プロセス技術開発」に着手。これはプラスチック材料として再生する「マテリアルリサイクル」、分解して石油化学原料に転換する「ケミカルリサイクル」、焼却時の熱を利用する「サーマルリサイクル」、AIやロボットを利用し最適な分別・選別を行う「ソーティング」という4つのリサイクル技術を連携し、高度なリサイクルシステムを確立するものである。2035年までに単純焼却・埋立ゼロと国で掲げられたマイルストーンに対し、プラスチックの高度な資源循環プロセスの確立に向けた再資源化技術の基盤創出を目指している。

2022年3月時点で32の大学、企業、公的研究機関に事業を委託し進めている、このプロジェクトのマネジメントを行っているのが、柳田を含むNEDO職員3名である。

将来のリサイクルシステムを
社会に提示する

プロジェクトの意義について柳田は語る。
「これまで特定のリサイクル技術の確立を目指した技術開発の事例が多かったのですが、今回意識しているのは、複数のリサイクル技術を連携させた時にどのような姿ができるか。個々の技術も新しい技術で注目されていますが、日本全体で廃プラスチックの有効利用率を高めるために、プロジェクトの全体像を設定することに軸足を置き、総合的に取り組んでいます」

現在、廃プラスチックの主要なリサイクル技術は3つある。最も普及しているのは焼却熱を利用するサーマルリサイクル。続いて、プラスチックのまま新たな製品の原料として再利用するマテリアルリサイクル。3つめは、化学的に分解し他の原料に転換するケミカルリサイクルである。

「個別のリサイクル技術で処理できる、できない、だけでなく、全体のプロセスを考える必要があります。廃棄物処理場で分析した情報や、受け入れる側の個々のリサイクル技術の性質を基に、どの程度の汚れや忌避物質なら受け入れられるか、その結果、どのようなリサイクル処理比率になるかといった議論を進めています。各分野が横断的に取り組んで大きなビジョンを描く時に、NEDOの土台としての存在は大きいのではないかと考えています」

オンラインイベントで進捗報告会を開催した際に、約300名の化学メーカー、エンジニアリング会社の技術者などから参加があった。

「アンケートの回答で多かったのは『もっと聞きたい』という反応でした。プロジェクトの意義を再確認できましたし、一年間担当してきた中で大きな喜びを感じた瞬間でした」

国は2035年までにすべての使用済みプラスチックを有効活用するというマイルストーンを設定している。 「技術開発の普及速度を鑑みると、ゆったりとはしていられません。現状はサーマルリサイクルへの依存度が高いですが、プラスチック素材のまま、もしくは化学品原料として再利用される、次世代のリサイクルシステムとして、それがうまく回るような将来像を社会に先行して示していくことがナショナルプロジェクトとして重要な役目だと考えています」

NEDOだから発揮できる
腕の見せ所を探求する

このプロジェクトは2020年8月に開始したが、2021年度にも新たな公募でのテーマ追加が計画されており、関係者の事前検討が進められていた。柳田は前任者から引き継ぎ、2021年4月からこのプロジェクトに参加したが、コロナ渦ということもあり、当初は関係者とのコミュニケーションに苦労したという。しかし、直前に所属していた技術戦略研究センターでの戦略策定業務の経験を活かしながら、徐々にキャッチアップできた。

「NEDO特有の技術の捉え方や視点を予め認識した上で、関係者とコミュニケーションを図ったことが良い方向に作用したと考えています。また、多方面から得られる情報を自分の中で反芻しながら、文章や資料に仮説として落とし込み、プロジェクト実施者に指摘していただく、といった実践を繰り返すしかない状況でしたが、その甲斐もあり、プロジェクトの特徴を早い段階で掴みつつ、1年目を無事に乗り切ることができました」

新しいテーマの実現には、廃プラスチックの製造~利用~廃棄までの全体の関係者を巻き込んだ体制の構築が不可欠だ。そのために適切な評価基準の設定と採択委員となる有識者をグループ内で深く検討する中で、柳田にある有識者との出会いがあった。

「これまでさまざまな有識者の方と関わらせていただきましたが、自らの仮説に対する第三者的な視点でのコメントをお願いするといったコミュニケーションが中心でした。他方、その際に大変お世話になった先生は、技術評価に対するご経験が豊富で、どのような視点で審査するのか、という審査する側の視点や思惑を交えながらのご指導をいただくことができ、作業一辺倒になりがちな視点を変えていかなければと気づかされました。公募~審査の部分が単なる事務作業ではなく、技術開発の成果を最大化するために何ができるのか、を非常に多く考える機会として重要で、私たちの組織の腕の見せ所なのではないかと改めて認識しました」

プロジェクトに関わるテーマの採択には有識者の協力が必須であるものの、関係者が事前に検討した文脈なども含め、あるべき姿のプロジェクトイメージを言語化し、その位置づけや国として取り組むべき領域を有識者へうまく伝えることは産官学の橋渡しを担うNEDO自らが主体性を持って臨む部分として重要である。 「着任直後の不安もありましたが、公募~採択の過程に至るまでの有識者の方々とのやり取りを重ね、プロジェクトの体制強化につながる展開に落とし込めたことは自分にとって小さな成功体験になりました」 柳田は、NEDOだからこそ発揮できる腕の見せ所を自分なりに探しつつ、プラスチック資源循環の将来像の実現に向けて日々動いている。