Project

日本の産業競争力の源泉として


大きな期待がかかる


次世代情報通信システム実現へ。

Project Member

SASAKI Hiromu

IoT推進部ポスト5Gプロジェクト推進室
2017年入構
電気情報工学専攻

大学では、障がいのある方や難病患者の方が抱える医療だけでは解決できない日常生活の課題に対し、テクノロジーを活用して QOLを改善する支援方法を学ぶ。福祉機器の開発支援を行うNEDOに入構。研究者や民間企業のアイデアを早期に社会実装につなげる支援をしたいと考えている。NEDOの「国内・海外留学制度」を利用して東京工業大学で技術経営を学んでいる。

担当業務

本プロジェクトでは先端半導体製造技術の研究開発マネジメントを主に担当。立ち上げに向けたルール策定、実施者の公募、採択後の管理などを並行して実施。経済産業省や関係部署との調整も担当。

次世代情報通信5Gの
先を切り拓く巨大プロジェクト

NEDOは、2020年度より「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」を始動させた。次世代通信規格5Gのさらに先、ポスト5Gに対応した情報通信システムの開発・製造基盤技術の強化を目指している。

現在、このプロジェクトを実施する職員は約40 名。民間企業や公的研究機関、官庁からの出向者と共に、先端半導体の製造技術開発を任されているのが入構6年目の佐々木だ。本プロジェクトについて佐々木が語る。

「私たちが目指すポスト5Gを実現するためには、これまでの4Gとは比較にならないほど基地局の数を増やさないといけないなど、通信インフラ面で様々な課題があります。そのため、プロジェクトの中心の一つは、ポスト5Gを実現するための通信インフラに関する技術開発となります。加えて、ポスト5Gの通信インフラやポスト5Gが実現した世界では、より多くの半導体が必要とされます。私が主に担当する半導体分野では、先端的なロジック半導体のように現在国内に製造能力のない先端半導体の製造技術の開発を進めています。2022年3月時点で既に公募を10回実施し、プロジェクト全体で採択されたテーマ数は約60に及び、100を超える事業者の皆様と取り組んでいます」

早期の社会実装を
実現するための制度設計が鍵

NEDOは、2020年に本プロジェクトのための基金を設置している。
「この事業では、国から単年度ごとに交付される運営費交付金ではなく、複数年度にまたがって利用可能な基金を原資としており、安定的かつ効率的な支援が可能となっています」
基金総額は2022年3月時点で3,100億円に達している。予算規模が大きいのは、ポスト5Gは、政府が掲げるSociety5.0を実現するための基盤となる重要な技術であり、早期の社会実装が求められる特別なプロジェクトだからだ。

「NEDOのプロジェクトの大半は中長期的なものですが、本プロジェクトは2025年から2030年に成果が社会に出ることを目標としており、ゴールまでの期間が短いことも特徴です。早期の社会実装を促すためには、インセンティブ設計をはじめとする、企業の背中を押すためのルールを策定する必要がありました。そのような視点での制度設計は初めての経験でしたが、経済産業省、NEDOの管理部門や外部の弁護士、会計士などと議論をしながらルールを整備し、プロジェクトが円滑に回り出したことは、私にとっても貴重な体験になりました」

次世代情報通信システム、先端半導体それぞれの分野で、技術開発のスピードを上げる施策が進められている。

「中核となる通信インフラの技術開発では、事業者各社にしっかりと予算を付けつつ、民間企業だけで解決できない課題には大学や公的研究機関に参画いただき、出口を意識した支援を行っています。また、半導体分野では、民間企業や大学、公的研究機関に加え、海外とも連携を図りながら、日本にこれまでなかったパイロットラインの構築を目指しています。実現すれば、日本が強みを持つ半導体関係の材料メーカーや装置メーカーを中心としたオープンイノベーションの場を構築できると考えています」

社会を大きく変え、
あらゆる産業の基盤になる技術

5Gとポスト5Gは何が違うのか。
「5Gには主に3つの特徴があります。『高速大容量』『超低遅延』『多数同時接続』です。現在商用化が始まっている5Gでは、『高速大容量』により、データ量の大きい映画などのファイルを短時間でダウンロードすることができるようになりました。一方で、利用者が時間差なく通信できる技術『超低遅延』と、身の回りのあらゆる機器がインターネットに接続する『多数同時接続』には、技術的に改良の余地があります。この2つの機能が強化された真の5Gを私たちは『ポスト5G』と呼んでいます」

ポスト5Gが実現した社会では、どのような変化が起こるのか。
「ポスト5Gの特徴の一つ、『超低遅延』の強化が進めば、自動運転など一秒以下の時間差が命に関わるようなクリティカルな場面でも安心して使える通信インフラが実現します。また、人が密集するスタジアム等でスマートフォンを快適に使えることはもちろん、身の回りのさまざまなモノがインターネットに接続するIoT時代では、より高度な多数同時接続が重要になります。一次産業でも魚の養殖のモニタリングなどで5Gを導入している例があり、今後あらゆる産業で活用されることが見込まれています。コンシューマー向けでも、3次元的仮想空間であるメタバースに簡単にドライブできるようになるなど、世の中が大きく変化することを期待しています」

ポスト5Gは将来、あらゆる産業の基盤になる技術であり、日本の産業競争力の源泉として大きく期待されている。中でも佐々木には思い入れの深い分野がある。
「私自身は福祉機器や介護支援分野に関心があるので、ポスト5Gが実現することで、例えば、視覚に障がいのある方がリアルタイム道案内やIoTによる障害物検知などを利用して一人で外出可能になるなど、生きづらさの解消につながる場面が増えることを期待しており、非常にやりがいを感じています」

世界的なゲームチェンジが
プロジェクトの大きな後押しに

2021年6月、経済産業省が「半導体・デジタル産業戦略」を発表した。その中で、1980年代に世界の半導体市場を席巻した日本企業の存在感が低下していることが記されている。

「『全てを国産で、全てを日本企業だけでやる』という自前主義からの脱却が必要です。日本が持たざる部分は海外企業を巻き込みながら、サプライチェーンでチョークポイントとなる材料や製造装置でトップシェアを誇る国内企業をテコにして、日本国内に最先端の半導体製造ラインを作ることが、プロジェクトの目標の一つとなっています」

現在、半導体市場で大きなゲームチェンジが起きている。1965年に提唱された「半導体の集積率が1年半で2倍になる」というムーアの法則を元に、半導体メーカーは微細化を追求してきた。ある面積の中でどれだけ微細な回路を積めるか。しかし、微細化を追求すればコストも高くなり、ムーアの法則には物理的な限界が来ているという声もある。そのブレイクスルーこそが日本の競争力の源泉となる新たなキーテクノロジーを生む、と佐々木は力を込める。

「トランジスタの構造を変えることでさらなる微細化を追求する『モアムーア』や2.5次元や3次元に高密度で集積することにより性能を高める『モアザンムーア』という新たなアプローチが近年話題になっています。これらが半導体市場で大きなゲームチェンジになると考えており、私たちはその両輪で研究開発を進めています。そこに日本が強みを持つ材料や製造装置を組み合わせることで、日本の競争力の源泉となるキーテクノロジーになっていくことを期待しています」

一方、5G通信の中核技術でも大きなゲームチェンジが起きつつあると佐々木は語る。
「それが『オープン化』と『仮想化』です。これまで、通信キャリアがネットワークを構成する機器を調達する場合、相互接続性の問題から同じベンダーで揃えた方が効率的であるという、ベンダーロックインの制約が働いていました。しかし、5G基地局の機器を共通仕様にすることで、それを打破し、オープンな市場競争を実現しようという動きが強まっています。この『オープン化』により、日本が強みを持つ基地局やアンテナ周りの製品を単体で導入する機会が生まれ、日本企業の海外展開が大きく進むことを期待しています。NEDOもオープン化に向けた研究開発や企業との連携などを積極的に進めています」

もう一つの『仮想化』についてはどうか。
「これまで基地局などで使われてきたサーバーには非常に専用性の高いチップが組み込まれ、通信キャリアにとっては大きなコスト負担になっていました。そこで、安価なチップを使った汎用サーバーで実現する仮想化通信インフラが非常に重要なテーマになっており、本事業の重点項目として、仮想化を実現する通信アーキテクチャやネットワーク管理の研究開発を進めています。これら2点こそが、日本が世界と戦っていく上での重要なキーワードになっていくと予測しています」

本プロジェクトは、既に海外での展開も進めている。
「過去の3Gは日本の中で最適化された技術が作られ“ガラパゴス”という呼び方もされましたが、これからは海外に打って出ることができる通信技術が不可欠です。本プロジェクトでは海外に拠点を設置し、海外のユーザー企業がポスト5Gの通信インフラを試したり、接続試験をしたりできる環境をいち早く整えています。日本のためだけの技術ではなく、しっかりと世界を見据えていきたいと考えています」