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NEDOの取り組み・事業紹介

革新的な技術開発が進む「ロボット」。NEDOが取り組むプロジェクトをご紹介します。

  1. 1.日本のロボット産業をめぐる状況と、NEDOの取り組み
  2. 2.革新的ロボット研究開発基盤構築事業(事業期間:2020~2024年度)

1.日本のロボット産業をめぐる状況と、NEDOの取り組み

日本は、1980年代以降、産業用ロボット開発で世界をリードしてきました。製造現場を中心にロボットの普及が世界的に進む中、現在も世界市場で高いシェアを維持しています。

2010年代に入り世界の産業用・サービス用ロボット市場が急成長したのを受けて、日本政府は、2014年にロボット革命実現会議を開催し、翌年には「ロボット新戦略」を発表しています。2016年には総合科学技術・イノベーション会議が「第5期科学技術基本計画」を策定し、未来の産業創造と社会変革に向けて、世界にも先駆的な超スマート社会「Society 5.0」の実現を提示しました。ロボット技術を含む基盤技術の強化を通じて、競争力向上を目指すことを掲げています。2019年には政府関係省庁が「ロボットによる社会変革推進会議」を合同で開催し、「ロボットによる社会変革推進計画」を策定。この計画では、拡大する海外需要に対応するため、国内でのキープロダクツ育成とシステムインテグレート能力の強化が重要課題だと指摘しています。

遡ること1998年、NEDOは「人間協調・共存型ロボットシステム研究開発」プロジェクト(HRP)を開始しました。その後、知能化技術や生活支援、災害対応、環境・医療分野など、さまざまな領域でプロジェクトを展開し、インフラの維持管理やロボットの適用市場の拡大にも注力しながら、日本のロボット技術開発を先導してきました。

2015年には「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」プロジェクトを立ち上げ、新時代のロボット開発に向けた取り組みをスタート。2020年度からは、中長期にわたって産業用ロボットにおける重要技術を世界でリードし続けることを目指し、「革新的ロボット研究開発基盤構築事業」を展開しています。

図表1.NEDOの主なロボット関連プロジェクト
プロジェクト 事業年度
次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト 2007~2011年度
生活支援ロボット実用化プロジェクト 2009~2013年度
災害対応無人化システム研究開発プロジェクト 2011~2012年度
環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト/ロボット分野の国際研究開発・実証事業 2012~2015年度
インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト 2014~2018年度
ロボット活用型市場化適用技術開発プロジェクト 2015~2019年度

ここからは、NEDOの研究開発プロジェクト「革新的ロボット研究開発基盤構築事業」の取り組みを紹介し、ロボット技術開発の「いま」を見ていきましょう。

2.革新的ロボット研究開発基盤構築事業(事業期間:2020~2024年度)

本事業は、以下の5つの研究開発項目を通じて、多品種少量生産に対応できる産業用ロボット等の実現を目指すプロジェクトです。

各研究開発項目では、これまでロボットが活用されていない領域でも導入を可能とする要素技術の研究開発に取り組み、ロボットメーカーが自社製品に応用できる要素技術を8件以上確立することを目標としています。

また、各研究開発項目の成果を統合したロボット試作機の製作も実施します。実際の現場を想定した環境で実証試験を行い、従来のロボットと比較して「自動化率30%向上」と「システムインテグレーションコストの50%削減」の実現を目指しています。これらの取り組みを通じて、ロボットのさらなる普及促進を図ります。

<研究開発項目>

(1)汎用動作計画技術

産業用ロボットの新たな活用領域として、同一ラインでデザインや機能が異なる製品を少量ずつ生産する「多品種少量生産」への展開が期待されています。しかし、このような生産方式へのロボット導入を進めるためには、導入コストの削減が大きな課題となっています。

本研究項目では、この課題解決に向けて複数のデータベース構築を進めています。具体的には、ロボットの把持動作(対象物に手を伸ばし、掴む動作)や組み立てに関するノウハウ、作業対象物の形状画像、重量、触覚データなどを体系化します。これらのデータベース構築により、いままでロボットのSIer(システムインテグレーター)が経験や勘で作業していた開発工程の一部を自動化できるようになり、システム全体のコスト低減を可能にします。

これらのデータベースを活用し、作業計画を自動で最適化するためのロジックやアルゴリズムを開発します。その後、実際のロボットシステムを構築して実証試験を行います。同時に、システムの性能を適切に評価するための手法についても検討を進めていきます。

(2)ハンドリング関連技術

いわゆる三品産業(食品・化粧品・医薬品の製造業)や物流・サービス分野では人手不足が深刻化しています。これらの分野では、少量生産への対応や不定形物の取り扱いが必要となるため、人手作業のロボット化が困難であり、導入が進んでいないのが現状です。

本研究項目では、先述の研究開発項目(1)と連携しながら、ロボットが扱う対象物のデータを詳細に計測できる各種センシング技術を搭載した、革新的なエンドエフェクタ(ロボットアームの先端に取り付けられ、掴む、持ち上げる、姿勢を変える、などの動作を行う機器)の開発を進めています。

また、多品種少量生産への対応を見据え、(1)で構築したデータベースと連携したロボットハンドの要素技術開発に取り組んでいます。さまざまな対象物を安定的に把持できる機能に加え、不定形物にも対応可能なハンドリング技術の開発を目指しています。

(3)遠隔制御技術

生産現場では、労働人口の減少に伴う人手不足、とりわけ熟練工不足への対応が急務となっています。この課題に対して、複数のロボットを一括で遠隔制御できる技術開発が期待されています。また、遠隔制御技術には、生産性向上の観点からも大きなメリットがあります。ロボットの配置換え時に必要な回線敷設作業を省略できるため、稼働停止時間を短縮できます。これにより、メンテナンスの効率化やシステムの立ち上げと「段取り替え時間」を短縮できます。

本研究開発項目では、視覚、力覚、音声などの制御データを安定的に伝送する技術の開発に取り組んでいます。通信遅延や外部からの干渉が生じても安全に制御できるように、5G通信などに対応した信号伝達規格の確立を目指しています。

さらに、遠隔制御によるロボットの集中操作を見据え、通信遅延が操作者の感覚に与える影響を定量的に評価します。この知見をもとに、操作者の疲労を軽減する新たな通信方式の開発を進めています。

(4)ロボット新素材技術

ロボットの省エネルギー化と導入コストの低減を実現するには、カバーなどの外装部だけでなく、駆動部や構造部といった重要部分の軽量化が不可欠です。

本研究開発項目では、減速機・モータ・連結部品などの駆動部と、アームなどの構造部について、強度、剛性、耐熱性、耐久性といった基本性能を確保しながら、炭素繊維複合材料(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)を含む樹脂化や複合材料化する技術の研究開発を推進します。各候補素材は、シミュレーションや試作モデルによって実用化の可能性を評価・検討します。

また、ロボットの高機能化に向けた技術開発も並行して実施しています。圧力・振動・温度などのセンサー材料をロボットに組み込む技術の確立を目指すとともに、無線給電を実現する新技術の開発にも取り組んでいます。

(5)自動配送ロボットによる配送サービスの実現

コロナ禍などの影響により、ラストワンマイル物流の需要が増加しています。一方で、少子高齢化による労働者不足や、働き方改革の機運も高まり、結果その担い手であるドライバー不足が深刻な課題となっています。

本研究開発項目では、これらの課題解決に向けて自動配送ロボットによる配送サービスの実現を目指しています。安全な屋外走行を実現するため、遠隔監視・操作システムの開発を進めるとともに、オペレーターの訓練時間を短縮できる監視操作システムや、複数台のロボットを同時に監視可能なシステムの開発に取り組んでいます。

さらに、衛星を活用したGNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)やSLAM(Simultaneous Localization and Mapping:自己位置推定と地図作成を同時に行う技術)による自律移動機能の開発や、ロボットの安全性を実証するためのデータ収集も実施します。

  • 図表2.研究開発のスケジュール

最終更新日:2025年5月30日