お客様ニーズに寄り添うトップ営業と技術&ブランド投資で「選ばれる」デジタルプラットフォーム事業を展開/株式会社ABEJA
株式会社ABEJAは「ABEJA Platform」をベースに大企業向けのDX/AI導入を一気通貫で支援する、デジタルプラットフォーム事業を展開する企業です。2012年の創業から大きな飛躍を遂げてきた中でNEDO事業を活用し、2023年6月に東証グロース市場に上場されました。
今回は創業当初の苦労や想い、NEDO事業に採択されて感じたことについて、株式会社ABEJAの代表取締役CEO岡田 陽介氏にお話を伺いました。
- 左)株式会社ABEJA 代表取締役CEO岡田 陽介氏
右)NEDOイノベーション推進部長 吉田 剛
1.創業初期を乗り越え、成長する秘訣とは
人材は積極的に見つけに行った。未経験者同士でのチャレンジが資金面でもプラスに
NEDO吉田)初期段階のチームビルディングは大事なポイントである一方、苦労されているスタートアップが多いというのが現状です。この点について創業当初のご苦労やご経験、貴社で工夫されている点をお聞かせください。
岡田氏)ABEJA創業当初の2012年はディープラーニング技術が誕生したばかりの黎明期だったので、経験があるディープラーニングエンジニアがいるわけではありませんでした。そこで最初期は大学の研究室や周辺の仲間内から、若手で吸収力が高い優秀な人材をヘッドハントに近い形で積極的に引き入れ、新しいものに皆でチャレンジし、ABEJA Platformの基礎的な仕組みの元になる着想を得ることができました。今、ディープラーニング経験のあるエンジニアを雇うとなると、とても大きな投資となり、もし今からABEJA Platformを開発するとなると、開発当時と比にならないほどの資金が必要なのではないかと思います。そういった意味でも、ディープラーニングの黎明期に挑戦できたのは良かったですね。
今はディープラーニング経験人材の獲得競争が激化していて創業当初のようにはなかなかいきませんが、定期的なエージェント採用やリファラル採用等、しっかり進めていくしかないと思っています。ABEJAのおもしろい点は「3年後にメインストリームになる経験」を何度もしていることです。たとえば当社は2018年頃から大規模言語モデルの研究開発をしていましたが、メインストリームは2020年あたりにやってきました。こうした「最初は亜流で粛々と取り組んでいた事業が3年後にはメインストリームにくる」という経験は貴重で、人材価値を非常に押し上げるんですよ。ABEJAで働いていた人の中には、当社を経てファームのパートナーレベルになった方や、事業会社のCOOクラスになられた方もいます。「社員の市場価値を上げられる会社」として、優秀な人材を集めていければと思っています。
売れるスタートアップになるポイントは技術屋社長の「トップ営業」
NEDO吉田)御社のように王道のプラットフォームビジネスを狙うものの、現実には経営維持でキャッシュを確保するため下請け構造になってしまうスタートアップも少なくないと思います。しかし貴社が下請け化せずにプラットフォームビジネスを守ってやって来られたというところについて、ポイントを教えていただけますか。
岡田氏)そうですね。下請け構造にならないようにするためには、技術と逆説のような話にはなるんですが、しっかりした「トップ営業」が重要だと思います。
日本の技術畑の方々って営業を軽視しがちかと思うのですが、結局は下請け構造になってしまうことの要因が営業力の不足だったりするんです。長期的に見れば技術に投資した方が良いのでしょうが、初期の売り出したいタイミングでは技術系の社長さんがトップ営業をした方が効率が良いと思います。一番その技術を信用していて、人生を賭けて事業に取り組んでいる人が自分の言葉でお客様とコミュニケーションを取った方が、絶対にお客様に刺さるんですよ。よく知らないスタートアップが営業に来たとき、まず社長がどんな人なのか気になりますよね。そこにどういうスタンスでその事業を営んでいて、どういう経営をしようとしているのか、その上で現状はこうだがすごく良い技術なのでぜひ買ってほしい、っていう話を、社長自らお客様とできるかどうか。それが下請け構造になるか、自社でしっかり稼げるようになるかのポイントだと思います。
私も初期の頃はしっかりトップ営業に取り組んだので、ほとんど会社にいませんでした。メンバーにも「色んなところに行って何かやっているのはわかるが、何をしているのかわからない」と言われてしまったくらいです。
こうしたトップ営業を重ねて、お客様とコミュニケーションを直接取る中で、ベースのプラットフォーム事業に加えて、経営を支える新たな柱となる事業を起こすきっかけも掴むことができました。たとえばAI脅威論が唱えられ始めた頃、案件の脅威がわからないからサポートしてほしいというニーズを多く伺いました。そうしたニーズに基づいて立ち上げたのが「AI倫理コンサルテーションサービス」です。結果としてAI倫理委員会の進め方やAIポリシーの作り方等、ノウハウがどんどん溜まっていき、立派なキャッシュポイントのひとつに成長しました。
スタートアップには理想と現実のギャップが山ほど生じます。現実的なキャッシュがないと会社は回りませんし、「10年間売り上げゼロで良いよ」という投資家の方もほとんどいません。トップ自らも営業に出て、お客様とコミュニケーションを取ってニーズを知り、理想と現実との折り合いをつけながら経営していくのが非常に重要だと私は思っています。
「デジタル版EMS」のビジネスモデル構造で「選ばれる」企業に
NEDO吉田)プラットフォームビジネスはお客様のニーズに柔軟に対応できる一方、お客様に合わせてカスタマイズしていくとコストがかさんでしまう、という悩みもあるのではないでしょうか。こうしたお客様ニーズとコストのバランスは各社共通の悩みの種ではないかと思うのですが、貴社ではどのようにバランシングされているのかお聞かせいただければ。
岡田氏)具体的に当社の特徴としては、EMSのビジネスモデル構造が挙げられます。EMSは半導体製造でよく使われる手法で、お客様の生産案件を引き受けて、要望に応じた製造ラインを構築し、設計や技術開発、運用オペレーション等の工程を請け負うビジネスモデルです。ABEJAのビジネスモデルは、この構造に例えることができるため、「デジタル版EMS」と称しています。イノベーションが必要な技術的投資の部分をオペレーションコストで吸収することでコスト面のバランスも取れるようにしています。
大企業からリクエスト頂く設計図の製造プロセスは複雑なものが多いにも関わらず、実はプラン通りに進められてもROIで見合う案件はほとんど存在しません。その点、当社はコスト面を重視した標準プロセスを提示することも、コストバランスをうまくとりつつカスタマイズすることもできます。有り難いことに「いいとこ取り」ができる会社として、より多くのお客様に選んでいただけるようになってきていますね。
会社の「ブランド力」が長期的な成功につながる
NEDO吉田)起業当初は貴社でも資金繰りやお客様獲得などでご苦労されたと思いますが、それらを克服して成長にいかにつなげたのかを教えていただければと思います。
岡田氏)2012年頃の創業当初はあまりディープラーニングが知られていなかったので、プラットフォーム事業だけに注力できず、綱渡りのような形でキャッシュをつないでいました。ですが2015~16年頃になると、経済産業省のIoT推進ラボが立ち上がったり、東京大学の松尾先生がディープラーニングという用語を対外的に積極的に説明されるようになったりと、ディープラーニングが優れた技術であることが社会的に認知され始めました。そのあたりから資金調達やお客様獲得もだいぶスムーズになってきたのですが、今度は営業時にソフトウェアを買っていただくことの難しさにも直面するようになりました。
手に取れる「もの」があるハードウェアと異なり、ソフトウェアやAIは「もの」がないので、自分がどういうものに費用を払うのかお客様が想像しづらかったのです。「実際にものを見せてほしい」というリクエストを多くいただき、どうお客様に価値を伝えるか悩む中で、当社は「ブランド」に着目するようになりました。
当社の売り物は「ソフトウェアだから」ではなく「ABEJAが作ったものだから」価値がある、とお客様に評価していただけることを目指さなくてはならないと考えました。
すべての人にソフトウェアの本質的な技術価値を明確に理解してもらったうえで買ってもらいたい、というのは作り手側のエゴになる部分も非常に大きいです。テクノロジーのみならず、ビジネス的な観点も含めてABEJAとしての「ブランド」の在り方を議論し、そこに投資していく方向性を取ったことは、その後の当社の成長に非常に大きく寄与したと思っています。
また当社のブランド価値向上に対しては、GoogleやNVIDIAから出資をいただいたことも追い風になりました。元々NVIDIAのGPUやGoogle cloudなどを活用させていただいていた中で、先方の幹部の方々とコミュニケーションを取らせていただき、最終的に資本提携に至りました。GoogleとNVIDIAから出資されている日本企業が当社しかないという点で希少性が高いブランドになりますし、技術をすべて理解するのは難しくても「GoogleとNVIDIAの出資をうけている」とお客様から信頼いただける点でも有り難く思っています。
2.NEDO事業に採択される価値とは
NEDO吉田)NEDOは産学官連携やオープンイノベーションを標榜し、主に研究開発費を援助するNEDO事業を通じて日本のスタートアップ支援に力を入れています。NEDO事業への採択をご経験されたなかで、NEDO事業が事業会社との連携など貴社の成長に貢献したところをお話しいただければと。
会社の「ブランド価値」が上がり、事業成長の追い風に
岡田氏)NEDO事業に採択いただいたことは、まず当社にとって大きなブランド価値向上につながったと思います。NEDOから研究資金を得るということは、技術的な基礎レベルがしっかりしていて、研究開発に耐えうる組織体を持っているという証左です。当社のお客様となってくださる企業にとっても評価対象になってくると思うので、そういった面で大きな支援をいただいたと強く認識しています。
リスクが分散し、大企業との提携もスムーズに
岡田氏)NEDO事業に採択いただいたもうひとつのメリットとして、大企業の方々にスタートアップと提携するハードルを低く感じていただけることがあるのではないでしょうか。必要資金の一部をNEDOにも負担していただけるという戦略がとれれば、全額を出すのは難しいがぜひ一緒にやりたい、と言ってくださる大企業も増えると思います。リスクを少しでも分散させられれば、未来志向の事業に対し、多くの企業にさらに積極的になっていただけるのではないでしょうか。
大企業とスタートアップの間をNEDOがつなぐことで、大企業がスタートアップとの協働に際し資金提供をするという型が根付くのではないかとも期待しています。
AIと創る未来
お客様と徹底的に向き合う姿勢を貫き「ABEJAブランド」を盤石に
NEDO吉田)Chat GPTや生成AIが話題になったことを始め、最近は世間でもディープラーニングに対する認知や理解が進んで導入も加速しているように思います。創業当初から今までにだいぶ変化があったかと思いますが、ディープラーニング界隈の最前線でずっと活躍されてきている岡田CEOご自身の体感としていかがでしょうか。
岡田氏)ChatGPTや生成AI等、昨今何かと新しい技術が話題になりますが、やはり今後もお客様と真摯に向き合って、長期的な「ABEJAブランド」を作っていくのが重要だと考えています。ガートナーのテクノロジーハイプサイクルで言われているように、私は歴史は繰り返すものだと思っています。ディープラーニングもそうでしたが、一気に注目を浴びて皆が使い始めて、ある程度すると加熱が一段落し「そこまで万能ではない」と市場が冷静になってから改めて改善・導入されていく、というサイクルになるのかなと。むやみに流行に乗っかってしまうと、周囲との差別化が図れない等難しい面もあります。結局は一歩一歩、長期的なブランドを構築していく、ということに帰結するのかなと思いますね。
AIで便利・おもしろいが提案され続ける「エコシステム社会」を目指して
NEDO吉田)この先、様々な業界がDXによって効率化されていく明るい未来が世間でも語られ始めています。そこで、この先こんな社会を作っていくぞ、とかこうなったらいいな、という岡田CEOがお考えの将来像を少しお話しいただければ。
岡田氏)私はよく「AIは何でもできて何もできていない」と表現するのですが、現状AIを適用できる部分はたくさんあるのに、まだまだ実装されていない状態だと思っています。 もっとAIがいろんな場所に実装されるようになれば、未来が明るくなるのは間違いありません。
私はAIによって周囲の人がどんどん便利になっていき、「こういう社会はどうか」とおもしろい提案がされ続けるような社会が良いのではないかと思っています。ただそれを実現するにはスタートアップ・エコシステムがないと難しい。最終的にはこのエコシステムを作っていくことが重要になると思いますが、そのためには一端を担うNEDOや政府の力が必要です。計算資源の調達やクローズドコミュニティの運営、投資家の紹介等、スタートアップだけだと難しい部分の支援を通じて、スタートアップが理想と現実のギャップを埋める手伝いをしていただきたいと期待しています。
沿革とNEDOプロジェクトの歩み
株式会社ABEJA沿革 | NEDOプロジェクト | |
---|---|---|
2012年 | 9月 会社設立 | |
2016年 | 10月「IoT推進のための横断技術開発プロジェクト」採択 | |
2017年 | 5月 NVIDIAとABEJAが資本業務提携(アジア初) | |
2018年 | 2月 ABEJA Platform正式リリース 11月 Googleより資金調達 |
5月 「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」採択 7月「AIシステム共同開発支援事業」採択 |
2019年 | NVIDIA GPUによる大規模計算の研究開発 | |
2022年 | NVIDIA A100 960機による大規模言語モデルの学習に成功 | |
2023年 | 3月 ABEJA LLM Series 大規模言語モデルの商用提供を開始 | |
6月 東証グロース上場 |
最終更新日:2023年10月4日